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第439話 寮でのひととき

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「というのが、僕たちが知っている状況です。あくまで見た事と学院長と副学院長から教えられた話ですが」
「いや十分だ。こんな話をさせて悪いな」
「いえ、先輩たちこそ帰って来たばかりなのに、俺が勢い余ってあんな話をしてしまって」
「謝る事じゃない。逆に正確に状況をしれて良かったよ」

 トウマは後悔する後輩に優しく声を掛け、他の集まってくれた後輩にも声を掛ける。
 その姿を見て私は、こういう時のトウマはとても頼りになるなと改めで実感する。
 一方でルークもそんなトウマの姿を見て同じ様な事を思い、トウマが次期寮長で間違ってなかったと確信するのだった。
 その後集まってくれた後輩たちには部屋に戻ってもらい、リビング兼食堂には第2学年のみ残った。

「……ふー……まさか、今他の寮長と副寮長たちも全員学院にいないとはな」
「どういう状況なのか余計に分からんな」

 トウマのため息まじりの言葉にアルジュがそう続けて口にした。
 後輩たち曰く、うちの寮長と副寮長それにエメル寮の寮長と副寮長は同じ病院で入院中らしい。
 ダイモン寮とイルダ寮の寮長と副寮長に関しては、朝から王国軍に呼び出されているらしく学院にいない。
 しかも今日だけではなく、二日前から毎日朝から王国軍に呼び出されて学院から出て行っているらしい。
 理由は明確ではないが、襲撃事件時に事件の中心人物との戦闘に関与した事からその辺の事情聴取や状態の確認などを含め王城へと足を運んでいるのだとか。
 また真実は分からないが、後輩たちの中ではうちとエメル寮の寮長と副寮長も事件の中心人物と戦闘した結果入院しているのではないかと噂されていた。
 教員たちからはその辺の話はまだされておらず、病院にいる事のみ伝えられていたのだった。

「確か学院長は、明日事件についての話をするとか言ってなかったか?」
「言ってた、言ってた」
「もしかしたら、そこで後輩たちも含めて色々と説明されるのかもしれないな」

 フェルトの言葉に皆は軽く頷く。
 その後トウマとルーク主導で、後輩から聞いた話とこれまでの事件の話を簡単に整理し、今日はこれ以上事件について深く考えたりせずに、身体を休める事だけを考えるようにとトウマに後押しをされて一旦解散とするのだった。
 そして私もシンと共に久しぶりの自分たちの部屋の前に辿り着き、扉を開けた。

「何かここも懐かしく感じる」
「分かるよ、シン」

 部屋へと入り荷物を置き、私は部屋の換気を行う為に窓を開けた。
 それからは荷物の整理や洗濯する物を選別したり、お土産を机に出したりと修学旅行の思い出に暫く浸った。
 荷物整理などをしているとあっという間に日も沈み始め、夕方の学院のチャイムが鳴り響く。

「もうそんな時間か。シン、夕飯食べに行く?」
「うん。僕もだいたい終わったし、食べに行こうかな」
「久しぶりの寮のご飯だな。何食べようかな」
「今までバイキング形式が多かったし、ちょっとワクワクするね」

 私はシンとそんな会話をしながらリビング兼食堂へ向かうと、既にそこには数組が既に夕飯を手にし席に着き、雑談をしながら食事をとり始めていた。
 そして私たちも夕食を決めるためにメニューを見始める。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 皆が夕食の時間となり移動している中、トウマとルークは未だ部屋にいた。

「それでどうするんだ、ルーク?」
「どうするって?」
「何で質問で返すんだよ。決まってるだろ、オービン先輩の事だよ。教員に聞いて病院に行かなくていいのか? 家族だし聞けば教えてくれるだろ、さすがに」
「……そうかもな。でも今改めて思うが、兄貴は俺が心配しなくても大丈夫だと思う」

 ルークの返答にトウマは「どうしてそう言えるんだ?」と問い返す。

「もし、兄貴の身に何かあれば必ず俺にも連絡が来る。でもそれもないって事はひとまず大丈夫って事だ。それに、タツミも今頃兄貴の所に行ってるはずだ。変に心配して慌てる必要はないと思ったんだよ……さっきは動揺したがな」
「そっか……ルークのいう事も一理あるかもな。でも、会えるなら一目くらい行った方がいいと思うぞ、お節介かもしれないが」
「ああ、明日タツミがいれば聞いてみるよ。心配してくれてありがとうな、トウマ」
「家族の心配をするのは普通の事だろ」

 トウマは笑ってそう答え、ベッドに横たわる。

「にしても、オービン先輩にミカロス先輩、ヒビキ先輩全員が病院にいるとはね。そこに更にエメル寮長、スニーク副寮長も負傷して病院とは今でも信じられねえな」
「そうだな。戦闘をした状況次第だが、相手が強かったまたは、ハンデを負うような状況であったと考えるべきかもな」
「なるほどね。戦いは試合じゃないって事だよな。心の準備が必ずしも出来ている訳じゃないもんな。もしその場に俺が遭遇したら、どうしてるかな……ルークだったらどうするよ?」

 その問いかけにルークは直ぐには返さず、暫く黙っているとトウマは起き上がり「ルーク?」と呼びかける。

「……俺だったら、戦うかもしれない」
「まぁ、そうだよな。お前ならそうしそうだもんな」
「でも、その時は冷静じゃいられないと思うし、王国軍がいたらその人たちに任せて逃げるかもしれないな。いや、それが取るべき正しい行動だろうな。間違っても素人がそんな戦闘に首を突っ込むべきじゃないな」
「確かに、俺たち一応まだ学院生だしな。そういう事に対処すべき専門の人がいるんだから、その人に任せるべきだよな」

 そこでその話は一旦終わり、部屋は静寂に包まれる。
 するとトウマはベッドから立ち上がり、ルークに近付き声を掛ける。

「飯、食いに行こうぜルーク」
「……ああ」

 ルークはそう答えて座っていた椅子から立ち上がる。
 トウマが先に部屋の扉まで向かい、部屋を出ると遅れてルークも部屋から出る。
 扉をトウマが閉め、一緒に食堂へと向かいながらトウマは夕食の話をルークに振る。

「久しぶりの寮の飯、何食うか決めてるかルーク?」
「特には」
「何だよ、決めてないのか? 俺はな、もちろん肉メインの食事だ。ガツガツと行きたい気分なんだよな~」
「そうか。あんまり下品に食べるとクリスに嫌われるから気を付けろよ」
「え、俺そんな食い方下品?」
「普通だと思うが、人それぞれ見え方はあるだろ? クリスから見たらって事もあるからよ」
「そこ気にしてなかったわーって、何で今更忠告してくれるんだよ」
「だって、今更言ってもクリスの印象は変わらないだろ?」
「お前、そういう所意地悪だな」
「意地悪で結構。俺とお前はライバルなんだろ?」

 その言葉にトウマは軽く目を見開くが、すぐに「こういう時にしか言わねえの、ズリいぞ」と軽くルークの肩に拳を突き当てる。
 ルークはそれに対して小さく笑うのだった。
 そしてリビング兼食堂が近くなってくると、何やらざわざわとしており二人は何かやってるのかと思い、歩く速度を上げてリビング兼食堂に到着する。
 するとある所にほとんどの人が集まり、人だかりが出来ていた。

「何だ。何してるんだ、あれは?」
「さあな。あ、ガウェン」

 そこに丁度ガウェンが通りかかったので、ルークが声を掛けるとガウェンが足を止める。

「あれ、何してるか分かるか?」
「ああ、あれな」

 ガウェンの返事から事情を知ってる感じだったので、二人はガウェンの方を向く。
 すると思わぬ答えが返って来たのだった。

「病院にいるはずのヒビキ先輩が、寮に帰って来たんだよ」
「「……え?」」

 二人は同時に同じ言葉を口にした。
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