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第2話 どうやら異世界らしいです
しおりを挟む「どこだ…ここ…」
俺は今どこかにいる。
どこかってどこだよ!というツッコミが聞こえてきそうだが、そんなものは俺が知りたい。
ここはどこだ?
目の前には澄み渡った空が見える。
地面は斜めっているしバランスが悪い。
いやこれは地面じゃなくて瓦か?下の方からはなにやら人の声がする。
おそらく俺は屋根の上にいる。ここまではまず間違いないだろう。
しかしここで問題が起こる。
俺はさっきまで家にいたはずだ。
風呂にも入り、飯を食べ部屋のベットの上で、あのよくわからないアプリのロードが終わるのをひたすらに待ち続けていた。
だからその手にはスマホも……スマホはどこだ!さっきまで持っていたはずのスマホがないぞ!
慌てて探すとポケットの中にちゃんと入っていた。
なぜそんなところにというツッコミは我慢し、起動してみようとすると電源が切れていたらしい。
しばらくすると見慣れない画面が、見たことはあるのだが一番見たくない画面が表示されていた。
「初期設定画面って…嘘だろ?ま、まさかそんなわけ……」
その恐怖の画面を見ながら震える手でスマホを操作する。
適当に設定を済ますと今まで見たこともないようなアプリばかりが表示されていた。
こんなアプリは見たことないぞ。
一瞬嫌な想像をしてしまったがそんなわけはない。
俺はすぐに何とかクラウド上から、バックアップデータを復旧させようとしてみた。
だがそこにはあるはずのクラウドもバックアップデータも存在しなかった。
「嘘…嘘だろおい……お、おぉぉ…ま、まじかよ、う、嘘だろぉぉ?」
俺のニャンコな戦争も、パズルするモンスターのやつも、引っ張って弾くやつも、リズムに合わせてタップするアイドルなやつも、全くレアな奴が出てこないアニメのやつも、これからやろうとしてたやつも全部消えたってことか!?
課金総額合わせれば、軽く高級車が買えるくらいのあのデータ達が全て消えたってことか?
俺の今までかけてきた時間も全て水の泡ってことか?あのデータが全て消え去ったってことなのか?
俺の…俺の学生時代からの地道な努力と少ない小遣いで頑張って積み上げた俺のデータが全部なくなったってことなのぉ!?
「い、いや待て。落ち着くんだ。パソコンにちゃんとバックアップがとっといてある。家に戻ればちゃんと復元できるはずだ。スタミナの無駄が出るがそこは我慢だ。明日までに帰れば連続ログイン日数も問題はない。まずは落ち着いて現状を確認しよう。」
深呼吸をしてもう一度周囲を見渡す。
足元は瓦、周囲は青空。
遠くの方になにやら大きな時計台と城のようなものが見える。つまりここは…
「さっぱりわからん。素直にマップで場所確認して家までのルートを検索するか。」
スマホを起動させ、マップと思われるアプリを探す。
すぐにマップのようなアプリを見つけることができた。しかしこんなアプリは見たことない。
ほぼ全てのアプリを使用した俺が知らないアプリということで、気にはなるが今はそんな場合ではない。
今すぐにでも帰らなければ。
俺は見た目からおそらくマップと思われるアプリを起動させる。
「ん?なになに…このアプリはまだ購入されていません。購入費用金貨10枚です?は?」
全く訳がわからない。
普通ホーム画面に表示されている時点で購入されているはずだ。
なのに購入されていないとはどういうことだ。それにマップは無料アプリのはずだ。
もしかしてと思い他のアプリも起動させてみる。
結果はどれも購入されていないと文字が表示される。
「嘘だろ?どれも使えないじゃんかこれもこれもこれもこれも……これ…は起動できた?」
いくつも起動させていくうちにようやく一つ目のアプリが起動できた。
表示されたアプリ名は女神ちゃんガチャ。
これも初めて見るアプリだ。
可愛らしい作りだがただガチャが設置されただけの簡素なアプリだ。
『女神ちゃんガチャ!初回ログインボーナスだよ!ガチャを回してね。』
「や、やっぱり…よくあるガチャ系のゲームか。けど他にアイコンないし本当にガチャしかないぞ、このアプリ…」
そんな文句を言いながらも、とりあえずガチャを回すと10個のカプセルが出てきた。
カプセルが開封されると中から靴、ズボン、上着、下着、ベルト、短剣、剣、金貨10枚、収納アプリ、翻訳アプリが出てきた。
『今回のアイテムは収納アプリ内に保管されているよ!女神ちゃんガチャは1日1回回せるからどんどん回してね!』
「1日1回回して他のアプリでも使えるアイテムを出すのか。そのアプリとまとめればいいのにっていうのは禁止だな。とりあえず言ってた収納アプリを開くか。」
ホーム画面に戻ると新しいアプリが2つ追加されていた。
その中から収納アプリを開く。
すると中には先ほど入手したアイテムが表示されていた。
試しに上着をタップしてみると『取り出す』と表示されたので試しに『取り出す』を押してみる。
すると目の前にアプリ内で表示されていた上着が瞬時に現れた。
「は?え?な、なにこれ…え?」
正直頭が追いつかない。
試しに他のアイテムも取り出してみると目の前に全て現れる。
ちょうど部屋着のままだったので服を着替える。
屋根の上で着替えるなど一種の露出狂のように見えるかもしれないが、今すぐに降りられないので仕方ない。
着ていた服をもしかしてと思いスマホを近づけると『収納しますか』と表示されたので押してみると目の前から先ほどまで来ていた服が消えた。
何とも現実離れしたこの状況にため息しか出ない。
「それにしてもこれは…ゲームの世界とか?VRの最新系とか…。いや、ありえないな。そんな技術は存在しないし俺自身そんな装置をつけた覚えはない。催眠術とかその類が一番怪しいけど、この手触りとか世界観の説明にはならないよなぁ…」
色々考えてみてもうまく結果がまとまらない。
このままでも仕方ないので、どこか降りられそうな場所まで屋根伝いに移動していくと、何とか降りられそうなところを見つけた。そこから貧弱な手足を使ってやっとの思いで地面に降りる。
「うわ…地面がアスファルトじゃなくて土だ。ゴミも落ちて汚ねぇし、なんというか日本のどこかっていう感じじゃないな。まあここで考えていても仕方ないし人でも探してみるか。」
どこにいけば良いかもわからず適当に路地を歩いていくと遠くから人の声が聞こえてきた。
どうやらこの先に人のいる通りがあるようだ。
人の声の聞こえてきた方へゆっくりと足を進めると次第に景観が変わっていく。
どうやら大通りに出たようだ。
「通りに出たけど…なんじゃこりゃ……」
地面は先ほどまでの土から石畳に変わり、周囲には露店が多く並んでいる。
そしてそこにいる人々は全員日本人とはかけ離れた顔つきをしている。
髪は茶髪か金髪が多いが、それ以外の色もちらほら見受けられる。
その顔つきは欧米系といえば良いのだろうか。
一言で言えば美男美女が多い。
そのまま立ち尽くしていると、見た目の珍しさも相まって注目を集めている。
道行く人にジロジロと見られるというのは、あまり気分の良いものではない。
それに着替えたこの服もこの街の人と同じようなものなのだが、正直俺に似合っているとは思えない。
そんな恥ずかしさもあるのですぐにその場から離れた。
少し移動してようやく恥ずかしさも落ち着き余裕が出てきた。
顔を上げ周囲を見渡すと見たことも聞いたこともない食物や道具が露店に並べられているのに気がついた。
どれもこれも気になるが今はそれどころではない。
とりあえず今はこの状況を把握することが大切だ。
俺は商品を見るふりをしながら人々の会話を盗み聞きする。
どれも世間話ばかりで役に立ちそうな情報はないが一つ重要なことに気がついた。
「あれ?そう言えば何で言葉がわかるんだろ。それに店の文字も読める。こんな言語見たことも聞いたこともないはずなのに…。もしかして…」
俺は人に見られないように懐からスマホを取り出し画面を開く。
そしてその中から先ほどのガチャで手に入れた翻訳アプリを起動させる。
『翻訳アプリ!このアプリはあらゆる言語を翻訳することができるよ!使い方は簡単!このスマホを持っているだけで見聞きするもの全てが理解できる言語に翻訳されて聞こえるよ!初回特典で10の言語を翻訳するよ!ただし初回特典以外の言語も翻訳できるようにしたかったら、上のアイコンから課金してね!』
「やっぱりこれのおかげか。それにしても超高性能だな。初回特典で課金しなくても、この街の人の言葉がわかるのはありがたい。というかもうこれ高性能の次元じゃないな。」
ツッコミ要素が多すぎるがとりあえずこれで言語の心配は無くなった。
次の問題はこの後の行動だ。
まずはここがどこなのかを知る必要がある。
そして…考えたくもないがもしも日本に帰ることが不可能という結論に達した場合ここで暮らしていく必要がある。
俺には今手持ちに金貨10枚がある。
この金貨で買い物をしながら店主と話して情報収集しても良いが一つ問題がある。
先ほどから買い物している様子を横目で眺めているのだが誰もこれと同じ金貨を使う様子が見られない。
先ほどから見られるのは、鈍色のものと土色のものばかりだ。
考えられる理由は2つ。
金貨はかなり価値の高い金で一般の小さな店では出回らない。
もう一つは単にこの金貨はこの国の一般硬貨ではない。この二つだろう。
後者の場合はどうしようもないが前者の場合なら何とかなる可能性はまだある。
少し周囲を見渡し目的のものを探す。しばらく探しているとそれらしき建物が見つかった。
先ほどまでの露天とは違い、しっかりとした建物で高級感がある。
こういった高級品を扱っていそうな店なら金貨も使えるだろう。
多少の無駄使いになりそうだがここは致し方あるまい。
意を決して店の中に入ると雑貨店のようで様々な商品が販売されていた。
これなら役に立ちそうなものを買って金を細かくすることができそうだ。
そう思っていると奥から一人の男がこちらによって着た。
「どうもお客さん。失礼ですがこの店はそれなりに良いものを扱わせてもらっていますので、お客さんのような人はちょっと…」
「身なりが問題か?金はちゃんと持っているぞ。ダメだというのなら他を当たろう。」
懐から金貨を1枚取り出して男に見せつける。
男はそれを見るとにっこりと微笑む。
「これは大変失礼を申しました。時折金も持たないのにこの店を見に来るものもおりますので、なにとぞお許しください。」
「まあそういうこともあるだろうからな。気にしてはいないさ。それでこの金貨で買えるものはこの店にちゃんとあるのかな?」
ニヤリと笑って男に尋ねる。
男はそれを聞くと声をあげて笑う。
軽いジョークのように受け取ってもらえたようで何よりだ。
この質問によって金貨がこの店で使えるようなほどちゃんとした店なのかというものとこの知ることができる。
まあもしも金貨の使えないような店だった時は怒られるかもしれないが彼が笑っているということは何の問題もないということだ。
それともう一つ、この金貨を見せたことでこの金貨がちゃんとこの国で流通していることも確認することができた。
「ご安心ください。金貨1枚で買えるものも十分に取り揃えておりますよ。もちろんそれ以上のものも多数ございます。ごゆっくりお探しください。」
男はそういうとまた奥へと下がっていった。
問題ないということなので、ゆっくりと見させてもらおう。
しかし、いたるところに見たことも聞いたこともないような商品ばかりある。
どんなものなのか気になるが見ただけでは全くわからない。
しばらく眺めていると一つの小瓶が目に入った。
中に入っている青色の液体が何とも綺麗だ。それを手に取り眺めていると、あの男が再びやってきた。
「それはうちで扱っているものの中でも、品質の良いポーションですよ。他の店のポーションと違い傷もあっという間に直してしまいますから。」
「ほう?値段は…大銀貨7枚か。少し高いがそれだけの効果があるということなのかな?」
嘘だ。値段が高いかどうかなんて全く知らない。
もしかしたら安いのかもしれないがここはそれっぽくやるしかない。
ここで知らないと正直に言えば足元を見られる可能性だってある。
これは田舎から上京してきた俺がおしゃれな店で恥をかかないために編み出した必殺技である。
ちなみに初めて使った時は物の見事に失敗してそれ以来トラウマになっている。
それなのに咄嗟にやってしまった俺は、あれから数年経っても成長していないようだ。
「もちろんです。他の店よりも若干お高いですが、それだけの価値はあると断言できます。」
「そうか。ではこれを貰おう。」
どうやら今回は成功したらしい。
内心歓喜の舞を舞っている俺をよそに男は早速会計を始める。
これで最初の問題の金貨は片がついた。
ついでに色々と情報も聞かせて貰おう。
「そうだ。今日泊まる宿をまだ決めてないから良い宿をどこか知らないか?」
「それでしたらこの通りを右に行ったところに雪花というところがありますよ。こじんまりとしたところですが安い割に良い場所です。そこに行くんでしたら少しお金も細かくしといたほうがよいですか?」
「それは助かるな。是非ともお願いするよ。それとうまい飯屋はないかな?大衆料理的なものが良いんだが。」
「それでしたら雪花の近くに良い店がありますよ。ロックスの酒場という場所なんですが、そこの女将の飯が美味しくて、私も時々食べに行くんですよ。」
「これは良いことを聞いた。この街は良いところが多いな。」
「やはりお客さんは旅人さんで?」
「まあそんなところだ。しかし、しばらくはこの街に厄介になろうと思っていてな。そうだ。ついでに何か良い仕事はないか?この街の中でできるような雑用で構わないんだが。」
「それでしたら私に聞くよりも冒険者ギルドか商業ギルドに行くのがよろしいでしょう。それなりに仕事はあると思いますよ。」
「それもそうか。どの場所にあるのかな?」
「場所はここから左にずっと行ったところですよ。見ればわかると思うので迷うことはないでしょう。」
よしよし。
こんなに俺の行き当たりばったり作戦がうまく行くとは思いもしなかった。
このおかげで俺が今必要としている情報全て手に入った。
今日の宿に飯、それに働く場所が全て分かったからな。当面の問題はこれで片付いただろ。
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