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夫の裏切り

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夢であって欲しい…とガクリと座り込んでしまったリリアン。

目元にはうっすらと涙を溜め込み、湧き上がる悲しさと怒りを堪えながら重い足取りでウェルヘムの近くに急いで駆け寄った。

口元をフルフルと噛み締めながら勇気をふり絞って大声をだした。

「私を騙していたのねウェルヘム⁉あなたはどうしても用事があるからとパーティーを抜け出してた上に私に嘘までついて他の女性と口づけを交わすなんて言語道断ですわ!!今まであなたの事を信じていたのに…なんでこんな事を…ジゼル伯爵があなたを疑うなんて当然じゃない、妻である私に嘘をついてまで…許せる事ではありませんわ‼?」

リリアンは今まで一番の怒りをウェルヘムにぶつけた上で隣にいるスカーレットにも彼と同様の険しい表情を見せる。

「スカーレット様、あなたは人様の夫と口づけを交わすなんてどういう神経をしていらっしゃるの。噂ではご友人や周囲の人目を忍んで夜な夜な平民の格好をしてわざわざ私の夫であるウェルヘムと一緒に隣町の宿で密通を何度かしているみたいですけれどなんて浅はかでみっともない行為をしているの??あなたのお父様であるノヴァ子爵は知っているの??」

激しい怒りと疑念を抱くリリアンはさらに怒りと疑問をぶつける様に話を続ける。

「し…知りませんわ……お父様もお母様も…それにアルカだって、それがどうしたって言うのよリリアン様‼いくらあなたが私よりも格上の伯爵令嬢だとしても愛しのウェルヘム様と別れるつもりなんて毛頭ありませんわ‼」

スカーレットは激しい怒りを向けるリリアンに多少の怯えは感じてもすぐに開き直りとも取れる言動をするが、そんな彼女にあくまでも平静を装うものの内心では心底腹が立って仕方がなかった。

別れるつもりがない??

冗談でしょ?

ウェルヘムは私の夫ですわ!!

心の中で湧き上がる怒りを必死になって抑えてリリアンは話を続ける。

「ウェルヘム様と別れるつもりは毛頭ないとおっしゃるのはいいですと言いたいことですが、スカーレットあなたは元々周囲や家族からの評判が最悪だもの…ウェルヘムの御側室として私共々受け入れルーム事なんて到底出来ませんわ!!」

リリアンの言う通りスカーレットは実の所評判が最悪だ。

彼女は地位や家柄にそぐわない程の派手好きな上に浪費癖が昔から酷くて家族や友人から苦言を言われたり、片田舎の子爵でしかない両親と妹からこれ以上無駄遣いは辞めてくれと何度も強いお叱りを受けていると聞いてはいたの。

でもスカーレットは家族からの注意や友人の苦言に全くと言っていい程聞く耳を持たないどころか両親や友人に対してこんな片田舎の子爵でしかない両親に生まれた事が最大の不幸だと怒りをぶちまけたり、友人を内心ではこんなちっぽけな存在と付き合うのは嫌だと周囲に悪く言いふらすしている。

その為、彼女の周りでは両親や友人達との諍いが絶えない。

しかも彼女は豊満なバストと美しい容姿を使って何人もの貴族や貴公子との関係を持っていて中には結婚や婚約していた者もいたので相当な修羅場になった事さえある。

だが全く反省しておらず、むしろ相手の方が悪いと開き直る始末。

だからか社交界ではリリアンを含めてスカーレットに嫌悪感を抱く人達は多くいる。

「お願いだからウェルヘム、どうしてもスカーレットとは別れて欲しいの。あなただって彼女がどんな女性だと言う事は分かっておられる筈よ!!だからどうか彼女とここで関係を終わらせて欲しいの……そうすれば執事やご友人であるジゼル伯爵様にはこの関係に関しては黙ってて上げるから、彼女とは別れて欲しいの!!」

リリアンはウェルヘムに涙ながらに懇願するが、彼は次第に険しい顔つきになり「黙れ!!」と結婚してから初めて拒絶の言葉を口にする。

え…と驚愕するリリアンに対してこう言い放つ。

「僕の愛しのスカーレットになんて酷い事を言うんだリリアン!!家族や周囲がどんなに彼女を悪く思っていても私は本気で彼女を愛しているんだ、だから別れるつもりなど一切ない!!」

ウェルヘムは妻であるリリアンを初めて睨みつけた。




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