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第426話 強要

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「オービン様!?」
「グーゲンベルさん、お久しぶりです。援護に来ました」

 そう口にするオービンであったが、周囲にはオービン以外に新しい兵士などは見当たらなかった。
 既にグーゲンベルは、部下たちには人々の安全を護るようにと指示を出して下がらせていたので、兵士がいればすぐに分かる状況であった。

「何だ、お前は?」
「ただの王都の人間さ。お前を捕らえに来ただけのな」

 直後、ジーニンの足元の地面が柔らかくなり、沈み始める。
 ジーニンは抜け出そうとするも、周囲の地面も同じく柔らかくなっており、手を付いて踏ん張っても逃れらない状況であった。
 するとジーニンは腕を反対側の壁に向けると、腕の鎧を変化させ槍の様に伸ばし、反対側の壁へと突き刺した。
 そのまま突き刺した槍へと向かい、自身の体を引き寄せる形で地面から抜け出す。
 だが、空中で無謀になっている姿をオービンが見逃さないはずはなく、既に魔力創造で弓を創り出しており、弦と矢は魔力とし力一杯引っ張りジーニン目掛けて凝縮した魔力の矢を放つ。

「ぐっ!?」

 放たれた矢は、ジーニンの横腹部を貫通し宙にいたジーニンはそのまま、落下して壁に激突する。
 ジーニンは撃ち抜かれた横腹部を抑えながら立ち上がる。

「(嘘だろ……俺の鋼鉄の鎧を魔力程度の矢で撃ち抜かれただと? 何者なんだ、あの男!)」

 そうオービンの方を睨むと同時に、二射目が既に放たれており目の前に先程貫通させられた魔力の矢が迫っていた。
 咄嗟に反応に避けるも、完全には避けられず右肩を貫通してしまう。

「ぐぅっ!!」

 想像以上の激痛に、ジーニンはその場で膝をついて撃ち抜かれた右肩を押さえる。
 ジーニンは痛みに耐えつつも、立ち上がろうとした瞬間だった。
 左脚腿をオービンが魔力の矢で撃ち抜いたのだった。

「ぐうあぁーー!」

 叫び声を上げながらジーニンは横に倒れてしまう。
 そのまま痛みに耐えられないのか、叫び声を上げ続けるのだった。
 その光景にグーゲンベルは目を疑った。
 先程までほぼ攻撃の通らなかった相手が、たった数回の攻撃で地面に倒れている姿が信じられず、更には相手をそれほどまで簡単に追い込んだオービンの力に驚いていた。

「(これ程までなのか、第一王子の実力は……)」

 オービンは黙ったまま苦痛の声を上げ続けるジーニンを見つめ、再び弓を構えると魔力の矢を生成し始める。
 矢を生成すると弓を引き、ジーニンの右脚に狙いを定め始める。

「(鎧に対しての付与魔法なら、純粋な魔力かつ相手の魔力より質の高い物なら攻撃を与えられる。だだ、かなりの魔力消費だから俺にとってはきついが、あと一撃あそこに放てれば)」

 そうオービンが矢を放とうとした時だった。
 突如視界が歪み始め、全身から血が引く感覚に陥る。
 その結果、狙いがぶれてしまい放たれた矢は全く違う方へと放たれてしまい、オービンは立ってらずに急にその場にしゃがんでしまう。
 まさかの出来事に、グーゲンベルは驚きヒビキも俯いていたが、グーゲンベルの慌てように異変に気付き顔を上げ目を疑った。

「オービン?」
「うっ……」
「オービン様! 大丈夫ですか?」

 オービンは片手で頭を抱えており、見たことのない姿にヒビキは言葉を失っていた。

「(おいどうしたんだよ、オービン……何だよその姿はよ。そんなのお前じゃねえだろ。そんな姿誰にも見せた事ねえだろが。さっさといつもみたいに、すかした感じで立てよ)」

 だが、ヒビキの思いが届く事はなくオービンは未だにその場でしゃがみ込んでいた。
 隣でグーゲンベルは心配する声を掛け続けるも、壁に貼り付けられてしっており、それから抜けられずにもがいていた。
 一方でジーニンはオービンたちの異変に気付き今のうちに態勢を直そうと、足を引きずりながら移動を始める。

「(何だか知らねえが、今はこの痛みをなくすのが優先だ)」

 そしてオービンはまだしゃがんだままで、周囲の声などが聞こえずらくなっている状況であった。

「(こんな時に……やっぱり魔力を急激に使い過ぎたか。視界も歪んでぼやけるし、声が何となく聞こえるけど遠い。体にも力が入らないし、これはかなりマズイ……)」

 この時オービンは魔力消失症の症状が出てしまい、一時的に動けない状態になっていた。
 だが、ふと通院している先で突然症状が発生した際に、抑える薬をもらっていた事を思い出し、ポケットを探そうとするも頭痛も始まりそれどころではなくなってしまう。

「(ここにきて……頭痛……かよ……)」
「おい、オービン! いつまで休んでるんだ! あんな現れ方してて、だせぇぞお前!」
「なっ! なんて事を言うんだヒビキ! オービン様はな――」
「知ってるよ! でも今はそんなの関係ねえんだよ! 俺の知ってるオービンは、あんな情けない姿を見せねえんだ!」
「(何だか分からないけど、ヒビキの声がするな……)」

 オービンは頭痛などに耐えつつ、軽く後ろを振り返る。

「お前がどんな状態かしらねえがよ、俺の前でそんな姿をさらすんじゃねえ! 俺の前では完全無敵のいつも姿をしてろ! オービン!」
「(何だか……無茶な事を言われてる気がするな……)」
「皆が頼れるオービン・クリバンスに弱点はない、膝をつく事もない、弱さを見せない皆の理想を壊すな! お前はそうやって皆に接して振る舞って来たんだろうが! だから、最後までそれを突き通せよ! 倒れるなら誰も見てない事情を知ってる奴の前だけにしろ!」

 ヒビキは声を上げながら、張り付けされた状態から前へ前へと出ようとし、そのまま力強く引き破る様に張り付けから抜け出し始める。
 服はボロボロになり、腕や脚からも血が流れ出ていたがそんな事気にせずにヒビキはオービンへと近付いて行く。
 そしてヒビキは、しゃがむオービンの胸元を両手でつかむとそのまま立たせる。

「理不尽だろうが関係ねえ。立てオービン。俺はお前のそんな姿を見たくねえんだよ」
「っ……こっちだって好きでやってねえよ」
「なら立て。いつもみたいに振る舞え」

 そこでヒビキがオービンから手を離し、オービンは何とかその場で耐えて立つ。
 そして痛みを堪えながらポケットに入れていた症状止めの薬を取り出し、勢いよく口へと入れ飲み込む。
 直後、オービンが再び倒れそうになるとヒビキが黙って片手で掴み、支える。

「悪いなヒビキ……今日は足がふらついてな……」
「……歩いて鍛えろ」

 そして薬が効き始めたのか、オービンはフラフラせずに立ち始めヒビキと並びたち、ジーニンへと視線を向けた。
 ジーニンは何故かこちらに背を向けた状態で壁の方を向いて立ち上がっていた。

「オービン、俺は何もしないぞ」
「その状態見れば、分かるよ。必ず次で決めるから安心してくれ、ヒビキ」
「そんな心配なんかするかよ」

 すると突然ジーニンが振り返ってくると、全身獣の様な鎧へと変化してこちらを威嚇する様に叫び出す。
 そのまま、オービンとヒビキ目掛けて一瞬で距離を詰めて来る。
 鋭い爪先が二人を襲う。
 が、オービンが手を払うとジーニンの鋭い爪先は斬り落とされ、オービンは頭部を鷲掴みにすると地面へと押し付けた。
 頭部を抑え込んだまま、魔力創造で四肢を固定し、更には魔力技量で周囲の地面を削り軽く宙づり状態にする。
 そして頭上から魔力質力で質の高い魔力の矢を五つ作り、ジーニンの四肢と腹部目掛けて振り落とす。

「ぐあぁ!!」

 最後にオービンは右拳に魔力を集め始め、一気に凝縮するとジーニンの顔面目掛けてアッパー気味に叩き込むのだった。
 ジーニンはその一撃で意識が吹き飛び動きが止まる。
 その姿を見てオービンは小さく呟くのだった。

「何でこんな奴が王都に……」

 そして結界に覆われる王城を見つめる。

「(父上、母上、無事ですよね?)」
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