上 下
406 / 564

第405話 トウマの告白

しおりを挟む
「えっ……」

 トウマはその言葉しか出ず、何が起きているのかよく分からず立ち尽くすしかなかった。

「(何、どう言う事? 何が起きてるんだ!?)」

 次第に状況を理解し始め、おどおどし始めるトウマ。
 とりあえず冷静になろうと腕を組み、唸る様に考え始めて導き出した言葉は「もっかい、いいか?」というものだった。
 まさかの返しに、クリスはぱちぱちとまばたきをするが、直ぐにトウマは「今のなしなし!」と片手を振ってから大きく深呼吸する。

「(待て待て俺。ゆっくり考えろ……クリスはあの日の事を思い出して、それを素直に聞いて来ている……うん、しっかり聞き取れているじゃないかよ俺)」

 と、一人で勝手に頷く。

「(で、問題はその時の俺の告白紛いの件だよな……あーー! 何でそこを思い出すかなーー! 嬉しいような嬉しくないような、この複雑な感情っ!)」

 トウマは小さく変な動きをした後、動きを止め小さくため息をつく。

「……クリス、その質問に答える前に一ついいか?」
「あ、ああ」
「思い出したって言うのは、俺が好意があると言ってしまった時だけか? それとも……今までの全てか?」
「トウマとエルが話している光景だけで、全部は思い出してない」

 私の返事にトウマは少しだけ間を空けてから「そうか」と口にした。
 それからは互いに黙ったままであったが、トウマが何か決意した様な表情をし私の方を見つめて来る。

「クリス、俺があの時口にした事は本気だ」
「っ」
「嘘でも冗談でもない。本気で俺はお前の事が好きだ」

 真っすぐな目で自分の気持ちを口にして来たトウマに、私は一瞬目を逸らしそうになったが、耐えてトウマの方を見続けた。

「お前の正体を知る前から、好意の気持ちはあった。が、それは本当に合っているのかとか悩んだ時もあったが、今じゃ一時の気持ちの変化ではなくて、既にあの頃から俺はお前に魅かれていたんだ」
「……」
「……今、クリスにこんな話をしても迷惑だとは思うが、改めて俺の気持ちを知ってもらういい機会だと思ったから話させてもらった。あーあ、本当は全部戻ってから話そうと思ってたけど、待てなかったわ。ごめんなクリス、急に俺の話し聞いてもらって」

 トウマはそう私に申し訳なさそうに少しはにかむが、その時少しだけ手が震えていたのが目に入る。

「ううん、俺が訊き始めた事だし、謝らなくていいよ」
「そう言ってくれると、少し気持ちが楽になるよ」

 そう口にしたトウマは、私から視線を外して少し俯きながら苦笑いをする。

「あー俺、この景色も満喫したから、次は中の方に行こうと思うけどクリスは、まだここにいるか?」
「うん、もう少し見てから中に戻るよ」
「そうか。分かった」

 トウマはそのまま私の前から立ち去り始め、城の中へと続く方へと向かって行った。
 私はそんなトウマを最後まで見送らず、途中で前を向きここから見える景色に目を向けた。
 そして私はただ黙ったまま、その景色を見続けた。
 暫くしてから、私も城の中へと戻りルークたちを探し、合流するのだった。
 合流した時のトウマの様子はいつも通り明るく、変に何か遠慮する態度もなかったので、私も変に構えずに話をした。
 それから私たちは、リウェンク城内を観光し始めルークとシンが先に見ていた城内に作られた教会へと足を運び、そこに作られた精密に作られたガラス細工に驚愕したり、戦争時に使われていた武器庫やその当時の鎧や剣などの展示を見て回った。
 そして、リウェンク城の見れる場所を全て回り私たちは城を出て、再び城下町の方へと向かった。
 帰り道は来た道と同様にジグザグな道のりであったが、登り階段でなく下るだけであったので、来た時よりも楽に城下町へと戻れた。
 その際、帰り道は来た道とは一部違う所を通った事で、そこから見れる景色もまたリウェンク城の屋上とは異なるものであり、少しだけ足を止め景色を楽しんだ。

「ふぅ~城下町の方に戻って来た」
「そうだな。帰りは行より楽だし、景色も見れて良かったね」
「そう言えば、途中で城の方に向かうニックたちを見かけたぞ」
「お~それは大変だな。これからあの道を上って行くのか……想像しただけで辛いな」

 ルークの話にトウマは勝手に口に出し想像して、少し疲れた気持ちになる。

「それでこれからどうする? まだ、時間はあるけど」
「まだ城下町の方はそこまで見れてないので、城下町の探索というのはどうですか?」
「僕はモーガンに賛成! 面白そうな店がありそうだし」
「あ、俺も行きたい店があるとかじゃないけど、街並みを見て回りたいな」

 私はシンと同様の意見を伝えると、ルークは「いいんじゃないか。リウェンク城は十分に見たし」と言い、トウマも「確かにな」と答える。

「よし! それじゃ、こっからは集合時間まで城下町探索と行こうか」
「「おー!」」

 そうして私たちは城下町探索を始めた。
 主に飲食店やお土産屋が大半であったが、まだ行けていない方には居住区が存在しており、そこでは公園やゆったりとした雰囲気でまだ違った雰囲気を味わった。
 居住区の方へは行ってはいけないという訳ではなかったが、観光として来ても大したものはないので、基本的には観光が楽しめる通りとして飲食店やお土産屋が多くある通りを作っているらしい。
 一応居住区の方には少数ではあるが、宿泊できる場所もあると居住区にある店の人に教えてもらった。

 それから私たちは居住区を後にし、観光向けの通りへと戻って来て特産品でもあるキャラメルを食べたり、ガラス細工を扱っている店に入り、精密に作られたガラス細工を見たり、小さい物だが作る体験も出来るという事でガラス細工造りも行った。
 ガラス細工体験が終わる頃には、日も傾き始めており集合時間も近くなって来ていたので、私たちはそのまま集合場所へと向かった。
 その後、集合時間となり全員揃った所で私たちはリウェンク城と城下町を後にし、渡って来た橋を戻り始めた。
 この時潮は満ち初め、既に砂地だった所は海の水で満たされ周囲の空は夕日で赤く染まり始めていた。
 そんな景色を目にして、私たちは足を止めて夕日を背景にしたリウェンク城と、夕日によって赤くなる海の光景が美しく目を奪われる。
 この光景には他の観光客も足を止めて、暫く見つめていた。
 その後、私たちは橋を渡って魔道車へと乗り込み、ホテルへと向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン
恋愛
 HOTランキング 1位 (2019.9.18)  お気に入り4000人突破しました。  次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。  だが、誰も知らなかった。 「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」 「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」  メアリが、追放の準備を整えていたことに。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?

あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」 結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。 それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。 不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました) ※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。 ※小説家になろうにも掲載しております

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

処理中です...