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第22話 うなぎのタレ

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 その後昼飯を外で食べてから屋敷に戻った。
 ボランティに今日のことをいろいろ追及されたがよくわからないで済ませておいた。

 屋敷に戻ってからは厨房の一部を借りて早速やりたかったことをやろう。
 一人でやろうかとも思ったのだが料理長がアシスタント兼アドバイザーとしてサポートしてくれることになった。
 正直これはありがたい。それと新入りの使い魔も手伝いをしたいらしくスマホから飛び出してきた。

 準備もできたことだし早速やりたかった鰻の蒲焼きを作ろう。
 今日はタレを作るのだが本当は味醂や日本酒が欲しい。
 まあないものは仕方ないのでそこまでの贅沢は言わないでおこう。今ある醤油と蜜の実だけでなんとかしてみるか。

「すみません厨房を借りてしまって。」

「伯爵様に既に話は通っているので問題はありませんよ。それより見ていても構いませんか?」

「ええ、それにアドバイスも欲しいですから。早速なんですけど蜜の実の扱い方をおしえて欲しいんですけど…」

 本当は蜜の実を加工して砂糖を作りたかったが方法が俺には分からなかったしレシピも金が無くて買えなかった。
 そのまま使えるかと思ったがそれでは甘味が足りないので残念だが無理だった。

「蜜の実ですか。簡単ですがなかなか手間がかかるので一緒にやりましょう。」

「お願いします。完成品をこの壺1つ分作りたいのですけど…大丈夫ですかね?」

 量を言った瞬間少しだが料理長の顔が歪んだのを見逃してないぞ。そんなに面倒なのか。
 俺のスマホには厨房いっぱいになるほど蜜の実の在庫があるんだけど。

「ま、まぁなんとかしましょう。まずは蜜の実を潰して液体を取り出しましょう。種と皮が入らないように漉しながらやります。」

 まぁ潰せばわかるが細かい種が多いからな。けどこのくらいの作業ならすぐに終わりそうだ。
 布に包んでまとめて潰せばすぐに終わる。

「ちなみにまとめて潰して種が割れると苦くなるので丁寧に数個ずつ潰しましょう。それと潰したものにも多くの甘味が残るので水で洗い落とします。」

「え?種潰したらアウトなんですか?」

「アウトです」

「それに水で洗い落とすってことは煮詰める作業時間も長くなりますよね。」

「簡単に言うと倍の時間がかかりますね」

 なるほど…確かにこれは地獄だ。それからは言葉にするのも嫌になるような、ただひたすらに蜜の実を潰していく作業に入った。
 プチプチプチプチ、二人と一匹で蜜の実を潰し、残ったものを洗い流す。
 そんな作業をひたすら続けながら同時進行で汁を弱火でゆっくりと水分を飛ばしていく。

 これはなんとも気の遠くなる作業だ。火が強すぎると焦げてしまうので鍋の底に気をつけながら混ぜていく。
 煮詰め続けること数時間。まるで蜂蜜のようなとろみのついた液体になった頃に料理長からストップが出た。

「甘さ的にこのくらいでしょう。これで完成です。」

「液体のままなんですか?砂のような結晶にはならないんですか?」

「蜜の実ですから。結晶にできないこともないらしいですけどこの状態が一番美味しく使える状態なんですよ。」

 まさかの完成品に驚きを隠せない。しかし話を聞くとこの状態で使うと良い感じに料理にテカリが出るらしい。
 意外とこのほうが蒲焼のタレにはちょうど良いかもしれない。
 本当はこの後の作業はもう遅いので明日やろうと思ったのだがタレは作ってから時間をおいた方が良いものになりそうなので今のうちに作ることにする。

 やるのは簡単。ちょうど良い分量になるように醤油と蜜の実のシロップを混ぜ合わせる。
 この時醤油の味の薄さのことも考え塩を足しておいた。
 味見をしてみると後から足した塩が辛く味がまとまっていないように感じた。
 まあそこはきっと時間が解決してくれるんじゃないかと期待することにした。

 これで完成、といきたいところだがこのままだとうなぎのタレとしては不十分。
 ここにあるものを追加する。それは焼いた鰻の骨だ。
 うなぎのタレというのはうなぎを何度もタレに浸すことによってうなぎの旨味がタレに混ざりおいしいタレができるのだ。
 秘伝の継ぎ足しのタレが美味しいのもこういった理由だ。

 だからこうやって新しく作る場合は身の部分は勿体無いので骨を香ばしく焼いてタレにつけて出汁を出すのだ。
 数十匹分の鰻の骨を入れたこのタレも2~3日おいておけば良い感じになるのではないだろうか。

 それとついでに味噌と醤油に塩を足しておく。さすがにこのままでは塩味が足りなさすぎる。
 どの程度足せば良いのかわからないので少しづつ何日かに分けて足すつもりだ。
 それと少し寝かさなければならないのだが俺のスマホの中に収納してしまうと時間経過がなくなってしまう。

 なので食料庫の一部を借りて保管させてもらうことにした。
 料理長自身初めてみる調味料ということらしく興味を持ってもらえた。
 保存食というのは庶民の食べ物だ。貴族であるファルードン伯爵の料理人では知る機会もなかったのだろう。

 やることもようやく終えて寝室に一人寝転ぶ。もう時間もだいぶ遅いがやることをやっておかなければならない。
 スマホを確認しファームファクトリーを開く。
 いつものように作物を収穫する前に今日買った鶏の世話をしなければならない。
 買ってから餌も何もやっていなかったがこの短時間で死んでしまうとは思えない。

「大丈夫かなぁ…ってポチが世話してくれていたのか。」

 確認してみるとすでにポチが餌と水やりをしておいてくれていた。
 どうやらいらぬ心配をしていたようだった。

「サンキューポチ。助かったよ。」

 喜んでいるポチに新入りの使い魔が近寄ってくる。お前今来たけど手伝ってなかったんかい。
 と思っていたらどうやらポチのために食事を持って来たようだ。
 本当にこいつは料理が好きだな。
 そういやいつまでも名前がないのはかわいそうだし名前をつけてやろうか。

「料理好きだからシェフでいいか。じゃあお前は料理担当な。これからもよろしく。」

 そういうとスマホの中でこっちに向かって手を振っている。
 喜んでいるようで良かったとこちらもつい笑みが出る。
 するとシェフが急に発光し、その光が消えるとそこにはコック帽とエプロンをつけたシェフがいた。
 シェフが服装を変えた瞬間バイブレーションとともに通知が来た。

『名前と役職が与えられシェフは料理人に決定されました。以降役職の変更はできません。』

「え、何その新機能。初めて聞いたんですけど。」

 なんだかよくわからないが料理人ということは料理に特化した使い魔になったのだろう。
 どの程度の効果があるかわからないがまあいいや。それにしても役職なんてあったのか。
 ポチは役職もないただの使い魔だけど。

 翌日、今日も朝役起きて厨房に向かう前に食料庫で味噌と醤油、それと鰻のタレの様子を見に行くとすでに料理長も気にかけてくれていたようで見に来てくれていた。
 一緒に確認をしてみるとまだ一晩しか経っていないがそれでも味がだいぶ馴染んで来たように思える。
 だが馴染んでくるとどれも塩味が足りないことが明白なって来ていたので再び塩を足す。

「これでまた明日確認すればいいですかね。では朝食をまた見せて…ってその厳重な箱はなんですか?」

「ああ、これですか。中身を見て見ますか?」

 そういうと料理長はこの食料庫に似つかわしくない厳重に鍵のかけられた箱の鍵を開けて中身を見せてくれた。
 そこには黒い無数の粒が入っていた。

「これって胡椒ですか?」

「よくご存知ですね。ここよりはるか東方から商人がたまたま運び入れたものを買い入れたんです。これと同量の大金貨と取引される高価なものなんですよ。」

「量?重さとかじゃなくて同じ体積ってことですか?」

 胡椒は胡椒なのか。
 それにしても同量の大金貨ってどれだけ高価なんだよ。
 今目の前にあるので大金貨5枚ぶんくらいはありそうだな。
 そういや地球でも一時、胡椒は金と同等の価値があるって言われていたな。

「普通はこんな高値になると買う人間はいないのですが伯爵様はいずれ仲間たちと飲み交わすことがあればこれで料理を作って欲しいということでした。そしてそれが今度のパーティなんですよ。」

 そういえば昔の戦友たちを集めるようなことを言っていたな。
 どんなに珍しいものでも高いものでも遠慮することなく使うほどの仲間たちか。
 けれどこのままじゃあ全員に行き渡る胡椒は少なくなりそうだ。
 別に大量に使うものでもないがケチケチして使うのもみみっちく思われるかもしれない。
 それにこの胡椒。都合の良いことに丸のままだ。

「料理長。一つお願いがあります。」

「なんでしょう。伯爵様より大体の願いは聞くようにと言われております。」

「その胡椒…半分分けてもらえませんか?必ず元の量の数倍にしてお返しします。決して無駄にはしません。お願いします。」

「……それはなかなかに難しい問題です。できることなら伯爵様にお伺いを立てて欲しいのですが今はこの屋敷にも戻ってこないほどのご多忙ぶり。今すぐでなければいけませんか?」

「今すぐじゃないと間に合いません。お願いします。決して後悔はさせません。」

「…わかりました。あなたを信用します。どうせなら全て持っていってください。ただし、約束を違えた時はどうなるか私でもわかりませんよ。」

「大丈夫です。絶対に後悔させませんから。」

 俺にはこのスマホがある。絶対になんとかしてみせよう。
 そうと決まれば早速行動開始だ。

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