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第402話 一本の線

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 私たちは朝食を食べた後、チェックアウトの準備として各自荷物を持ちロビーへと集まっていた。
 これから私たち男子側は再び魔道車に乗り、次の目的地であるモ・サロへと移動を始める。
 予定では本日の夕刻頃には、モ・サロのホテルに到着予定らしく、今日一日はある意味移動日なのだ。
 ロビーでは寮ごとに担当教員が最終確認をした後、魔道車が到着し次第寮ごとに乗り込み始める。

「何だかんだ言って、修学旅行も残り半分か。早いな」
「確かに。何で楽しい時間は直ぐに過ぎて行くんだ~」
「時間の過ぎが早いって言うなら、それだけ充実してるって思えばいいんじゃないのか」

 嘆くライラックとリーガに対して、アルジュがそう答えるとマックスが「流石、委員長」と少し茶化す様に声を掛ける。
 それに対してアルジュが軽くマックスを睨むと、マックスは直ぐに「悪かったよ」と謝るのだった。

「ふぅあ~あ。何だかまだ眠いな」
「ニック朝から眠そうだったもんね。魔道車でゆっくり寝たら?」
「ああ、そのつもりだよピース。だから、変にちょっかい出して来るなよフェルト」
「っ! 何故俺の行動を読めたんだニック!?」

 フェルトの驚き様に呆れたようにニックはため息をつく。

「おいヴァン、そっちの魔道車じゃないぞ」
「ん、こっちじゃないのか。悪いな、ノルマ」
「しっかりしろよ」
「あの二人ってあんな感じだったか?」
「まぁ寮でも同室だし、ガイルはあまり目にする事がないから変に思うよね」
「ガードルはよく知ってるな」

 そんな話をしながら皆が魔道車へと向かって行く中、私も荷物を持ち魔道車へと向かおうとすると声を掛けられる。

「クリス」

 そこで振り返ると、ジュリルとモランの姿があった。
 私は二人の元へと近寄った。

「どうしたんだ、二人共」
「どうしたって、そんなのお見送りに決まっているではありませんの」
「もう二度と会えないって訳じゃないけど、せっかく昨日一緒に行動した仲だしさ」
「ありがとう二人共」

 するとそこでジュリルが近寄って来て、小声で話し掛けて来た。

「色々とあるかもしれないけども、私は貴方が出した答えを尊重するわ」

 そう言って、ジュリルは微笑んで私から離れる。

「クリス、今の修学旅行を昨日の様に楽しんでね。私からはそれだけ」
「ジュリル、モラン……ありがとう」
「おーいクリス、何してるんだ乗り遅れるぞ」

 遠くらトウマに呼び掛けられ、私は振り返り「すぐ行く」と返す。
 そして私は二人に最後に一礼して、待っているトウマとルークの元へと荷物を持って向かうと、ジュリルとクリスは私たちに対して軽く手を振ってくれた。
 その姿を目にして私は同じく手を振り返して「またね」と笑顔で声を掛けて、ホテルを出た。
 私はそのまま魔道車へと乗り込み、空いている席に座ると魔道車はモ・サロへと向けて出発したのだった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「うっ……んっぅ……」

 私が次に目を覚ますと、そこはまだ魔道車の中であった。
 そして、少し寝ボケながら隣を向くとそこにはガードルが医療知識と書かれた本を真剣に読んでいた。

「あれ、ガードル?」
「うん? ああ、起きたのかクリス」

 私は眠い目をこすりながら周囲を外の景色を見ると、まだ魔道車は目的地には到着しておらず走り続けていた。
 それと同時に、車内は異様に静かであった。

「えーと俺は……寝てた?」
「覚えてないのかい? まあ皆昼休憩とった後だし、眠くなるのは仕方ないよ。大半はクリスと同じように寝ちゃってるみたいだし」

 ガードルにそう言われて私は昼食をとった事を思い出し、それからウトウトとし始めそのまま眠ってしまったと理解する。

「修学旅行も今日で6日目。今日は移動中心だから、皆も少しはしゃぎ過ぎた疲れが出たのかもね。騒いでいるのも好きだけど、今日は静かでこの本を読めるのは僕としては良かったかな」
「医療の本」
「うん。修学旅行中くらい置いてこようかと思ったけど、結局持ってきちゃったよ」

 そう言ってガードルは苦笑いをする。
 確かガードルは、医者を目指しているんだったわね。
 他の皆より医療知識があってタツミ先生にも教えてもらっていたりするってトウマが言ってたな。

「それだけ、それが好きって事の現れじゃないかな? 熱意があるって言うのかもな」
「っ……ふふふ、そうだな。そう考えた方がいいな」
「何で笑ったの?」
「いや、少しネガティブな考え方をしてて、そんな風に考えるのは馬鹿らしいって思ったんだよ。僕が叶えたい事なんだから、相手にどう思われようが関係ないなって」
「確かに、自分の夢なんだし他人には関係ないよな。まぁ、周りから変な目で見られるって言うのは分からなくもないけど……」
「え? クリスもそんな経験あるの?」
「え、あーま、まぁ昔ね。昔」

 ガードルはそれ以上深く追求してくる事はなく「そうなんだ」でその話は終わった。
 私も月の魔女を夢見ている事を誰かに言うつもりはないので、自分で墓穴を掘ってそれを言わなければいけない流れになるかと思ってひやひやしていたが、そうならずに胸を撫で下ろした。
 それからガードルは再び読んでいた本へと視線を移した。

「到着まで後2時間かからないくらいって言ってたから、クリスもまだ眠かったらもうひと眠りできると思うよ。まぁ、それで夜寝れるかは別問題だけどね」

 確かにまだ寝れる気はするけど、ここで寝たら夜寝れる気がしないんだよね。
 う~ん、どうしようかな……ぼーっとしているのもいいけど、それだとなんかな。ガードルみたいに本とか持ってないし。
 その時私はふとガードルの持っていた医療知識の本を見て、ガードルは記憶喪失についてはどんな考えを持っているのだろうと思ってしまう。
 そして私はガードルに対して「記憶喪失ってガードルはどう思う?」と問いかけていた。

「記憶喪失? 急にどうしたんだよ、クリス。そんな事聞くなんて」
「いや、何かふとその本見てたら頭の中に思い浮かんで来てさ。ガードルはどんな風に考えているのかなって思って」

 ガードルは本の表紙を見てから、私の方へと視線を移した。

「そうだな。全くそう言う本とか読んだ事ないから、ただの僕のイメージなら話せるけど。専門的な事に関して求めているなら、タツミ先生の方が詳しいと思うよ」
「イメージでいいよ、イメージで。そんな細かい事とか聞きたい訳じゃなくて、ふと俺が思った事だし」
「それなら。僕としては、過去の記憶は一時的に思い出せてないだけで、失っている訳じゃないとは思うんだ。こう、記憶に蓋がされて見れないイメージかな。それで、ふとした時にその蓋がとれて見れなかった記憶が見れて元に戻るって感じかな。あくまでイメージだからね」
「分かってるよ。それじゃ例えばなんだけど」

 と、私は自分の現状を少しぼかした感じでガードルに問いかけると「やけに具体的だね」と言われ、私は咄嗟に最近読んだ小説に似た設定があったと嘘をついた。

「う~ん、それはどうなんだろうね。過去の自分が今にいて、その自分が失っていた記憶を思い出した時、どういう自分になっているかは正直分からないな。小説ではどうだったの?」
「それがまだ答えが出てないんだ」
「そっか……でも、あくまで僕のイメージだけど、その自分が消える様な事はないんじゃないのかな? 結局は自分な訳だし、一時的に失っていたピースが元に戻る感じだと思うから、記憶を失っている時間も全てが繋がってその人になる気がするな」

 そう言いながらガードルはしおりを取り出して、イメージ図を書き出した。
 一本の線を書き、そこに過去の自分、記憶を失っている箇所、現状の自分として記憶を思い出した時に失っていた所がピースの様にはまり地続きとして、自分になるのではと伝わる様に親切に教えてくれた。

「なるほど」
「あくまで僕のイメージだから、鵜呑みにはしないでね」
「分かったよ。急に変な事訊いてごめんよ、ガードル。分かりやすく教えてくれてありがとう」
「ううん、僕もこれから少し勉強してみようかなって思えたキッカケになったよ」

 それから私とガードルは医療に関しての話しや雑談をして、到着までの時間を過ごした。
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