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第14話
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~数日後…
ジュリの行動は世間には大きな騒ぎとなる事も無く、時間が過ぎて行った。その時期に世間を大いに賑わせている事と言えば…アンドロイドの初の出馬表明であった。
ミマツ・カンパニーが製作して、利用者に提供したアンドロイドが政治に関心を抱き、人類で初の『疑似人間』の出馬表明に世間の目が注目を浴びていた。
「ケ…何がアンドロイド政治家だ!」
ガラススクリーンのテレビに向かって軽く蹴りを入れる男性があった。
小さなオフィスビルの一角『文明時代』と言う週間雑誌を販売している会社、小さなオフィスルームの中、休憩室に閉じこもって居る2人の男性は、数人が使える長テーブルを部屋の真ん中に置き、パイプ椅子に座って、面白く無さそうにテレビを見ている、アゴに無精ヒゲを生やしてる50代前半の男性の姿があった。
「アンドロイドの政治家が出て来ると、いよいよ人間の立場が狭められますね…ムラタさん」
そう呟くのは、ムラタの向かい側に座り、電子ペーパーに文字を書き込んでいる20代位の男性だった。
「アンドロイドは、人間の為の使用人で充分だよ。変に高性能化させるから、色んな物が出て来て、結局そのせいで働け無い人間が増えて行くのだよ、シライシ君」
2人がテレビを見ていると、ドアを開けて室内に入って来る年配の男性の姿があった。
「やあ…ムラタ君元気そうだね」
「あ…どうも編集長、こんにちは」
和かな表情で現れた編集長はムラタの近くへと来ると、彼の肩を掴んで話す。
「ところで君、締め切りが迫っているけど…原稿は出来上がっているのかね?」
「もう少しお待ちください。今ネタになる話を探していますので…」
「だったら、ここにいないで早く探して来いー!」
大声で怒鳴り付けて、ムラタを追い出す。怒鳴った勢いでシライシもオフィスルームから飛び出して来た。
近くのコンビニでコーヒーを買った2人は店を出て、外でコーヒーを飲んでいた。
「それにしても記事になる様な話なんて、そう上手く見付けられないですよね?」
「イヤ…以外にそうでもないぞ」
ムラタはWBCの画面を拡張して、チャットの書き込みを見ている。
「中々面白そうな情報があるぞ…」
「え…何処ですか?」
「この近く周辺だ、行って見よう」
ムラタはロボタクシーを呼び止めた。2人はロボタクシーへと乗る。完全自動運転のロボタクシーはモニターに目的地を言うと自動で車が走って行く。支払いは電子マネーで済ませる形だった。
数キロ移動した場所の繁華街、ビジネス関連のオフィスビルが立ち並ぶ場所に来た2人は、一本…道を入った場所へと向かった。
「ここに何があるのですか?」
表の賑やかさから外れた場所は、人通りはあるものの…穏やかな雰囲気が立ち寄る場所でもあった。
「あった、あれだ!」
ムラタは何かを見付けて指す。
シライシも、それに釣られてムラタが見付けた場所を見ると、駐車場があるコンクリートの壁に大きく開いた穴があった。
「何ですか…あの大きな穴は?」
ムラタはアナログ式のポラロイドカメラで撮影する。
「新聞等では記事にもならなかったが…チャットの書き込みでは、突然誰かが大きな固まりをぶつけた様な音が聞こえた…と伝えている」
「まさか…鉄球でも投げ付けたのですか?」
「そうでは無いが…それに近い物ではあるな…。次へ行くぞ」
2人は、そこから少し歩いた歩道橋へと歩く。
ムラタは、その周辺をポラロイドカメラで撮影した。
「ここは…何ですか?」
「数日前に、この付近に人間並とは思え無い飛脚力のある少女が現れたらしい…、それを目撃しWBCのカメラに収めた人も数多くいた、ネットにも数多く投稿され拡散もしたが…何故か数十分の間に撮影された画像は少女からネコに変わっていたのだよ」
その画像をムラタはシライシに見せる。
「本当だ橋の柵の上にネコがいる」
「投稿者達は皆、自分はネコで無く少女を撮影した…と言っている」
「不思議ですね…」
「俺は、この一連の出来事は、ある1つの出来事に関連していると睨んでいるのだ…」
「それは何ですか?」
「ここだよ」
ムラタはWBCの画面を拡張して見せた画面にはタナカ・コーポレーションの建物が映っていた。
「それって、つまりアンドロイドって言う事?」
「そうだ」
嬉しそうにムラタは答えた。しかし、彼の足取りはタナカ・コーポレーションでは無く、そこから見えるマンション住宅へと向かった。
「タナカ・コーポレーションへは行かないのですか?」
「まずは情報収集だ」
彼はマンション住宅の側にある、子供達を公園で遊ばせる婦人達の近くへと足を向ける。
午前の陽射しの中、数名の婦人達が公園のベンチで話をしている中に彼は飛び込んで行った。
「スミマセン、ちょっと一服しても良いでしょうか?」
「どうぞ…」
そう言われてムラタはベンチに腰を下ろして煙草に火を付け、携帯灰皿を取り出した。
「お宅はどちら様ですか?」
「あ…自己紹介が遅れました。自分は『文明時代』の出版に関わる者です」
そう言ってムラタはWBCから自己紹介のホログラム画像を浮かび上がらせる。
「ちなみに、あちらに居る方も同じです」
自分の後方で待機している人物を指してムラタは言う。
ベンチにいる数名の婦人達は、一応納得してくれた。それを見たムラタは、女性達に何気無く声を掛ける。
「最近…住んで居て、特に変わった事などは無いですか?」
「無いわよね…」
婦人達は首を傾げて答える。
その中の1人が「そう言えば…」と、立て続けに話し出す。
「例のオダさんの彼女に今日会いましたよ」
「え…本当に!」
彼女の言葉で周囲がザワ付いた。
「凄いですよ彼女、一目見ただけで相手の健康状態を見抜くのですから」
「私も、子供の口の中を見ただけで、健康状態を言い当てられたわ」
「医学の知識もあるのかしら…あの人?」
「誰ですか、そのオダさんと言う人物は?」
「こちらのマンションに住むオダ・シンと言う人物の恋人です。彼はオタクっぽくて、周りから一生独身だと思われたのですが…最近彼に恋人が出来たのです。その恋人さんが美人で、とても知的で気品のある方なんです」
「モデル並みに綺麗で、それでいて一途なんだから…相手のオダさん羨ましい限りよね」
「頭も良くて、最近は勉強を教えて貰う子供達も多いわ、ある意味…マンションの人気者だわ」
ムラタは、サラサラとメモ書きする。
「それはアンドロイドでは無いですか?」
「普通の女性ですよね…あの人…」
「アンドロイドと言う感じには、思えないですね」
「なるほど…分かりました。色々とありがとうございました」
ムラタは一礼して、その場を去って行く。
シライシが側に来てムラタに話し掛ける。
「どうでしたか?」
「面白い情報が得られたよ」
ムラタは満面の笑みを浮かべて言う。
「さて…次は目的地へと向かおう」
2人はロボカーでタナカ・コーポレーションがある本社へと向かった。
創立僅か10年と言う短期間の間にタナカ・コーポレーションは小さな町工場から巨大な工場へと飛躍した。
現在では日本企業の屋台骨の一角を支える有名メーカーへと成長し、全国に1万人もの従業員を抱える巨大な生産業でもあった。
タナカ・コーポレーションの建物に入ると2人は、記者と言う事で事務所内に入れた。
外交関係者とのオファーが取れて彼等は、待合室へと案内される。
待合室で2人が待っている間、若く綺麗な女性が2人にお茶を入れて持って来た。
「代表の方が来ますので、もうしばらくお待ちください」
と、女性は一礼して立ち去って行く。
「綺麗な人だ…」
シライシは、見惚れて女性が立ち去ったドアの方を見ていた。
「『疑似人間』なんかに見惚れるな」
ムラタはシライシに一喝入れた。
「え…今のアンドロイドなの?」
「そうだ…」
「でも…見た目普通の人でしたよ」
「アンドロイドは、ほぼ全て無表情だ。人間とほぼ変わらないように出来ても…人間の様な感情までは作れないのがアンドロイドだ。所詮、作り物は作り物でしか無いのだ…」
「じゃあ…感情が表現出来たらどうするの?」
「それは、もう…一種の生体とも言えるだろう…だが、俺が知る限り、そんなアンドロイドは未だ見た事が無いね」
2人が話しをしているとドアが開き中に背丈のある男性が入って来た。
メガネを掛けて、やや茶色に染まった髪をした40代くらいの男性は軽く笑みを浮かべて、2人の前の椅子に腰を下ろす。
「初めまして、自分は本社工場の責任者を務めます。キクチ・カズヤと申します」
「どうも…私は『文明時代』の記者をしてますムラタ・ヨシヒコと言います」
ムラタは、キクチと言う男性に一礼してから話を始める。
「本日、御社に来たのは数日前…深夜、そちらの会社の輸送トラックが転落した事に関して詳しく説明を、お聞きしたいのですが…」
「その件に関しては、一般報道した様に、物資は全て回収されまして、全て終わりましたので、こちらから申し上げる事はありません」
「ちなみに、どの様な物を乗せて居たのでしょうか?」
「本来ならば、当社の新製品となる物でしたが…残念ながら、今回の一連の出来事で、全て水の泡となり、現在は新たな製品開発に取り組んで居ます」
キクチのスキの無い発言に、ムラタは少々焦り気味となった。少しでもボロが出れば…と考えていたが…ムラタから話す言葉が見つからなかった。
それを見ていたシライシがキクチに話し掛ける。
「あ…スミマセン、自分も記者を務めるシライシ・カズオと、申します」
「はじめましてシライシ君」
「あ…ハイ、どうも…」
軽く一礼してからシライシは話を始める。
「実は…数日前にある駐車場で、何物かが壁に大きな穴を開けたのですが…、とても人間技とは思えません。アンドロイドがしたのでは無いか…と考えられますが…」
シライシはポラロイドで撮影した写真を見せて言う。
「なるほど…確かに人間技では、あり得ない破壊ですね…しかし、これとアンドロイドとの関連性が理解出来ませんね、一般販売されているアンドロイドは、人間の数倍の威力はあります。しかし…彼等には機能を制御させるリミッターが掛けられて居ます。非常事態で無い限り、リミッターが解除される事はありません。それに当社の製品が何らかの形でリミッター解除された場合は記録が残ります。残念ながら、貴方が申し上げる数日の間にリミッター解除された記録は当社には無いです。もし…疑問に感じる様であれば、名簿を作って差し上げますが…」
そこまで言われるとシライシからも、打つ手が無くなる。
「宜しければ、これで御開きさせて頂きますが…」
そう言ってキクチが席を立とうとした時ムラタが最後に一言声を掛ける。
「あの…最後に1つ聞きたいのですが…オダ・シンって言う方、ご存知ですか?」
その言葉にそれまで仮面の様に平常心を保っていたキクチがピクッと表情を動かした。
「当社は常にお客様達のプライベートに関する個人情報は、一般には公開しませんので、お答え致しません」
「そうですか…実は、最近…彼が恋人が出来たと聞いたのですが、情報の内容から私にはアンドロイドでは無いかと思っていたのです。それでちょっと聞いて見たのです」
「そうでしたか、実に興味深い話ですね…もし、他に何か面白い情報があったら聞かせて頂きたいですね。今日はこれで失礼させて頂きます」
キクチが退席すると2人も、退出される事となり、そのまま工場の敷地へと出る事になった。
2人の記者達の行動を室内から眺めていた人物がいた。
「ヤレヤレ…追い出す事には成功した様だなキクチ君は…」
そう言って、ノックして「失礼します」と、言って会長室に入って来たのはキクチとミヤギだった。
「会長…マスコミは、大分嗅ぎつけていますね…」
記者達と相手をしたキクチが言う。
「放っておけば、そのうち他へ興味を持って行くであろう」
会長は椅子に座って言う。
「ミマツ・カンパニーのアンドロイドの出馬表明で、多少風向きが変わると思っていたが、意外に動きがある様でしたね」
ミヤギが言う。
「ミヤギ君、直接オダ・シンと接触して、彼からアリサを引き離す方法は無いのかね?」
「我々が動けば、アリサは必ず先手を打って来ます。既に我が社は、その被害に会って居るでは無いですか?捜索中止も、その理由の一つでしょう…」
全員はしばらく沈黙をした。
「我が社のアンドロイドを使って、アリサとオダ・シンを引き離す事は出来ないだろうか?」
キクチが渋った表情で言う。
「まず無理だと思います。例え高性能なアンドロイド数体派遣しても、彼女に近付けば簡単にOSを書き換えられます。実際私自身それを目の当たりにしました」
ミヤギは少し恥ずかしそうに言う。
「では…ミヤギ君は、我々はこのまま指を咥えて彼等のやり方を見ていろ…と、言いたいのかね?」
「そうは申し上げませんが、彼女の行動を防ぐ方法として…どうしてもある決断が必要です」
「それは一体…?」
2人の視線がミヤギに注がれる中、少し沈黙してミヤギが発言する。
「私が、この会社を辞職する事です」
ジュリの行動は世間には大きな騒ぎとなる事も無く、時間が過ぎて行った。その時期に世間を大いに賑わせている事と言えば…アンドロイドの初の出馬表明であった。
ミマツ・カンパニーが製作して、利用者に提供したアンドロイドが政治に関心を抱き、人類で初の『疑似人間』の出馬表明に世間の目が注目を浴びていた。
「ケ…何がアンドロイド政治家だ!」
ガラススクリーンのテレビに向かって軽く蹴りを入れる男性があった。
小さなオフィスビルの一角『文明時代』と言う週間雑誌を販売している会社、小さなオフィスルームの中、休憩室に閉じこもって居る2人の男性は、数人が使える長テーブルを部屋の真ん中に置き、パイプ椅子に座って、面白く無さそうにテレビを見ている、アゴに無精ヒゲを生やしてる50代前半の男性の姿があった。
「アンドロイドの政治家が出て来ると、いよいよ人間の立場が狭められますね…ムラタさん」
そう呟くのは、ムラタの向かい側に座り、電子ペーパーに文字を書き込んでいる20代位の男性だった。
「アンドロイドは、人間の為の使用人で充分だよ。変に高性能化させるから、色んな物が出て来て、結局そのせいで働け無い人間が増えて行くのだよ、シライシ君」
2人がテレビを見ていると、ドアを開けて室内に入って来る年配の男性の姿があった。
「やあ…ムラタ君元気そうだね」
「あ…どうも編集長、こんにちは」
和かな表情で現れた編集長はムラタの近くへと来ると、彼の肩を掴んで話す。
「ところで君、締め切りが迫っているけど…原稿は出来上がっているのかね?」
「もう少しお待ちください。今ネタになる話を探していますので…」
「だったら、ここにいないで早く探して来いー!」
大声で怒鳴り付けて、ムラタを追い出す。怒鳴った勢いでシライシもオフィスルームから飛び出して来た。
近くのコンビニでコーヒーを買った2人は店を出て、外でコーヒーを飲んでいた。
「それにしても記事になる様な話なんて、そう上手く見付けられないですよね?」
「イヤ…以外にそうでもないぞ」
ムラタはWBCの画面を拡張して、チャットの書き込みを見ている。
「中々面白そうな情報があるぞ…」
「え…何処ですか?」
「この近く周辺だ、行って見よう」
ムラタはロボタクシーを呼び止めた。2人はロボタクシーへと乗る。完全自動運転のロボタクシーはモニターに目的地を言うと自動で車が走って行く。支払いは電子マネーで済ませる形だった。
数キロ移動した場所の繁華街、ビジネス関連のオフィスビルが立ち並ぶ場所に来た2人は、一本…道を入った場所へと向かった。
「ここに何があるのですか?」
表の賑やかさから外れた場所は、人通りはあるものの…穏やかな雰囲気が立ち寄る場所でもあった。
「あった、あれだ!」
ムラタは何かを見付けて指す。
シライシも、それに釣られてムラタが見付けた場所を見ると、駐車場があるコンクリートの壁に大きく開いた穴があった。
「何ですか…あの大きな穴は?」
ムラタはアナログ式のポラロイドカメラで撮影する。
「新聞等では記事にもならなかったが…チャットの書き込みでは、突然誰かが大きな固まりをぶつけた様な音が聞こえた…と伝えている」
「まさか…鉄球でも投げ付けたのですか?」
「そうでは無いが…それに近い物ではあるな…。次へ行くぞ」
2人は、そこから少し歩いた歩道橋へと歩く。
ムラタは、その周辺をポラロイドカメラで撮影した。
「ここは…何ですか?」
「数日前に、この付近に人間並とは思え無い飛脚力のある少女が現れたらしい…、それを目撃しWBCのカメラに収めた人も数多くいた、ネットにも数多く投稿され拡散もしたが…何故か数十分の間に撮影された画像は少女からネコに変わっていたのだよ」
その画像をムラタはシライシに見せる。
「本当だ橋の柵の上にネコがいる」
「投稿者達は皆、自分はネコで無く少女を撮影した…と言っている」
「不思議ですね…」
「俺は、この一連の出来事は、ある1つの出来事に関連していると睨んでいるのだ…」
「それは何ですか?」
「ここだよ」
ムラタはWBCの画面を拡張して見せた画面にはタナカ・コーポレーションの建物が映っていた。
「それって、つまりアンドロイドって言う事?」
「そうだ」
嬉しそうにムラタは答えた。しかし、彼の足取りはタナカ・コーポレーションでは無く、そこから見えるマンション住宅へと向かった。
「タナカ・コーポレーションへは行かないのですか?」
「まずは情報収集だ」
彼はマンション住宅の側にある、子供達を公園で遊ばせる婦人達の近くへと足を向ける。
午前の陽射しの中、数名の婦人達が公園のベンチで話をしている中に彼は飛び込んで行った。
「スミマセン、ちょっと一服しても良いでしょうか?」
「どうぞ…」
そう言われてムラタはベンチに腰を下ろして煙草に火を付け、携帯灰皿を取り出した。
「お宅はどちら様ですか?」
「あ…自己紹介が遅れました。自分は『文明時代』の出版に関わる者です」
そう言ってムラタはWBCから自己紹介のホログラム画像を浮かび上がらせる。
「ちなみに、あちらに居る方も同じです」
自分の後方で待機している人物を指してムラタは言う。
ベンチにいる数名の婦人達は、一応納得してくれた。それを見たムラタは、女性達に何気無く声を掛ける。
「最近…住んで居て、特に変わった事などは無いですか?」
「無いわよね…」
婦人達は首を傾げて答える。
その中の1人が「そう言えば…」と、立て続けに話し出す。
「例のオダさんの彼女に今日会いましたよ」
「え…本当に!」
彼女の言葉で周囲がザワ付いた。
「凄いですよ彼女、一目見ただけで相手の健康状態を見抜くのですから」
「私も、子供の口の中を見ただけで、健康状態を言い当てられたわ」
「医学の知識もあるのかしら…あの人?」
「誰ですか、そのオダさんと言う人物は?」
「こちらのマンションに住むオダ・シンと言う人物の恋人です。彼はオタクっぽくて、周りから一生独身だと思われたのですが…最近彼に恋人が出来たのです。その恋人さんが美人で、とても知的で気品のある方なんです」
「モデル並みに綺麗で、それでいて一途なんだから…相手のオダさん羨ましい限りよね」
「頭も良くて、最近は勉強を教えて貰う子供達も多いわ、ある意味…マンションの人気者だわ」
ムラタは、サラサラとメモ書きする。
「それはアンドロイドでは無いですか?」
「普通の女性ですよね…あの人…」
「アンドロイドと言う感じには、思えないですね」
「なるほど…分かりました。色々とありがとうございました」
ムラタは一礼して、その場を去って行く。
シライシが側に来てムラタに話し掛ける。
「どうでしたか?」
「面白い情報が得られたよ」
ムラタは満面の笑みを浮かべて言う。
「さて…次は目的地へと向かおう」
2人はロボカーでタナカ・コーポレーションがある本社へと向かった。
創立僅か10年と言う短期間の間にタナカ・コーポレーションは小さな町工場から巨大な工場へと飛躍した。
現在では日本企業の屋台骨の一角を支える有名メーカーへと成長し、全国に1万人もの従業員を抱える巨大な生産業でもあった。
タナカ・コーポレーションの建物に入ると2人は、記者と言う事で事務所内に入れた。
外交関係者とのオファーが取れて彼等は、待合室へと案内される。
待合室で2人が待っている間、若く綺麗な女性が2人にお茶を入れて持って来た。
「代表の方が来ますので、もうしばらくお待ちください」
と、女性は一礼して立ち去って行く。
「綺麗な人だ…」
シライシは、見惚れて女性が立ち去ったドアの方を見ていた。
「『疑似人間』なんかに見惚れるな」
ムラタはシライシに一喝入れた。
「え…今のアンドロイドなの?」
「そうだ…」
「でも…見た目普通の人でしたよ」
「アンドロイドは、ほぼ全て無表情だ。人間とほぼ変わらないように出来ても…人間の様な感情までは作れないのがアンドロイドだ。所詮、作り物は作り物でしか無いのだ…」
「じゃあ…感情が表現出来たらどうするの?」
「それは、もう…一種の生体とも言えるだろう…だが、俺が知る限り、そんなアンドロイドは未だ見た事が無いね」
2人が話しをしているとドアが開き中に背丈のある男性が入って来た。
メガネを掛けて、やや茶色に染まった髪をした40代くらいの男性は軽く笑みを浮かべて、2人の前の椅子に腰を下ろす。
「初めまして、自分は本社工場の責任者を務めます。キクチ・カズヤと申します」
「どうも…私は『文明時代』の記者をしてますムラタ・ヨシヒコと言います」
ムラタは、キクチと言う男性に一礼してから話を始める。
「本日、御社に来たのは数日前…深夜、そちらの会社の輸送トラックが転落した事に関して詳しく説明を、お聞きしたいのですが…」
「その件に関しては、一般報道した様に、物資は全て回収されまして、全て終わりましたので、こちらから申し上げる事はありません」
「ちなみに、どの様な物を乗せて居たのでしょうか?」
「本来ならば、当社の新製品となる物でしたが…残念ながら、今回の一連の出来事で、全て水の泡となり、現在は新たな製品開発に取り組んで居ます」
キクチのスキの無い発言に、ムラタは少々焦り気味となった。少しでもボロが出れば…と考えていたが…ムラタから話す言葉が見つからなかった。
それを見ていたシライシがキクチに話し掛ける。
「あ…スミマセン、自分も記者を務めるシライシ・カズオと、申します」
「はじめましてシライシ君」
「あ…ハイ、どうも…」
軽く一礼してからシライシは話を始める。
「実は…数日前にある駐車場で、何物かが壁に大きな穴を開けたのですが…、とても人間技とは思えません。アンドロイドがしたのでは無いか…と考えられますが…」
シライシはポラロイドで撮影した写真を見せて言う。
「なるほど…確かに人間技では、あり得ない破壊ですね…しかし、これとアンドロイドとの関連性が理解出来ませんね、一般販売されているアンドロイドは、人間の数倍の威力はあります。しかし…彼等には機能を制御させるリミッターが掛けられて居ます。非常事態で無い限り、リミッターが解除される事はありません。それに当社の製品が何らかの形でリミッター解除された場合は記録が残ります。残念ながら、貴方が申し上げる数日の間にリミッター解除された記録は当社には無いです。もし…疑問に感じる様であれば、名簿を作って差し上げますが…」
そこまで言われるとシライシからも、打つ手が無くなる。
「宜しければ、これで御開きさせて頂きますが…」
そう言ってキクチが席を立とうとした時ムラタが最後に一言声を掛ける。
「あの…最後に1つ聞きたいのですが…オダ・シンって言う方、ご存知ですか?」
その言葉にそれまで仮面の様に平常心を保っていたキクチがピクッと表情を動かした。
「当社は常にお客様達のプライベートに関する個人情報は、一般には公開しませんので、お答え致しません」
「そうですか…実は、最近…彼が恋人が出来たと聞いたのですが、情報の内容から私にはアンドロイドでは無いかと思っていたのです。それでちょっと聞いて見たのです」
「そうでしたか、実に興味深い話ですね…もし、他に何か面白い情報があったら聞かせて頂きたいですね。今日はこれで失礼させて頂きます」
キクチが退席すると2人も、退出される事となり、そのまま工場の敷地へと出る事になった。
2人の記者達の行動を室内から眺めていた人物がいた。
「ヤレヤレ…追い出す事には成功した様だなキクチ君は…」
そう言って、ノックして「失礼します」と、言って会長室に入って来たのはキクチとミヤギだった。
「会長…マスコミは、大分嗅ぎつけていますね…」
記者達と相手をしたキクチが言う。
「放っておけば、そのうち他へ興味を持って行くであろう」
会長は椅子に座って言う。
「ミマツ・カンパニーのアンドロイドの出馬表明で、多少風向きが変わると思っていたが、意外に動きがある様でしたね」
ミヤギが言う。
「ミヤギ君、直接オダ・シンと接触して、彼からアリサを引き離す方法は無いのかね?」
「我々が動けば、アリサは必ず先手を打って来ます。既に我が社は、その被害に会って居るでは無いですか?捜索中止も、その理由の一つでしょう…」
全員はしばらく沈黙をした。
「我が社のアンドロイドを使って、アリサとオダ・シンを引き離す事は出来ないだろうか?」
キクチが渋った表情で言う。
「まず無理だと思います。例え高性能なアンドロイド数体派遣しても、彼女に近付けば簡単にOSを書き換えられます。実際私自身それを目の当たりにしました」
ミヤギは少し恥ずかしそうに言う。
「では…ミヤギ君は、我々はこのまま指を咥えて彼等のやり方を見ていろ…と、言いたいのかね?」
「そうは申し上げませんが、彼女の行動を防ぐ方法として…どうしてもある決断が必要です」
「それは一体…?」
2人の視線がミヤギに注がれる中、少し沈黙してミヤギが発言する。
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プロモーション用の動画を作成しました。
オリジナルの画像をオリジナルの音楽で紹介しています。
https://www.youtube.com/watch?v=G_FW_nUXZiQ
歴史改変戦記 「信長、中国を攻めるってよ」
高木一優
SF
タイムマシンによる時間航行が実現した近未来、大国の首脳陣は自国に都合の良い歴史を作り出すことに熱中し始めた。歴史学者である私の書いた論文は韓国や中国で叩かれ、反日デモが起る。豊臣秀吉が大陸に侵攻し中華帝国を制圧するという内容だ。学会を追われた私に中国の女性エージェントが接触し、中国政府が私の論文を題材として歴史介入を行うことを告げた。中国共産党は織田信長に中国の侵略を命じた。信長は朝鮮半島を蹂躙し中国本土に攻め入る。それは中華文明を西洋文明に対抗させるための戦略であった。
もうひとつの歴史を作り出すという思考実験を通じて、日本とは、中国とは、アジアとは何かを考えるポリティカルSF歴史コメディー。
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