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第336話 三番勝負

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 次の日、私は教室へと向かう廊下を疲れた状態で歩いていた。
 はぁ~朝から疲れた……
 私が朝から何をしていたかというと、エリス先輩とのゴーレム武装特化訓練である。
 昨日、私はエリス先輩と一対一の全力勝負を行い現時点での状況判断としてやれることを全て見せたのだ。
 感覚でいうと、冬休み中にお兄ちゃんにゴーレム武装を見てもらった時に似ていた。
 そしてそこからエリス先輩からのアドバイスをもらいならが、特化に向けての調整や変更など行い始めているというわけである。
 それが何故早朝からなのかというと、競技場の予約が放課後にとることが出来ずに、早朝しか空いていない為であった。
 こればかりはどうすることも出来ないので、エリス先輩には申し訳ないが朝から付き合ってもらっているという訳だ。
 まぁ、予約を取るのも全部エリス先輩がやってくれたから、私からは何も文句を言える立場ではないのだけど。

「初日から時間ギリギリまでやっちゃって、遅刻するところだった。なんとか時間内にはつけそうだからいいけど、明日からはもう少し時間を気にしよう」

 そう反省しつつ、私は教室前に到着し扉に手をかけ開けた。

「おは……よ……う?」

 私が教室へ入ると、そこではルークとトウマを中心に互いの派閥がちょっとバチバチとした雰囲気でだったのである。
 その状況を目の当たりにして、私はこっそりと教室へと入り同じ中立派のガウェンの元へと姿勢を低くして向かった。

「おはよう、ガウェン」
「おう、クリスか。今日は珍しく遅いな。寝坊か?」
「寝坊ではなくて、朝から体動かしてたって感じかな」
「そうか。で、わざわざ自分の席に行かずに、俺の所に来た理由は?」
「そんなの決まってんじゃん、あれだよ、あれ。どういう状況なんだよ? 昨日までの二人と全然違うんですけど?」

 するとガウェンは「あ~」と口にし、私がいなかった間の教室での出来事を教えてくれた。
 簡単にいえば、朝教室に来るとルークとトウマが互いの推薦を取りやめ、自分が次期寮長候補をやると宣言したのだ。
 昨日は全くそんな感じではなかったが、昨日の今日でという所もあったが、意外と些細な事で気持ちは変わったりするものなんじゃないかとガウェンは言っていた。
 にしても、ルークならそう考えるのも分からなくないが、トウマがそうなっている事に私は少し意外だと感じていた。
 別にトウマが次期寮長に合っているとかそういう話ではなく、ルークがやるならてっきり身を引いて応援するものだと思っていたからだ。
 ルークもまさか、トウマが競争し合う相手になるとは思ってなかったんじゃないのかな? まぁ、私の勝手な想像だけども。

「あ、そういえば、互いの候補者がやる気になったけど、どういう風に決めるかは何か進展あった?」
「それについて話し合っているらしいが、あの状況だ」
「あ~なるほど……」

 つまりは、雰囲気から察するにまだその辺は決まらないと。
 確か次期寮長選挙って、エリス先輩に訊いた所来週の1月19日までなんだよね。
 まだ、日にちはあるけどこの感じが続く気がして決まらないなんてことないかな?
 私はそんなことを考えていると、チャイムが鳴り響き暫くしてから担当教員がやって来て、皆に席へ座る様にいい一日が始まるのだった。
 そして授業も進み、あっという間に放課後になるとフェルトが立ち去った担当教員と入れ替わる様に教壇に立った。

「皆、帰るちょっとだけ待ってもらっていいか? 次期寮長選挙のやり方について、話したいんだが」
「朝から話して互いに譲らないからあんなになったのを、忘れたのかフェルト?」
「まぁまぁ、ニックの言いたいことも分かるけど、俺にいい案があるんだよ。騙されたと思って、聞いてくれよ」
「……俺は偏りがあったら直ぐに口を出すぞ。それでいいなら」
「オーケー、オーケー。全然問題ないよ。他の人もいいかな? 中立派の人にも聞いて欲しいから、帰らないでね~」

 そして皆好きな場所でフェルトの話を聞く体勢をとる。
 私は後ろの方で自席に座って話を聞く事にした。
 するとフェルトは黒板にざっと文字などを書き始めた。
 そこには互いの派閥がこうして次期寮長を決めたいという、内容が書かれていた。
 演説や純粋な投票、直接対決、派閥での全面対決、競技点数勝負、魔力対決、シュミレーション対決などなど、様々な内容が黒板に書きだされていた。
 凄い色々と出し合っているけど、その中で演技対決ってのはどうなんだ? 何を見て寮長を決めるんだ?
 私からすれば、何をどうやって寮長として決めるのか分からない物もあったが、それも一意見として受け入れているのだなと解釈した。
 そして書き出し終えた所で、フェルトは教壇に手をつき、口を開いた。

「これまで俺たちは、何か一つのことで決めようとして、こんなにも意見がでたわけだ。で、これじゃそっちが有利、それじゃこっちが有利と全然決まらなかった」
「あぁ、だから平等な対決になるような何かを話していたんだろ?」
「そう。でもこれが、なかなか見つからない。このままじゃ、最悪話しているだけで期間が終わるなんてこともありえると俺は思ったわけよ」
「で、いい案っていうのは何なんだよフェルト」
「焦るなよガイル。今から言うからさ。えーでは、発表します。俺が考えたいい案とは……」

 そこで溜めるフェルトに皆が注目した。

「『三番勝負』!」
「……?」

 フェルトの発言に一斉に皆がハテナマークを浮かべた。
 するとニックがフェルトに問いかけた。

「それは結局何の勝負をするんだよ、フェルト?」
「何となく分からないか、ニック? 三勝負して、先に二勝した方が勝ちってやつだよ。で、勝負内容は一つずつ、互いの派閥で決めてそれを実行する。そして最後に余った勝負は今まで出た勝負内容からくじ引きで決める。これが俺が考えた『三番勝負』よ。どう? いい案じゃない?」

 その案に周囲の皆は意外といい反応をしていた。
 両派閥が一つ勝負内容を決められるし、最後の勝負はくじ引きで決定するという運任せ。
 これなら、不満も出ずに勝負が出来るんじゃないのかと、話しているとニックがフェルトの方を見て口を開いた。

「おいフェルト、確かにいい案だが最後のくじ引きってのが怪しいんだが。お前、何か仕組もうとしてないか?」
「っ……そ、そんなことね~よ。不正なんかするかよ」
「(怪しい。発言が微妙にたどたどしいのも気になるが、あれはわざとの可能性もある。どっちにしろ、何かしら考えてはいる気はする。だが発案してきた内容については、気になる箇所以外は悪くはないと思う)」
「じゃ、最後の勝負以外は互いが決めた勝負をするっていう方針で『三番勝負』で次期寮長選挙をするってことで、どうだ? 悪くはないだろ?」

 フェルトは直ぐにニックに指摘された箇所をそぎ取って、改めて提案して来た。
 周囲の反応からして、他に反対意見も出なかったので最終的には互いの次期寮長候補の意見で決めることになった。

「俺はそれでいいぞ。皆も納得しているし、一つじゃなくて他の視点からも判断するのはいいんじゃないか」
「総力戦って感じがしていいし、俺も賛成!」

 と、ルークもトウマも賛成したことで、うちの寮の次期寮長選挙は『三番勝負』で決定した。

「それじゃ、早速最後の勝負について――」

 フェルトがそうして切り出した時だった、突然教室前方の扉が開くのだった。

「話は聞かせてもらった! その最後の勝負、俺が決めてやろう!」

 意気揚々とそう言って教室に入って来たのは、オービンであった。
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