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第508話 ルークの真意

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 朝、目覚ましの音でトウマは眠い目を開け音の鳴る目覚ましを探す。
 音を止めようと目覚ましを置いたであろう場所に何度か手を伸ばすも、何処にも目覚ましがなく仕方なく起き上がる。

「うぅ~……うるせぇ。何処にあるんだよ」

 寝ボケながら周囲を見回すと、目覚まし時計が机の上に置いてるのを見つける。
 それと同時にルークが鏡の前で何故か軽くポーズをとっている姿を目にし、一気に目が覚める。

「何、してるんだルーク?」
「ん? おはようトウマ、身だしなみチェックさ。大切だろ身だしなみ」

 トウマは軽く口が開いたまま、目覚まし時計を止める。

「早く顔でも洗って来いよ。朝食一緒に行こうぜ」
「え……あ、ああ」

 言われるがままトウマは洗面所で顔を洗い、制服に着替え始める。

「お前が俺を朝食に誘うなんて珍しいな。いつも先に行って、向こうで会うのによ」
「今日はそんな気分なんだ」
「気分で誘われたのかよ俺は。まぁいいけどよ」

 制服にトウマが着替え終わった所で、座っていたルークが立ち上がり部屋の扉の方へと向かって行く。
 廊下に出て改めて冬の朝の寒さを肌で感じながら、トウマは少しだけ身を縮めて歩きルークと共に食堂兼リビングへと向かった。
 到着すると既に朝食を食べ始めている生徒たちがいるが、まだ朝食にしては少し早い時間の為少人数であった。

「(後輩がちらほらといて、後はモーガンにガウェン、ガードルとベックスか。朝早いなあいつら)」

 そんな彼らを横目にトウマは今日の朝食リストを見て悩み始める。
 ルークはサクッと決め、朝食を受け取ると「先に席に向かっているぞ」とトウマに声だけ掛けた。
 暫く朝食に悩むトウマであったが、焼き肉定食に決め受け取り、ルークの元へと向かう。
 するとルークの様にモーガンが座り何か話し込んでいた。

「(何か珍しい組み合わせだな)」

 モーガンはいつもより少しだけ表情豊かにルークと話していて、より珍しいなとトウマは思いながら近付く。

「俺がいない間に珍しい組み合わせじゃんか」
「やっと決まったのかトウマ。遅いぞ」
「お、おはようございますトウマ」
「おはよう。何で少し慌ててるんだモーガン?」
「別に慌ててませんよ。トウマの朝食に驚いただけです」
「なんだよ、文句あるんかよ」

 トウマは皆に似た様な反応をされてきているので、いつものように言い返した。
 その後モーガンも含め三人で朝食の話題で盛り上がった後、モーガンは部屋に戻ると言い先に席を離れて行った。
 するとその頃には皆も食堂兼リビングにやって来始めて賑わい始める。
 ルークとトウマは朝食を食べ終え、お茶とコーヒーで一息ついているとフェルトが絡んで来た。

「おはようさん、お二人さん」
「おはよう。で、わざわざ絡みに来た理由はなんだ」
「冷たいねトウマは。朝のコミュニケーションじゃないか。で、ルーク昨日クリスからの模擬戦を断ったというのは本当かい?」
「お前どこで聞いたんだよ」
「なるほど、トウマの反応を見る限り本当なんだね」

 フェルトの言葉でトウマは「あっ」とした声をだし、ルークは小さくため息をつく。

「それを知ってどうするんだ、フェルト」
「いや別に、どうこうしないさ。ちょっと気になっただけさ。模擬戦受けていたら面白い事になりそうだなって」
「そっか」

 ルークはコーヒーを飲み終えると立ち上がり、コップを持ち返却場所へと向かう。

「先に戻るぞトウマ」
「ああ、また後でな」

 そこでトウマと別れ歩いていると、正面からクリスとシンが歩いて来るところに遭遇する。
 先にルークがクリスに気付くも特に避ける事無く、進むとクリスが遅れて気付く。

「あ、ルーク」
「おはようクリス、シン」

 そう言って二人とすれ違うとクリスに呼び止められ、ルークは足を止める。

「ルーク。しつこいかもしれないけど、俺と模擬戦してくれないか?」
「……どうしてそんなに俺と模擬戦したいんだ? 昨日沢山模擬戦したんだろ」
「っそうだけど、今の俺がルークにどれほど敵うのか知りたいんだ。最後の試験で、お前に勝つために」

 二人のやりとりに周囲も気付き、視線を向け始める。
 暫く黙っていたルークがクリスの方に身体を向けた。

「試験前にわざわざ自信を無くすような事をしなくてもいいと思うが、それでもやりたいのかクリス?」
「随分と上からだね、ルーク。俺としては前哨戦のつもりだよ。負けると思って、こんな事仕掛けないさ」
「分かった、やろう模擬戦。細かい事は、また後で決めよう。じゃ」

 それだけ言い残し、ルークはすたすたとその場から去って行くのだった。
 昨日とは違い以外にも抵抗なく、あっさりと了承されてしまった事にクリスは驚いてしまう。

「え? ……えーと、え? 何か思ってたのと違う」

 また、その光景を遠くから見ていたトウマはお茶を飲む手が止まり、フェルトはにやけていた。

「おっ、面白い展開になったね。昨日断って、今日は受け入れる。なんていうのかね、ああいう態度」
「マジか、ルーク」

 その後、ルークとクリスの模擬戦が行われる事が寮内で話題になる。
 これまで二人の対戦では、激しい戦いが行われて来ていると知っており今回は模擬戦だが面白いものが見れると次第に噂が広がって行く。
 登校時間を迎えると、他の寮生まで噂が広がるのだった。
 そして朝礼が始まる教室では、ルークとクリスが模擬戦の詳しい事を話し合い、サクッと日付やルールを決める。

「それじゃ、ルールはクリスが提案していた制限時間付きのゴーレム勝負。日程は明日の十一時、場所は寮前の芝生で決定だな」
「ああ。一応、担当教員から寮前での模擬戦許可も持っているし、問題ない」
「用意がいいな。タツミの方は大丈夫なのか?」
「えーと、それはこれから。でも、たぶん大丈夫。押し通す!」
「ストップがかかったら、今日中に言えよ。俺は何も後押しはしないからな」
「了解、了解。まだ時間あるし、今走って聞いて来るかな。よし、そうと決めたら即実行」

 クリスはそういってタツミのいる医務室へと向かうのだった。
 トウマは話し合いが終わったルークに駆け寄り、声を掛ける。

「どういう心境の変化なんだルーク? 昨日はあんなに断ってたのに、今日はあんなにすぐ受け入れて」
「お前が考えてやれっていったんだろ、トウマ」
「そ、そうだけどよ。変わり過ぎっていうか、お前らしくないというか」
「何だよトウマ、受けて欲しくなかったのか? 俺にどうして欲しかったんだよ」
「いやどうこうして欲しかったはなくて、その、何て言うか、あー何だか俺もよく分からなくなって来た」

 髪をぐしゃぐしゃにするトウマをルークは首を傾げながら見つめながら「なんだそりゃ」と呟いた。

「とりあえず、俺の言った事はもう気にするな。俺も気にしない」
「ああ、そうかい」
「後模擬戦だけど、相手がクリスだからってマジになり過ぎるなよ。まだ向こうは復帰したばかりなんだからな」
「分かってるよ。でも心配し過ぎだ、お前も昨日模擬戦してクリスの強さは分かってるだろ。病み上がりだろうが、勝負を仕掛けてきた以上手は抜かない。必ず決着をつける」

 ルークの最後の言葉に対しての気持ちの入りように、少しだけトウマは気圧されるのだった。
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