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第507話 模擬戦申し込み

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「いやー案外と四戦もやるときっつ!」
「短い時間だけど、頭も使うし試したい戦略出来るしいい特訓になってるよこれ」

 シンリが地面に大の字で横たわり、シンが水分補給をしながらそう口にする。
 ベックスとクリスは対戦後の意見交換として、何やら難しい話しをしている雰囲気でそれをトウマが見つめていた。

「何か難しそうな話をしている感じがする」
「互いにぶつかり合ってこうした方がいいとか、ここはどうしてたのとかを話しているだけでしょ。トウマもやったでしょ」
「そうだよな」

 トウマは振り返り休憩場所に用意していて飲み物を手に取り、乾いた口に飲み物を流し入れる。
 ごくごくと飲み終わると飲み物を置き、口元から少し垂れた水分を軽く手で拭く。

「(四戦一勝三敗か。ゴーレム勝負は改めて苦手だと分かったし、実力試験の時は直接戦闘一択かな。にしても、クリスからのアドバイス凄かったな。的確というか、細かい所まで言ってくれてビックリだ)」

 そこへベックスとクリスが話し合いを終え、トウマたちの所へ戻って来る。

「お疲れークリス。いや凄いね、クリスが全勝するとはね」
「ありがとうシンリ。俺、こう見えても特訓してたからね、その成果が出たのかもな」
「マジか、すげえなクリス。復帰したばっかなのに」
「タツミ先生に怒られたりしない?」
「あーたぶん大丈夫。今日のことは許可もらって事前に診察してもらってるし」

 クリスはシンからの問いかけに少し苦笑いで答える。
 模擬戦も全試合終了し皆がまったりと休憩していると、そこへルークとガウェンがやって来る。

「あれ、ルークにガウェン。どうしたんだ?」

 トウマが立ち上がり声を掛けると、ルークが口を開く。

「もしかして使ってたか? 悪い、掲示板見ないで来ちまったから、使用者がいるとは思ってなかったんだ」

 どうやら模擬戦に途中参加しに来た訳ではなく、何か理由があって訓練場を使用しに来たのだとトウマは理解する。
 ルークとガウェンは、トウマたちを見てそのまま訓練場から出て行こうとした時だった。
 トウマより先に後ろからクリスが声を張った。

「ルークちょっと待てよ」

 ルークはクリスからの呼びかけに足を止め、クリスの方へと視線を向ける。
 クリスはトウマを抜かしてルークの方へと近付いて行く。

「今まで俺たちは勉強会として模擬戦をやっていたんだが、今さっき終わった所だからここ使ってもいいぞ」
「そうか」
「でも、その前に俺と模擬戦してくれよルーク」
「……嫌だ」
「へ?」

 あっさりと断れ少し呆然としているクリスの元にトウマがやって来る。

「何急に言ってるんだよクリス。ビックリしたわ」
「ビックリしたのはこっちもだ。何で俺がお前と模擬戦しないといけないんだよ」
「え、だって試験前に戦ってみたかったから」
「試験前だからやらないんだろうが……例の件もあるしな」

 ルークの言葉を聞きトウマはすぐに思い当たる節がありピンとくる。
 クリスは軽くルークから視線を逸らす。

「でも、でもそれでも一回だけ。一回だけ模擬戦してくれよ。今の俺の力がルークにどこまで通用するか知っておきたいんだ」
「っ……だから、やらないって言ってるだろ」
「頼むよルーク! ゴーレム勝負だけで、数分だけだからさ」

 諦めずしつこく頼み込んで来るクリスに対し、ルークは少し嫌な顔をする。
 そんな態度を見てガウェンが小声でルークに話し掛ける。

「こんなに頼んでいるんだから、少しくらい付き合ってやればいいんじゃないか?」
「いや、ダメだ。模擬戦はやらない」

 ガウェンはそれ以上食い下がる事はせずに、ルークが嫌がらせで言ってる訳ではないと表情からくみ取り「そうか」と返し黙るのだった。
 これだけ頼んでも断れてクリスは肩を落とす。
 そして上目遣いでルークを見つめ「ケチ」と口にする。

「ケチでも何でも結構だ。試験が終わったらいくらでも模擬戦してやるよ」
「俺は今して欲しんだっての! 逃げるなルーク俺と模擬戦しろー」
「はいはい、試験が終わったらな」
「態度が冷たいぞーもっと温かく接しろー」

 クリスがギャーギャーと騒いでいる中、ルークはガウェンと共に訓練場を立ち去って行くのだった。
 ――その日の夜。

「ふ~さっぱりした」

 トウマは夕食後のお風呂を満喫し、自室へと戻るため廊下を歩いていた。
 歩きながら今日の勉強会の事を思い出していた。

「ルークの一件後、クリスの不満が溢れ出てもう一戦付き合わされたんだよな」

 トウマは小さくため息をつく。

「(別に模擬戦くらい付き合ってやればいいじゃんかよな。告白の件があるからって、そこまで頑固に断る必要なくないか? それとも今の実力を見せたくないとかいう理由から断ったのか?)」

 そんな事を考えていると、あっという間に部屋の前に辿り着く。
 トウマは部屋の扉を開けようとすると、部屋の中から声が聞こえて来て手を止める。

「(ルークの奴、誰かと話してるな。部屋に誰か入れているのか。それじゃ、さすがにいきなり開けるのもあれだな)」

 そう思いルークは急に扉を開けずに、一度ノックをしてから開けようと思い扉をノックする。
 特に部屋の中から返事が返って来るのを待つことなく、トウマは扉を開けた。
 とりあえず「入るよ」という合図だけ送ろうと思いそうしていた。

「(俺の自室でもあるけど、一応何の話してるか分からないからな)」

 トウマが部屋に入ると何故か部屋の中は真っ暗で机の上にある明りだけ付けていた。
 思わぬ状況にトウマは驚く。

「何で電気つけてねぇんだよ!」

 と、ツッコんだ後明りの前にいるルークとその隣に立っているガウェンと目が合う。

「ってガウェンがいたのか。でルーク、何でこんな暗い中で話してるんだよ」

 そういいながらトウマは部屋の電気をつける。

「トウマも帰って来たし、俺はこれでおいとまさせてもらうよ」
「おいとまって」
「ああ、悪いなこんな時間まで」

 ガウェンは軽く首を横に振った後、トウマに「じゃましたな」と声を掛け部屋を後にした。
 ふとトウマはルークの机の上に目を向けると、そこにはいくつもの魔道具が置かれていた。

「何してたんだよ、あんな暗い状況で」
「ん、ああ魔道具のチェックさ。魔力を流しての状態チェック。微かに光るようにしての確認だったから、明るいと見れなくてな」
「ふ~ん、そっか」

 トウマは自分のベッドに腰かける。

「あ、そうそう今日お前が断ったから、あの後大変だったんだぞ」
「今日? 何の事だ」
「何のってお前な、忘れたのかよ。クリスの模擬戦申込の件だよ、あそこまで頑なに断らなくてもよかったろに」
「あーその事か。まぁ色々と俺にもあるだよ」
「色々って、たかが模擬戦にか? クリスの奴また明日申し込んでやるとか息巻いてたぞ。ありゃ、受けるまで続くぞたぶん」

 ルークは机の上の明りを消し立ち上がる。
 そして準備していた着替えやタオルを手に持つ。

「それじゃ少し考えとくよ。じゃ、俺は風呂に行って来る」

 そう言い残しルークは部屋を後にすると、トウマは頬杖をする。

「本当に考えるのかね、あいつは」

 トウマがルークの態度に不安を口にした翌日、ルークはクリスから模擬戦の再申し込みをあっさりと受け入れるのだった。
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