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第562話 とある令嬢第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

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 暦は九月となり、王都は秋を迎えていた。
 王都メルト魔法学院では秋の名物イベントである学年対抗の大運動会が始まっていた。

「やっと見つけたぞ。何してるんだレイン」

 黒髪で第一学年であるマークを胸に付けている男子がその声を聞き、動きを止め振り返る。
 そして声を掛けて来た人物を見て、ぶっきらぼうな態度で答えた。

「何って見れば分かりませんか? 最後の調整ですよ、トウマ寮長」
「調整って、お前タツミ先生に次の競技まで安静にしてろって言われたろ」

 トウマは室内訓練場の入口でため息をついていると、背後からもう一人現れる。

「やる気満々でいいじゃないか」
「っ! ルーク副寮長」
「ルークお前、何でレインの肩を持つんだよ」

 するとレインはルークの方へと詰め寄った。
 身長差があり、レインはルークを少し見上げる状態になる。

「ルーク副寮長、俺が今年の代表戦に出るの知ってますよね? 第一学年で初めて選ばれたんですよ」
「知ってるよ。でも、繰上りでだろ」
「うっ……そ、それでも代表です! 絶対に先輩方には負けません! 特にルーク副寮長には!」

 そう告げるとレインは室内訓練場を出て行った。

「あ、おいレイン――はぁ~やっと落ち着いて来たと思ったが、何であいつはこうなんだ」
「あいつにも色々とあるんだろ」

 トウマはチラッとルークへと視線を向ける。

「何か知ってるだろお前。レインのやつ第一期からだが、第二期に入ってからやけにお前に突っかかっているよな」
「そうか? あいつは第一学年の中で力があるし、それで自分が上級生にも勝ってちやほやされたいんじゃないか?」
「たしかレインの奴が第二学年に模擬戦で勝って生意気になってたところを、お前が伸びてた鼻を折ったって聞いたが」
「あ~ちょっと生意気過ぎたから相手してやったよ」

 笑顔で答えるルークにトウマは軽く相手をしてやった感じではなく、立ち直れないくらいの力を見せてボコボコにしたんじゃないかと思うのだった。
 その現場をトウマは見ておらず、第一学年と第二学年のいざこざをルークが止めたと聞いただけなのだ。
 それ以降やんちゃであった第一学年もおとなしくなり、第二学年との仲もうまくなりだしていたがまだレインを筆頭に数名はやんちゃな者たちがいる状況であった。
 悪さをする感じではなく、上級生に対し少し態度が悪かったりすぐに模擬戦を挑んだり、自分の力を証明させたい認めさせたいという感じであり特にそれをトウマたちの第三学年にしているのである。
 競技場内の廊下を歩きながら悩みの種が消えないトウマはため息をつく。

「うちの寮ぐらいだろうな、こんなやんちゃな後輩がいるの。やっぱり俺の威厳が足りないからか?」
「他の寮と比べるなよ。うちはうちだろ」
「まあ、そうけどな」

 するとルークはトウマの背中を強く叩く。

「イタッ! 何するんだよ急に」
「一人で悩むなんてお前らしくないぞ。忘れたか、周りにいる奴らを? 最近進路や今後のことで言いずらいのは分かるが、あいつらはお前の話を無視をするような奴らじゃないだろ。お前が一番分かっていると思うがな」
「……ああ、そうだな。なるべく迷惑かけないようにと思っていたが、そうしてみるかな」
「最初の頃ガツガツいってた頃を思い出して見ろ。あれに比べればましだろ」
「何だよ、お前らがいつでも頼れって言ってくれたんだろ。だから、頼っただよ」
「途中からほぼこっちに丸投げ状態だったろあれは」
「考えたぞ。考えてどうしていいか分からなくなって頼ったんだ。つうかあの頃はもうパンク寸前だったんだよ」
「今日も仲がいいわねお二人さん」

 前からそう声を掛けられ二人は足を止めた。
 二人の前に現れたのはジュリルであった。

「噂は聞いているわよ。大変そうね、後輩に関して」
「女子側はよく分からんが、そっちはどうなんだ?」
「こちらは問題はありませんわよ。でも、もうすぐ問題が出るかもしれませんわ」

 その言葉にルークとトウマは首を傾げる。

「どういうことだ? 何かあるのか?」
「今年の大運動会の競技の特別試合ですわよ。忘れていますの? 第三学年の男女同士での代表戦」

 ジュリルの言葉にトウマは「あ~」と思い出したかの様に声を出す。
 今年は男女同士の特別試合が競技の終盤に決まっており、学院中はその対戦に注目をしていた。
 この試合にはジュリルはもちろんルークも出場が決まっており、二人の試合が特に注目を浴びていた。

「たしか三戦だったよな。うちはルークにダンデ、レオンだったよな」
「いや、レオンは辞退して繰上りでスバンだ」
「辞退とかありなのか」
「まあ仮にも使える主がいる競技で、対戦になったら困るからだろう」
「当たる可能性はないとは思うが、少しでもその可能性があるからってやつか。レオンらしいといえばらしいか」
「私たちの出場者は先程確定して来たところですわ。では、試合楽しみにしてますわ」

 そう告げジュリルはルークたちを通り越して立ち去って行った。

「なあルーク、今のジュリルとだとどっちが強いんだ?」
「さあな。だが強いのは明らかだろうな」
「おいおいいつものルークにしては弱気だな」
「弱気? 何言ってんだ、俺は負けないぞ誰が相手でもな」

 そして大運動会の競技は進み、遂に注目競技である特別試合を迎えた。

『さぁ皆様お待たせしました! 第三学年の男女同士による特別試合です!』

 とある生徒による実況に競技場は大きく盛り上がる。

『特別試合は男女ともに三名の代表者が選ばれ、一対一の対戦をするものです! 第三学年同士のガチンコバトル! こんな熱い展開に燃えない奴はいないだろう! それでは早速出場者に登場してもらおう!』

 そして男子と女子側で別の入口から中央の舞台に向かい三名が姿を現す。
 男子側はルーク、ダンデ、スバンの三名が出て来て競技場が盛り上がる。
 一方で女子側はジュリル、ウィル、マートルそしてフードを被った人物が登場する。
 謎の人物の登場に少しざわつく競技場だったが、ジュリルが間近で試合を見たいと言って来た生徒だと告げる。
 誰だと言われるのが恥ずかしいから顔を隠しているのでフードを許して欲しいと口にする。
 その言い分に皆が納得し、それなら自分も間近でジュリルたちの試合を見たかったと口にする女子学生がちらほらといるのだった。
 そして試合が始まり、男女ともに全力を出し手に汗握る試合を行い競技場は大きく盛り上がり最終戦を迎える。
 中央の舞台にルークが先に上がる。

『さあ最終戦だ。男子学年最強といわれるルークと女子学年最強といわれるジュリルの試合! これを見逃す訳にはいかないぞ!』

 そう実況されるもジュリルは何故か中央舞台に上がらない。
 するとジュリルは急に手を上げ、とある宣言をする。

「申し訳ないけれど、ここで出場メンバー変更をするわ」

 思いもしない申し出にざわつく競技場。ルークたちも耳を疑う。

「私の代わりに、この子に出てもらうわ」

 ジュリルがそう告げるとフードを被っていた人物が何のためらいもなく中央の舞台に登りルークと向き合う。
 競技場からはブーイングが少し出る。当然である、ルークとジュリルの対戦を見れると思っていたおり、それがなくなったのだから。

「おいジュリル。お前以外に俺の対戦相手にぽっと出の奴を出すなんて何考えてるんだ?」
「あらあらルーク、その子にもう勝った気なの」
「勝つも何もお前以上に強い奴はいないだろ」
「それはどうかしらね」

 何故か余裕な表情を見えるジュリルにルークは首を傾げる。
 直後フードを被っていた人物がルークに声を掛ける。

「私が対戦相手じゃ不満なの、ルーク」

 その言葉と共にフードをとり会場に素顔を見せた。
 金髪のショートカット姿と美しい素顔に競技場の多くの生徒は目を奪われる。
 一方でルークは対戦相手の素顔を見て目を疑い、観戦席にいたトウマを筆頭に第三学年の皆がその姿に驚愕する。
 ルークの前に現れたのは女子学院服を着たアリスであった。

「ア、アリス、か?」
「そうよ。驚いた? 半年振りかな」
「何でお前、お前がここにいるんだよ?」

 動揺するルークにジュリルが答えた。

「今日からうちへの転入生なのよ。今回はしっかりと正式な手順を踏んでの女子としの転入ですわよ」
「転入!? アリスが、うちに!?」
「おーいアリス! アリスだよな! おーい!」

 そうトウマが観客席から大きな声を掛ける。
 アリスはそれに対し軽く手を振る。

「簡単にいうと、あの後周れるだけ世界を周ったのよ。ちなみに一人じゃないよ。でもね、行く先で学院を卒業してない身で変に制限があったり確認が多かったりで大変だったの」

 ルークは何とか状況を理解しようとアリスの話を聞き続ける。
 退学後アリスの身分は、クレイス魔法学院第二学年を無事に進級した状態であった。
 傍付メイドであるマイナがアリスの代わりに通っていたことでその身分となるも、一時休学し宣言通り世界を見る旅行に出た。
 だが、休学の身が行く先々で足枷になりこのままではどこに行っても大変だと頭を悩ましてると、近くにあったバーグべル魔法学院の学院長と出会いスカウトを受けたのである。
 ルークの対戦が見られておりその実力などを買われてのものだったが、アリスは断るとある話を聞く。
 それは他学院からもアリスをスカウトしようと動いているという件であった。

「それからやっぱり卒業は大切だと思って、学院に復学して卒業するならどこがいいかを考えて転校したの」
「で、ここって訳か? だが、ここじゃ」
「そう色々とあったけれど、他校から色々とアリス宛てに推薦が来ているのを武器に手続きを進めたの。こんな優秀な生徒をわざわざ追い返す方が評判悪くなるし、取らない手はないって」
「(そりゃもうほぼ脅しじゃ)」

 そう思いつつルークは口にせず、ジュリルの方をチラッと見る。
 ジュリルはルークの視線に気付き優しく微笑む。

「(あの感じだと、ジュリルも加担してるな)」

 そして大きく深呼吸した。

「まあとりあえず、細かい話は後でゆっくりと聞かせてもらうとして」

 ルークは気合いを入れ直すと魔力の圧で周囲を圧倒させる。

「舞台に上がって来た以上、手は抜かないで本気で行くぞアリス」

 皆が圧倒されるルークの圧の中、アリスは退くことも驚くこともなく立ち向かう姿勢を見せる。

「もちろんよ。また貴方を負かせてあげるわよ」
「すぐ調子がいいことを言う」

 そして試合の鐘が鳴り響き、皆がルークとアリスの試合に徐々に熱中していくのであった。


 王都メルト魔法学院――そこは男女ともに全寮制であり、共に学び競い合うことで成長をする場。
 たとえ一国の王子であろうが、貴族令嬢であろうがこの学院に入学すれば皆同じ立場の者。
 慣れない寮生生活で様々な体験を経て、己と向き合い考え行動し大きく成長していく。
 長くも短い三年間という学院時代は、彼ら彼女らにとっては一生の出来事となり忘れられない日々となるであろう。
 かけがえのない仲間と共に過ごすその時間は、何ものにも代え難い宝となって。
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