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第384話 水の都

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 一度トイレ休憩をとったのち、魔道車は再び出発しお昼過ぎに目的地であるニンレスへと到着した。
 そのまま魔道車は宿泊するホテルへと向かい、学院生たちは魔道車がホテルに到着すると荷物を持ってホテルへと入って行き広いロビーの端の方で寮ごとに集まる。
 そして寮ごとに担当教員からの話が始まるのだった。

「それじゃこれからの予定だが、まずは各自部屋に荷物を置く事。その後ホテルの食堂にて昼食をとる。今回は好きなメニューから一品選ぶ形式だ。そして昼食が終わり次第各班事に、午後の観光ルートを提出する様に」

 担当教員の言葉にトウマは一瞬ビクッとしていた。
 その訳は、班のリーダーでありつつ事前に観光ルートを決めて出すように言われていたのをここで思い出し、まだ用紙に記入していない事を思い出した為であった。

「(やっべ、忘れてた。だけどルートは既に皆で決めているし、後は書くだけだから大丈夫だろ)」

 と、トウマは昼食前と食べている間にちゃちゃっと書けるだろうと高を括っていたが、後に痛い目を見る事になるとはこの時はまだ知らなかったのだった。
 それから担当教員からの話も終わり、各自荷物を持ち一度部屋へと向かい始める。
 各自部屋に到着すると、荷物を置きそのまま食堂へと向かうが、トウマは荷物を置いた後用紙を取り出し一度書く内容を見ようとしたが、ルークに急かされたので見るのも後回しに部屋を後にした。
 食堂では各自好きなメニューを決めて、それを受け取り昼食をとり始めており、この後の予定もある為、基本的に皆は班のメンバーで食事をとっていた。

「あ、こっちこっち」

 そうトウマとルークに声を掛けたのは、先に食堂へと到着し席をとっていたシンであった。
 シンの他に既にクリスとモーガンも席に座っていた。

「遅れて悪いな」
「謝らなくていいって、ルーク」
「いや~ちょっと探し物してて」

 トウマはそう言ってルークと共にシンたちが座っていた席に座るのだった。
 そして全員揃った所で、全員で手を合わせて昼食をとり始めた。

「で、そのトウマの探し物ってさっき先生が言ってた用紙?」
「え、あ、あ~そうそう。それそれ」
「……トウマお前、何か動揺してないか?」

 ルークがトウマの小さな異変に気付き問いかけるが、トウマは「そんな事ないぞ」と切り返す。
 だがルークは食事の手を止めて、トウマを更に問い詰める。
 すると次第にトウマの言葉が詰まり始め、観念して用紙を書いていない事を白状するのだった。

「悪い皆! ルート決めた時に、それで満足して明日やればいいやってすっかり忘れてたんだ」

 トウマは両手を合わせて皆に正直に謝る。
 その姿を見て、ルークとシンはため息をつくが、モーガンは特にため息もつく事なく話を聞いており、クリスはよく分からないので何となくその雰囲気に合わせて顔を作っていた。

「でも安心してくれ、ルートは既に決めてあるし直ぐ書けば終わる物だろうし大丈夫だ」
「いやトウマ確かそれ、ただルートを書くだけじゃなかったと思うぞ」
「え?」

 シンにそう指摘されてそこで改めて提出する用紙に目を通した。
 その用紙には班で回るルートの記載の他に、選定理由や話し合った際に出た意見などを別枠で記載する所があったのだった。
 想像もしてなかった記載箇所にトウマはあ然としていた。
 その後、班の全員でルートを決めた時の事を思い出しつつトウマと共に提出する用紙を埋めて行く作業を、昼食をとりながら始めるのだった。

 ――ニンレスは別名、水の都と呼ばれており運河を活かした都市の形成や交通手段として役割を果たしている都市である。
 中心部は水の都となっており、そこを中心に外周部へと街が続いており、ホテルなどは外周部の方に多く存在している。
 途中までは魔道車や馬車で行けるが、水の都に入るには徒歩で入るか、ゴンドラに乗って運河から入るかの二つしかないのである。
 観光場所として有名であり、水の都内は人が多く居る為馬車などが走ると危険がある為禁止としているのだ。
 ただし、荷物の搬入など一部例外を除いている。

 街中は運河を中心に作られているので、短い橋が多くあり広い運河の場所だとゴンドラがいくつも通っており、街内での移動手段として沢山の人が使っている。
 また観光客も同じ様にゴンドラを使い別の場所へと移動している。
 ゴンドラでは運河から街を一望出来たり、こぎ手の人によっての街の説明があったりと楽しめる要素がある為、皆よく使っているのである。
 ゴンドラ以外にも普通に船もあり、少し遠くの場所へと移動する際はそちらを利用する様になっている。
 また、歴史的な建造物もいくつか存在しており、教会や塔などと入る事が出来ない建物もあるが、それも観光スポットでもある。
 更には食事も、魚料理が豊富でパスタにソースとして絡めた物や肉料理も少ないが美味しい店が揃っていると事前にピースが力説するのだった。

「よし、とりあえずこんなもんか」

 トウマ班は全員で改めてルートを記載し、話し合った時の事を思い出しながら意見も提出用紙に記載して完成させるのだった。
 だが、既に他の班は用紙の提出を終え班での観光へと出ており、ホテルにまだ残っていたのはトウマ班だけであった。
 するとそこにタツミがやって来て声を掛けた。

「提出用紙は完成したか?」
「ナイスタイミングです! タツミ先生! ちょうど今出来ました!」

 トウマはタツミの声にすぐに反応して立ち上がり、完成した用紙をタツミに姿勢よくお辞儀する様に両手で突きだした。
 タツミは出された用紙を受け取り、内容の確認を終えると口を開く。

「用紙はオーケーだ。全く、お前らの班だけだぞここで一からこの用紙を書く奴らは」
「あははは……すいませんでした。俺のミスです……」
「次期寮長大丈夫かよ」
「うっ……」
「まぁいい。せっかくの観光時間なんだ、早く楽しんでこい」

 タツミは口にして、トウマたちに早く行くようにジェスチャーをし、トウマたちは言われるがままホテルから出て行く。
 その後ろ姿を見送ったタツミは、小さくため息をついた。

「(あーこれから会議か……憂鬱だ。その後は書類チェックに、この後の予定確認に夜の準備とやる事多いな)」

 そんな事を思いつつ、再び小さくため息をついてからホテルの会議室へと向かうのだった。
 一方で、トウマたちは水の都の入口へと辿り着いていた。

「到着~! よっしゃ! で、どうするよ? 橋を渡って行くか、船に乗るか?」
「そりゃここまで来たら一択じゃない?」

 シンの発言にクリスはワクワクした表情で少し強めに縦に首を振っていた。

「やっぱりそうだよな~ルークとモーガンはどうだ?」
「私もせっかくなのでそちらの意見で」
「俺だって、一番楽しめる方を選ぶよ」

 と、全員の意見が船で向かうと一致した為、皆で船着き場へと向かう。
 すると既に船着き場は次の船に乗る人が並んでいたので、トウマたちもその列に並び談笑しながら待っていると、遂に船が到着し乗り込み始める。
 そのままトウマたちは船首甲板へと向かい景色を楽しもうとすると、既にそこに同じ学院生服を着た数人と遭遇すると、そのうちの一人が振り返って来た。

「あれ? クリス?」

 そう声を掛けて来たのは、レオンであった。
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