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第38話 妖精の贈り物
しおりを挟む翌朝、登ってきた太陽と共に目を覚ました。昔からキャンプの時などは日が昇り、明るくなると自然と目を覚ました。なんだろうか、ワクワクして起きてしまうのだろうか。まだ誰も起きていないと思い、音を立てずに外に出るとすでに全員起きていて、釣りを始めている。
さすがジジイの朝は早いな。まあ釣りにとって朝日が出てきた時間帯を朝まずめと呼び、その時間帯は魚がよく釣れる最高のコンディションだ。さすがにその時間を逃すような釣りバカではないということだ。俺は思いっきり寝ていたけど。
「先生、おはようございます。」
「アンドリュー子爵、おはようございます。今日も早いですね。」
「昨日は先生に負けてしまいましたから。皆勝とうと必死なのですよ。」
なるほど、俺の妖精喰いに負けたのが悔しかったのか。しかしあれは簡単に釣れる。正直俺はもう釣る気はないが、釣りたいのなら餌を貸し出しておこう。
「アンドリュー子爵、良い釣り餌を貸しましょう。」
「なんですか?ってそれは先生の使い魔ではないですか。」
「まあ少し待ってください。ルアーを大きいものに付け替えて、シェフ今日も頼めるか?ポチは…あ、拗ねてる。」
ポチはシェフに勝てないようなので拗ねている。まあポチと比べてシェフは死ぬ回数も少なくてコスパがいい。俺も金貨がなくならない方がありがたいしな。
「ではアンドリュー子爵、そのまま投げてください。」
「投げてって…こんなので釣れるわけが…って落ちた瞬間に!」
おお、今日も大きいのが釣れたな。引きが良くて釣りとしてかなり楽しめるが、流石に昨日の半日やれば飽きる。妖精の救出は他の人に任せておこう。
「ではアンドリュー子爵、頑張ってください。私はせっかくなので、この妖精の隠れ里の中を散策してきます。」
「お、お一人で大丈夫ですか?」
「妖精たちに案内してもらうので大丈夫ですよ。」
「わかりまし、うおぉぉ!これはすごい引きだ!」
そのスリルを楽しんでくださいね。じゃあ俺は色々散策してみるか。スマホのカメラを開いて精霊視モードに切り替える。
「じゃあ色々道案内とかお願いするよ。」
「任せといて、じゃあこっちよ。」
「面白いなぁ、触ると音がなるのか。根っこごと貰っていっても大丈夫かな?」
「大丈夫よ。それとそっちの植物は花が咲くと美味しい蜜が出るの。私たちも嗜好品として楽しむことがあるわ。何輪かだったら持っていっても怒らないはずよ。」
「じゃあありがたく貰っていくよ。それにしても面白い植物が色々あるなぁ…」
中身はそうでなくても、見た目が面白いものばかりだ。今教えて貰った美味しい蜜が出るという花の苗は小さいが見た目が椅子と机だ。花はグラスの形をしているらしい。その椅子に座りながら花の蜜を飲むのが妖精の嗜みらしい。
この妖精の隠れ里にある植物は、どれも妖精ありきの進化を遂げている。植物たちは妖精が楽しむことでその場に妖精が長期滞在し、妖精から溢れ出る魔力を吸って成長するのだ。時には妖精喰いのように妖精を捕まえて魔力を吸い上げる生物もいる。しかし妖精を殺すという生物はいないようだ。
「大昔はね、妖精を殺す生き物も多くいたらしいわ。今では歴代の妖精女王によって滅んでいるけど。」
「へぇ、なんか妖精ってそう聞くと神聖なものなんですね。」
「私たちのような精霊種はね。だけどミチナガ、よく覚えておいて。妖精といってもひとつじゃない。妖精の一部には生き物を殺すことに快楽を覚える野蛮な種もいる。殺意がなくても遊んで人間を殺す妖精もいるの。」
「それって…。じゃあその時はどうすればいいんですか?
「殺して構わないわ。妖精女王もそこらへんは分別があるから問題にはならない。ただ、見た目だけで判断しないで欲しいの。凶悪そうな見た目でも優しい妖精もいるし、その逆もいる。笑顔で近づいてチャンスと見たら殺しにくる妖精もいるわ。危険な妖精でわかりやすいのはゴブリンとかね。」
ゴブリン、よくゲームなどで初めに出てくるモンスターの一種として知られている。そんなゴブリンは妖精の一種だ。しかし妖精たちの話によると、この世界のゴブリンは普通の妖精とは少し違うらしい。
なんでも昔、力のある悪い妖精がいたずらで人間の子供をゴブリンに作り変えた。妖精の力を得たゴブリンは繁殖力が凄まじく、大陸中に蔓延ったのだとか。だからゴブリンは亜人であり、妖精であるのだ。エルフやドワーフなどは人間と一緒になりたかった妖精が力を使って人になったものの末裔らしい。
だから少し違うが、妖精と人間から生まれたというところではエルフもゴブリンも同じらしい。ただ、それをエルフにいうとものすごく怒るということなので決して口にしてはいけない。まあ違うところの方が多いので同じものと判別するのもおかしいのだが。
「時折先祖返りっていってエルフの中でもハイエルフっていうのがいるわ。ハイエルフはエルフの中でも神聖なものとして扱われる。ちなみにゴブリンも先祖返りをする。ハイゴブリンやゴブリンキングもその一種よ。もっとやばいのもいるけどね。だからゴブリンも侮らない方がいいわ。」
「気をつけておきます。まあ俺の場合普通のゴブリンにも勝てませんけどね。」
「そうみたいね。あなたみたいな人久しぶりに見たわ。っと他の子が呼んでいるわよ。」
さりげなくバカにされたような…き、気のせいだな。そういうことにしておこう。他の妖精に呼ばれたところに向かうと、ひときわ大きい大樹があった。
「これの実おっきいよ~」
「この木の汁あっまいよ~」
「貰ってもいいんですか?」
「「いいよ~」」
「ちょっと待ちなさい。これは正式な管理者がいるから持っていっちゃダメよ。」
「大丈夫だよ~」
「私たちが女王様にお願いされてるの~」
「じゃあ平気ね。ミチナガも運がいいわね。」
「そうなんですか。」
なんだかよくわからないが貰っておこう。木の実は大量に落ちていたので好きなだけ持っていって良いとのことだった。まあ5~6個でいいかと思ったら妖精たちの手伝いによってなぜか100個近く集めて貰った。
樹液に関しては採れるまでに時間がかかるから、ポチにお願いしておいた。見た目はポチが木に吸い付いているだけだが、ポチの口は収納アプリに直結している。だからこれが一番効率の良い集め方なのだ。今だってだんだんと集まって、
「おいポチ、何普通に飲んでんだよ。収納しなさいよ。」
こいつ…油断も隙もあったもんじゃない。っと、スマホをちゃんと確認したらいつのまにかシェフが死んでる。すぐに復活させてやると、また釣り餌になるために湖の方へ向かっていった。何が楽しいんだろうな。
「そういえばなんで俺の使い魔たちに妖精喰いはあんなに反応したんですか?妖精じゃないのに。」
「あら、気がついてなかったの?ミチナガの使い魔は使い魔よりも精霊に近い部類なの。力も弱いみたいだから妖精喰いも簡単に捕まえられる特上の餌だと思ったんでしょうね。」
そんな理由があるのか。普通の使い魔とどう違うのか聞いて見たが、詳しいことは知らないらしい。なんせ妖精は使い魔を基本的に使わない。だから妖精は別に興味があることでもないので知ることもないそうだ。
そのあともおしゃべりを続けながら、いろいろなものを貰っていった。結局その日は釣りをせずに1日を終えることとなった。
ちなみにシェフの頑張りのおかげで妖精喰いを大量に釣り上げ、食べられていた大量の妖精を解放することができた。そのせいで夜の間もひっきりなしにお礼の品が届き、まともに寝ることができたのは夜もだいぶ老けた頃だった。
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