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第367話 もしかして怖い話?

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「妹がご迷惑をおかけしました!」
「いやいや、もう何度も頭を下げなくていいですから」

 私は妹のエルと共に姉であるモリンに対して、そう言葉を掛けた。
 トウマも似たような言葉を掛けていた。

「本当にすいませんでした。こんな事までして下さって、感謝しかありません」
「お姉ちゃん、そこまで謝らなくてもいいって言ってるよ二人とも」
「エルは黙っていて。もう、姿が見えなくて驚いたんだからね」
「うっ……それは」
「本当に心配したんだから、もう勝手に何処かに行かないでよねエル」

 モリンはその場で膝をついてエルに優しく抱き着くのだった。
 エルもモリンがどれだけ心配していたのか、悪い事をしたのかを理解し、ギュッとモリンに抱き着いて「ごめんなさいお姉ちゃん」と口にするのだった。
 その光景を見て、私とトウマはひとまずこれで一段落したと思い安堵の息をついた。

「これで当初の作戦は達成だな。良かった、良かった」
「そうだな。エルがお姉ちゃんのモリンさんを見つけてくれなかったら、まだ時間がかかってだろうな」

 モリンさんもエルを探し回っていたのかな?
 私がそんな事を思っていると、モリンがエルと手を繋いだまま立ち上がった。

「トウマさん、クリスさん、この度は本当にありがとうございました」
「そんなに気にしないで下さい。俺たちは、ってより俺はほとんど何も出来てないですし。最後もエルがモリンさんを見つけてくれたから、出会えた訳ですし」
「いえいえ、トウマさんたちがエルを出会って親切にして下さっていなければ、出会えていませんよ」

 モリンは私たちに笑顔で感謝を口にした。

「そう言えば、モリンさんがエルに持たせていたメモ書きの場所に、他のチームが行っているですが会いましたか?」
「いえ、今日はお店をお休みさせてエルを探していたので、その場所には行ってないです」
「そうだったんですか」
「もしかして、彼らがお店を訪ねて私やエルの事を訊いているかもしれませんが、店長は口が堅い人なので何も分からない状態かもしれないです。すいません」
「謝らないで下さい。見ず知らずの人にそう簡単に情報を教えないのは普通ですよ」

 その後私たちは、モリンとエルと軽く話した後、そこで別れる事にした。
 エルをお姉ちゃんであるモリンの元へ届けると言う目的も達成したので、後はルークやフェルト、ピース、ガードルにそれ伝えて皆にも無事に送り届けた事を伝えなければいけないと思ったからである。

「それでは、このお礼はまたいずれ」
「バイバイ~トウマ! クリス!」
「バイバイ、エル。今度は一人でどっかに行くなよ」
「またね~」

 そうして私とトウマは二人と別れて、ルークを探し始めた。
 とりあえず私とルークが別れた位置まで戻って来て、トウマとルークを探したがやはりそこには居ないのか見つける事も、通信用魔道具も反応がなかった。

「ルークはいないか。どうするクリス? ここでルークを待つか? それとも探しに行くか? それか、フェルトやピースたちの元に行くか?」
「うーん……もしかしたらルークもここに戻って来るかもしれないから、もう少しここで待っていいか」
「了解。あー何だ、寒くないか? 大丈夫か?」
「大丈夫だけど、どうしたの急に?」
「いやな、その、待つなら飲み物でも買ってこようかと思ってな。クリスもいるか?」
「ありがとうトウマ。それじゃ、お願いしてもいいか」

 私の言葉にトウマは「任せておけ」と軽く胸を叩いた後、飲み物を買いに離れて行った。
 そのまま私は、待っている時間をただ無駄に過ごすんではなく通信用魔道具を使い、ルークに呼びかけ続けた。
 だが返事はなかったので、一度呼びかけるのを止めた。

「はぁー、どこ行ったんだルークの奴」

 私は近くで大道芸している者を見ながらため息をつき、少し前のトウマの言葉の事について思い返した。
 さっきはエルが偶然お姉ちゃんのモリンさんを見つけてうやむやになったけど、よくよく考えると告白紛いの事をされたんだよな私。
 たぶんトウマもそれを分かっていたし、偶然うやむやになったから何事もなかった様にさっきは接していたけど、どう思っているんだろ? 今飲み物を買いに行ったのも、気まずくならない為にした事なのかな?
 私はそんな風に考え事をしていると、通信用魔道具から声が聞こえていた事に気付き直ぐに耳を傾けと、聞こえて来た声はルークであった。

『クリス? クリス、聞こえているか?』
「ルーク。聞こえているぞ、今何処に居るんだ?」
『今別れた場所に、フェルトとピース、それにガードルと共に向かってる?』
「え? フェルトたちと合流してたのか?」
『いや、偶然エルを探している時に会ったんだ。それよりも、話したい事があるんだ。お前は何処に居るんだ?』
「俺もルークを探すために別れた所にもういるぞ。それにトウマとも合流して一緒だ。後、エルに関してだけどエルは見つけて、その後偶然お姉ちゃんを見つけたぞ」
『なっ!? そ、それは本当か? それで二人は?』

 ん? 何か変に驚いてる? それとも連絡が遅れて怒ってるのか?

「え、二人とはもう別れたけど。どうしたの? 通信用魔道具で直ぐに伝えようとしたけど、離れ過ぎたのか全然反応なかったから遅れたのは謝るけど」
『……いや、分かった。細かい話は直接しよう。それじゃ一度切るぞ』
「分かった」

 そうやってルークとの連絡は終わり、私はとりあえずルークたちの到着を待った。

「えっ……ごめん、もう一回話してもらっていい、ルーク」

 私はルークたちの話が一度では理解出来ずにもう一度話してもらう様にお願いした。
 ルークは素直に受け入れてくれ、もう一度話しをしてくれた。
 その内容は、信じがたい物であった。
 先程まで一緒にいたエルとモリンと言う人物は、25年以上も前の人物であり既にここ王都には存在しない人物だったのだ。
 フェルトとピースがエルの持っていたメモ書きの場所は、確かに存在はしていたが既に廃業となった飲食店であった。
 その店は25年前は人気店であり、看板娘のエルとモリンは周辺では知らない人はいなかったのだ。
 だが、それから王国転覆事件前に危険を察知したのか店主共に一度王都を離れてしまい、それ以降誰も居ない店となっていたらしい。
 フェルトたちは偶然その店に昔通っていた人からその話を聞いたのと、写真を見せてもらいそこにエルとモリンと思われる人物が映っているのも確認していた。
 エルは学院で見た時と容姿が全く変わっていなかった為、フェルトとピースは驚いたと口にしそこにガードルも合流しそれを見て驚いた話してくれた。
 それからフェルトたちは、その事をルークに伝えようと通信用魔道具で連絡をとりつつ移動していたら、偶然ルークと出会い話をしてから今に至ると話してくれた。

「え~と、つまり俺たちは存在しないはずの人たちと会話してたのか?」
「言い切れはしないが、そう言う事になる」
「で、でもエルにも触れたし、変な所は何もなかったぞ」
「だから真実とは限らないが、そういう可能性が高いと言うだけだ」
「……マジかよ」

 トウマはその場で気が抜けてしまう。
 そして私たちは暫く無言になってしまう。
 するとフェルトが口を開いた。

「と、とりあえず、何であろうと解決はしたんだしここはパーッと何か食いに行こうぜ。ピース、何かいい店ないのか?」
「え、あ、え~と、ここからだと」
「そうだな、フェルトの言う通りエルはその姉とも会えたのだから、一件落着でいいだろ。分からない事は考えなくでもたまにはいいだろ」
「そ、そうだなよ! いい事言うぜガードル!」
「まぁ、特に変な事も起きてないしフェルトの提案に乗るか」

 と、皆が前向きに盛り上がっていたので私も深い事は考えずに、今はそのテンションに合わせる事にした。
 だけども、心の中では「ちょっと、怖いかも」と思っていたのは内緒である。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ――とある裏路地に、エルとモリンの姿はあった。

「はぁ~ここまで来れば、もう大丈夫でしょ」
「迎えに来てくれてありがとう、モリンお姉ちゃん!」
「いやいや、もういいですってそれ」
「ん? 何の事を言ってるのか私分からないよ、モリンお姉ちゃん」
「もう辞めてくださいよ、師匠! 私が辛いですから!」

 するとエルは小さくため息をつくと、両手を組んだ。

「……はぁ~もう少しやっていたかったがな。後、結構似合ってるぞ、モーガン」
「それだけは言わないでください、師匠……」

 モーガンはそう口にすると、モリンの姿を解きいつもモーガンの姿へと戻る。
 そしてエルも一度指を鳴らすと、その直後変身魔法が解かれいつもの姿へと戻るのだった。

「にしても、まさかあんな事態になるとはね~参った、参った。あははは」
「笑い事じゃないですよ。朝起きてから手紙見て、直ぐに指示された通りに変身魔法を使って来たのに、師匠がいないわ、来るのはフェルトたちで焦ったんですからね!」
「悪かったよ。ちょっと学院に忍び込んで、寮に入り込んで手紙を置いたまでは良かったが、軽くフラフラして帰ろうとした時にトウマに見つかってね。そのまま逃げようかとも思ったけど、寮には他にどんな奴がいるのか気になってね」

 そう口にしてリリエルは笑うが、モーガンはため息をつく。

「いや~実に楽しかったし、モーガンも問題なく変身魔法を使えていて師匠としては鼻が高いぞ」
「変身魔法は苦手で何とか保っていたに過ぎないですよ。それにあの設定は何なんですか? 年の離れた姉妹って」
「あれか? あれは私が昔学院で教員をしていた時に、よく昼食を食べに行っていた店屋の看板娘たちだよ。ちょっと顔見知りだったんで、変身で使わせてもらったのさ」
「もし本人たちがいたらどうしたんですか?」
「それは大丈夫。彼女たちは今は別の地で、新しく飲食店をしているからね。それよりも、お前が送って来た手紙の本題に入ろうか」
「……はぁ~他にも言いたい事はありますけど、分かりました。今日はそれが目的ですし」

 そうしてモーガンは以前リリエルに送った手紙の内容について、話始めるのだった。
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