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第346話 ノルマ・フラスト

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 俺は普通だ。
 自分でも自覚しているし、うぬぼれてもいない。
 特技もない、秀でている所も特にない、苦手はあまりないが出来ない事はある。
 学力もいい訳じゃない。
 いつも平均点の上下くらいしかとれない何とも言えない奴だ。
 それが、俺ノルマ・フラストという普通の男だ。
 昔からこういう訳ではなく、どちらかというと落ちこぼれの部類であった。
 そこから俺は得意分野を伸ばすべきだと教わり、一時的に成績は上がったがその後苦手分野が足を引っ張った。
 だからその次に俺は、苦手分野をなるべく苦手でなくす為に勉学に励み、結果的に成績は上がった。
 が、苦手が普通になり、普通が少し伸びただけであり、最終的に平均的になったのだ。

 望んだ結果ではなかったが、これは俺が頑張った結果だから受け入れている。
 努力とは必ずしも実ものじゃないと、俺は身をもって体験したのだ。
 だからと言って、努力を辞めた訳じゃない。
 ただ、そういう事もあると知れたというだけだ。
 この学院には、皆人知れずに努力をしている。
 努力とは、もう誰しもが何かしらでやっている事だと俺は思っている。
 何もしなければ、ただ衰退するだけであり、維持する事も俺は同じだと考えている。
 だからこそ、俺は今の俺を変えない為に努力し成長するようにしている。
 具体的には勉学もそうだが、これまでの人生でとりあえず俺は何でもある程度の所までは出来ると分かったので、とりあえずはやった事がない事や知らない事に手を出し続けた。
 そして、一年で多くの事がある程度出来るようになった。
 と言っても、素人に毛が生えた程度である。

 浅く広く俺は学び続け、今の俺になっているが、そのお陰で出来ない事はほぼなく自分の可能性が広げられたと思っている。
 将来はどうするのかとこの時期ではよく聞かれる事であるが、俺はまだ明確には決まっていない。
 が、ここまで広げた可能性を無駄にしたくないので、何かしら自分の店や仕事をやろうかとやんわりと考えている。
 なので、今は経営などの勉強をし始めている所だ。
 改めて自分でも思うが、俺って器用貧乏じゃねぇ?
 と、ノルマは審判者たちがオービンの所に集まっている時にそんな事を考えていた。

「(今更だが、俺よくここまで彫刻出来たよな。対決が決まってから、急いで彫刻の本とかやり方とか見て独自に勉強したが、これはその成果が出たでいいのか? 未だに分からん)」

 ノルマは自分の彫刻作品を見た後、ヴァンの彫刻作品の方へと視線を移した。

「(う~ん、流石にこれは負けたよな……あんなのと比べたら、俺のこれは歯が立たない。素人とプロの差ってやつかな)」

 そう卑下しつつ、結果発表を待っていると見物人たちのざわつき声もそのような感じであり、小さくため息をついた。

「(あー……やっぱりそうだよな。俺は普通で、誰かに勝てる様な特技はないのが特徴。ただ普通であり、それが取り柄。……今更出た事を後悔しそうだ。でも、それだけはしない。自分で決めた事だし、皆の推薦もあったから出ると決めたんだ! 結果は結果として受け止めて、何かに活かすんだ俺!)」

 ノルマはその場で勝手に切り替えて、今後の事を考え始めたのだった。
 その時、審判者たちが戻って来てオービンが口を開くのだった。

「お待たせしました。これより結果発表を行います」

 会場はその声で静かになると、ノルマは小さく深呼吸するとヴァンは自信満々の顔で結果を待っていた。

「『彫刻勝負』の結果、三対二で勝者ヴァン!」

 オービンの発表に周囲が盛り上がる。
 ルーク派閥は安堵の息をつきつつ、次の最終戦へとつながった事を喜んでいた。
 一方でトウマ派閥は惜しい結果に悔しがっていた。
 そんな中で一番驚いた顔をしていたのは、ノルマだった。

「(え、嘘……三対二って、俺の彫刻に二票入ったって事か!? ヴァンの圧勝だと思ったのに、俺に二票!?)」

 ノルマは自分の中で勝手に大差で負けるものだと思っていた為、結果内容が信じられていなかったのだった。
 するとオービンが各彫刻に対して審判者たちが感じた感想などを話し始めた。

「ヴァン君の作品は、繊細な創りで見ていて面白い、躍動感が良かった、比べた時に目を引いたなどの内容が多かった」

 その理由に見物人たちも共感していた。

「次にノルマ君の作品には、熱意が感じられた、これからもっと凄いのが創れそう、毛並みの表現が好き、何でか目が離せなかったなどと様々な内容だったよ」

 ノルマはその言葉に、目をキョトンとさせていた。
 見物人たちも「確かに」「そうか?」「言われて見れば」などとざわつきだすのだった。

「(そんな風に思われたのか……何か、初めての感覚でどうしていいか分からないな)」

 そんなノルマの元にヴァンがやって来て声を掛けた。

「二票も取られたのは悔しいが、これが結果だ。ノルマ胸を張れよ。僕から二票をとったんだ」
「あ、あぁ」
「本当は圧勝でオービン先輩にいい所を見せたかったが、最低限勝てたから良しとする」
「(何で上からなんだよ、ヴァン)」

 それだけ言うとヴァンは、ルーク派閥へと戻るかと思われたが一直線にオービンの元へと向かうのだった。
 そして嬉しそうにオービンに話し掛けるのだった。
 俺はその姿を見てから、トウマ派閥へと戻った。

「(内容には驚いたが負けは、負けだ。皆に合わせる顔がないな。結果は想像通りだったけども、改めて負けって実感すると結構くるな……)」

 と、思い俯ているとトウマがいち早く声を掛けるのだった。

「惜しかったな、ノルマ! いや~やっぱりヴァンは強いな。でも、ノルマも流石だ!」
「トウマ。悪い、負けちまったよ。皆もごめんよ。せっかく背中を押してもらったのにさ」
「何言ってんだよ。そんなに気にするな。別に死ぬわけじゃなんだし、気楽に行こうぜ!」
「そうそう! あのヴァンに接戦だったんだ、あれが出来るのはこっちのチームじゃノルマだけだよ」

 ノルマがそれを聞き見回すと、皆が軽く頷いた。

「……ありがとう、皆」


 オービン寮次期寮長選挙『三番勝負』
 第二競技まで終了時点で

  ルーク派閥 一勝一敗
  トウマ派閥 一勝一敗

 次期寮長の行方は、最終戦『実力勝負対決』の結果にゆだねられるのだった。
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