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第473話 結界内

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「レント隊長」
「ルーク様でしたか」

 レントはルークを見た後、周りにいた者たちを見回し直ぐにゲリライベント関連でやって来たのだと理解する。

「ここは私が対応する、君は他の場所の対応を引き続きしなさい」
「了解いたしました!」

 最初にルークたちを対応していた王国軍兵は、レントの指示によりその場から立ち去って行く。
 そのままレントが入れ替わる様に、ルークたちの前に立ちはだかる。

「それで、こちらに何用ですかルーク様?」
「分かって聞いていますよね、レント隊長。俺たちは結界内に入りたいんです。通してください」
「それは出来ません」
「何でですか隊長さん! 俺たち中に用があるんですよ。通してくださいよ」
「今起きているこのイベントを終わらせるには、それしかないんです」
「お願いしますわ。私たちを通して下さい」

 ダンデ、ロムロス、スバンがルークに続き訴えるがレントは変わらず「出来ません」と突き返すのだった。

「どうしてですか、レント隊長」
「今回の一件は既に単なるイベントではなく、何らかの攻撃を受けていると判断し王国軍として現在対処をしているので、一般人を近づけたくないのですよ。お分かりいただけたら、お帰り下さいルーク様方」
「それは出来ませんレント隊長。俺たちも簡単に引き返せない事情があるんです」
「ほお~それは何ですか? 学院に張られた結界の件ですか?」
「っ!?」

 レントからまさか学院の話が出るとは思わず、皆が驚くとレントは小さくため息をつく。

「知らない訳がないでしょう。詳細は分かりませんが、どんな事情があろうとここを通す訳には行きません」
「親父の指示ですか?」
「いえ、私の判断です。既にハンス国王には報告済みですよ。学院側にも遅れてですが、中隊長と小隊長の数名が向かっていると思いますので、王国軍に後はお任せください」
「あーもう! こっちはな時間がねぇんだよ! 命がかかってるんだよ、命がよ! 早く解除コードを手にしないと学院の中にいる奴らが――」
「スザク!」

 ルークはそれ以上ダンデに言わせない様に、咄嗟にスザクに止めさせる。
 スザクは直ぐにダンデの口元を覆った。

「解除コード? それに命がかかっているとはどういう事ですか? 詳しく教えていただけますか、ルーク様」
「っ……」

 その直後、結界内から一人の王国軍兵が結界内を叩きレントを呼ぶ。
 レントは直ぐに気付き、結界側へと視線を移す。
 ルークたちも何事かと目を向けた。

「どうした?」
「大変です! 隊長が、サスト隊長が内部で暴れ始めました!」
「何だと!? 誰かが刺激したのか?」
「それが突然自身の周りに、この結界と同類の結界を張ってその中で暴れ始めたのです!」
「(サスト隊長と聞こえな。ここの結界内にいる王国軍の隊長はサスト隊長なのか)」

 ルークはレントと王国軍兵の話している内容を耳にした後、今ならレントの目も盗め結界内に行けると思い、トウマたちに黙って手で合図を送る。
 その合図にトウマたちは黙って頷き、ゆっくりと結界側へと近付いて行く。

「それじゃ、今の所中の人々に被害は出ていないんだな?」
「はい。サスト隊長付近からは既に人々を避難させていますので、問題ありません。ですが、この後の対処をどうすれば……ん?」
「どうした、別の所に急に視線を向けて」

 レントは急に報告し来た王国軍兵が視線をずらしたので、その方に同じく視線を向けるとそこにはルークたちが、抜き足で結界へと近付いている姿が目に入った。

「っ! お前たち!」

 そう大声を上げレントが一気に距離を詰めて来て、行かせない為に捕らえようと手を伸ばして来る。

「うああ! どするんだよルーク!」
「そんなのもう突っ込むしかないだろうが!」

 するとルークはそのまま結界へと突っ走り、他の皆も同じ様に走り出す。
 トウマは入れるか分からない結界に突っ込むことに一瞬ためらうが、ここで一人捕まる方が嫌だと思い同じく走り出す。
 レントはルークたちに向けて、足を止める為に土魔法を放つ。
 それに対しルークは咄嗟に魔力創造で地面から壁を創り出し、魔法を防ぐ。

「行け、今のうちに結界内に!」

 ルークの言葉を受け先頭でダンデが結界に飛び込むと、特に弾かれる事もなくスッと結界内へと入り込む。
 それを見て続けてロムロス、スバン、次期副寮長たちも次々に結界内へと入って行く。
 そして残るはトウマとルークだけとなった所で、ルークが創り出した壁にひびが入り始める。

「トウマ!」

 ルークはトウマを呼び手を伸ばす。
 トウマはそれに対して自身の手を伸ばし、ルークの手を掴みに行く。

「ルーク!」

 そしてルークがトウマの手を掴むと、そのまま結界へと投げ飛ばしルーク自身も結界へと飛び込んだ。
 直後、壁が吹き飛びレントが飛び込むルークへと手を伸ばす。
 が、レントの手はルークの足をかすめて捕らえる事が出来なかったのだった。
 ルークは倒れるように結界へに入り込み、投げ飛ばされたトウマはダンデがキャッチしお姫様抱っこするのだった。
 レントは結界外からルークたちが結界内に入り込めた事に驚きつつ、結界を叩いた。

「(どうして結界を抜けられた? いや今はそれよりも、変に事態をかき回される訳には行かない)」

 ルークはすぐさま立ち上があると走り始める。

「行こう、皆!」

 その言葉を聞き、皆もルークの後を付いて行くが、ダンデはトウマを抱えたまま走り出すのだった。

「おい、降ろせよはずいだろうが!」
「遠慮するなトウマ! 任せとけ! 俺たちが一番乗りだー!」
「いやいいから、降ろせよー!」

 と、訴える声が聞こえたまま走り去っていく。
 結界内にいた王国軍兵は何事かと驚き、固まってしまっているとレントが声を掛ける。

「何してる! 早く追って捕まえろ!」
「は、はい!」

 固まっていた王国軍兵は急いでルークたちの後を追うのだった。

「くそ、ただでさえ私たちが手出しが出来ない状況で、ややこしい事に……」
「レント隊長、ハンス国王からの指示をお伝えにまいりました」
「戻ったのか。……分かった、場所を変えて先に聞こう」

 そうしてレントは遠くへと消えていくルークたちを見ながらも、一旦その場から離れていくのだった。
 その頃、王都メルト魔法学院ではタツミを筆頭にクリス、シンリ、ガードルと数名の教員で第一の結界内へと入り込もうとしていた。

「ここだ」

 タツミはそういって、学院西側の壁で足を止めるとそのまま壁へと向かって歩いて行く。

「タ、タツミ先生!? ぶつかりますよ!」

 シンリがそう呼びかけるもタツミは止まらず、なんとそのまま壁の奥へと消えていくのだった。

「っ!?」
「消えた!?」
「嘘だろ」

 私たちが驚いているとタツミが壁の中から顔を出して来た。

「壁に見えるが、ここだけ魔道具で映した映像だ。で、ここが俺が細工した場所なんだよ。とりあえず入って来てくれ」

 そう言いタツミは壁内へと戻る。
 私たちも恐る恐る壁へと近付いて行き、手を伸ばすと本当に何もなく手が壁を突き抜けるのだった。
 そのまま壁を通り抜けると、何事もなく学院内へと入り込める。

「うわぁ、本当に入っちゃったよ」

 そこは学院内でも茂みがある場所で、遠くからでも人影が見えずらい場所であった。
 そしてその場から、タツミが言っていた通り学院の校舎全体を囲うようにもう一つの結界が張られているのが確認出来た。

「あれが、第二の結界」
「ああ、そうだ。嘘じゃなかったろ?」
「そうですね」
「よし。それじゃ早速二手に分かれて、第一の結界を発生させている魔道具の位置の確認に移ろう」

 そうして、私たちは二手に変われて学院全体を覆っている結界の発生源である魔道具の正確な位置の確認作業をスタートさせた。
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