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第3話 農家アプリ
しおりを挟む道を進んで行くと目的のものが見えた。
見たこともない文字だがちゃんと読むことができる。
雪花。あの商人の男から教えてもらった宿だ。
確かにこぢんまりしているが、この田舎にある家庭的な宿という雰囲気は嫌いではない。
宿の中に入ると人は奥にいるのか誰もいない。
休業ということはおそらくないだろう。
声をかけてみると奥からドタドタと足音が聞こえた。
「いらっしゃいませ。宿泊のお客様?」
「ええ。何日かお願いしたいんですけど部屋は空いていますか?」
「大丈夫ですよ。一泊大銅貨3枚で食事代は別ね。」
「ではとりあえず1月ほどお願いします。銀貨9枚でいいですか?」
「あらあら!そんなに泊まってくれるの。お代はそれで十分ですよ。部屋は二階の一番奥の部屋を使ってください。日当たりも良くて、うちの中だと一番いい部屋なの。」
そう言って鍵を手渡し、忙しいのかまた奥へと戻っていった。
まあ場所はわかったし、他に問題はないのでさっさと部屋に移動する。
ちなみに金については、先ほど両替してもらった時になんとなく価値が理解できた。
金の種類は金貨、銀貨、銅貨の3つがありそれぞれに大小の計6種類がある。
大きい方が価値は高く、銀貨10枚で大銀貨1枚といった具合だ。
露天の商品を色々見て回った限り高くても銀貨程度なので、どうやら金貨10枚と言うのはかなりの大金だ。
当分金には困らない、と言いたいのだが一つ問題がある。
それはこのスマホのアプリだ。
どれも金額が高く最低でも金貨2枚もする。
これまでの物価から考えると、地球の価値で考えると1つのアプリに月の給料全てつぎ込むくらい高いのだ。
いや、もしかしたら1年で稼いだ金全てをつぎ込むくらいかもしれない。はっきりいって高すぎる。
しかし収納アプリを使って見て分かったことだが、このスマホのアプリはこの現実世界にも影響を与えることができる。
ならばこれだけ高くても致し方ないと言えるだろう。
とりあえずここで考えても仕方がないので部屋に入る。
部屋はこぢんまりとしているがベッドもあるし、窓からは陽が差し込んでいる。
日当たりの良い部屋だ。
トイレや風呂場はないがまあそんなものだろう。
これでゆっくりとすることができる。
ベッドに横になろうかと思ったが、見るからに埃っぽい。
仕方ないので窓を開け布団を干すことにした。
久しぶりの客ということなのだろうか。まあ安いので文句は言わないことにしよう。
布団を干しながらスマホを開く。
いつもならもっと弄っているのだが、今の所遊べるアプリが全くない。これは由々しき問題だ。
今後のことも考え、金を少しでも長く残しておきたいが、まあ金貨5枚くらいなら使っても良いだろう。
ということで早速課金するアプリを探す。
「さてさて…どのアプリに課金しようかな……。最初はマップか?いや、もうこの感じだと日本に帰れる保証はないし、今の所意味はないかもな。まあ候補の中に入れておくか。それよりも今すぐに使えそうなアプリを探さないとな。」
それにしてもこのスマホのアプリは課金要素が多すぎる。
今の所使えるアプリは収納、翻訳、そして女神ちゃんガチャ、それからもう一つ、設定画面を開くことができる。
しかし設定画面を開いたところで特に弄る要素はない。
今回はなにか今後役に立つものと遊べるものの2つに課金することにしよう。
まず一つ目は決まっている。カメラだ。
別に役に立たないと言われそうだが、もし日本に帰ることができた時、カメラで今の状況などを写真で撮っておけば間違いなく金になる。
自分のホームページで紹介したっていいだろう。
それにカメラアプリは金貨2枚だ。
最安値のアプリなので問題はない。
さてもう一つ。本当はメモアプリにしたいところだが、まあそこは我慢しておこう。
役立つアプリではなく遊べるアプリが欲しい。色々探して見るがゲーム系はどれも高く金貨5枚はする。
そうなると手元には金貨2枚と少ししか残らない。
「まあ残るからいっか。これにしよ。」
金はそのうち稼げば良いのだ。
そんなことよりも遊べるアプリが欲しい。選んだのはファームファクトリー。
ファームとついているしおそらく農業系の育成アプリだろう。
こういったのは地味だが、意外と暇つぶしになる。それにもしかしたらと思うことも一つあった。
まずはカメラを開く。
これはなんら変哲のないカメラ機能だ。ただし、他にもモードがあるようだ。
ただしそれらを使うのにはまた課金が必要になる。
動画でさえ課金が必要になるとは思いもしなかった。
金ばっか取りやがって、このスマホのアプリ作成者ってかなりがめついな。
まあ課金については一旦置いておこう。
早速写真を撮って見るが普通に写真は撮れる。
どうやら写真一枚につき、いくらみたいなこともやってくるかと一瞬不安に思ったが問題ないらしい。
なので早速現状を記録するため色々と写真を撮っておく。
これは日本に戻ったら金になること間違いない。今からいくら稼げるか楽しみになってくる。
ちなみに撮った写真は写真アプリから見ることができるようだ。どうやらこれはカメラと写真の2つセットで金貨2枚という扱いだったらしい。まあそれでもお得かどうかはなんとも言えない。
撮った写真は加工もできるようだがそれを使うのにもまた課金が必要となる。
しかし写真の枚数に上限はないようなので気にすることなく写真を撮っていく。
まあ部屋の中なので撮れる場所は限られている。
これ以上できることはないので次に行こう。
「さてさて、このアプリはどうかな?」
開いたのはもちろんファームファクトリー。
少しレトロな感じのするアプリだが、見た感じはなかなか面白そうだ。
『ファームファクトリーの世界へようこそ。この世界では畑を耕して農作物を育てることができるよ。早速始めてみよう。』
「まあそのまんまだな。まずは畑を耕せばいいのか。単純な感じの初心者向けゲームってことか。」
『畑を耕すよ。耕し方は簡単。タップしてどんどん畑を耕そう。』
「あーはいはい。ちょっと本格派にするためにそういうこともするのか。タップ回数は…97852回!?!?」
あ、頭がいかれてやがる。
そんな回数タップしないと畑耕すことできないのかよ。
い、いや、右上にアイテム欄があるな。多分ここで何か使えば楽になるんだろ。
そのくらい数多くのアプリを攻略してきた俺にはわかっているよ。
『アイテム。あなたはアイテムを持っていません。他の連動アプリで必要なアイテムを作成するか購入してください。』
「マジか。」
やばいこれ、初心者用じゃないぞ。ただの鬼畜ゲーだ。
だけどどうしようもない。金貨5枚もしたし、もう他のアプリを買うだけの金はない。
もうやるしかないだろ。一応この手のアプリだってやったことはある。
やれるだけやってみよう。
ポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポン
「や、やっと終わった……ってもう夕方じゃんか。」
クソゲーと思いながらも続けているうちに熱中しすぎたみたいで、いつのまにか夕方になっていた。
まあここにきた時点で昼を回ってたし、そんなに時間は経ってないだろ。
きっと経っていない。経っているはずがない。
とりあえずこれでひとまずは終わったから飯に向かうかな。暗くなると場所わからなくなりそうだし。
それから宿を出て周囲が暗くなる前になんとか今日の飯屋、ロックスの酒場へとたどり着いた。
結構賑わっているので誰かに聞いて回らなくてもすぐにたどり着くことができた。
店に入るとその賑わいがさらにわかる。
別に席を案内してくれる人もいないようなので勝手に空いている席に座る。
するとどこからか恰幅の良い女性がやってきた。
「いらっしゃい!見ない顔だね。この店は初めてかい?」
「はい。この街自体が今日来たばかりなんですよ。人に聞いたらこの店のものが絶品だって聞いたもので。」
「はっはっは!そりゃそうさ。うちのはなんでもうまいよ!で?何にする?」
「何か名物をお願いします。それと安くてうまい酒も」
「あいよ!ちょっと待ってな!」
なんとも元気の良い人だ。そんな女将につられてこの店に客が入っているのかもしれない。
それと周りの話し声も聞いておけば、色々と情報も手に入るかもしれない。
しかし今はそんなことよりもアプリの方が気になる。
再びアプリを起動すると畑も耕し終わったので、次の作業に入るらしい。
畑を耕し終わったということなので次は種まきだ。
しかしここで問題が起きた。
「また課金かよ…」
植えられる種はいくつもあるのだが、どんなに安くても金貨2枚もする。
ただし一度買えばその後は何度でも使えるらしい。
しかしどの種も見たことも聞いたこともないものばかりだ。
そこに女将が酒を持ってやって来た。
「はいよ!銅貨5枚ね。先払いだから今払っておくれ。」
「銅貨5枚ね。…そうだキュロコリーって知ってます?」
「ん?もちろん知ってるけどそれがどうしたんだい?」
やはりそうか。ここに表示されているのは全てこの国の野菜なんだ。
俺が聞いたことないのも無理はないだろう。
「ちょっと聞きたいことあるんだけどいいかな?」
「私もそんなに暇じゃないんだけどねぇ…」
「すみません。すぐに終わるからこれでお願いします。」
そう言って酒の料金にプラスして多めに払った。
痛手ではあるがまあ必要経費というやつだ。
それを受け取るとそういうことならと女将は俺の質問を聞いてくれることになった。
そこで金貨2枚で買える種を全て読み上げその中でどれがこの街で一番高く売れるか聞いた。
「う~ん…その中だったら間違いなくラディールだろうね。あれは冬のものだから今の時期は取れないのよ。だからもし今の時期売るんだったら高くなるね。それと普通に売って高いのはソウ草だね。痛みやすいから良い品質のは高く売れるよ。もういいかい?」
「ありがとうございます。助かりました。」
これは良い情報を聞けた。
じゃあここはラディール一択だ。早速買って種まきをする。
ちなみに種まきもタップのようだ。
畑を耕すところからずっとタップ作業の連続なので指が麻痺して来た。
もう指の感覚が完全に麻痺するという一歩手前に料理が届いた。
料理の代金を払おうとすると、さっきので十分だよと言ってまたどこかに行ってしまった。女将優しいな。
出された料理はどれも見たことのない野菜ばかりだったが結構うまかった。
これは今後ここに通いつめるだけの価値はあるかもしれない。
ただ問題なのが残金だ。
すでに先ほどの種を買ったせいで金貨は無くなり残りは大銀貨と呼ばれているものだけになっている。
その後、こんな状況だというのに酒も飲んでいい気分で宿に戻った。
色々あって疲れたし寝ようかと思ったが、どうしてもあのゲームをやめることができなかった。
なんとも言えぬ鬼畜ゲーだったが、ものすごい中毒性がある気がする。
結局寝ることができたのは朝日が見えた頃だった。
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