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第418話 先手

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 王都内で迅速に王国軍の配備が進められ、王都外と内部に王国軍8部隊が配備された。
 王都外には、レント隊・ウェックス隊・シレス隊・サスト隊の4部隊が進行してくるとされる北部に各隊長と数名の部隊兵を配置。
 それ以外の方角にある王都入口には、各隊の中隊長と小隊長をその4部隊で配置し、全方位で警戒を行っている。
 一方で王都内では、グーゲンベル隊・インベル隊・ザべッシュ隊・ポーレスト隊の4部隊が四人一組のチームを組み、各所重要施設や街中の警備を始める。
 更には、8部隊の隊長同士で連絡取り合えるように通信用魔道具も渡されており、また各部隊内でも中隊長・小隊長との連絡をとれる通信用魔道具も持たせて直ぐに連絡を取り合える状況となっていた。
 ――ユンベールからの敵対勢力到着まで、残り四時間。
 時刻は昼下がり、王都内では未だユンベールからの侵略がある事が伝えられておらず、人々は賑やかに過ごしていた。
 その頃、王都外の北部に配置されている4部隊が、各部隊ごとに定時連絡を隊長が行っていた。

「了解した。ガビル、ペイル班にエス、ユイロン班そしてギーナ、レイヴァン班共に現状問題なしだな。ああ、こちらも今の所敵影は確認出来てない。では、また何かあれば連絡を、次の定時連絡は一時間後。以上」

 そうサストが口に通信用魔道具に向かい話終えると、自分の部隊のメンバーへと視線を向ける。

「よし改めて現状確認だ。ここには20名の私の部隊に、他3部隊のメンバーを足して約100名近くはいる。各自作戦は頭に入っているな?」
「「はい!」」
「ではベルヴァティ、作戦概要を」

 当然指名されたベルヴァティは、今回の作戦内容を緊張しながらに口にし始める。
 今回ユンベールからの侵略に対し、王都外の4部隊に与えられた作戦は三つだ。
 一つ目は王都に決して敵対勢力を入れない。二つ目は、降伏宣言を相手に出させる。最後の三つ目は、必要以上な攻撃は絶対にしないという事であった。
 現状ユンベールはインクルと名乗る者が乗っ取っている可能性が大きく、相手側の何らかの力で強制的に従わされている人間もいると判断したのである。
 その判断をしたのは、ハンスであるが過去に王都襲撃事件があった際にも類似した件が報告されていた事から、その可能性も含めてハンスは判断をしたのであった。
 また、こちらの態度としては防衛であり、極力相手の無力化を行う事に重きを置くとも決めたのである。
 それが簡単な事ではない事は承知しているが、なるべく捕縛し今回の一件で相手の真意を知る為であり、また裏で糸をまだ引いている相手がいるかもしれないと想定しその様な判断も下したのだった。
 ハンスは無茶なお願いだと思いつつも、各部隊長にそう指示をしたのである。
 それらの内容から、今回王都外の4部隊が立てた作戦はシンプルであった。
 敵対勢力を確認次第、降伏宣言を促し従うのであればそのまま捕縛し、聞かない様であれば各隊長が強力な威嚇攻撃を実施。
 その他の兵は力や能力に応じて、防衛専念や隊長たちの補佐役として立ち振る舞う事になっており、もし戦闘になった際には隊長たち筆頭に行われる作戦となっている。

「大まかではすが、作戦概要は以上です!」
「よし。それだけ理解していれば問題はない。が、実戦では何が起こるか分からない。臨機応変に対応出来るように周囲での確認を怠るな。では各自持ち場にて待機」
「「はい!」」

 その後サストは離れて行き、他の隊長たちの所へと向かって行く。
 サスト隊の王国兵たちは、サストに言われた通りに各自持ち場へと戻り始める。
 その中に、アバンの姿もあった。

「アバン」
「ん、どうしたベルヴァティ?」
「どうしたじゃねぇよ。どうして、そんな冷静なんだよお前」
「そうか? 俺も内心ドキドキして気持ち悪いぞ」
「そう見えねぇって! あ~やばい、まさかこんな事になるなんてよ」
「軍に入っていればいつかは直面する事だろ? それに俺たちは以前にも、緊急任務にも同行したろ」
「いや、そうだけどもよ。そん時とはまた違ったって言うか、あーとりあえず、どうすればお前みたいに冷静になれるんだよ?」
「だからお前と同じって言ってるだろ。不安なのは分かるが、考えない様にしているだけだ。俺たちは防衛、相手を王都に入れない様にする事だけを考えればいいんだ」
「ま、まぁ確かにそうだな……スーハ―……よっし! 切り替えろ俺! 俺なら大丈夫、アバンもいるし何てったって隊長が最前線にいるんだ。これだけ頼もしい事はないだろう」

 そうベルヴァティは、独り言を呟きながら自分を鼓舞して持ち場へと歩いて行く。
 アバンはその姿を見てから、ふと隊長たちへと視線を向ける。

「王国軍トップである4部隊の隊長が最前線で指揮をとり、戦うんだ。油断してる訳じゃないが、よっぽどの事がなければユンベールに勝ち目はない。それに、もうすぐ予定では王都内で国王から王都にいる人々にアナウンスを行う時間だ」

 ハンスは王都内にいる人々を混乱させずに、戦いから避けさせる為に事前にアナウンスを行い人々を誘導する事にしていた。
 突然ユンベールとの戦いがあると伝えれば混乱が起こるのは目に見えている為、模擬訓練という形で人々には一時的に王国軍の指示に従い、安全な場所に避難してもらう手筈を整えたのである。
 が、急な事で必ずしもそれが上手く行くとは思ってはいなかった。
 しかしハンスは何もせずに待ち続けるのでは、何かあってからでは遅いと考える人であった為、自分が行える最大限の行動をしようとアナウンスの実施を決めたのであった。

「(現状各門も整備という事で、封鎖している。後は王都内でどれだけの人が国王の言葉に耳を傾け、動いてくれるかだな)」

 そしてアバンも持ち場に戻り、王都近くでアナウンスが聞こえるを待っていたが、時間になっても一向にアナウンスが聞こえてこない事に疑問を持ち始める。
 それは他の王国兵たちも同じ気持ちであり、何故アナウンスが聞こえてこないのかと近くの兵士に声を掛けたりし始めていた。

「(おかしい。既に予定時刻は過ぎているのに、一向にアナウンスが聞こえない。例え王都外だとしても、この距離でならアナウンスは聞こえるはずだ)」

 アバンは直ぐに隊長たちへと視線を向けると、隊長たちも異変に気付き通信用魔道具で王都内にいる隊長と連絡をとっている姿が目に入る。
 その直後だった、偵察部隊からの連絡が隊長たちに入りレントが声を上げた。

「どういう事だ! 想定の到着時間よりも四時間も早いぞ! 見間違えとかじゃないのか?」
「レント落ち着け」
「落ち着け? ふざけるなサスト! 敵が目の前まで迫って来ているんだぞ! しかも想定よりも早すぎる速度で! おかしいだろうが! それに王都内のアナウンスもない。何かもう起きていると考えるのが、妥当だろうが!」
「っ……そうかもしれないが、俺たちが焦ったら――」

 と、サストが言葉をかけようとした瞬間に、王都内の中心部のみに結界の様な光が突然上がる。
 異様な光景に隊長たちは直ぐに気付き、その周辺にいた兵士たちも視線を向けて固まってしまう。
 一方で王都近くで待機していた兵士たちは何が起きているのか分からずに、皆が見ている方へと移動し始めてしまう。
 ベルヴァティも気になってしまい、皆と同じ様に動くがアバンは皆とは逆に王都内へと入り、状況を確認しようと咄嗟に判断し独断で動く。
 そしてアバンが王都に入り目にしたのは、王城付近だけが結界に囲まれている状況であった。

「な、何だあれは?」

 アバンはそれを確認し、直ぐに戻ろうとしたが目の前に今目にした王城にされている結界と同じ物が、王都内と外の境界線で発生していたのだった。
 すぐさま王都の外側を見回し、結界の光が上空にまで伸びているのを目にし、アバンは完全に王都内外で結界で分断されたと理解する。
 王都外にいた隊長たちも結界に気付いたが、既にその時には完全に分断されてしまいもう中へと入る事は不可能になっていた。
 魔法や武器など破壊可能かを試すと、どれも失敗してしまう。

「王都内の奴らとも連絡がつかない」
「やられましたね……これは完全に先手をとられましたね。既に相手方は、潜伏していたって事ですよね」
「でも、ここへ向かって来るユンベールの一団がいるのは確かだろ? 何故わざわざ分断させる? 内部の戦力は確実に外側よりも低くなるだろ?」
「分からない。内側との連絡がつかない現状では、内側に敵の戦力がどれだけいるのかも不明だ。こちらに向かってる人数が多いのは確からしいが」
「ちっ! とりあえず今俺たちが出来るのは、ここに向かって来るユンベールの一団の相手をする事だけだ。幸い内側にも半分の王国軍部隊はいる」
「そうだな。それに、何故かアバンも内側にいるし、どうにか一方的な連絡にはなるだろう」

 そう言って、各隊長が結界の内側にいるアバンへと視線を向けた。

「(……これは、よかったと捉えるべきか、悪かったと捉えるべきか。状況的には内側との連絡役にはなれるという所かな)」
「アバン、そこにいる理由については後回しだ。現状、こちらの声は正常に聞こえているな?」
「はい、サスト隊長」
「よし。お前にはこれから王都内の状況把握に努めてもらう」
「サストの所の兵か。使えるものは全て使わないとな。他の隊長たちにこちらの状況も伝えろ」
「できれば、王城の様子も知りたいな」
「彼にこんな事を任せて大丈夫なのかサスト? 彼はまだ訓練兵で、正式の配属ではないんだろ。荷が重すぎるんじゃ」
「アバンなら大丈夫だ。私が保証する」

 サストのためらいのない発言に、他の隊長たちも反論する事はなかった。

「いいかアバン、訓練兵とか身分は今関係ない。お前はお前にしか出来ない事を今からやるんだ。お前にはそれが出来る力と知恵がある」
「サスト隊長……」
「アバン・フォークロス!」
「っ! はい!」
「王都内の状況把握兼こちらの情報伝達の任を与える。早急に行動開始!」
「はい!」

 アバンはサストの言葉を聞いた後、王都内へと向けて走り始めるのだった。
 それを見届けたサストは王都に背を向け、ユンベールから向かって来る一団の方へと歩き始める。
 その姿に他の隊長たちも歩み始め、最前線で足を止める。
 すると、その場から遠くにユンベールからやって来たと思われる多くの人影が見え始める。

「来たな」
「私たちは私たちの任を全うするまで」
「口にしなくとも分かっている」
「さ~てと、一体どんな奴らがいるのやら」

 隊長たちは横一列に並び、後ろの兵士たちの意識を切り替えさせ準備を整えさせるのだった。
 一方で、王都に迫るユンベールの一団を引き連れて先頭で指揮を執っていたのはインクルであった。

「お、やっと見えたね~王都。それにもう始まっているようだね。それじゃ、こちらも急がないとね」

 インクルは一人そう呟きながら、薄笑いを浮かべる。
 その背後には、完全武装した兵士たちがただ無言で進行し続けるのだった。
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