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第461話 悟るマックスと教えてもらえないシンリ

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 私たちはリアルな感じで作られた鹿の被り物が迫って来る恐怖に、少し退くと鹿が突然私たちの方を向いて来た。
 こわ……リアル過ぎて怖いんですけど……てか、何で黙ってこっち見てきてるのよ! 怖いって!
 私はそっと鹿から目線を逸らし、隣にいたシンリに話し掛けた。

「なぁ、何でずっとこっち見ているんだあの鹿」
「わ、分からないよ」

 そんな会話をしていると、鹿に手を掴まれたアルジュが鹿の方を見て、もう一方の掴まれてない手で被り物を叩く。
 叩かれた被り物はぐるんと回り真反対を向く。

「首がー!」
「何大声上げてるんだ、マックス。被り物だから驚く事ないだろ。それにノルマもいつまで黙って僕の手を掴んでるんだ」
「え、ノルマ?」

 その言葉を聞き、私たちは真反対を向いた鹿の被り物をしている人物へと視線を向けと、被り物をその場ですぽっと真上に脱ぎ取るのだった。

「急に被り物を叩く事ないだろ、アルジュ。君が誰かに手を上げようとしてたから止めに来ただけなんだから」
「本当にノルマじゃねぇかよ」
「何でノルマがそんなの被ってるの?」

 マックスは安堵の息をつき、シンリはノルマに問いかけた。

「えっと、俺もアルジュと同じ依頼を受けてるんだよ。それで、俺はこの被り物での客引きで、アルジュはこの格好での宣伝」
「そうだったのか」
「でも、その鹿で客引きとか大丈夫なのか? リアル過ぎて見つめられるだけで怖かったぞ」
「ケビンもそう思う?」

 ノルマはそういって被り物を私たちの方に見せつける。
 マックスはその被り物が苦手なのか「こっちに向けるなよ」と嫌がる。
 私も不気味な感じがして、視線を逸らした。

「実はこの被り物、視界も悪くて鮮明に見えないんだよね」
「もしかして、それでさっきじっと僕たちの方を見つめて来ていたのか?」
「ケビン、お前よくその鹿に見られながら話せるな」
「所詮作り物なんだから、そんな気にならないでしょ。マックスは気にし過ぎなんだよ」

 するとノルマ「ごめんごめん」といって、被り物を背後に回した。
 直後何故かアルジュがため息をついた。

「いいよなお前は。それ被ってるだけだし、代わって欲しいわ。僕なんてメイクさせられてこのダサい派手な服……もう最悪だよ」
「仕方ないだろ、くじ引きで決めたんだから。でも一番大変なのはヴァンだと思うよ」
「何、ヴァンも一緒なの?」
「うん。ヴァンは先に応募してて、そこに俺たちが応募した感じなんだ」
「で、ヴァンは何をしてるんだ? ちょっと気になるんだが」

 マックスの興味津々な表情を見て、ノルマがちょっと苦笑いしながらマックスを近くに呼び耳打ちした。
 それを聞いたマックスはスッと真顔になり、私たちの方を見て「お前らは聞くべきじゃない」と言って来た。

「え、何? 何やってるんだよヴァンは?」
「ダメだシンリ。それ以上はダメなんだ」
「何だよマックスだけ悟った感じで! ずるいぞ! 僕にも教えてくれよ」
「まぁ確かに、今のヴァンと比べたらまだこの格好の方がましか」
「だから何だよ! 気になるじゃんかよ、教えてくれよアルジュ! ノルマ!」

 シンリの訴えにアルジュはそっぽを向き、ノルマは苦笑いをする。
 するとシンリは私の方を向いて来て「クリスも知りたいよね?」と問われたが、雰囲気的に教えてもらえる事はないだろうなと思い興味はあるが「俺は、いいかな」と返事をした。

「何でだよー」
「ほらシンリ。ダメなものはダメなんだ。駄々をこねるのはやめなさい」
「その言い方なんだよ。マックスは僕の何なんだよ! ていうか、マックス雰囲気急に変わり過ぎでしょ! どんだけやばい内容なんだよ、気になって仕方ないから教えてくれよー!」

 そうシンリは叫ぶのだった。
 その後私たちは、アルジュとノルマにスタンプラリーをやっている事を話すと近場にスタンプ台が設置されている場所を教えてくれた。
 結局ヴァンが何をしているのかは教えてくれないまま、アルジュとはそこで別れノルマの案内でスタンプ台の所へと向かった。
 アルジュはこれ以上知り合いに見つかりたくないという理由で、その場から極力動かずに仕事を続けたいという理由で付いてこなかった。
 またノルマの方は、あの被り物を何故か被り私たちの先頭を歩いて行く。
 理由は依頼を受けている店の宣伝が仕事であり、背中に店の名前をぶら下げて宣伝する為少しでも注目を集めようと、被り物を被って歩くのだった。
 私たちは終始周りから変な目で見られつつも気にせずにいたが少しだけ、ほんの少しだけノルマと間隔を空けて私たちは後を付いて行った。
 その頃、王都メルト魔法学院の学院前には本日の学院内見学参加たちが続々と集まっていた。
 教員たちが人数確認や学院案内図を配布しながら、開始時刻まで待っていた。

「うん、人数の方は全員確認出来た。後はデイビッド副学院長が戻って来るのを待つだけだな」
「時間的にはそろそろのはずだが」
「そうそう、今日手伝ってくれる女子学院生徒の数人は、中で待機しているのか?」
「ええ、別の教員方と今日の最終確認をしている所です」

 と、数人の教員たちが本日の責任者であるデイビッド副学院長の帰りを待っていると、遠くからデイビッドが小走りで帰って来る。

「遅くなってしまい申し訳ない。準備はどうかな?」
「デイビッド副学院長。こちらは既に準備完了しています。デイビッド副学院長の方こそ、マイナ学院との確認事項はもうよろしいのですか?」

 教員の問いかけにデイビッドは頷いて答えた。

「急きょ私も舞台の方に付いて行く事になったが、用事も全て終わってマイナ学院長は向こうに残られるそうなので、私はこちらに行く向かうように伝えて来たので問題ない」
「そうですか。少し前倒しになった時は焦りましたが、デイビッド副学院長の手配のお陰でこうして無事に準備出来ました、ありがとうございます」
「いやいや、私は手配しただけで実際に行動してくれたのは君たちなのだから、お礼はなくて大丈夫だよ。それよりも早速始めて行こう」

 デイビッドの呼びかけに教員たちが「はい」と返事をした後、デイビッドが集まっている学院案内に参加する人々に声を掛け簡単な挨拶をして、今日の流れを説明する為に早速学院内の暖かい部屋へと案内し始めるのだった。
 それから三十分後に、本日学院案内を秘密裏にしたいという帽子を被った人物とサングラスを掛けた二名の人物がやって来る。
 既にその担当者も教員内で決めており、名前を確認した後その二人はデイビッドたちが向かった方とは逆の男子側へと担当教員を先頭にして、歩き始めるのだった。
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