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第401話 記憶はいつか忘れる物

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 修学旅行5日目、その日は結果的にはジュリルたちと最後まで一緒に行動し水の都の観光を満喫した。
 ちなみに観光の途中でジュリルの親友であるウィルと出会った時には、何故かジュリルと近いなどと変な事をチクチクと言われてしまった。
 後からジュリルに、以前からウィルは私の事を警戒している様な態度をとっていた教えてもらい、私はウィルに何をしたのだろうかと考えたが分からないので、深くは考えずにそういう関係性なのだと理解した。
 そしてホテルに戻り夕食をとってからの夜の自由時間には、遊技場で男女共に楽しく遊ぶ姿や楽し気にこれまでの観光して来た所を話し合う姿が多くの所で見られた。

 私もトウマたちと遊技場にてジュリルたちとボールを打ち合う競技で競ったりと、盛り上がった。
 その後私は少し疲れたので一息つこうと、一度遊技場を離れてゆったり出来る休息所に向かった。
 いや~見てるだけでも楽しいし、少し笑い過ぎてお腹もいたいな。
 私は先程まで居た遊技場で、ウィルとトウマが激しい打ち合いをしたり、男女ペアでのトーナメントでルーク・ジュリルペアとニック・マートルペアの試合とか居るだけでも楽しい空間を思い出しては、くすりと笑うのだった。
 そのまま廊下を歩いていると、ふと外のベランダスペースにいる人を見かけ足が止まる。
 あれ? 誰か外にいる。誰だろ?
 そのままクリスはベランダに続く扉へと近付くと、顔が見てその人物がタツミだと理解すると、扉を開けて声を掛けた。

「タツミ先生~こんな所で何しているんですか?」
「? 何だ、お前か」

 タツミは振り返り声を掛けて来た人物がクリスだと分かると、また正面を向く。
 手には飲み物を持っており、そこからは湯気が出ていたので温かい飲み物を持っている事が確認出来た。
 クリスは、周囲に誰も居ない事からこの場で今の自分の状況を報告してしまおうと思い、タツミへと近付く為に外に出た。
 外は今の服装では少し肌寒く、ずっと居たら震えてしまうだろうと考えてしまい、途中で足が止まる。

「何やってるんだお前は? 何もしない状態で、こんな冬の外に居られる訳ないだろうが」
「タツミ先生。じゃ、何で先生はそんな厚着もしないでここに居られるんですか?」

 そうタツミはそこまでの厚着はしておらず、クリスに近い服装で震える事無くこの冬の夜のなら外に居たのだ。

「それこそ魔法に決まってるだろうが。せっかく魔法が使えるんだから、便利に使わないと勿体ないだろう」
「そもそも外で魔法を勝手に使うのは厳禁なんじゃ……」
「誰にも見られてなければいいんだよ」
「教員が言っていい事なんですか、それ?」
「今は教員の立場はお休みなんだ。教員だってたまには息抜きが必要なんだよ」

 そう言うとタツミは、近くのテーブルに置いてあるコップと黒い飲み物が入った容器の元に向かい、コップに黒い飲み物を注ぐと湯気が立ち上がった。
 そしてそのコップを持って私の元へとやって来ると、それを渡してくれた。
 私がそれを受け取ると、タツミはニヤッと笑った。

「受け取ったな。それじゃ、ここで見た事聞いた事は誰にも言うなよ」
「え!? それってこれが口止め料って事ですか?」
「そう言う事だ。それにおまけで、お前にも俺の魔法をかけてやったんだ文句ないだろ?」
「魔法? いつの間に」

 そう言われるまで全く実感がなかったが、先程の寒さが全く感じなくなった事に気付く。
 よくよく自分の周囲の魔力を感じると、周囲に風の膜の様なものが張られており、これのお陰で寒さがほとんど入って来てないと理解する。
 凄い、一見何ともない魔法だけど、緻密な魔力操作と持続的な魔力がないとこんな事簡単に出来ない。
 しかもそれと自分だけでなく、私にも掛けているしよく見ると先程のコップや飲み物が入った容器の机の上にも張っている。
 もしかしてこの人、思っているより凄い人なんじゃ……
 そんな事をクリスが考えていると、タツミが元の場所に戻り木の手すりに肘を付き、クリスの方を向く。

「で、何か用があって来たんだよな。でなきゃ、わざわざこんな教員に話し掛けたりしないよな」
「そうですけど、何か不機嫌そうな顔をしてますけど、声掛けられるの嫌でしたか?」
「……別に。ただ考え事してただけだ」

 そう言いつつ少し間があったから、本当は嫌なのかも。
 と思いつつも、私はタツミの横へと貰ったコップを両手で持ち並び、そこから見える景色に目を向けた。
 そこからは大きな明りはないが、遠くの方で街の微かな明りが見る事しか出来ず、夜なので他にいい景色が見える訳ではなかった。
 私はそのまま記憶喪失の現状について、タツミに報告をした。
 この数日で思い出した記憶の事や、思い出す際には必ず何かしらの要因があるのではないかという推測や、必ず頭痛が起こる事などを伝えた。
 タツミはずっと景色をの方を見つつ、たまに飲み物を飲みながら黙って私の話を聞き続けていた。
 私も途中からタツミの方は向かず、景色の方を向きながら話し続けた。

「とまあ、現状や推測について報告をしたかっただけなんですが」
「……そうか。経過は悪くはなさそうだな。今の状態がいいかと言われると俺にもそうとは言い切れない」
「はい」
「だが、これまで関わりがある人と接する事やそれに関する事に触れる事で、お前の記憶に何らかの刺激が加わり思い出すキッカケになっているのだと、お前と同じ様にこれまでの傾向で俺もそう考えてはいる」
「タツミ先生もそう思いますか。なら、このまま似た事をし続ければ、全ての記憶を思い出すという事になるますよね?」

 その私の問いかけにタツミは直ぐに返事をせずに、飲み物を飲んでから暫くして口を開いた。

「お前、何か記憶を思い出す事を急いでないか?」
「えっ……だ、だって、今の俺は記憶喪失なんですよ。そりゃ早く思い出して元に戻りたいと思うじゃないですか」
「まぁお前がそうしたいって言うなら、それでもいいが。前にも言ったかもしれないが、そんなに焦る必要はないんじゃないか。何かしら考えてそうしているのかもしれないが、所詮は過去の記憶だ。記憶はいつか忘れる物で、過去に執着し過ぎると今を見失うぞ」
「……俺は、私は早く以前の私を思い出して、今の私がどうなるかを知りたいんです。このまま私のままなのか、以前の私に戻るのかを」
「……そうか」

 タツミはそれだけ口にするだけで、それ以降はどうしてそう考えたのかとか、それを知ってどうするのかとか何も訊ねて来る事なく黙って景色を見つめながら飲み物を飲み続けた。
 私もそれ以上聞かれなかったので自分からこれ以上答える事はせずに、タツミと同じ様に温かい飲み物を口にし続けた。
 その後私は飲み物を飲み切った後、コップをタツミに渡しお礼を告げてから、私はその場から立ち去った。
 タツミは去り際に「夜更かしはあまりするなよ」と教員らしい一言だけ告げて、自分はその場に残り続け自分が持っていたコップにもう飲み物がない事に気付き、再び飲み物を注いだ。

「(あいつなり、自分で答えを出そうとしているんだろうな。そんな奴に変に口出しするのは、邪魔でしかない。それに俺は今教員は休憩中なんだから、教員らしい事はしなくてもいいんだ)」

 そんな風に思いながら、再び遠くの街明りへと視線を向けた。

「それよりも今は、他に考えなければいけない事があるんだよな。今日で折り返し……さて、どうなっているやら」

 タツミはそう呟きコップを持つ手に少し力が入るのだった。
 そして修学旅行5日目の夜は過ぎて行き、修学旅行後半戦の6日目の朝を迎えた。
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