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第555話 満点の星と満月の正反対

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 日が沈み周辺の街灯に明りが灯る。
 アリスはトウマに対して下げた頭を上げる。
 トウマは黙ったまま少し顔を俯けていたが、すぐに顔を上げた。

「そ、そっか……」

 無理して作っている笑顔にアリスは胸をギュッと締め付けられる。
 が、逃げずにその場に立ち続ける。
 するとトウマはアリスに背を向けた。

「いや~振られちゃったな。そもそも、告白のこと覚えててくれて良かったよ。俺としてはそこが最初の難関だったからさ」
「……」
「覚えてないって言われたらどうしようかと思っちゃったよ。あ~めっちゃ緊張したわ。告白並みにヤバかったよ」
「……」
「告白の返事を訊くのって緊張より怖いんだな。初めて知ったわ」

 そこでトウマは黙ってしまう。
 アリスも声を掛けずにその場で立ち尽くしていると、トウマは大きく手を広げて深呼吸を二回してからアリスの方を向いた。
 トウマの表情はその時笑っていた。

「真剣に考えてくれて、俺なんかの告白に向き合ってくれて、ありがとうアリス」

 首を軽く横に振るアリス。

「こんなにも好きだって思えたのはアリスが初めてだったんだ。要は俺の初恋だな」
「トウマ」
「初恋は実らなかったが、アリスの答えが聞けて胸のモヤモヤが消えたよ。返事も聞けないままもう会えないなんて最悪だったからな」
「ごめん、私も返事が遅れて」
「謝らないでくれよ。仕方ないさ、色々とあったからな」

 アリスは答えを出してから自分の気持ちを伝える事から無意識に逃げていた事を反省した。
 先程も自分から告白の返事の事を切り出そう、切り出そうとしていたが出来ずに最後にはトウマに言わせてしまった事を責める。
 最後までトウマに助けてもらってどうするんだ私。
 想いを伝える怖さは同じなのに、次はこっちが投げ返す番なのに、どうして私は。
 アリスは視線を落とし自分を責めていると、トウマは持って来た小箱のことを突然思い出したかのように抱える。

「そうだった、これタツミ先生に届けないと。こんな時間になって怒られるかもしれない。じゃあなアリス、タツミ先生から訊き出して見送りには行くから」

 そう言いってトウマは急ぎ足でその場から立ち去って行った。
 アリスは咄嗟に手を伸ばそうとしたが、途中で止め何も言えないままトウマの後ろ姿を見送った。
 伸ばした手を強く握り締めながら手を下ろし、アリスも競技場地下へと戻って行く。
 部屋に戻ったアリスはそのままベッドにうつ伏せで倒れ込む。
 暫くし仰向けになり天井を見つめた後、自身の腕で視界を覆い深く息を吐くのだった。
 それから一時間後にタツミがアリスの部屋に夕食と小箱を持って廊下を歩いて来るが、扉が開けっぱなしのままな状態に気付く。
 タツミは何かを察しそのまま来た道を戻って行くのだった。
 それから時間を空けてから、タツミが再びアリスの部屋を訪れ扉をノックする。
 アリスはノック音に身体を起こす。

「タツミ先生」
「入るぞ」

 タツミは夕食のトレイと小箱を手にしており、アリスはそちらにすぐ目が行く。

「その小箱」
「一つ荷物の運び忘れがあったみたいでな、持って来てもらうようにしたんだが俺の方がバタバタで受け取るのが遅れてな」

 持って来た小箱にアリスは見覚えがあり、それはタツミが持っていた物と同じ物であったのだ。
 タツミは夕食のトレイを机の上に置き、小箱を机下に置いた。

「荷物はこれで最後だ。漏れがあって悪かった」
「いえ……大丈夫です。ありがとうございます」
「表情が暗いが、荷物の整理で疲れたか? それなら今日はさっさと飯食って、シャワー浴びたら夜更かししないで寝ろ。トレイは部屋の外に置いておけばいいから」
「……はい」

 それ以上追求せずにタツミは部屋から出て行くのだった。
 アリスはその後夕食を食べた後、すぐに眠れる準備をし始めるのだった。


 ――同時刻、オービン寮の廊下にて。

「(戻るのは明日でもいいと言われたが、自室の方がゆっくり出来るからな)」

 ルークは軽く肩を回しながら廊下を歩いて自室へと向かっていた。
 タツミの診察を受け、体調面ではもう問題ないとされ寮に戻っていい許可を得ていた。
 廊下を歩きながら窓から見える月を目にする。

「(意外と寮からでも綺麗に見えるもんなんだな)」

 そしてルークは部屋の前に辿り着き扉を開けると、電気がついたままトウマがベッドで横になっていた。
 寝てしまっているのかと思ったルークは声は掛けずにベッドに腰かける。
 するとトウマが身体を起こしルークの存在に気付く。

「帰って来たのかルーク」
「ああ。起こしたか、悪い」
「いや、気にしないでくれ。ちょっと横になってただけだからな」

 そう答えるとトウマはベッドから降り立ち上がり扉の方へと向かう。

「どっか行くのか?」
「ちょっと夜風にでも当たろうかと思って。寝れなくてな」
「そうか。少し寒いから風邪をひかないようにしろよ」
「分かった、ありがとうルーク」

 苦笑いしながらトウマは上着を手にして部屋を後にした。
 その時トウマの目元が少し腫れている事に気付くルークだったが、何も追求せず見送るのだった。
 トウマはそのまま上着を羽織り寮の外へと出て、街灯に照らされた道を歩きながらふと視線を空に向ける。

「雲一つない星空に満月か……俺とは正反対だな」

 直後その夜空と満月が歪むが、トウマはすぐに手で払う。

「ルークの言った通り、少し肌寒いなこりゃ」

 外の寒さからか鼻をすすり一人で街灯と月に照らされた夜道を歩いて行くのだった。
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