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第14話 王都
しおりを挟むかなりの無茶な移動のため馬は疲弊している。
しかしその甲斐あって1週間はかかるというところを5日で着くことができた。
余談だが安全なルートで移動するとさらに倍の日数がかかるらしい。
王都は巨大な城壁で囲まれている。
人口も多いためか城壁の外にも多くの家々が立ち並んでいる。これはかなりの大都市だ。
なんというかファンタジー感があってワクワクする。城壁外の人々もよくある圧政に苦しむ民というわけでもなくそれなりに不自由なく暮らしているようだ。
事前に聞いておいたのだがあの城壁の中には大体が貴族で残りは城に使える騎士や役人とのことだ。
でかい商会なんかもあの城壁の中にあるらしく多くの商人の目標はあの城壁の中に店を構えることらしい。
街には俺がまだ見たことのないものが多くあり興味をそそられる。
そのうちこの街中を見て回るのも面白いかもしれない。
しかし今日はそのまま直接城壁の中へ入っていく。
城壁に入る前には厳重な審査があるようだがそこは貴族、しかも伯爵と子爵である。
そのまますんなりと通り護衛の数名は怪我人を連れてそのまま病院へと移動して行った。
これで一安心したのでそのまま伯爵の屋敷へと向かう。
城壁の中に入るとこれまでの光景とは全く異なり衝撃を受ける。
まず道だが全て白いコンクリートのような材質でできている。
ゴミはほぼ落ちてなく、ちらっと見えた路地裏でさえも綺麗だ。
おそらくだが浮浪児や路地裏を占拠するような人間は即刻この城壁の外へとつまみ出されるのだろう。
完全に城壁の中と外を分け秩序を守っているのだ。
しかし完全に庶民の立ち入ることができないかと思ったがそうでもないらしい。
城壁の中には外と違い良品質なものも多くありここでしか買えないものもある。
だから毎日のように城壁の中へ買い物に来るものもいるようで城壁の検問所には長蛇の列ができていた。
こういった政策というのは面白い。
間違いなくこんなことを日本でやったら差別だなんだと言われそうだがこの世界では一般的なことなのかもしれない。
それに悪政を敷いていて民が貧困にあえいでいるというわけでもないので善政と言えるだろう。
城壁の中には巨大な白が建っておりこれほど大きく立派なものは未だかつて見たことがない。
是非とも中を見学して見たいものだが王族が住まう場所に俺がいくというのは大問題だろう。
この欲求は別に抑えられないほどというわけでもないので見ることができなくても構わない。
伯爵の屋敷は割と城に近く、他の建物と比べても立派だった。
ここが拠点ということではなく武功をあげた際に領地をもらっているのでそちらが拠点らしい。
今は伯爵の息子がその領地を経営していて伯爵と孫は王に仕えるために王都のこの屋敷にいるらしい。
その日は伯爵の屋敷についた時点で夕方近かったので特に何かするわけでもなかった。
それに長旅と途中のモンスターの襲撃、その後の強行移動で子爵もだいぶお疲れのようだ。
数日はこの屋敷で休みそれから他の貴族たちに挨拶に行き、それから釣りを楽しむとのことなので俺はその間勝手に行動させてもらうことにした。
翌日。伯爵と共に朝食をとった後、俺は王都を見学させてもらうことにした。
外に出る際に子爵の執事から短剣を渡された。
「貴方様は庶民ですが今は子爵様のお客人です。何か問題が起きれば子爵様の顔にも泥を塗ります。行いには十分お気をつけください。それともしもトラブルにあった際はこの短剣を見せれば子爵様の客人ということで身分が保証されます。では、道中お気をつけください。」
なるほど。確かに今俺は子爵に招かれた身だ。
問題を起こすとまずいことになるが逆に身分のことから侮られる時にはこの家紋入り短剣である程度は解決してしまうということだ。
まあ問題を起こさないように注意深く行動しよう。
俺は早速街に出るととりあえず色々なところを歩き回る。
こうすることによってマップも埋まるし色々と見て回れる。
それに特にどこかに行くといった目的もあるわけではない。
いや、そういえばシンドバル商会の紹介状を持っているんだった。
どうせならいって見るのも悪くはないだろう。
しかし場所はわからないのでとりあえず適当に歩き回る。
これだけめちゃくちゃに歩き回ると迷ってしまいそうだがマップアプリがあるのでその心配もないだろう。
しかし街の中どこを見渡しても清潔感があり、街並みが整えられている。
綺麗だがどこか機械的という感じもして複雑な気持ちになる。
どうやら俺にはごった返した街並みの方が似合っているらしい。
しばらくすると昼時になったので何か買い食いしようかと思ったのだがそんなことができそうな店がない。
あるのはどこの高そうな料理を提供しそうな店ばかりである。
まあそういった料理を食べるというのもある意味いい経験かもしれない。
どの店が高いのか安いのかもわからないのでとりあえず飯のうまそうな店に入って見る。
入った店はたまたまガタイの良い男、おそらく兵士と思われる男が入った店だ。
誰も入っていない店というのは貴族専用のめちゃくちゃ高い店という可能性もあるので兵士のような男の入る店ならそこまで高くはないだろうという考えだ。
店に入るとすぐに店員と思われる男が駆け寄ってきた。しかしこの雰囲気、何か嫌な感じがする。
「おやおや…この店は貴族の方や騎士の方々が利用する店でして…貴方のような身なりの方はちょっと…」
どうやらある意味当たりを引いたらしい。
店内に入る他の客からは隠すような笑い声が聞こえてくる。
なるほど、徹底的に庶民と分けて入るようだ。確かに俺の服装はあまりよくはない。
今は伯爵の元に泊まって入るのである程度は綺麗な服装をして入るが正直俺も初めて鏡で自分の姿を見たときはあまりにも似合っていなくて苦笑いをした。
おそらく道中、人にすれ違うたびにクスクス笑われていたのは俺のことだったのだろう。
「そうですか…それは残念です。アンドリュー子爵様からこの辺りに良い店があると聞いてきたのですが間違いだったようですね。」
「あ、アンドリュー子爵様ですか?」
「ええ、たまたまファルードン伯爵様から子爵様が王都に誘われた際にたまたま懇意にしてもらっている私も共にということで王都にきたのですがどうやらこの店では場違いなようだ…」
「伯爵…子爵……」
みるみるうちに顔が青ざめて行く店員。
ザマアミロと今すぐに言いたいがもう少し責めても良いだろう。
それに他の客も笑っていたようだしとことんやってやろう。俺はさりげなく懐にしまっておいた子爵から借りた家紋入りのナイフを見せる。
すると店員は今にも泡を吹いて倒れそうなほどである。
まあそれもそうだろうこのままでは伯爵と子爵の客人にこんな扱いをしてしまったのだから首が飛ぶどころの話ではないだろう。
そこで俺は心配するふりをして店員に近づく。
「おやおや、どうされました?顔色が優れないようですが。ミスティールという立派なお店の店員さんなのですからしっかりとしなくては行けませんよ。」
さらに店の名前もそこの店員ということもしっかりわかっているぞという風に追い討ちをかけてやる。
もう顔色は青を通り越して白くなっている。
一回り老け込んだようにも思えるな。しかしなかなか愉快だな。
権力を振りかざすというのは好きではなかったがここまで良い反応をしてくれると楽しくてたまらない。
「私はこれで失礼します。それではお仕事中に失礼しました。」
「お、お、お、お、お待ちください。お願いします。このままでは私はどうなることか…何卒お慈悲を……」
「しかし先ほど私のような身なりではと…」
「あ、あれは失言でした!何卒…お、お代は一切いただきません。何度来ていただいても構いません!何度来ていただいてもお代は入りません。ですから…」
「そこまで言われて帰ったら子爵様の顔に泥を塗りかねませんね。ではせっかくなのでいただきましょう。」
いやぁ、なんだか気分がものすごくいいな。
これは癖になりそうだけどこんなことばかりしていてはまずいから今回だけにしよう。
それに何度来てもタダメシが食えるところができたしな。
ここでメニューから一番高いものを頼むというのはいかにも貧乏くさい。
ここはこの店のうまいものを頼むといっておくのがおそらくベストだ。そうすれば勝手に高くてうまいものを出してくれるだろうしな。
食事が届くまではスマホで先ほどまで歩いたことによって埋まった地図の確認だ。
意外と色々行った気でいたけどまだまだ城壁内の半分も見て回れていない。
このあとは中央の城の周りを回るようにして観光しよう。
あれから食事が届いたが食べきれないほどの豪勢な食事が届いた。
まあ残しても勿体無いのであまりそうな分は隠れて収納しておいたのでお残しは一切ない。
まあそのせいでものすごい大食漢のように思われているけどまあ別に誤解を解く必要もないのでこのままでいいだろう。
それからどんどん色々なところを歩いて行くとひときわ人の多い場所があるので行ってみるとそこは貴族専門の高価な品物が売られている店が立ち並ぶいわゆる商店街のようなものがあった。
ガラス越しに展示されている品物は金貨10枚は当たり前で俺には手の届かない品物ばかりだった。
正直見た目以外になんの違いがあるのかわからないが見ているだけでもかなり面白い。
それから色々な店々を外から覗いていると一軒のひときわ大きな店があった。
周囲の店も十分に豪華な造りだがこの店はそれを超える豪華さがある。
店の壁や屋根の細かい細工は見事なものだし職人の腕も大したものだ。
壁ひとつで一体金貨何枚の価値があるのだろうか。
そんな店の名前が気になり見てみる。するとそこにはシンドバルの文字があった。
「マジか…有名な店っていうのは散々聞いてたけどまさかここまでとは……」
正直こんなに立派な店だと入れる気がしない。
入った瞬間に何か追い出されそうだ。店の入口には常時警備兵がいて入る人のチェックも念入りにおこなわれている。
このまま帰ろうかとも思ったがラルドが近況報告も兼ねていると言っていたので店の前まで来て帰るというのは流石にまずいだろう。意を決して入ろうとするとすぐに入り口横の警備兵に止められた。
「失礼ですが誰かからの紹介状はお持ちですか?」
「ラルド・シンドバルさんからの紹介です。この手紙なのですが近況報告も兼ねているとのことなのですけれど…」
「これはこれは…ご子息様の紹介ですか。確かにその封印はご子息のもの…少々お待ちください。係りの者を呼びますゆえ。」
かなりおどおどしていたけど親切に対応してもらった。
先ほどの飯屋とはまるで違う。こういったことができるというのはやはり一流ということなのだろう。
それから1分も経たないうちに人が来て奥の別室に案内された。
別室にはこれまた豪勢な置物の数々と可愛いメイドさんがいた。
ここは一種の天国か?ここで日がな一日スマホを弄くれたら最高だろう。
ソファーもふかふかだし文句の付け所がない。紅茶の一杯を飲みきる前に一人の男が入って来た。
「失礼します。今は商会長がおりませんので代わりに私が対応させていただきます。ハロルドと申します。」
「わ、私は関谷道長と申します。ご子息様には大変お世話になりまして…え、えっと若輩者ですがよろしくお願いします。」
「ミチナガ様ですね。そう固くならなくても私はただの執事ですから。それで本日はご子息からのお手紙をお持ちということですが拝見させていただいても?」
俺は慌てて懐から手紙を取り出す。
先ほどまでリラックスしていたが話をするとなるとガチガチに緊張してしまう。
なんせこの国屈指の商会なのだ。子爵だなんだと言っても役には立たない。失礼があったら大問題になりかねない。
取り出した手紙の封印を見て確かに本物だと判断したのか代わりにと言うことで封を開け中身を確認し出した。
なんか変なこととか書かれていないか心配になる中、静かに手紙を読み進めて行く。
「……確かに。このお手紙は本物のようですね。それと紹介状としてもミチナガ様のことをよろしく頼むと書かれております。今後、当店をよろしくお願いします。」
「そ、そんな。こちらこそよろしくお願いします。」
「ほっほっほ。それでこの年寄りのわがままなのですがご子息のことを少々お聞きしてもよろしいですかな?なんせ最後にあったのはもう随分と昔のことで…」
なんという人あたりのよい優しそうな執事…いや、お爺さんなのだろう。
俺もあまり関わりがないのでそんなによく話せないがそれでも話せることを話して行くうちに徐々に緊張もほぐれてベラベラと色々話し込んでしまった。
気がついたらもう時間も遅かったので伯爵や子爵に悪いと思いその場を後にすることにした。
今度来るときはちゃんと客としてこよう。
彼らも忙しいはずなのに俺とこんな話をいつまでもするわけにはいかないだろう。
「それでは長い間すみませんでした。子爵様を待たせるわけにはいかないのでまた後日客として伺います。」
「ほっほっほ。そんなに気にせずともいつでもいらしてください。それとアンドリュー子爵様にもよろしくお伝えください。」
本当に良い人たちだ。
メイドさんも終始ニコニコしていてなんとも居心地の良いところだ。
こんなところならば本当にいつまでも痛いが仕方あるまい。急いで帰るとしよう。
~~~~~~~~~
「帰ったな?全く長いこと話してくれたものです。まあそのおかげで色々と情報の入手はできました。坊っちゃまからの指令です。今の男には何か秘密があるそうでその秘密を説き明かせと言う指令です。よろしいですね?」
「はいハロルド様。必ずやあの男の秘密、暴いて見せます。」
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