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第353話 決着

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 私は舞台上でトウマとルークが同時に倒れた事に息を呑んだ。
 周囲の皆もいきなり決着がついたのかと思い、静寂となった。
 そして皆が舞台に目を向けていると、先に立ち上がったのはルークであった。

「はぁー……はぁー……はぁー……」

 膝に手をつきながら立ち上がるが、ルークの息は上がったまま、倒れるトウマを見つめる。
 トウマは仰向けに倒れていたが、意識はあったが立ち上がる事が出来ずにいた。

「(くそっ……体に力が、入らない……)」

 何度か手に力を入れ起き上がろうとしていたが、体を支えられずに倒れていたのだった。
 だがトウマは諦めてはいなかった。
 倒れようとも何とかして体を起き上がらせようとし続け、うつ伏せの状態へと変え、そこから両腕を体の内側に入れる。
 そこから体を押し上げ始める。

「うぅぉぉぉおおお!」

 トウマは声を上げつつ、起き上がり始め膝を折り曲げ、そのまま立ち上がる。

「ふー、ふー、ふー」

 顔を真上に上げながらトウマは呼吸をした後、ルークの方を見つめた。

「どうだ、ルーク。俺はしつっこいだろ?」

 息を切らし、少しふらついていたがまだ競技続行の意識はあるとルークに伝えるのだった。
 ルークは答える事はなく、ただトウマを見つめていた。
 するとそこへデイビッドが声を掛けて来た。

「勝負はそこまで!」

 その声に二人は同時にデイビッドの方を見ると、トウマが反論し始める。

「何でですか、副学院長! まだ勝負はついてないですよ!」
「その状態で何を言っている、トウマ」
「俺はまだ出来ますよ! こうやって立ててもいますし!」

 そう言いつつも、トウマはまだふらついていた。

「君の意思はそうかもしれないが、体が限界を発している。力も入らず、立っているのもやっとだろ」
「っ……」

 その直後だった、トウマは体勢を崩しその場で尻もちをついてしまう。
 そしてデイビッドがルークとトウマの勝負に判定を言い渡す。

「二人の勝負の勝者は、ルーク」

 デイビッドの言葉に周囲の皆が次期寮長が決まったと盛り上がり始める。
 ルークは黙ったまま視線をトウマに移すと、トウマは座ったまま少し俯いていた。
 するとルークはゆっくりとトウマに近付くと、手を伸ばすのだった。

「トウマ」
「……ルーク」

 トウマはルークの言葉に顔を上げ、差し出された手を見つめる。

「はぁー、負けちまったか……」

 そう言ってトウマはため息をついた後、ルークの手を取るとルークはトウマを起き上がらさせると、ルークは口を開く。

「いや、そうじゃないなトウマ」
「?」

 トウマがルークの言葉に首を傾げた瞬間だった、デイビッドが再び口を開く。

「諸君、何か勘違いしているようだが、私はまだ最終競技に判断は下していない。先程下したのは、彼ら二人の勝負にだ」

 デイビッドの言葉に周囲の皆はざわつきだす。
 そしてデイビッドは、そのまま最終競技の判断を口にするのだった。

「最終競技『実力勝負対決』勝者は、トウマ。ルーク派閥は、代表者であるベックスが途中で、別の者と入れ替わり試合を続行した為である」

 その判断に「ならその時に言え!」「今更過ぎるだろ!」などと不満を漏らす者もいた。
 デイビッドはそんな事に屈する事無く判断は曲げなかった。
 するとルークは真上に『バースト』を放ち、皆の視線を集めた。

「審判者は絶対だ。俺も薄々そうなんじゃないかと思っていた。後、さっきの勝負はあのまま続けてたら、俺はギブアップしていたよ。トウマのしぶとさにね。それに、これはうちの寮の問題だ。どれだけ外野が騒いでも、どうなるかは俺らの最終投票判断で決まる事だ」
「それ褒められてないよな、俺」
「いやいや、俺は褒めているよ。競技は違反負け、喧嘩は判定勝ちってところかな」
「うっ……気に食わねぇな」

 ルークの宣言に、文句を言っていた者も黙り始める。
 そこでデイビッドが二人に問いかけた。

「もし気に入らないのなら、全員の同意があれば最終競技のみ再実施でもしたらどうだい?」
「いや、再実施はしないです。このまま、トウマを次期寮長候補者とし寮での最終投票判断に入ります」
「おいルーク! 勝手に決め――」
「なら、早く始めようか」
「ニック!?」

 そこへ割り込んで来たのは、ニックであった。
 更には、ルーク派閥の皆も舞台に上がってくるのだった。

「おっ、このまま始めるのか? いいね~じゃ、第1学年も入れるか」

 そう言ってフェルトは、柵の外にいた第1学年を呼びいれ、トウマ派閥皆で舞台に上がるのだった。

「おいおい、フェルトたちまで……あ~本当にやるのかよ!? 俺はまだ納得して」

 と、トウマの言葉を無視してルークが次期寮長候補者としてトウマを認めるかどうかを、現第2学年と第1学年全員での最終投票判断を開始した。
 私は戸惑いながらもガウェンと共に投票を行った。
 最終投票判断なんてあったけ?
 と、私は思ってたがガウェン曰く、次期寮長の決め方は自由だが必ず第2学年と第1学年の全員の意思を確認する必要があるらしく、今回は『三番勝負』が終了した時点でルークがそれを最終投票判断としてやっているんだと教えてくれた。
 第1学年の皆もそれは事前に誰かから聞いていたらしく、スムーズに投票をしていた。
 そして全員が投票し終えた所で、ルークがオービンとミカロスの方を向くと、二人が舞台へと上がって来て投票箱を受け取り確認し始めた。
 確認作業はそこまで時間がかからずに終了すると、オービンが口を開く。

「承認多数により、我がオービン寮次期寮長はトウマ・ユーリス!」

 そう言い渡されると、拍手と歓声が広がった。

「マジか……」

 あ然とするトウマに対して、ルークは笑顔で肩を叩くのだった。

「よかったな、トウマ。いや、トウマ次期寮長」
「ルーク、お前な~」

 するとそこへオービンが話し掛けて来た。

「おめでとうトウマ君」
「オービン先輩」
「色々と思う所はあると思うが、その前に次期寮長として早速仕事をしてもらいたい」
「え!? い、いいい、いきなりですか!? そんなの聞いた事ないですが。ありましたか、去年?」
「あったよ。とっても大切な、最初の仕事」

 動揺するトウマにオービンはルーク同様に笑顔で返す。
 それを見てトウマは、改めて兄弟だなと思うのだった。
 そしてオービンがその内容を口にした。

「最初の仕事って言うのはね、次期副寮長を決める事さ」
「次期副寮長ですか?」
「ああ。さぁ、トウマ君は誰を次期副寮長として任命するんだい? こんな大勢の前での指名なら、当人も断りずらいだろうが、そこは次期寮長に認められたとして諦めてもらうしかないね」
「……あ~確かにそうですね」

 するとそこでトウマは何かを思い付き、こっそりと離れようとするルークの腕を掴むのだった。

「どこに行くんだよ、ルーク」
「ぐっ……いや、ちょっと祝いの花でもと思ってな」
「そんなタイプじゃないだろ、お前は。そう言えば、将来の為に視野を広げたいとか言ってたよな」
「待て、トウマ! 俺にも心の」

 そう口にするルークを無視して、トウマは高らかに宣言するのだった。

「オービン寮次期副寮長には、ルーク・クリバンスを次期寮長であるトウマ・ユーリスが任命する!」
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