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第533話 ニックの全力
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殴り飛ばされたアリスはすぐさま受け身をとり体勢を立て直す。
自身もゴーレム武装をしていたお陰で、もろに受けてしまうが大きなダメージにはなっていなかった。
詠唱魔法で身体強化なんて出来るのね。詠唱魔法については全然知識が浅いから初めて知ったわ、奥が深いわね詠唱魔法。
アリスの微かな笑みを見せながらニックへと視線を向けると、ニックは瞬時に距離を詰めて来る。
「笑える余裕があるなら、俺の問いかけにも答えられるよな」
詠唱魔法により身体強化されたニックの拳をアリスは流す様に弾き、腹部へと左手を伸ばし『バースト』を放つ。
だが、ニックの身体が吹き飛ぶことはなくその場に無傷で立っていた。
「沈め」
「っ!?」
突如アリスの両足が地面へと沈み始め、身動きが取れなくなる。
そのまま全身を地面が盛り上がり拘束されてしまう。
「女性でも強い奴はいるのは知っている。が、それすら偽り俺らと対等に渡り合い、実績を残して来たお前は凄いと俺は思うよ。だから今回、最後にもう一度お前と本気で戦ってみたいと思って、立候補した」
立候補? どういうこと? 教員らが対戦相手を決めているんじゃないの?
「だけど、少しがっかりしたよ。お前はこの後の試合のことを考えて力をセーブしているよな」
「っ……」
「悪い事じゃない、誰しもそうする。今回は俺が一番手というだけで、運がなかっただけだ」
「ニック」
「ま、全力でぶつかりたい気持ちはあるけど……できないならその代わりに、質問には答えて欲しいな、アリスさん」
そんなニックの言葉にアリスはゆっくりと答え始める。
「私が、この学院に来た目的は自分の夢を叶える為。月の魔女に憧れて彼女に関することを調べ、彼女に近付くために努力して来た。そしてこの学院のことを知り転入した」
するとニックは、どこか残念そうな表情をし問いかけ続けた。
「月の魔女、ね。でも何故男装し、名前まで偽る必要が? 普通に女子として転入すれば良かったじゃないか。それとも、そうせざるを得ない理由があった。例えば家柄や貴族ならではの世間体、何かしらの条件などなどがあるかな」
「……」
「黙ってしまうということは、そういうことか。そうそう他学院に、しかも途中の学年から転入なんて出来る事じゃないしな。レオンの様な、よっぽど特別な理由がない限り」
ニックが一瞬視線を落とした時、アリスは拘束された中でパワー型のゴーレム武装を身に纏い、拘束を吹き飛ばしニックへと拳を突き出すも、ニックはその拳を片手で受け止める。
しかしアリスはそこから魔法を発動し、超至近距離でニックに向け『バースト』を放つのだった。
今までの倍以上の威力で放った魔法であり、アリスもこれならダメージが入ると確信していたが、爆発の煙が晴れるとそこにはまたしも無傷のニックが自身の拳を握ったまま立っていた。
「嘘、でしょ」
「詠唱魔法は、指定した魔法属性の耐性を一時的に上げることも可能だ。だが、代償として他の耐性が下がるのが問題だがな」
その説明でアリスは瞬時にニックが先程の超至近距離『バースト』を無傷で耐えたのは、それを行ったからだと理解する。
詠唱魔法は、一般的な魔法とは異なり、使用方法が特殊な事もあり高等魔法に分類される。
その訳は、使用できるのは限られた一族であり、使用者からの継承以外に使える者は存在しない為だからだ。
アリスは改めて詠唱魔法の凄さを肌で感じる。
身体強化に指定属性の耐性強化まで、底がしれないわね詠唱魔法。これ程の力をニックはこれまで使ってなかったなんて、そこにも驚きよ。
「俺の家も色々とあって。力の制限がされていて、本来は今の力は出しちゃいけねんだ。使ったらすぐさま家から呼び出しだ」
「っ! じゃあなんで」
「言ったろ。全力でぶつかりたいと」
そこでアリスはニックが後先など考えず、本気で自分と戦いをしに来ているのだと理解する。
しかし一方で自分はとこれまでの行動や考えを振り返り、ニックの本気の気持ちに答えられてないと思い始める。
力を温存した戦い方に、全力を出せないこの先の試合を考えニックの問いかけに素直に答え、それでもまだ全力で戦わず勝とうとした。
これは試験であり決闘でもなんてもない。
アリスの考え方が普通であるとニックも答えたが、この先彼と戦う事はないのにニックは本気でぶつかって来ている。
それなのに自分はこんな気持ちでぶつかっていていいのか。
彼の気持ちに応えるべきなのではないか? 全力でぶつかり合うべきじゃないかと悩み始めてしまう。
だが、それに対し答えを出させる時間をニックが与える訳なく攻撃を仕掛ける。
ニックはアリスを遠くへ蹴り飛ばすと、片腕を真上に掲げる。
「答えは得た。最後に二度と披露など出来ない、俺の全力の力で試合を終わらせよう」
すると掲げた手の周囲に四つの魔力球体が発生し、各々が大きく膨れ上がっていき形状が変化する。
朱き鳥形、青き龍、白き虎、黒き亀と蛇の四つとなりアリスを上空から見下ろす。
「何なの、これは?」
異様なまでの魔力量と威圧されるような形状に、アリスはただただ見上げる事しか出来ずにいた。
そしてニックはアリスに向け、掲げた腕を言葉と共に振り下ろした。
「『青朱白玄』」
合図と共に一斉にその四つの魔力形状がアリスへと襲い掛かり、直後大きな衝撃音と共にアリスは場外へと吹き飛ばされる。
場外に吹き飛ばされたことにより、試合終了の宣言が担当試験からされるのであった。
アリスは場外にて仰向け状態で小さく「凄すぎ」とだけ呟くのだった。
一方でニックは、アリスの方を暫く見つめていたが向かう事なく、背を向けるとどこか寂し気な表情ですぐさまその場から立ち去って行く。
こうしてアリスの実力試験第一試合は、黒星となるのだった。
その後、暫く試合の疲れでアリスが仰向けになったままでいると、上から誰かがやって来て軽く覗き込んで来る。
「おーい、大丈夫か?」
相手の顔が日差しの関係で全く見えず、アリスが誰かと思い起き上がり振り返る。
するとそこにいたのは、トウマであった。
自身もゴーレム武装をしていたお陰で、もろに受けてしまうが大きなダメージにはなっていなかった。
詠唱魔法で身体強化なんて出来るのね。詠唱魔法については全然知識が浅いから初めて知ったわ、奥が深いわね詠唱魔法。
アリスの微かな笑みを見せながらニックへと視線を向けると、ニックは瞬時に距離を詰めて来る。
「笑える余裕があるなら、俺の問いかけにも答えられるよな」
詠唱魔法により身体強化されたニックの拳をアリスは流す様に弾き、腹部へと左手を伸ばし『バースト』を放つ。
だが、ニックの身体が吹き飛ぶことはなくその場に無傷で立っていた。
「沈め」
「っ!?」
突如アリスの両足が地面へと沈み始め、身動きが取れなくなる。
そのまま全身を地面が盛り上がり拘束されてしまう。
「女性でも強い奴はいるのは知っている。が、それすら偽り俺らと対等に渡り合い、実績を残して来たお前は凄いと俺は思うよ。だから今回、最後にもう一度お前と本気で戦ってみたいと思って、立候補した」
立候補? どういうこと? 教員らが対戦相手を決めているんじゃないの?
「だけど、少しがっかりしたよ。お前はこの後の試合のことを考えて力をセーブしているよな」
「っ……」
「悪い事じゃない、誰しもそうする。今回は俺が一番手というだけで、運がなかっただけだ」
「ニック」
「ま、全力でぶつかりたい気持ちはあるけど……できないならその代わりに、質問には答えて欲しいな、アリスさん」
そんなニックの言葉にアリスはゆっくりと答え始める。
「私が、この学院に来た目的は自分の夢を叶える為。月の魔女に憧れて彼女に関することを調べ、彼女に近付くために努力して来た。そしてこの学院のことを知り転入した」
するとニックは、どこか残念そうな表情をし問いかけ続けた。
「月の魔女、ね。でも何故男装し、名前まで偽る必要が? 普通に女子として転入すれば良かったじゃないか。それとも、そうせざるを得ない理由があった。例えば家柄や貴族ならではの世間体、何かしらの条件などなどがあるかな」
「……」
「黙ってしまうということは、そういうことか。そうそう他学院に、しかも途中の学年から転入なんて出来る事じゃないしな。レオンの様な、よっぽど特別な理由がない限り」
ニックが一瞬視線を落とした時、アリスは拘束された中でパワー型のゴーレム武装を身に纏い、拘束を吹き飛ばしニックへと拳を突き出すも、ニックはその拳を片手で受け止める。
しかしアリスはそこから魔法を発動し、超至近距離でニックに向け『バースト』を放つのだった。
今までの倍以上の威力で放った魔法であり、アリスもこれならダメージが入ると確信していたが、爆発の煙が晴れるとそこにはまたしも無傷のニックが自身の拳を握ったまま立っていた。
「嘘、でしょ」
「詠唱魔法は、指定した魔法属性の耐性を一時的に上げることも可能だ。だが、代償として他の耐性が下がるのが問題だがな」
その説明でアリスは瞬時にニックが先程の超至近距離『バースト』を無傷で耐えたのは、それを行ったからだと理解する。
詠唱魔法は、一般的な魔法とは異なり、使用方法が特殊な事もあり高等魔法に分類される。
その訳は、使用できるのは限られた一族であり、使用者からの継承以外に使える者は存在しない為だからだ。
アリスは改めて詠唱魔法の凄さを肌で感じる。
身体強化に指定属性の耐性強化まで、底がしれないわね詠唱魔法。これ程の力をニックはこれまで使ってなかったなんて、そこにも驚きよ。
「俺の家も色々とあって。力の制限がされていて、本来は今の力は出しちゃいけねんだ。使ったらすぐさま家から呼び出しだ」
「っ! じゃあなんで」
「言ったろ。全力でぶつかりたいと」
そこでアリスはニックが後先など考えず、本気で自分と戦いをしに来ているのだと理解する。
しかし一方で自分はとこれまでの行動や考えを振り返り、ニックの本気の気持ちに答えられてないと思い始める。
力を温存した戦い方に、全力を出せないこの先の試合を考えニックの問いかけに素直に答え、それでもまだ全力で戦わず勝とうとした。
これは試験であり決闘でもなんてもない。
アリスの考え方が普通であるとニックも答えたが、この先彼と戦う事はないのにニックは本気でぶつかって来ている。
それなのに自分はこんな気持ちでぶつかっていていいのか。
彼の気持ちに応えるべきなのではないか? 全力でぶつかり合うべきじゃないかと悩み始めてしまう。
だが、それに対し答えを出させる時間をニックが与える訳なく攻撃を仕掛ける。
ニックはアリスを遠くへ蹴り飛ばすと、片腕を真上に掲げる。
「答えは得た。最後に二度と披露など出来ない、俺の全力の力で試合を終わらせよう」
すると掲げた手の周囲に四つの魔力球体が発生し、各々が大きく膨れ上がっていき形状が変化する。
朱き鳥形、青き龍、白き虎、黒き亀と蛇の四つとなりアリスを上空から見下ろす。
「何なの、これは?」
異様なまでの魔力量と威圧されるような形状に、アリスはただただ見上げる事しか出来ずにいた。
そしてニックはアリスに向け、掲げた腕を言葉と共に振り下ろした。
「『青朱白玄』」
合図と共に一斉にその四つの魔力形状がアリスへと襲い掛かり、直後大きな衝撃音と共にアリスは場外へと吹き飛ばされる。
場外に吹き飛ばされたことにより、試合終了の宣言が担当試験からされるのであった。
アリスは場外にて仰向け状態で小さく「凄すぎ」とだけ呟くのだった。
一方でニックは、アリスの方を暫く見つめていたが向かう事なく、背を向けるとどこか寂し気な表情ですぐさまその場から立ち去って行く。
こうしてアリスの実力試験第一試合は、黒星となるのだった。
その後、暫く試合の疲れでアリスが仰向けになったままでいると、上から誰かがやって来て軽く覗き込んで来る。
「おーい、大丈夫か?」
相手の顔が日差しの関係で全く見えず、アリスが誰かと思い起き上がり振り返る。
するとそこにいたのは、トウマであった。
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