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第414話 人差し指越しの

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 俺はアリスにある事を明かしてない。
 それは修学旅行中の二つの出来事だ。
 一つ目はニンレスでの事だ。
 あの時アリスとはぐれて、皆と手分けして探していた時だ。
 俺は偶然アリスとレオンが居る所を見つけて、何の話をしていたか分からないとしていたが、何となく雰囲気で察していた。
 というよりも、一度近付いた時にレオンが告白の様な事をしている雰囲気なのを目にして咄嗟に身を隠して様子を見守ってしまったのだ。
 その後、何事もない様に二人に声を掛けた。
 もう一つは、モ・サロでの事だ。
 リウェンク城の屋上へと向かい、景色を堪能した後に俺は一度室内へと戻った。
 が、直ぐに屋上へと再び出た時に視線の先で、トウマとアリスが話している姿を目にしたのだ。
 こちらも雰囲気からトウマが何かを打ち明けた感じがしたので、もしかしたら告白の様な事をしたのではないかと思っている。
 真実は分からないが、俺はそう思っている。
 これら二つの事はただの覗きに近いが、言い訳かもしれないがどちらも偶然遭遇してしまったものだ……まぁ、だから何だというのだが。

 要は、俺は自分が知らない所で、ライバルたちが好きな相手に対して行動を起こしているのを偶然見てしまった事で、俺は焦りを感じだのだ。
 元々修学旅行という、学院内とはまた異なった空間でアリスとの距離を詰めようと考えていたが、予想外の出来事で思う様な行動も出来ず、自分勝手に行動を起こしていいのかと考えてしまい、結果何も出来ずにいた。
 だが二人の行動を見て、このまま何もしないで終えるのはダメだと感じたのだ。
 アリスの状態を考えれば、自分勝手に相手に押し付けるのはよくないが、それはルールではないし、ただの言い訳に過ぎない。
 自分が何もしていない事に変わりはないのだと思ってしまったのだ。
 その結果、これから先に待っている未来が望まないものだったとしても、俺はその時に何もしていないのだから、そうなっても仕方ない当然の結果なのだ。
 何もしないという事は、皆同じようにそうしている訳ではなく、自分以外の誰かは進んでしまっている事なのだ。
 俺はそれを一番兄貴で実感していたはずなのに、競うモノが変わっただけでまだ何処かで違うと思い込んでいたようだ。
 どれにおいても、何においても立ち止まるという事は、誰かに遅れをとる事なのだ。
 さすがに、必ず足を止めずに進まなければいけない訳じゃないと理解はしているが、俺が競っているモノは一歩でも進まなければいけないものなんだ。
 たとえ一歩でも、数センチでも、数ミリでもいいから、誰よりも進んでチャンスを掴み取らなければいけない。
 そういう不平等な競争が恋愛なのだと俺は思っている。

 人によっては解釈や考え方は違うだろう。
 だが、俺はそう考えているし、考えを変える気もない。
 だから俺は、レオンとトウマの行動を見て勝手に解釈して焦りを感じたし、このまま何もしなければ俺は負けてしまうと思い、考えて考えて考えて今日行動に移した。
 が、所詮は考えた事は俺の都合のいい様に動く空想や妄想でしかないと改めて実感した。
 予定通りに二人になる事も出来ないし、こう声を掛けようという言葉も実際に相手を前にすると出てこないし、ためらってしまう。
 更にはそこで予想外の展開と来て、もう予定もなにもかもぐちゃぐちゃになってしまった。
 その時「あ~あ、何してるんだ俺は」と、これまで動かずにいた自分の行動を後悔した。
 が、そこで諦めては結局何も行動にせずに終わるのと同じだと思い、何でもいいから行動を起こせと自分を鼓舞した。
 そしたらチャンスが巡って来たのだ。
 俺は、素直に気持ちを伝えるのが苦手だが自分なりに気持ちを伝えるために、咄嗟に思っていた話から始めて強引に話の流れを変えて行こうとして、あんな話をしたのだ。
 結果俺は、不細工な流れながらも改めてアリスに対して好きという気持ちを伝える事が出来た。
 自己満足で自分勝手と思われても仕方ないかもしれないが、何もしないで終わるよりはマシだ。

「どう言われても構わない。ただ、俺の気持ちは変わらない。……俺は、アリスお前の事が好きだ」

 その直後、クリスは大きく目を見開いた。
 暫く互いに無言になったが、ルークは視線を外さずにいたが、先にクリスが視線を外し少し俯き独り言の様に言葉を口にする。

「……きゅ、急にそんな事を言うなよ」
「改めて俺の気持ちを伝えたかったんだ」
「改めてって、もう知ってるっての……」

 クリスはそのまま視線を外した状態で、少し耳を赤くして愚痴る様に呟いた。

「前に一度言ったろ。攻めて行くって」

 その時クリスは、第二期期末試験後にルークとの再契約の一件を思い浮かべていた。
 2度目の告白の返事や好感度を上げるためにアタックしていくなど、ルークから直接言われた事を思い出していた。

「っ……」

 そこでクリスは少しムスッとした顔をしてルークに背を向けて、両腕を組む。

「大事な話ってその事だったのか? 悪いとかじゃ、ないけど……誰かに見られたり聞かれていたらどうするんだよ! 全くよ」

 そう言いながらクリスは、何故かその時自分の鼓動が速くなっていた事を感じるのだった。
 ルークは「悪い」と一言謝った後、アリスの後ろ姿を見つめていた。
 そしてゆっくりとクリスに近付いて行き、両手を回して抱き着こうとしようとしたが、咄嗟に冷静になり両手を下ろした。
 その直後クリスが背後の気配に気付き、振り返る。

「ちょっ、近くない?」
「歩き始めるのかと思って、近付いちまっただけだ。別に何かしようとしてた訳じゃねぇよ」
「? 別にそんな事思ってないけど」
「っ……あー今のは忘れてくれ。何でもねぇ」
「はぁ」

 軽くクリスは首を傾げた後、前を向き小さくため息をつくと近くにある石造りの噴水の方へと歩き始める。
 ちょっと冷静になろうと、少しでも歩けば気晴らしにもなると思い足を動かし始めるのだった。
 一方でルークは、その場で足を止めてアリスから視線を逸らして片手を口に当てていた。
 あーやばい、やばかった……何やってるんだよ俺!?
 てか、急に抱きつきたくなるとか、気持ちおかしくなり過ぎだろ? 急にそんな事したらヤバすぎだし! 何考えてんだよ!
 ……もしかして、気持ちを口にした事で、変に蓋をしていた気持ちが抑えられなくなってるのか? いやいや、それじゃただ欲情したって事じゃねぇのか? そんな訳ないし! そんなんじゃない! ……じゃ、さっきのは何なんだ?
 そんな風にルークは悶々として、クリスの事を見ていなかった。
 クリスはクリスで石造りの噴水へと向かいながら、ルークの告白や自分の今の気持ちについて考えており、ぶつぶつと独り言を呟いて周りがあまり見えていなかった。

「あの事を忘れてた訳じゃないし……気持ちだってそんなに変化もない、はずだし……このドキドキは何か急に言われたからだと思うし……別に好きとか変に気持ちが変わったとかじゃ決してないし……あんな真っすぐに気持ち伝えられるとか、どんな気持ちなのよあんたは……」

 その時だった、遠くから一般人から貴重品を盗んだ窃盗犯だという叫びが微かに聞こえ、人にぶつかりながらも止まる事無くクリス目掛けて数人が集団になって走って来る。
 周囲の人はその集団にぶつかられて倒れる人や、文句を口にする人で少し騒ぎになっていた。
 だが、クリスはその存在に気付いておらず歩いていると、その集団がクリスの真横に突っ込んで来る。

「ちっ! 邪魔だ! どけ!」
「っ!?」

 そこでクリスはようやく人が突っ込んで来た事に気付くが、既に避けれる距離ではなく先頭で突っ込んで来た人物に、石造りの噴水側へと勢いよく突き飛ばされてしまうのだった。
 突然の事にクリスも体勢を保てず、倒れゆくがその先には石造りの噴水の角があり、このままでは頭をぶつけてしまうと理解する。
 しかし、既に体は倒れ始めており自分ではもうどうする事も出来ず、ただ思考がゆっくりになり石造りの噴水の角に頭が近付いて行くのを見る事しか出来なかった。
 あ……これやばい。
 それしか思うことが出来ず、クリスはぶつかる事を覚悟して瞳をギュッと閉じる。
 直後、クリスは石造りの噴水の角に頭をぶつけたとは言えない、あまり痛くない衝撃が体に走る。

「えっ?」

 クリスは直ぐに閉じていた瞳を開けると、何故か誰かに軽く肩を支えられて引き寄せられてその人の胸の中にいた。
 ふと視線を上に向けると、その人物がルークであると気付き声を上げる。

「ル、ルーク!?」
「はぁー、はぁー、無事だなクリス」
「何でルークが!?」

 その場でクリスはルークから少し離れると、ルークが先程自分がぶつかりそうに倒れて行った石造りの噴水の間にルークがやって来て、自分の事を助けてくれたのだと理解する。
 しかもルークの体勢からかなり無理をして助けてくれたのだと解釈する。

「助けてくれたんだね……」
「ああ。よそ見してるから、そんな事になるんだよ。ついでにぶつかって来た奴らも捕まえておいた」

 するとルークの視線の先で、先程ぶつかって来た集団が地面に倒れて、近くのつるに何故か絡まって身動き取れない状態になっていた。
 私は咄嗟に見て、ルークが魔法を使って捕えたのだと思ったが、原則外での許可のない魔法は使用禁止は何処でも共通ルールなので、ルークの方に視線を向けて小声て訊ねた。

「使った?」
「足を地面を少し盛り上げて引っ掛けて、近くにあったつるで偶然絡まる様にしただけだ。証拠は何も残してない」

 そう小さく呟き、ルークが左手を地面について立ち上がろとした時に、一瞬だけ顔がしかめる。

「もしかしてルーク、俺を助けるために無理な体勢をしてて怪我したんじゃ?」
「そんな訳ないだろ。ほら、普通だよ。ちょっと立ち上がる時に、石造りの所にぶつけただけだ」

 ルークはそのまま立ち上がり、両手を軽く振って問題ない事を見せつけて来た。
 私も立ち上がり、本人が問題ないと言っている事をこれ以上追求しても仕方ないと思い、念の為再度確認だけして「怪我なんてしてないよ」と返されたので、そこでその問いかけは止めた。
 すると遅れてその場に警備の人たちがやって来て、地面で身動きが取れなくなっている窃盗犯たちを捕らえ始めるのだった。

「まさか窃盗犯に遭遇して、突き飛ばされるとは」
「本当だ。何考えてたか分からないが、もう少し周囲くらい気にはしろよ。下手したら、また大怪我してたかもしれないんだからな」
「っ……ごめん。今回は俺が悪かったよ。助けてくれて、本当にありがとうルーク」
「分かってくれればいい」
「流石に今回ばかりは、迷惑かけたし無理して助けてくれたからお礼させてくれよ」
「お礼? いいって、そんなの」
「ダメだ! 体を張って助けれくれたんだから、何かお返ししなきゃ気が済まない!」
「だから、いいってそんなの。気にするな」
「何で遠慮するんだよ! 大怪我しそうな所から助けてくれたんだから、普通に人の好意は受け取るべきだろうが!」
「そんなのが欲しくてやったんじゃないんだから、いらないんだよ」
「そんな言い方ないだろ! お礼をするだけなんだから、素直にそれくらいは受け取れよ!」

 私は少しムスッとした表情でルークに伝えると、ルークも観念したのか言い返して来ることはなかった。
 その姿に私は「やっと折れたか」と思い、小さくため息をつくとルークが口を再び開く。

「……で、そのお礼っていうのは何でもいいのか?」
「何? 何か欲しい物とかあるのか? まあ、俺でも買える物なら別にそれでもいいが」

 珍しいな、ルークが何か欲しい物があるとか。でも、それはそれでお礼になるし、いっか。

「で、何が欲しんだよルーク? 置物とかか? それとも宝石とか言うなよ。それはさすがに無理だからな。あ~でも、アクセサリー程度なら買えなくもないぞ。いやでも、アクセサリーとか好きだったか? それとも――」

 と、私が勝手に話を進めていると突然ルークは私の前へと近付いて来て、そのまま私の口を止める様に右手の人差し指を軽く押し付けて来た。

「シー」
「っ!?」

 その直後だった、ルークはその人差し指に軽くキスをして直ぐに指を離して離れるのだった。
 人差し指越しであったが、完全に傍から見ればそれはキスをしている様にしか見えない光景であった。
 私は何が起こったのか理解出来ず、ただ呆然と軽く口を開けて立ち尽くしてしまう。
 そしてルークは、そのまま体を横に向けて耳を真っ赤にして小さく呟く。

「お礼はこれでいい」

 私はその言葉を聞き状況を理解し始め、徐々に顔が熱くなり火が出る思いをし両手で顔を咄嗟に覆う。
 い、い、今のって、その……えーーーーー!?
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