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第390話 拭えない不安

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「っ!」

 クリスはレオンからその言葉を聞いた瞬間、記憶に掛かっていた靄の一部が晴れた感覚に陥る。
 そして急にクリスは立ち上がる。

「ジュリル……そうだ、ジュリル! ジュリルだ!」
「どうしたんだ急に」

 レオンは突然立ち上がってジュリルの名を声に出すクリスに驚く。
 するとクリスは直ぐにレオンの方を向き、自分からグッと迫る。

「ねぇレオン! 貴方、そのジュリルって人と知り合いなの?」
「あ、ああ。知り合いって言うか、俺の仕える人だな」
「ん? 仕える人?」

 クリスはレオンとジュリルの関係性も思い出せていない為、首を傾げた。
 とりあえずレオンは一度クリスを座らせてから、話を始めた。
 自分とジュリルの関係性や、クリスとジュリルの関係、これまでどう言った関わり合いをし、どう正体を知ったのかなど簡易的ではあるがレオンが分かる範囲で今のクリスに伝えるのだった。

「なるほど。その話を聞いてやっぱり、最近見た記憶の相手はジュリルだと分かったわ」
「何か思い出していたのかい?」
「うん。顔が分からなかったんだけど、誰かと何か語ったり、ぶつかったりしていた所の記憶がいくつか見ていて。それでその時にジュリって言葉まで出てたんだ。後何か思い出せない感じで、こうここまで出ている感じだったんだよね」
「それがジュリルだった訳か」
「たぶんね。凄くしっくりきているから、たぶん間違いないと思うわ」

 クリスはその場でよりジュリルについて知りたくなり、レオンにジュリルの事について更に訊き始めた。
 迫られたレオンも分かる範囲で質問に答え、これがクリスの記憶を取り戻す手伝いになればと話続けるのだった。
 それから、ジュリルがクリスがアリスだと知っているはルークたちは知らない事や二代目月の魔女である事だったり学院に関する事を問われたのでクリスに伝えた。
 クリスはその話を聞くと次第に靄が掛かっていた一部の記憶がより鮮明になって行く感覚を感じた。

「(あーそうだ、絶対にこの記憶はジュリルとのものだ。月の魔女について話したし、互いに全力で戦ったりもした。それに、立場など関係なしに友人として相談や楽しく話もした)」

 この時クリスとジュリルの記憶はほとんど思い出し始めていたが、顔だけがどうしても思い浮かばずにいたのだった。
 だがクリスは、レオンがジュリルと会えばと言っていた事を思い出し、会ってしまえばそれも明確なると思いそこまで考える事無く、一旦後回しにした。

「それでレオン、ジュリルに会うっていうのはどう言う事?」
「ああ、この修学旅行は僕たち男子側とジュリル様もいる女子側が真逆のルートで回っているんだ」

 クリスはそこで初めて女子側も修学旅行している事を知るが、どういう仕組みになっているか直ぐに理解出来ずに首を傾げた。
 するとレオンはしおりを取り出して日程を見せつつ、これの逆から女子側は回っていると伝えた。

「なるほど! そういうことね。理解したわ。で、ジュリルの女子側とこの先何処かでぶつかる事があるから、そこで会ってみようって話ね」
「そう。でも、ジュリル様は今のクリスの状況は知らない。もちろん他の女子たちも同じ。だから、会う際には僕は先にジュリル様に事情を話して、なるべく二人だけで会える状況を作る予定だ」
「ありがとうレオン。わざわざごめんね」
「君の為なんだから、気にしないで。それに今の状況を知ったら、ジュリル様も会いたがると思うし。ゆっくりと二人で話せば、記憶を完全に取り戻せる新しいキッカケになるかもしれないからね」

 クリスはレオンの言葉に小さく「うん」と呟く。
 少しではあるが以前の自分の記憶を思い出しつつあるが、未だに全てを思い出した訳ではないとクリスは考え、これから先の事を始めてしまう。

「(もし、このまま徐々に思い出していったとして記憶を全て思い出したら今の私は、以前の私と言えるのだろうか? それとも何かのキッカケで全てを思い出したら、以前の私になって今の私は記憶の一部にでもなるのだろうか……今の私は、元の私の代理でしかないのだろうか)」

 ふと、そんな事を考えてしまうがこの先どうなるかなんて分かるはずがない。
 だから答えなんて出ないので、これ以上今はそれについて考えるのをクリスは止めて頭の隅へと除けるのだった。
 するとレオンが声を掛けて来ていた事に気付く。

「大丈夫か、クリス?」
「え、何?」
「いや、急に何か難しい顔して考え始めたからさ」
「あーそれね。その、ジュリルとはいつ会えるかなとか、会ったら何を話そうか考えてただけ」
「そうだったのか。でもいつ会えるかについては、本当にすぐだぞ」
「?」
「ジュリル様から一応事前に訊いていた女子側の予定では、今日の夜には女子側はニンレスに到着するらしいからね」
「えっ……えー!? 今日!?」

 クリスはまさか今日会えるとは思いもしてなかったので、心の準備が出来てないと慌て始める。
 それをレオンが優しく微笑みながら落ち着かせて、あくまで予定である事を改めて伝えて自身がどういう風に場を用意するかも現時点で考えている内容を話すのだった。
 その後落ち着いてから、ジュリルに会う流れを確認したり、他の女子とも面識がある相手がいる事を認識してその時の対応についてレオンと話した。

「僕から提案出来るのはそれくらいしかないな。ごめんよ、あまり思いつかなくて」
「いや、十分だよ。急に他の知り合いの女子についての対応も考えてもらって助かったよ。極力話を合わせたりするけど、出来れば会わない様にしてみるよ。一応この件は、ルークたちにも相談するかな」
「それがいいかもね」
「何の話をしていたか、よかったら俺にも教えてくれよレオン」

 そう突然声を掛けて来た人物に二人は視線を向けた。
 するとそこに立っていたのは、少しだけ息が荒いルークであった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ジュリル、窓の外を見てどうしたの?」

 そう問いかけたのは、隣に座るモランであった。
 ジュリルは魔道車から見える外の景色を眺めつつ、その問いかけに答えた。

「モ・サロの綺麗な景色を最後にこの目に焼き付けておこうと思いましてね」
「最初に来た時は雨が降りそうだったもんね。今は澄み切った空で、最初の印象と全く違うものね」

 そう言ってモランもジュリルと共に外の景色に目を向けた。
 その後ジュリルはその景色を見納めた後、しおりに目を通しある事を思うのだった。

「(次は、水の都ニンレスね。レオンの方も予定通りなら、今夜にでもホテルで合流しそうね。それと、アリスは大丈夫かしらね)」
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