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プロローグだけど紹介しない森の中
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突如として空から降ってきた、人とは一線を引いた生物、その姿は生物、と形容するには異様で異形で、生き物と言うよりは「生きている」が形容する言葉として正しい。と、そう思わせんばかりに生命を冒涜するような姿をしている。
初見の威力は抜群であった。
ある意味、内戦のみで平和ボケしていた人類は突如として飛来した「生き物としての要素を詰め込んだ」化け物は、バイオハザードのように世界を侵略していった。
化け物ーー通称新生物は、飛来した高さ10メートル程の球体から生まれ、着実に数を増やしていっている。生き物としての要素を詰め込んだ、とその見た目通りに千差万別な姿をしているのだ。その場に根を張るようにして鎮座する個体もいれば、高速で移動して場所を移す個体もいる。胞子を飛ばしてより遠くに行く個体もいる。安静の地はその瞬間、無くなってしまった。
道を歩く家族も、買い物帰りの老夫婦も、公園で遊んでいた子供も、痴話喧嘩中のカップルも、思い詰めていた未成年も。
全員が全員、なす術もなく喰われ、千切られ、潰され、吸い取られ、死んで行く。
そんな彼らが新たな住人として、我ら人類を淘汰しようと侵略を始めたのが今から百年も前の出来事である。
当時から発展していると言っても過言ではない、重火器や兵器を使って侵攻を防いでいた。侵略してくる新生物も物量戦には答えたのか徐々に、着々と奪われた領土を取り返していったが…問題は直ぐに露呈した。物資の枯渇である。
鉛を火薬で飛ばす、消耗戦に最初に根を上げたのは我らが人類である。目に見えて増える消費と、日に日に増えていく新生物の侵略。
新生物の死骸を利用した新しい物質を用いた戦闘方法が確立されるのはそう時間が掛からなかった。
新生物との戦いの最中、突如として現れた「科学者」によって不思議な新生物の「生前」の能力を引き継いだ武器は製造される。姿は剣であったり、槍であったり、弓であったり。どこか中世を思わせるような骨董品のような品々に銃社会であったその時は否定的な意見が多かったが…結果は巡り巡る新生児の産声が証拠であろう。快進撃であった。
元は同じ卵から生まれた新生物である。
何の化学反応か、突然変異か。新生物で作った武器は銃火器で攻撃するより明らかに威力が違ったのだ。
今まで火炎放射器で焼き払っていた這い寄る系の新生物も、新生物で作られた武器ーー快進の一手(A good move)、AGMはまるで豆腐を切るように簡単に切断できてしまうのだ。
そんな背景があり、人類は新生物に反抗できる武器を手に入れ、失われた領土の奪還と、新生物の卵を壊す目的を持って、国際的な規模で戦闘員を育成する機関、「上等対新生物特殊化卿園」な育成機関が設立された。
そこに通う、未来を担う戦闘員は皆、新生物に因縁がある、野心に溢れた未来有望な復讐者たちの集まりである。
これは、人類が、新生物に対して、快進の一手を加え、堕とす物語である。
・・・・・・・・・・・・
ネグリは落ちこぼれである。
学力は平均並みにあるがそれ以上に求められる戦闘力が皆無と言って良いほど無いのだ。
本来は育成機関に入学する際には、持ち前の「身体能力」や「魔術適正」もしくは「戦略的発想」が求められるのだがネグリには一つも持っていなかった。では何故入学できたかと言うと、持ち前の新生物に対しての執念とも言える成果、「魔法学」への研究結果が認められた事である。
新生物とほぼ共存な状況である昨今、新生物と同じ空間で生まれ、育った人間は新生物の能力をカケラ受け継ぎ、特殊な身体能力が身につくのが研究結果として出ている。出ているが今のところ同じ空間で生活出来るほど安全な新生物は居らず、そんな境遇の人が居たら良いな、とそんな希望的観測である。
魔術適正は「身体能力」に似た話であり、新生物の能力をカケラ受け継ぎ、特殊な身体能力の代わりに「魔術」として新生物の血を触媒とした術式を発動できる適正である。適正であるが才能であるので後天的な例は一つとしていない。現在、確認出来るのは「灼熱の魔術師」「風化の魔術師」「静止の魔術師」の3者である。そのどれもが抜きん出て強力で、単騎で特殊能力を有する特出個体を討伐出来る程である。
ネグリの発表した「魔法学」は百年前の銃社会の前の社会。まだ個々の家族間でのコミュニティであった時代で発展した魔術とは違う、自然と調和するようにして発動できる魔法である。「魔術適正」と違うのは触媒がいるかどうか、である。
その点を知り、非力な人間でも役に立てるかも、と考えた先の研究結果の発表である。
結果は「発動自体は容易だが効果は微弱。将来性は見込めない」であった。
そんな非力なネグリであるが、現在は同時期に入学した同期にイジメられ流れるように運ばれた先は知らない森の中。と、そんな行き先がランダムな宅急便を体験し一人、寂しく立っているとそんな状況である。
・・・
何か僕したっけな…? と、過去の事を思い出すが…特質しておかしい事はしてない筈である。まあ、何かと言うより何もしてないからこんな結果になっていると思うんだけどね。と、一人自虐気味に笑うが現実はそんな面白いものではなかった。
あたりを見渡すにここは森の中で、そんな情報に後押しするように「未知の」と付属する。
「(流石に死ぬような大それた事をするとは思えないけど…)」
と、大方予想ができている人物を思い浮かべる。ーーが、十人を超えたあたりで考えるのを辞めた。あれ、僕人にめっちゃ嫌われてる?
実績も、功績も、実力もないのに所属している『エルフ耳』をしているネグリ。
…うん。結構嫌われる要素あるね。確かに何もしないのに育成機関に所属して、で成長している訳でもない穀潰しな僕だからね…しかもエルフ耳って分かりやすい差別しやすい特徴あるし。
身体的特徴である長い耳は「魔術適正」と同じような生まれが新生物の近くで能力のカケラを持って生まれてきた故のギフトであるが……生憎と僕は生まれてからこの耳で良い思いをした事はないし、ウサギみたいに聴力が異常に良いって訳でもない。ただ耳が長いだけ。髪色も深緑で「お前は抹茶かよ」と、しょっちゅう絡まれていた。…その子が抹茶が好きなんだね、って情報だけが今の所の良い思い出である。
そんな長い耳で、意味ありげにピクピクさせて音を聞いてみるが……木々の擦れる音しか聞こえない。つまるところ至って普通な森の中である。これが自分の意思で来たなら今すぐにピクニックでもして、長めの良い場所で優雅にサンドイッチでも頬張るんだけど…。
生憎、今はそんな悠長な事は言ってられないのだ。
取り敢えずその場にしゃがみ、地面を少し掘ってみる。
「(至って普通な黒土…わあ、ミミズがめっちゃいるんだけど…結構、栄養詰まっている土なんだ)」
腐葉土が目立つ地面である。
この森自体が新生物って線はなくなった。目に見える木々は擬態かもしれないけど、この豊かな地面は偽装できないからね。まあ、大型の特殊能力持ちだったら話は変わってくるけど…。
「その場合は完全に死が確定してるからね…」
近場の安全を確保し、心の中で留めておいた独り言が溢れてしまう。そんな僕の言葉は誰かに反応してもらえる事無く、豊かな自然に消えていった。このまま僕も自然に淘汰されちゃいそうだけど…。
立ち上がり、一度は逸らしてしまった異様な光景を視界に入れる。
そこには巨大な狼のような新生物の腹から生えるようにして出ている立派な剣と、それを強調するようにして木漏れ日がさしている。そんな、絵本の序盤で出したら良い感じの光景だよね、を表している景色を見て一言。
「…僕、学生辞めて絵描きになろかな」
写すだけでも結構絵になる光景である。既に良い感じの光景であるが…どうしても関わったら面倒そうだ、とそう思ってしまうので回れ右しそうになったが…、奥の方。具体的には腑をぶちまけている新生物の方で声が聞こえてくる。
『ぬぉおお~~い! 君君君!! こんな、あからさまに主人公的な展開なのにスルーしちゃって良いの?? まあ、スルーしても無理やり契約しちゃうけどね…ほら手を出して』
と、背後で言われ勝手に体が動く。
え、ちょ、拒否権は!? と、必死に抵抗も虚しく、異様な程に美しい女性が剣に移り変わって見える。怪しさが2割増になってしまった。
新生物に突き刺さる木漏れ日に照らされる剣、な時点で怪しさ満点であるのだ。そんな、変なものは拾ってはいけまん、と小さい時から言われている教えを遵守しようとした所の強制であった。
若干、心の隅で「主人公的な展開が!? これで僕にも魔術的才能が…」と思ってしまった事は事実である。
まあ、剣な時点で魔術適正は開花しないと思うけどね。
知識としてはある新生物を材料に武器を作る、AGMを想像し、現場から狼系の能力を宿した剣なんだろうな…と、妙に達観した心持ちで優しげな表情をしている聖女のような風貌の女性に近付く。手を伸ばせば触れる距離まできた。ぐっ、と手が前に動き、重ねられる。ああ、恋人繋ぎなんだ…と、繋ぎ方について色々妄想を捗らせていると困ったような声色で彼女は言った。
『…あれ? 契約できない…? 本で見た時はこんな感じでウニョウニョやってたけど…まあ、実際は違うのかな。…ねえ、しっかりと見開いていてね』
本で見聞きした事で実行しているの? 大丈夫、その信憑性? と思ったが実際は違うみたいである。本と現実は似て非なる物語だからね…。しんな安心感を覚えていたら今度は顔を近付けて…覗き見るような姿勢で眼球を凝視してくる。
男性女性問わず、詰め寄られる事はあったけどこんな好意的な…いや、あからさまに玩具を見るような視線は初めてですよ…と、思ってしまう。
どうやら心が妙に落ち着いて、取り乱さないのは彼女の能力か何かだったみたいである。まあ、普段からそこまで「あっは!!」みたいなテンションを露呈されるタイプじゃないけど、流石にこんなよく分からない続きの現状になったら叫びながら逃げるからね。んー? 取り乱してね?
と、心まで掌握されているこの現状。完全にハエトリグサとかウツボカズラが捕食する時の甘い蜜、みたいな感じで捕まった感が否めないナウ。しょうもない人生も今日で終焉を迎えるのか、ごめんね僕のために買われた書籍達…多分、僕がいなくなったら焼却処分だよ…と、心残りである数十冊の魔法書を思い出し、萎える。まあ、有用じゃないから実用的じゃないけど…思い出補正ってあるからね。情以外に掛ける思いはないけど。
彼女の独り言、行動を上の空で視界に収めながら一人で妄想の風呂敷を広げていると…強制的に畳まされた。
それと同時に彼女の強制力は失った。
「っん、と。えっと、その…貴方の事は口外しないので帰らせていただいても…」
恐る恐る聞いてみるが返答は
『却下よ』
想像通りのものであった。デスヨネー…。
視界の端に映る死骸の威圧感を感じ始め、冷や汗をかきながら「うーん、どうして?」と悩む彼女の操り人形となっていた。腕を組まれ、手を
恋人繋ぎにされ、視線を合わせられ、デコとデコを合わせられたりもした。初対面の言葉通り、契約をしようとしているみたいだが…四苦八苦している様子である。
そんな怪しげな二人な空間である。視界の端で動く物陰を発見した。少し顔を逸らし視線を送ると…そこからウサギが飛び出してきた。あら、可愛いじゃない。しっかりと手入れされた純白のその毛皮。夏場暑そうね、と警戒心無さげに(・・・・・・・)近づいて来るウサギに違和感を感じ…その違和感が正体を表した。
「危ないっ!!」
そう言って彼女を退かそうと力を入れるが…入れる前に彼女が僕の首根っこを掴んで、顔の面積が百倍以上に膨らんだ捕食攻撃をバックステップで避ける。先程までいた場所を地面ごと捕食した異様なウサギにも驚いたし、僕の忠告よりも早い段階で逃げた彼女にも驚いたし……何より、さっきまで可愛かったウサギは何処へ。皮を破るようにして体が、内側から入れ替わる。
純白の肌を塗り替えるように鮮血が舞い、脱皮するようにして自身の皮を裂き、徐々に何十倍にも堆積が膨張する。すぐにウサギからウサギだっただろう、皮を剥がれた異様に牙が並ぶ大ウサギに変貌した。脱兎のうさぎである。
キョロキョロ、と焦点が定まっていない大きな瞳を動かしながら、目の前に広がる狼型の死体に齧り付く。車二台分くらい大きな死体が徐々に無くなっていく、食いっぷりを眺めていると縮んだ(・・・)彼女が声を上げる。
『どうして…まあ、良いわ! 私を掴んで名前を叫びなさい! それでこの私ーーとの契約が完了するわ!!』
「私を掴んでって…あ、この剣の事か」
どうして私が剣になるのか、貴女は剣の精霊? とか色々気になる次第であるが問題は目の前で起こっているのだ。そんな昨日食べたご飯を思い出すような無駄な行為を挟むと僕が思い出される側になってしまう。
未だに食事中の大ウサギを置いて、そばに突き刺さっている剣を抜き、切先を向ける。声高々に!!
「僕の名前はネグリ!! 殺生は出来ればしたくないけど生き残るためだから…ごめん、天誅!!」
『天誅って…まあ、でもよろしくね。冴えなく、実力もない、恵まれない、無いが有る貴方にとっての最大の奇跡「付与の魔剣」が貴方を最高へと導くわ』
「…え?」
結構初対面でもグイグイいくんですね。
剣を握り、名前を言ったから契約が完了したのか彼女の姿がなくなり、その事によって剣に光が灯る。
確かに冴えないし、実力もないし、恵まれ…は知らないけど、無いが有る僕だけど…ほら、人間誰だって一つくらいは誇れる部分があるっていうじゃん。…あ、僕の場合は「付与の魔剣」を持ってるって点? 辛いね…。
光が灯り、明確に敵対者だと認識した食事後の休憩中だった大ウサギがイった目をグルングルンと向けながら口を大きく開け、ヤツメウナギのような口内を見せびらかしながら向かってくる。
「ど、どうすれば良い!? と、取り敢えず移動手段は…あ、奪えたけど」
『…適応能力が高すぎるわね、貴方。まあ、でも良い所だわ! 変に話を聞いてきたりして焦らないし…』
「あ、どうも」
多分いけるかな? と、そう思って向かってくる大ウサギを右にズレる事で回避し、今までの何十倍も軽くなった体で巨大な体を支える4つの足の腱を切断する。良かった、魔法学を勉強しておいて…。その時の『身体能力強化魔法』は胸が熱くなる、程度の効果だったけど人体や、他種族の構造を理解する事ができたのだ。何故身体能力強化なのに他種族の構造を理解しなきゃいけないのかは未だに疑問だけど…。
恐らく敵を知るには己から、の逆バージョンだろう。どちらにせよ役になったので問題なしである。
彼女から『そのまま自由行動』と言う名の放任されたので体勢が崩れた大ウサギを仕留めに行こうと近付き…寸前でプロボクサーのような素早いパンチーー下攻撃ーーを回避する。
「確か心臓を狙えば一発……え、狙えなくない?」
四苦八苦しながらトドメを刺す。肉厚すぎて黒ひげ、みたいになってしまったが…まあ、大ウサギの筋繊維丸出しの素材なんて誰が使うの? って話である。食べたら美味しそうだよね、としか感想が出てこないので用途は食用だろう。であれば当たりを見つける為の突き刺し行為は肉を柔らかくする為、とそう言い換える事が出来る。やったね! 今日はウサギ肉だよ!!
「…新生物って食べれるっけ」
『…え?』
結構リアルな声色で困惑されました。
戦闘後は剣ではなく、精霊のような小人のような姿になるようで手のひらサイズになった彼女に小馬鹿にされながら一応の経緯の説明をしてもらう事になりました。
ちなみに新生物、なので見た目はウサギでもウサギじゃないので食べられないそうです。
初見の威力は抜群であった。
ある意味、内戦のみで平和ボケしていた人類は突如として飛来した「生き物としての要素を詰め込んだ」化け物は、バイオハザードのように世界を侵略していった。
化け物ーー通称新生物は、飛来した高さ10メートル程の球体から生まれ、着実に数を増やしていっている。生き物としての要素を詰め込んだ、とその見た目通りに千差万別な姿をしているのだ。その場に根を張るようにして鎮座する個体もいれば、高速で移動して場所を移す個体もいる。胞子を飛ばしてより遠くに行く個体もいる。安静の地はその瞬間、無くなってしまった。
道を歩く家族も、買い物帰りの老夫婦も、公園で遊んでいた子供も、痴話喧嘩中のカップルも、思い詰めていた未成年も。
全員が全員、なす術もなく喰われ、千切られ、潰され、吸い取られ、死んで行く。
そんな彼らが新たな住人として、我ら人類を淘汰しようと侵略を始めたのが今から百年も前の出来事である。
当時から発展していると言っても過言ではない、重火器や兵器を使って侵攻を防いでいた。侵略してくる新生物も物量戦には答えたのか徐々に、着々と奪われた領土を取り返していったが…問題は直ぐに露呈した。物資の枯渇である。
鉛を火薬で飛ばす、消耗戦に最初に根を上げたのは我らが人類である。目に見えて増える消費と、日に日に増えていく新生物の侵略。
新生物の死骸を利用した新しい物質を用いた戦闘方法が確立されるのはそう時間が掛からなかった。
新生物との戦いの最中、突如として現れた「科学者」によって不思議な新生物の「生前」の能力を引き継いだ武器は製造される。姿は剣であったり、槍であったり、弓であったり。どこか中世を思わせるような骨董品のような品々に銃社会であったその時は否定的な意見が多かったが…結果は巡り巡る新生児の産声が証拠であろう。快進撃であった。
元は同じ卵から生まれた新生物である。
何の化学反応か、突然変異か。新生物で作った武器は銃火器で攻撃するより明らかに威力が違ったのだ。
今まで火炎放射器で焼き払っていた這い寄る系の新生物も、新生物で作られた武器ーー快進の一手(A good move)、AGMはまるで豆腐を切るように簡単に切断できてしまうのだ。
そんな背景があり、人類は新生物に反抗できる武器を手に入れ、失われた領土の奪還と、新生物の卵を壊す目的を持って、国際的な規模で戦闘員を育成する機関、「上等対新生物特殊化卿園」な育成機関が設立された。
そこに通う、未来を担う戦闘員は皆、新生物に因縁がある、野心に溢れた未来有望な復讐者たちの集まりである。
これは、人類が、新生物に対して、快進の一手を加え、堕とす物語である。
・・・・・・・・・・・・
ネグリは落ちこぼれである。
学力は平均並みにあるがそれ以上に求められる戦闘力が皆無と言って良いほど無いのだ。
本来は育成機関に入学する際には、持ち前の「身体能力」や「魔術適正」もしくは「戦略的発想」が求められるのだがネグリには一つも持っていなかった。では何故入学できたかと言うと、持ち前の新生物に対しての執念とも言える成果、「魔法学」への研究結果が認められた事である。
新生物とほぼ共存な状況である昨今、新生物と同じ空間で生まれ、育った人間は新生物の能力をカケラ受け継ぎ、特殊な身体能力が身につくのが研究結果として出ている。出ているが今のところ同じ空間で生活出来るほど安全な新生物は居らず、そんな境遇の人が居たら良いな、とそんな希望的観測である。
魔術適正は「身体能力」に似た話であり、新生物の能力をカケラ受け継ぎ、特殊な身体能力の代わりに「魔術」として新生物の血を触媒とした術式を発動できる適正である。適正であるが才能であるので後天的な例は一つとしていない。現在、確認出来るのは「灼熱の魔術師」「風化の魔術師」「静止の魔術師」の3者である。そのどれもが抜きん出て強力で、単騎で特殊能力を有する特出個体を討伐出来る程である。
ネグリの発表した「魔法学」は百年前の銃社会の前の社会。まだ個々の家族間でのコミュニティであった時代で発展した魔術とは違う、自然と調和するようにして発動できる魔法である。「魔術適正」と違うのは触媒がいるかどうか、である。
その点を知り、非力な人間でも役に立てるかも、と考えた先の研究結果の発表である。
結果は「発動自体は容易だが効果は微弱。将来性は見込めない」であった。
そんな非力なネグリであるが、現在は同時期に入学した同期にイジメられ流れるように運ばれた先は知らない森の中。と、そんな行き先がランダムな宅急便を体験し一人、寂しく立っているとそんな状況である。
・・・
何か僕したっけな…? と、過去の事を思い出すが…特質しておかしい事はしてない筈である。まあ、何かと言うより何もしてないからこんな結果になっていると思うんだけどね。と、一人自虐気味に笑うが現実はそんな面白いものではなかった。
あたりを見渡すにここは森の中で、そんな情報に後押しするように「未知の」と付属する。
「(流石に死ぬような大それた事をするとは思えないけど…)」
と、大方予想ができている人物を思い浮かべる。ーーが、十人を超えたあたりで考えるのを辞めた。あれ、僕人にめっちゃ嫌われてる?
実績も、功績も、実力もないのに所属している『エルフ耳』をしているネグリ。
…うん。結構嫌われる要素あるね。確かに何もしないのに育成機関に所属して、で成長している訳でもない穀潰しな僕だからね…しかもエルフ耳って分かりやすい差別しやすい特徴あるし。
身体的特徴である長い耳は「魔術適正」と同じような生まれが新生物の近くで能力のカケラを持って生まれてきた故のギフトであるが……生憎と僕は生まれてからこの耳で良い思いをした事はないし、ウサギみたいに聴力が異常に良いって訳でもない。ただ耳が長いだけ。髪色も深緑で「お前は抹茶かよ」と、しょっちゅう絡まれていた。…その子が抹茶が好きなんだね、って情報だけが今の所の良い思い出である。
そんな長い耳で、意味ありげにピクピクさせて音を聞いてみるが……木々の擦れる音しか聞こえない。つまるところ至って普通な森の中である。これが自分の意思で来たなら今すぐにピクニックでもして、長めの良い場所で優雅にサンドイッチでも頬張るんだけど…。
生憎、今はそんな悠長な事は言ってられないのだ。
取り敢えずその場にしゃがみ、地面を少し掘ってみる。
「(至って普通な黒土…わあ、ミミズがめっちゃいるんだけど…結構、栄養詰まっている土なんだ)」
腐葉土が目立つ地面である。
この森自体が新生物って線はなくなった。目に見える木々は擬態かもしれないけど、この豊かな地面は偽装できないからね。まあ、大型の特殊能力持ちだったら話は変わってくるけど…。
「その場合は完全に死が確定してるからね…」
近場の安全を確保し、心の中で留めておいた独り言が溢れてしまう。そんな僕の言葉は誰かに反応してもらえる事無く、豊かな自然に消えていった。このまま僕も自然に淘汰されちゃいそうだけど…。
立ち上がり、一度は逸らしてしまった異様な光景を視界に入れる。
そこには巨大な狼のような新生物の腹から生えるようにして出ている立派な剣と、それを強調するようにして木漏れ日がさしている。そんな、絵本の序盤で出したら良い感じの光景だよね、を表している景色を見て一言。
「…僕、学生辞めて絵描きになろかな」
写すだけでも結構絵になる光景である。既に良い感じの光景であるが…どうしても関わったら面倒そうだ、とそう思ってしまうので回れ右しそうになったが…、奥の方。具体的には腑をぶちまけている新生物の方で声が聞こえてくる。
『ぬぉおお~~い! 君君君!! こんな、あからさまに主人公的な展開なのにスルーしちゃって良いの?? まあ、スルーしても無理やり契約しちゃうけどね…ほら手を出して』
と、背後で言われ勝手に体が動く。
え、ちょ、拒否権は!? と、必死に抵抗も虚しく、異様な程に美しい女性が剣に移り変わって見える。怪しさが2割増になってしまった。
新生物に突き刺さる木漏れ日に照らされる剣、な時点で怪しさ満点であるのだ。そんな、変なものは拾ってはいけまん、と小さい時から言われている教えを遵守しようとした所の強制であった。
若干、心の隅で「主人公的な展開が!? これで僕にも魔術的才能が…」と思ってしまった事は事実である。
まあ、剣な時点で魔術適正は開花しないと思うけどね。
知識としてはある新生物を材料に武器を作る、AGMを想像し、現場から狼系の能力を宿した剣なんだろうな…と、妙に達観した心持ちで優しげな表情をしている聖女のような風貌の女性に近付く。手を伸ばせば触れる距離まできた。ぐっ、と手が前に動き、重ねられる。ああ、恋人繋ぎなんだ…と、繋ぎ方について色々妄想を捗らせていると困ったような声色で彼女は言った。
『…あれ? 契約できない…? 本で見た時はこんな感じでウニョウニョやってたけど…まあ、実際は違うのかな。…ねえ、しっかりと見開いていてね』
本で見聞きした事で実行しているの? 大丈夫、その信憑性? と思ったが実際は違うみたいである。本と現実は似て非なる物語だからね…。しんな安心感を覚えていたら今度は顔を近付けて…覗き見るような姿勢で眼球を凝視してくる。
男性女性問わず、詰め寄られる事はあったけどこんな好意的な…いや、あからさまに玩具を見るような視線は初めてですよ…と、思ってしまう。
どうやら心が妙に落ち着いて、取り乱さないのは彼女の能力か何かだったみたいである。まあ、普段からそこまで「あっは!!」みたいなテンションを露呈されるタイプじゃないけど、流石にこんなよく分からない続きの現状になったら叫びながら逃げるからね。んー? 取り乱してね?
と、心まで掌握されているこの現状。完全にハエトリグサとかウツボカズラが捕食する時の甘い蜜、みたいな感じで捕まった感が否めないナウ。しょうもない人生も今日で終焉を迎えるのか、ごめんね僕のために買われた書籍達…多分、僕がいなくなったら焼却処分だよ…と、心残りである数十冊の魔法書を思い出し、萎える。まあ、有用じゃないから実用的じゃないけど…思い出補正ってあるからね。情以外に掛ける思いはないけど。
彼女の独り言、行動を上の空で視界に収めながら一人で妄想の風呂敷を広げていると…強制的に畳まされた。
それと同時に彼女の強制力は失った。
「っん、と。えっと、その…貴方の事は口外しないので帰らせていただいても…」
恐る恐る聞いてみるが返答は
『却下よ』
想像通りのものであった。デスヨネー…。
視界の端に映る死骸の威圧感を感じ始め、冷や汗をかきながら「うーん、どうして?」と悩む彼女の操り人形となっていた。腕を組まれ、手を
恋人繋ぎにされ、視線を合わせられ、デコとデコを合わせられたりもした。初対面の言葉通り、契約をしようとしているみたいだが…四苦八苦している様子である。
そんな怪しげな二人な空間である。視界の端で動く物陰を発見した。少し顔を逸らし視線を送ると…そこからウサギが飛び出してきた。あら、可愛いじゃない。しっかりと手入れされた純白のその毛皮。夏場暑そうね、と警戒心無さげに(・・・・・・・)近づいて来るウサギに違和感を感じ…その違和感が正体を表した。
「危ないっ!!」
そう言って彼女を退かそうと力を入れるが…入れる前に彼女が僕の首根っこを掴んで、顔の面積が百倍以上に膨らんだ捕食攻撃をバックステップで避ける。先程までいた場所を地面ごと捕食した異様なウサギにも驚いたし、僕の忠告よりも早い段階で逃げた彼女にも驚いたし……何より、さっきまで可愛かったウサギは何処へ。皮を破るようにして体が、内側から入れ替わる。
純白の肌を塗り替えるように鮮血が舞い、脱皮するようにして自身の皮を裂き、徐々に何十倍にも堆積が膨張する。すぐにウサギからウサギだっただろう、皮を剥がれた異様に牙が並ぶ大ウサギに変貌した。脱兎のうさぎである。
キョロキョロ、と焦点が定まっていない大きな瞳を動かしながら、目の前に広がる狼型の死体に齧り付く。車二台分くらい大きな死体が徐々に無くなっていく、食いっぷりを眺めていると縮んだ(・・・)彼女が声を上げる。
『どうして…まあ、良いわ! 私を掴んで名前を叫びなさい! それでこの私ーーとの契約が完了するわ!!』
「私を掴んでって…あ、この剣の事か」
どうして私が剣になるのか、貴女は剣の精霊? とか色々気になる次第であるが問題は目の前で起こっているのだ。そんな昨日食べたご飯を思い出すような無駄な行為を挟むと僕が思い出される側になってしまう。
未だに食事中の大ウサギを置いて、そばに突き刺さっている剣を抜き、切先を向ける。声高々に!!
「僕の名前はネグリ!! 殺生は出来ればしたくないけど生き残るためだから…ごめん、天誅!!」
『天誅って…まあ、でもよろしくね。冴えなく、実力もない、恵まれない、無いが有る貴方にとっての最大の奇跡「付与の魔剣」が貴方を最高へと導くわ』
「…え?」
結構初対面でもグイグイいくんですね。
剣を握り、名前を言ったから契約が完了したのか彼女の姿がなくなり、その事によって剣に光が灯る。
確かに冴えないし、実力もないし、恵まれ…は知らないけど、無いが有る僕だけど…ほら、人間誰だって一つくらいは誇れる部分があるっていうじゃん。…あ、僕の場合は「付与の魔剣」を持ってるって点? 辛いね…。
光が灯り、明確に敵対者だと認識した食事後の休憩中だった大ウサギがイった目をグルングルンと向けながら口を大きく開け、ヤツメウナギのような口内を見せびらかしながら向かってくる。
「ど、どうすれば良い!? と、取り敢えず移動手段は…あ、奪えたけど」
『…適応能力が高すぎるわね、貴方。まあ、でも良い所だわ! 変に話を聞いてきたりして焦らないし…』
「あ、どうも」
多分いけるかな? と、そう思って向かってくる大ウサギを右にズレる事で回避し、今までの何十倍も軽くなった体で巨大な体を支える4つの足の腱を切断する。良かった、魔法学を勉強しておいて…。その時の『身体能力強化魔法』は胸が熱くなる、程度の効果だったけど人体や、他種族の構造を理解する事ができたのだ。何故身体能力強化なのに他種族の構造を理解しなきゃいけないのかは未だに疑問だけど…。
恐らく敵を知るには己から、の逆バージョンだろう。どちらにせよ役になったので問題なしである。
彼女から『そのまま自由行動』と言う名の放任されたので体勢が崩れた大ウサギを仕留めに行こうと近付き…寸前でプロボクサーのような素早いパンチーー下攻撃ーーを回避する。
「確か心臓を狙えば一発……え、狙えなくない?」
四苦八苦しながらトドメを刺す。肉厚すぎて黒ひげ、みたいになってしまったが…まあ、大ウサギの筋繊維丸出しの素材なんて誰が使うの? って話である。食べたら美味しそうだよね、としか感想が出てこないので用途は食用だろう。であれば当たりを見つける為の突き刺し行為は肉を柔らかくする為、とそう言い換える事が出来る。やったね! 今日はウサギ肉だよ!!
「…新生物って食べれるっけ」
『…え?』
結構リアルな声色で困惑されました。
戦闘後は剣ではなく、精霊のような小人のような姿になるようで手のひらサイズになった彼女に小馬鹿にされながら一応の経緯の説明をしてもらう事になりました。
ちなみに新生物、なので見た目はウサギでもウサギじゃないので食べられないそうです。
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2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
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そして、カクヨムでもランクイン中です!
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スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
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小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
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ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
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かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
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※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
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これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
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