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密告④

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どうすればいい…。

このままでは駄目だ、何とかこの悲惨な状況から抜け出さなければこの教会の信者と聖職者の多くがずっと苦しめ続けるだろう。

しかし、アリエント教の聖書や礼拝等をまだ全部を暗記してはおらず、従者の一人でしかない私には到底無理だと感じてもいた。

教会の内部に関わる重要な仕事をしていたわけではなかったからだ。

『私に持っと要領の良さと賢さがあれば…』

この教会に拾われるまで何一つとして学問に関わることのなかった自身を痛く後悔してしまう。

憂鬱な日々が続く、もう早く終わって欲しいと願う程の。

この悲惨な日々を送っていた私にスウェン司教は毎日のように慰めてくれていた。

彼は、私と違って要領が良く気さくな性格で覚えの早かった為、クルルギ大司教から教会の財務状況や相談相手を務めることが増えている。

まだ若いにも関わらず。

けれど、彼は私に対して分け隔てることもなく、優しく接してくれている。

しかし、今日の彼は様子が可笑しい…いや、ここ最近といっていいだろうか。

だか、他の司教やシスターの前ではにこやかに接しているがどこか、顔色が悪く、落ち込みやすくなった。

クルルギ大司教が豹変してからは…。

それでも、私は彼を追求することが出来なかった。

気さくで優しく彼ではあるけれど、今の状況で彼の様子を聞いてしまうのは彼を傷つけてしまうのではないか?

彼の仕事のことを詳しく知りたいと問い詰めでもしたら、流石の彼も激昂して私とこれまでのように接してくれなくなるのではないか?

彼が離れていくことをマルクスは恐れていた。

しかし、目の前の彼は今までとは様子が違って見えた。

「どうしましたかスウェン様、いつもと様子が違いますが…何か考えことでもあるのですか??」

神妙な様子を見せる彼に私は問いかける。

「ええ、殆どの司教やシスターには言えない重大なことをあなたに伝えていいものかと悩んでいたんですよ、マルクス。何せクルルギ大司教様にも秘密にしているからね。」 

「な、何をいっているのですか?スウェン様。クルルギ様はあなたの直属の上司ではありませんか。その上司であるクルルギ様にも秘密にしていることを何故私に…」

「すまない、マルクス。それでも私はクルルギ様には今回のことはどうしても言えないし、彼には言ってはならない秘密だからね、彼らにとってはね。」

いつものように爽やかな口調と表情を見せるスウェンではあるが、恐ろしくぎらついた瞳を見せている。

「彼らに言うつもりは決してないよ、私達が神に祈り、すがって待つばかりではこの現実が変わることはなく、我が神を悲しませるだけであると、クルルギ様には秘密裏に行われた今回の協議で実はカエサル教皇と公爵家の弟君であるラファル様とその部下が数名お越しになられていたんですよ。」

「えっ!!カエサル教皇とラファル様が何故この教会に!!スウェン様は事前に準備をしていたのですか!?」

私は驚くが彼も同じだったようだ。

「ああ、私も驚いたさ、何故カエサル教皇が事前に大司教に黙ってこの教会にお越しになったのか。しかも貴族とその部下と一緒にと…恐る恐る緊張しながらも教皇本人に疑問を口にしてしまったが…教皇は信頼していた筈の元部下であるクルルギ様に疑いを持っていたからと…」

「だがしかし、カエサル教皇はクルルギ様がお変わりになられる前に、中央都市で王家の近くにある教会へと異動なされているし、クルルギ様も自身が不利なるようなことなど決して口にすることなどしないのだが。」

口に出すどころか、この現状を知りうる書類等は一切処分をしているか、この教会の秘密部屋の金庫にて厳重に保管がされているから彼が教皇になるまでずっと信頼していたクルルギを疑うことなどしないとマルクスは諦めていたというのに…。

疑問を抱いてしまうマルクスにスウェンは重い口を開く。

「それが出来たみたいなんだよ、勿論カエサル教皇ではなく、カエサル教皇のすぐ隣の貴族・ラファル様とその部下によって。」

「えっ…どういうことだ、何が出来たんだ!」

マルクスは驚くが、スウェンはただ冷静に話しを続ける。

「実は、この教会にはラファル様から多くの部下や衛兵が司教やシスター、信者としてクルルギ様に気付かれないようにそれぞれに分散させて教会内部の情報収集をして教皇に報告をしていたのだそうだ。」

スウェンの言葉にそれ程驚くこともなく、疑問に思うことも少ない。

本当にそうなのか?と初めは少し疑問に感じていても、少し考えて見れば納得はしてしまう。

マルクスにとってクルルギは用心深さや疑り深さが強い性格だと、彼が変わった当初はそう思っていた。

何せ彼は権威や利益が絡むと途端に盲目となる癖があることに最近になって気付き始めた。

真面目さや正義感、優しい性格故に彼に真正面に意見を述べたり、少しでも意見を述べる者達には徹底的に容赦のなく監視し、潰しにかかるがその逆はどうだろうか…??

と彼は考えて分かってしまった。

    
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