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第13話 襲撃

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 翌日、朝食をすませると再び王都に向けて出発した。実に清々しい朝である。
 夜露で濡れた草木が光に反射して輝いて見える。今日も天気は快晴でなんの問題もなく旅路についていた。
 しかし道中になんの村も街もない。
 それに関してはどういうことかと思い近くにいた護衛に聞いて見る。

「ああ、この道は王都へ最短距離でいける道でな。普通なら少し迂回して街を経由するんだがうちの伯爵様はまどろっこしいのが嫌いでね。できる限り最短距離で行くことになっているんだよ。普通は軍の移動をする道でな。人目につかなくおい規模な移動ができるんだ。」

 なるほど。通りで街道だというのに他の商人や人の姿がないと思った。
 それから暇なので色々とおしゃべりしていると色々教えてくれた。
 まあすぐに任務に専念しろと怒られてしまったが。

 まあ怒られた彼から聞いた話によるとこの道を軍が使う理由、軍くらいしか使わない理由はこの街道が危険だからということだ。
 なんでもこの辺りの森はモンスターの多く出現する森で冒険者たちもそうそう立ち入らないのだとか。
 今のところモンスターが出てこないのはモンスター除けの香やらなんやらをしているとのことだ。

 モンスター。何度か街にいた時に聞いたことがある。
 森には多くの恐ろしいモンスターが出て毎日のように誰かが死んでいるのだとか。
 そしてそれを討伐するのが冒険者であり騎士であると。

 正直見たこともないので想像はつかないがよくアニメとかで出てくるゴブリンとかそんな感じのやつなのだろうか。
 一回は見て見たいが戦いたいとは思わない。なんせ俺の身体能力は日本にいた頃と全く変わらない。

 というか色々とおかしいことが多々ある。
 まずこの周囲の護衛だがなんでそんな重武装で動き回ることもできて馬に乗ることもできる。
 馬って確か体重制限あったはずだし100kg以上は乗ったらダメな気がする。
 そのはずなのに馬は軽やかに走っているしこの馬車だって引いて走ることができている。

 それと昨日の夜に護衛たちの隊長であろう男が素振りをしているのを見たがあれもおかしい。
 なぜ身の丈ほどもある剣を軽々と振るうことができるんだ?あれ一本で100kgは軽くありそうだぞ。しかもどんなに振るっても重心もブレないし。

 なんというかこの世界の人間は全体的に身体能力が高い。
 もしかしたらそれも魔法のおかげなのだろうか。この世界には魔法が存在して魔法で戦うものも多いらしい。
 まあ俺は魔法というやつはまだ見たことはない。せいぜい魔法のアイテムくらいだ。

 俺も魔法を使って見たいところだが使い方はわからないし教えてくれる人もいないので諦めている。
 しかし自分で魔法を唱えて戦うというのはなんというか憧れる。
 王都に行ったらその辺も調べて是非とも魔法を使う方法を身につけよう。

 それからいつものように馬車に揺られながら時間が経ちもうすぐ昼の休憩かと思われる頃。最後尾で写真をとっていると何やら遠くの茂みが揺れ動くのが見えた。

 その茂みを目を凝らして見てみると何やら茶色い大きなものが出てきた。
 あのシルエットは見たことがある。あれは熊だな。
 しかも俺が見たことのあるヒグマよりも大きいように思える。
 まあ熊だしこちらにはこないだろうと思って写真をとっているとその熊はこちら気がついた。

 目線がもらえたと喜ぶ俺に熊は大きく咆哮をした。
 その瞬間周囲の護衛たちの動きが慌ただしくなる。

「フォレストジャイアントグリズリーだ!全員戦闘体制に入れ!すでに咆哮をされている!周囲のモンスターも時期に集まるぞ!」

「おい!香はどうしたんだ!」

「あちら側は風上で香が届かなかったようです!それにあの距離だと魔法によるモンスター除けの範囲外になります!」

 な、なんだかまずい状況のようらしい。
 周囲から小鳥たちが飛び去ると見たこともないような生物が多数集まりだした。
 まさに大群と呼ぶにふさわしい量だ。しかも全て凶悪そうな面構えである。

「馬車の距離を最短まで近づけよ!それから御者は馬が暴れぬように抑えておけ!」

「隊長!数が多すぎます!ここは道を切り開いて馬車だけでも撤退させるべきです!」

 慌ただしくも冷静に判断しているように思える。
 俺はそんな時どうしているかというと動画をとっている。
 何をのんきにやっているんだと言われそうだが別に俺にできることはないし隠れてこっそり動画を撮りながら何か問題があったときはすぐに隠れられるようにしている。

 それからすぐに馬車を逃がすことになったのか数名の護衛とともに馬車は全速力で移動を始めた。
 モンスターに後を追わせないためにしんがりとして数人の護衛が残っているが彼らの身が心配だ。
 あんな化け物の群れに囲まれたらひとたまりもなさそうだ。

 それから1時間ほど逃げた後だろうか。
 ようやく馬車は停車して先ほどの護衛が追いつくのを待っている。
 さすがにこれだけの自体が起きたので空気も張り詰めている。
 それからしばらくすると先ほどの足止めに残っていた護衛たちが戻ってきた。

 しかしその身はボロボロで馬も何頭かやられたのか歩いているものもいる。
 そして馬の上には歩くことも無理そうなほど傷ついた護衛が乗っている。

 すぐに手当を開始されたが俺はこの状況を前に頭が真っ白になっている。
 考えても見て欲しい。先ほどまで元気だった奴らがいきなり生死をさまようほどの怪我を負っているのだ。
 医者でもないし俺にどうしたらいいかなんてわからない。

「おい!そっちの手当はいい。それよりもロバートがまずい。」

 何やらまずいことになっているらしいが俺には声しか聞こえてこないのでその状況がわからない。
 すると近くに他の護衛がいたのでどんな様子なのか話を聞いてみる。

「実はこの護衛の中には治癒の魔法を使えるものがいないんです。代わりにポーションを持ってきていたのですが王都ではポーションの需要が高くてあまり数が揃えられなかったのです。すでに数本使ったのですがポーションの底がついてロバートはもう…」

「ポーション…も、もしかしてこれでなんとかなりますか?」

 俺は懐にしまったスマホからポーションを取り出す。
 これはシンドバル商会で買っておいたものだ。なんせこの世界に来て初めて買ったものだ。
 あの後もなんとなく買ってしまったので2本持っている。ラルド曰く上品質なものらしいので役に立つかもしれない。

「こ、これは!い、いただいても構いませんか?」

「もちろんです。これで救えるのなら急いで使ってください。」

 すぐに護衛はポーションを受け取ると治療しているロバートの元へ向かった。
 その後、治療の問題で今日はここで野営することに決めたのだが、どうやら俺のポーションのおかげでロバートは一命をとりとめたらしく伯爵や多くの護衛たちから感謝されることになった。

「しかし…よくあれほどのポーションを持っていましたな。王都でも滅多に出回らぬ良品ですぞ。」

「そうなんですか。いや、たまたま前にシンドバル商会で買ったことがありまして。」

「さすが先生ですな。あの気難しいシンドバル商会の息子とお知り合いだとは。」

 気難しい?俺にはそんな風には見えなかった。ただ人の良さそうな商人にしか見えない。
 まあ貴族相手に商売をしているからそういう風に思われるのかもしれない。

「私には人の良い好青年にしか見えませんでしたよ。たまたま彼の店に入ったんですけど色々と親切にしてくれましたし。」

「ほう?先生。それは気をつけた方が良いかもしれませんな。シンドバル商会は王都では知らぬ人がいないほどの有名店でしてね。貴族だってあの商会にだけは手を出せません。悪い噂は聞きませんが貴族の中には金を借りすぎて首が回らなくなり取り潰しになった家もあると聞きます。」

 それって別にシンドバル商会になんの非もないよね。
 勝手に金借りて勝手に家が潰れただけだし。そんな表情を見て取ったのか伯爵の孫がため息をつきながら説明を始めた。

「良いですか?貴族というのは取り潰しになるくらいなら金を借りたところを襲撃して奪ってしまおうと考える不届きものもいます。しかも貴族の専属の兵や雇った兵となると腕利きばかりです。しかしシンドバル商会はそんな襲撃事件の話さえ出てこないんです。ここから考えられるのはシンドバル商会には専属の駒がいてしかもその駒が貴族の兵よりも圧倒的に強いんです。つまりシンドバル商会は金と力を兼ね備えた王都の中でも屈指の有力者ということになります。」

「な、なるほど。」

 そんなこと思いもしなかった。日本で考えるなら大企業にそれぞれ軍隊がいる的なことなのだろうか。
 それともマフィアやヤクザみたいな感じなのかな。
 その辺の考え方はわからないが有名商会ほど強い私兵がたくさんいるってことなのか。
 俺も今後商売をしていくのならやっぱりそういった護衛は必要だよなぁ…

 そんなことを考えていると夕食の支度を始めたらしく、俺も昨日の約束どおりうなぎの調理をすることになった。
 しかし今考えてみるとうなぎをさばいたことなど一度もない。
 しかしテレビや動画で見たことはあるので見よう見まねでなんとかなるだろう。

 スマホからうなぎを取り出しまな板の上に乗せるが周囲の料理人は気味悪がって離れてしまった。
 ここからは確か目打ちと言って杭でうなぎの頭を固定するのだが使えそうなものが見当たらない。
 そこでふと馬車の修理用品の中に使えるものがないかと探してみたところ釘が入っていたのでそれで代用した。

 捌き方は背中から包丁を入れて開くだけだ。これが案外難しい。
 ヌメヌメしているし動きも力強いのでなかなかうまくいかない。
 ちなみに関東と関西でうなぎの捌き方は違う。
 諸説あるかもしれないが関東は武士が多く腹を開くのは切腹をイメージさせるので背開きが主流。逆に関西は商人が多く腹を割って話そうという意味で腹開きが主流だ。

 まあそんなことよりぐずぐずになったがなんとか開いて背骨を取ることができた。
 なかなか美味しそうな背骨になってしまったので骨せんべいにしたいところだがあいにく油がないのでスマホにしまっておいてそのうち機会があったら作ることにしよう。

 うなぎの本体は綺麗に水で洗い内臓をとる。
 うなぎの血には毒性があるので万が一にもその毒で問題が起こると大変なので念入りに水洗いをする。
 確かその毒は熱に弱いはずなので白焼きならば問題ないとは思うのだがあくまで俺は素人だ。念には念を入れておく。

 そのあとは塩をまぶして焼くだけだ。
 焼き方はよくわからないが昔から言われているのは海のものは身から、川のものは皮から焼くと言われている。
 まあ川魚なんて大体が丸焼きなのであまり関係なさそうだ。

 うなぎに熱を通すとうまそうな匂いがしてくる。
 しかしこの匂いはあまり嗅ぎ慣れない匂いだ。そういえば俺って白焼き食べたことないからどんなのかよく知らないや。お子様なので蒲焼の方が美味しいっす。

 夕食に俺がうなぎの白焼きを出すとあのゲテモノがこうなったのかと皆一応に驚く。
 まあ確かにそう言われても仕方ないのかもしれない。地球でもうなぎを食べているのは日本とイギリスくらいのものだ。
 ただ、うなぎのゼリー寄せよ。お前はダメだろ。

 それからなかなか手をつけられないかと思いきや子爵はすぐに食べていた。
 まあこの子爵は釣りをするのも好きだが食べるのも好きみたいだからな。子爵は一口食べた瞬間目を見開いて驚いていた。

「ほう!これがあのうなぎという魚ですか。見た目からは想像もできぬ上品な味ですな。」

 それを聞くと伯爵と孫も食べ始める。どうやら問題はないようだ。
 ちなみに俺も食べてみたのだが確かに美味しかった。
 美味しいのだけれどどうしてもうなぎというと蒲焼のイメージが強いため物足りなく感じてしまう。
 これは醤油の入手を急いだほうがいいかもしれない。禁断症状が出てしまいそうだ。

 その日の夜は昼間の襲撃を忘れ楽しく終わることができた。
 しかし怪我人もいるため翌日からはそれまでのペースよりもできるだけ早いペースで移動することになった。
 伯爵たちへの馬車の振動が大きくなるが伯爵も元は武人だ。
 怪我人がいるというのにそんなことは言ってられないとすぐに許可を出した。それから3日後、ようやく王都にたどり着いた。
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