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第382話 譲れない気持ち

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 ルークの問いかけにレオンは黙っていると、シンが口を開いた。

「え、えっと……何でレオンが僕とクリスの部屋に?」
「おいレオン、何で黙ってるんだ?」
「いや、まさかこんな所で遭遇するとは思わなくて」

 レオンの言葉にルークは睨む様に近付き、小声で再び問いかける。

「何企んでるんだ、レオン」
「僕はただクリスと話していただけさ」

 二人の険悪な雰囲気を感じとったクリスが、咄嗟にそこへ割り込んで行く。

「ちょ、ちょっと待って二人共。一旦落ち着いて、俺の話を聞いて」
「……クリス」
「えーっと、レオンとは通路で偶然会って、そこで話が盛り上がって立ち話もなんだから俺が部屋に入れて話してただけなんだよ。なぁ、レオン」

 クリスはその場でレオンに軽く目配せをすると、レオンは直ぐにクリスの考えをくみ取り「ああ」と賛同する言葉を口にする。
 それにシンは納得のしたのか軽く頷くが、ルークは未だに納得してない顔でレオンを見た後、クリスへと視線を移した。

「クリス、本当にそうなのか?」
「本当だよ。嘘ついてどうするんだよ」
「そうだよルーク、変にレオンに突っかかるのは止めなよ」
「……分かった。悪かったなレオン、変に疑って」
「いや、僕も変に思われる様な事をしたのが悪いんだ。次から気を付けるよ」

 そうレオンも謝ると部屋から出て行き、軽く一礼した後「それじゃ失礼するよ」と口にしてその場から立ち去って行くのだった。
 ルークはレオンの後ろ姿をその場から見つめていたが、クリスからの問いかけで視線をレオンから外しクリスへと向けた。

「それでシンは帰って来たのは分かるけど、どうしてルークが一緒なんだ?」
「タツミから一応様子を確認して来いって言われてな。様子を見に来たんだ。何か変わりはないか?」
「なるほど、そういう事。全然大丈――」

 その瞬間クリスは、先程レオンと接近した時に来た頭痛と今の自分が知らない記憶を見たことを思い出す。
 が、今はそれは言わない方がいいと勝手に判断するのだった。
 それはどう言う状況で頭痛が発生して、何を見たのかと問われると思い、それを話すのが恥ずかしいと思ったからであった。

「? どうしたクリス。何かあったか?」
「ううん。大丈夫、大丈夫。何にもないし、いつも通り! タツミ先生には順調って伝えておいてよ」
「良かった。一時は頭をぶつけたって聞いて心配したけど、特に変わりなく大丈夫そうで」
「心配かけて悪かったな、シン」
「クリス、本当に大丈夫なんだな」

 ルークは改めてそうクリスに問いかけた。

「心配し過ぎだよ、ルーク。何かあれば必ず伝えるから心配しないで」
「……お前がそう言うなら、それを信じるよ」

 クリスはルークの言葉を聞くと、ゆっくりと視線をシンへと向けるのだった。
 その後ルークはそのままタツミの元へと向かうと言って、その場で別れシンはクリスと共に部屋へと入るのだった。
 ルークはそのまま一人で廊下を考え事をしながら歩いていた。

「(レオンを庇う様な発言に、少し言葉に詰まった時もあったよな。少し気にし過ぎかもしれないが、レオンと何かしらあったと考えるのが普通だよな……このまま問い詰めるのも一方的な思い込みって事もあるし、やるべきではないな。とすると、少し様子を見るべきか)」

 両腕を組みながらルークはそんな事を考えつつ、タツミの部屋へと向かうのだった。
 一方でその頃レオンは、自室がある階に辿り着き廊下を歩きつつ、息をゆっくりと吐いていた。

「(少しやり過ぎたかな……さすがに本当に異変が起きいたのは予想外だったがあの時、僕は心の中でこれはチャンスなのではと思ってしまったのがな……最悪な男だね、僕は)」

 レオンは先程のクリスとの会話を少し後悔していたが、行動に移したのは自分なのだからと後ろめたい気持ちはありつつも、後悔するのは止めるのだった。
 クリスに会いに行ったのは少し怪我をしたと知り、気になっていたのだが、つい話をしている流れで記憶喪失だと知り自分のやましい気持ちが抑えられず、今ならアリスが自分の方を向いてくれるのではと思ってしまう。
 そして、あんなぼかした言い方で以前から特別な関係性であったとする事で、ルークやトウマよりもクリスとの関係性で自分の立場を優位にしたのであった。

「(これはいい方法だとは絶対に言えない。僕もそれは分かっている。だけど、このままじゃ彼女に振り向いてもらえずに終わる可能性もあると思ったら、手段を選んでいられないと思ってしまったんだ)」

 レオンはそのまま自室の扉の前に辿り着き、ドアノブに手をかける。

「(この気持ちだけは、譲れない。だから君たちに勝つ為なら、茨の道だろうと僕は進むよ)」

 そのままレオンは扉を開けて部屋へと入って行くのだった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 冬の修学旅行4日目の朝、王都メルト魔法学院の学院生たちはバイキング形式の朝食をとっていた。
 基本的に寮ごとに席は区切られていたが、時間が経つにつれて寮関係なく各自自由な席で朝食をとり始めるのだった。
 そしてクリスとシン、ルークにトウマの四人で朝食を食べていると、そこに他の寮の次期寮長たちが集まって来た。

「オースッ! 朝食楽しんでいるか!」
「うっさ。何の用だよ、ダンデ。近くに来て大声だすなよな」
「あははは! 悪い悪い! 俺は今日もテンションが高くてなーあははは!」

 ダンデはトウマの隣に立ち笑い続けていると、そこにスバンとロムロスもやって来る。

「朝から騒がしいですわよ、ダンデ」
「そうそう。うちの寮の皆もその大声に迷惑してるんだけど」
「お! スバンにロムロスじゃないか! オースッ!」

 二人はダンデの独特な挨拶に軽く耳を塞ぎつつ、挨拶を返した。

「こういう時こそ、次期副寮長の出番なんじゃないのか?」
「何だルーク? スザクにも会いたいのか?」
「ああ、今すぐにでもここにきてお前を止めてもらいたいよ俺は」
「あははは! 何言ってるんだ、お前」

 そう言ってダンデはルークの背中を叩くが、ルークは不機嫌そうな顔をしてトウマに「どうにかしてくれ」という視線を送った。
 トウマはその視線を受け取り、咄嗟にスバンとロムロスへと視線を向けたが、二人は軽く手を振ったり首を振り「無理」と返されてしまう。
 その反応にトウマは「ですよね~」と何となく予想していたのか、直ぐにどうにかダンデを静かに治めてくれそうな人を探し始めると、そこに偶然レオンが通り掛かったのでトウマはレオンに声を掛けたのだった。

「どうしたんだい、トウマ?」
「急に悪いレオン。ダンデのテンションどうにかしてくれないか? ルークが無駄に絡まれて俺にきつい目線が飛んで来るんだ」
「そう言うのはスザクの仕事だけど、まぁ何とかしてみるよ」
「ありがとう! トウマ」

 そしてトウマはダンデへと近付き、ルークから引き離して一度落ち着く様に話をするとダンデは数回深呼吸し始めるのだった。
 その後落ち着いたダンデとレオンが戻って来て、ダンデが軽く謝罪した後そのまま皆で食事をしながら雑談をしようと提案し、皆で何気ない会話をし始める。
 するとそんな中、ルークはクリスとレオンが二人で何か話している姿に目が向いていた。

「(さすがに会話までは聞こえないが、どことなく雰囲気が前と違う気がする。クリスと言うより、アリスに近い感じだ。レオンの事はまだアリスには伝えてないはずだが……)」
「トウマ? 聞こえてるか、俺の声?」

 そう訊ねて来たトウマにルークは深くため息をつく。

「おい、何でそこでため息つくんだよ」
「いや、お前は呑気だなって思ってよ」
「それどういう意味だよルーク」
「それは自分で考えろ、トウマ」

 ルークはそう言ってそっぽを向き、一瞬だけ舌を出す。
 その後朝食時間も終わり、全員荷物を持ち各魔道車へと乗り込むのだった。
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