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第500話 三月一日

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 ――王都襲撃事件から十一日が経過。


 月日は変わり、三月を迎えた。
 王都メルト魔法学院には、日常が戻りつつあり学院生の間では最終期末試験についての話題で持ちきりであった。

「やべーよ、マジでやべーよ」
「今更何を焦ってるんだよ、ライラック」

 ライラックは頭を抱えながら教室へと向かい、その隣でアルジュが教科書片手に声を掛けていた。
 そこへ小走りでシンリがやって来てライラックの肩を叩く。

「なに頭抱えてるんだよ」
「言わなくても分かるだろ。試験だよし・け・ん!」
「はいはい、最終期末試験ね。一時はどうなるかと思ったけど、正式にやる事になったみたいだね」
「あんな事もあって今年はなしだと踏んでいたんだよ、俺は」

 その言葉にアルジュは軽く肩をすくめ、シンリは「分からなくないけど、さすがにやらないはないでしょ」と苦笑いで答えた。
 三人はそこで教室に到着すると先に教室にいる皆に挨拶をし、それぞれの席へと向かって行く。
 ライラックが席についても頭を抱えていると、リーガとトウマがやって来て話し始める。

「さすがに俺でも勉強ともちろん筋トレもしてたぞ、ライラック」
「筋トレはどうでもいいよ。てか、聞いてねえしお前勉強してたのかよ、この裏切り者が」
「勝手にやってないお前が悪いだろ」

 リーガとライラックが互いに言い合いを始めると、すぐにトウマが仲裁した。
 仲裁に入ったトウマに対してライラックはジトっとした目で見つめる。

「な、何だよ?」
「お前も仲間だと思ってたのに、成績よくなりやがって!」
「急に褒めるなよ、ライラック」
「褒めてねえよ!」

 そんないつもの様に三人でたわいもない会話をしていると、シンリが再びやって来て会話に参加し始める。

「試験は来週の八日からだし、ライラックもまだ勉強すれば全然間に合うよ。最終期末試験の学科は範囲が狭いからさ」
「さすがに留年はしたくないし、やるしかないな」

 ライラックが勉強に対して前向きな姿勢になる中、トウマは最終期末試験の実施が決まるまでを思い出す。
 最終期末試験は、前日の王都襲撃事件により一時延期になっており、更には学院内でもある事件があり試験自体どうなるかと囁かれていた。
 だが、つい二日前に正式に実施日と内容が決定され通知されたのだ。

「にしても、試験やるのはいいけどよこの先この学院どうなるんだ?」
「僕が得た情報によると、ひとまずは保留になったみたいだよ」
「教員たちの盗み聞きしたのか?」
「トウマ、言い方。偶然通りかかった所でそんな話をしているのが聞こえただけだよ」

 そのままトウマたちは、ここ数日で起きた学院での事件について語り始めた。
 王都襲撃事件後、王都内では王国軍に不信感を抱く者が増えた流れか現国王に対しても疑念を抱く者も増え、様々な声が王へと向けられた。
 立て続けに王都が襲われ人々も危険な目に遭わされたとし、退き新たな王とすべきだという声も出ていた。
 そんな中事件の中心になったともいえる学院側にも、保護者や周囲から批判的な声が出たのだ。
 それらの声に対し学院長であるマイナは真摯に受け止め、事件の事を重く受け止め自ら辞職することを決断するのだった。
 更には副学院長までも自ら辞職すると口にし始める。

 今回の事件は学院側の警備態勢にも問題があり、警備を強化したのにも関わらず事件が発生してしまったので、その責任を取るためだとマイナは語る。
 副学院長のデイビッドは犯人に入れ替わられ生徒に危害を加えた事、副学院長としての学院長だけの責任ではないと判断し同じく辞職に至ったと説明した。
 この話は全教員内だけでまず行われたが、一部の生徒が盗み聞きしその話が一気に学院に広がっていたのだ。
 もちろん何かしらの対処は必要だと教員方も考えていたが、そこで現在学院のトップとその次席に辞められても次のトップなど決められないし、今後の学院運営もどうするべきかに困るので反対をした。
 マイナはデイビッドの辞職はその場で初耳だったため、さすがに教員たちの意見も分かるがデイビッドも責任感が強い人間であるとマイナは分かっている為、デイビッドに対して辞職をするなとも伝えても納得しないと思い、改めて全教員と今後の話し合いの場を設け方針を話し合ったのだった。
 結果的に一時的にマイナとデイビッドの辞職は保留となったが、将来的には辞任するとし継ぎ手の育成を早急に行い、育った時点で交代すると決まりそれまでは、学院側の最終的な判断などは今まで通り、マイナが下すことと決まるのだった。

 次に最終期末試験の問題についても話し合いが行われ、それに関して保護者からの転校の話しも来ていると議題に出した。
 転校についてはこちらとしても、親の気持ちや生徒の考えもある為一度話し合いを行った後協力できる事は協力する方針となる。
 更には、マイナとデイビッドが他の学院にも今回の転校についての話を通し、希望される方との話し合いの席を設ける様に動くと決めるのだった。
 王都での今回の事件は既に公にされており、一部の個人名などは伏せられているが王国全体に既に知れ渡っており、他の学院も状況を理解した上で話を聞いてくれるだろうという判断とこれまでの付き合いでマイナとデイビッドは動く事を判断していた。
 最終期末試験の内容については、学科試験の方は予定通りだが実力試験に関しては学院外で予定した試験を変更し第一期期末試験で行った実力試験と同じ形式をとる事に決定された。

「細かい話とかは、さすがに分からないけどとりあえずは大丈夫なんじゃないかな?」
「どっかの下のクラスでは転校するかもって話が出てるらしいぞ。昨日寮の後輩がそんな話をしてたけど」
「王都が今あんな感じだし、不安になる人はそんな考えも出るでしょ。外出も今は禁止だしさ」
「なんだかんだ学院も大変な状況だけど、王都も王都で一大事だよな。まさか、ハンス国王があんな宣言するとは俺は思わなかったぞ」

 リーガがそう語るとシンリは「僕は最善な気がするな」と口にし、トウマは「俺はなんともだな」と答えるがライラックは何なのかピンと来てない表情であった。
 その表情にリーガがつっかかり二人の言い合いが始まり、トウマは小さくため息をつくと教室にルークがやって来た所が目に入る。
 トウマはその場をシンリに任せ、ルークの元に向かった。

「今日から復学かルーク」
「復学ってほどじゃないだろ。たった五日いなかっただけだぞ。お前からしたらルームメイトがいなくて、一人でゆっくり出来たろ?」
「たしかに満喫はしたけど、お前がいないっていうのも何かなれなかったよ」
「……悪い、俺はお前の気持ちには答えられないから別の奴を当たってくれ」
「っ!? バ、バカかお前は! そんなんじゃねえよ! 親友の心配をそんな風に受け取るんじゃねえよ! たっく、心配して損したわ」

 トウマが両腕を組みそっぽを向くと、ルークは「悪かったよトウマ」と返し自席へと向かい始める。
 それを聞きトウマはルークに付いて行き、小声で問いかけた。

「その、お前はこれからどうなるんだ? ほらハンス国王がこの前宣言した――」
「親父の件か」

 ルークは自席近くで足を止め言い返すと、トウマは小さく頷いた。

「俺は兄貴とは違うから、今すぐに何かとはないからこのままさ。親父が王を退いてもな」
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