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第398話 よみがえる優しい宣言

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「な、何でジュリルが?」
「そんなに驚く事ですの? 私たちもニンレスを観光しているのですから、偶然出会っても不思議ではありませんよ」
「……確かにそうでした」

 私はジュリルに当たり前のことを言われ、少し反省した。
 するとジュリルの後から更に女子たちが遅れて現れ出す。

「ほら見て見ろ、ジュリル様の言った通りじゃないか」
「まあまたシルマちゃん、そんな強く言わなくてもいいじゃない」
「そうは言うがなミュルテ、現にぶつかって転んでるんだぞ?」
「そうだけど……あれ? クリス?」
「え? クリスだって?」

 そこで、シルマとミュルテがクリスの存在に気付く。
 だがクリスは二人が誰か分からず、少し戸惑っていた。
 更には遅れてミュルテの姉でもあり同じクラスのマートルも現れる。

「皆どうしたの? あれ、君は確かクリス君じゃない」

 この時点でクリスは、突然現れた女子たち全員と知り合いだと理解したが誰一人も分からず完全に固まってしまうのだった。
 するとそこへモーガンが、助け船の様にやって来る。

「クリス、どうしたんだ? ん? 女子側の班?」
「モーガン!」

 クリスはひとまずモーガンの方を向き、ジュリルたちに背を向けた。
 急に近付いて来たクリスにモーガンが驚いていると、遅れてトウマたちもやって来るのだった。
 そしてそこにルークもやって来ると、いち早くジュリルが反応する。

「ルーク様! まさかこんな所で出会えるとは、偶然ですわね」
「ジュリル、それにモランも昨日振りだな」
「は、はい。ルークさん」
「何何、モランも昨日ルーク様に会ってるのか?」
「ちょっと意外だよ、モランちゃん」

 シルマとミュルテに対してモランが昨日の出来事を説明していると、マートルがルークやトウマたちに挨拶をしていた。

「あら、自称親友もいらっしゃったのね」
「おいジュリル、まだそれで俺を呼ぶのか」
「私は一言も貴方の事とは言っていませんが、その自覚があるという事は自分でもそうだという自覚があるという事ですわね」
「んなわけねぇだろ。変な上げ足のとりかたするな!」

 え、ジュリルとトウマって仲が悪いの?
 私は二人の口喧嘩の光景を目にして驚いていると、ルークがこっそりと近付いて来て小声で本当に仲が悪い訳じゃないと教えてくれ、少しだけ安心した。
 ルーク曰くちょっとしたじゃれらしく、確かに周囲の皆もそんなに焦った感じではなく、これがいつもの事の様な目で見守っていた。
 するとそんな二人を止めるために、マートルが仲裁役として間に入って行くと再びルークが小声で話し掛けて来た。

「彼女はマートル・ハイネ。ジュリルの親友で第2学年でトップ3に入る実力者だ」

 ルークはそのまま簡易的に女子たちの説明をし続けてくれた。

「眼鏡をして長い藍色の髪の子が、モラン・ウィンエルだ。ジュリルとは幼馴染で、クリスとは女子としては一番最初に仲良くなった相手だ」

 そうなんだ。ジュリルが最初じゃなくて、あのモランって子が最初に仲良くなった女子なのか。

「そしてモランの近くにいる二人。薄灰色の髪で後ろ髪は束ねて短いポニーテールにしているのが、シルマ・パートム。それで、紅色の髪でセミロングヘアーの方がミュルテ・ハイネ。マートルの妹だ」
「え? 姉妹なのに同じ学年?」
「ああ。深い事は知らないが、彼女らはそういう関係性だ。ちなみに仲はとてもいいらしい」
「へぇ~そうなんだ」

 と、簡単であるが顔と名前を何とくなく頭に入れて、その場で改めてジュリル以外の女子たちの顔を見ていると、うっすらとであるが見覚えがある感じがして来る。
 するとそこで偶然かもしれないが、モランと目が合いそのまま互いに見つめ合ってしまうが、咄嗟に互いに視線を逸らした。
 互いに同じ勢いで視線を逸らしたため、相手が今どうしているのか視線を逸らしたのかも分かっていない。
 あれ? 何で今私咄嗟に視線を逸らしたんだろ? 何だか急に恥ずかしくなって逸らしちゃったけど、それ以外にも何かある気が……こう、記憶に靄が掛かっていて分からないけど、そんな気がする。
 直後突然頭の中で、モランが自分の頬にキスをして来た所の記憶がよみがえり、顔から火が出ている感覚に陥る。
 なななな、何!? 今の記憶は何なのー!?


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 あれからマートルがトウマとジュリルのじゃれ合いを止め、偶然班同士が出会い大人数になったので、シルマとミュルテの提案で昼食でも一緒にどうかとなり、この場で立ち尽くしていても仕方ないしルークたちも昼食をする店を探していた所だったのでその提案を受け入れたのだ。
 そしてジュリルたちが向かおうとしていた店へとルークたちは付いて行き、店へと到着する。
 到着した店は、大通り沿いから一本離れた通りにあり、人通りも落ち着いており地元の人しか来ないような場所にある店であった。
 店内は落ち着いた雰囲気で、ちらほらと観光客らしき人もおり二階にはテラス席もあり、そこからは大通り方面の賑わっている街やゴンドラが通る大きな水路も見えたりと景色を見ながら食事が楽しめる場所だった。

「うぉー凄いな」
「いい場所でしょ? ジュリルちゃんおすすめの店なんだよ」
「何でミュルテが自慢げに話すんだよ」
「細かい事気にしないの、シルマちゃん。ほらほら、早く座ろうよ」

 そう言ってミュルテはシルマの背中を押してテラス席へと向かう。
 その後を景色に圧倒されていたシンが付いて行き、マートルがモーガンに噂の占いの事について話しながら続き、その後ろからはルークを挟む様にしてジュリルとトウマが話しながら歩いて行く。
 そして一番最後尾に、クリスとモランが黙ったまま歩いて向かっていた。
 ここまで全く話さなかった訳じゃないけど、何か気まずいって言うか、あの記憶がちょくちょくとちらついて何話していたか全然思い出せない。
 一応ルークやトウマがいたり、ジュリルがいたりと事情を私の知っている人がいたから変なへまはしなかったとは思うけど、こう二人きりになるとダメだ。
 そこでクリスはチラッとモランの方を見ると、モランは少し覗き込む様に見て来ていた事に驚いて声が出てしまう。

「あ、ごめん……っクリス。驚かせちゃったよね」
「そ、そうだな。まさか見られてると思わなくて」
「そうだよね。ごめんね……クリス」
「いやいや、俺がビックリし過ぎたかもしれないし、気にするなよモラン」

 その返答にモランは黙ったまま、何故かクリスの方を見つめ続けて、そこで足を止めた。
 突然足を止めた事につられてクリスも足を止めて「どうしたんだ?」と問いかけた。
 するとモランは、皆の方をチラッと見てこちらを見ていない事を確認すると、クリスの元へと近付き手を添えて小声で話し掛けた。

「ねぇ、どうして急に呼び捨てにしたのに何も言わないの、クリス君?」
「っ!?」
「やっぱり何か変だよ。会った時から何か様子も少し変な感じだったし」

 バレてるって言うか、怪しまれてるじゃん私! 何してるのよ!

「もしかして、この数日で何かあった?」

 まずい、これはとてもまずいのでは?

「……その、例えばだけど頭を強打したりして、記憶が飛んだとか」

 思いもしてなかった的確過ぎる言葉に、クリスは冷や汗を止まらなくなるのだった。
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