上 下
335 / 564

第334話 派閥と中立

しおりを挟む
「はぁ~という訳で、何か今の状況疲れるんですよね~」
「そうかよ」
「どう思います、タツミ先生?」
「知るか! 用がないならさっさと寮に帰れ! ここは誰かの愚痴を聞く所じゃねぇんだぞ!」

 私は椅子に座りながら不満げに「え~」と返すと、タツミはぎろっと私の方を睨んで来た。
 うっ……ちょっと調子に乗り過ぎたかも。
 私が少し強張った表情をしていると、タツミが睨むのをやめて小さくため息をついた。

「もういいから、用がないなら帰れ。部屋に誰かいられると気が散るんだよ」
「は、は~い」

 ここ医務室なのに、大抵誰もいないんだからこういう時くらい、ちょっといいじゃん。

「次期寮長選挙で居づらいのは分かるが、ここじゃない所に行け」

 うっ……タツミ先生は心でも読めるの? 何でピンポイントに当てて来るかな。
 私はそんなことを思いつつ、医務室後にした。
 そして私と入れ替わる様に医務室にやって来たのは、オービンであった。

「失礼します。タツミ先生いますか?」
「……」
「いますね。入ります」
「返事してないのに、勝手に入って来るな」

 オービンはタツミの言葉を無視して、医務室の奥へと入りタツミの前に椅子に座った。

「そもそもタツミ先生が、医務室にいないはずないじゃないですか。今日は、定期健診の日ですし」
「はぁ~そうだったな。新年から書類仕事が多くて、忘れかけてたよ」

 そういいながらタツミは、オービンの体調の定期健診をする為の準備を始める。
 準備しながらタツミはオービンに愚痴を言うのだった。

「オービン、お前今次期寮長選挙に首突っ込んでいるらしいな」
「耳が早いですね、タツミ先生」
「教員だからな」
「それで、それがどうしたんですか?」
「お前の寮の奴らが対立してて、その影響であふれてた奴が俺の所に来たから迷惑してたんだ。早く何とかしろ」

 タツミの言葉にオービンは片手で軽く頬をかきながら「そういわれましても」と困った態度をとる。
 そこへタツミが機材を準備し終えて、オービンをベッドの方へと呼ぶ。

「なら、あとどれくらいで決着がつく? それだけ教えろ。どうせお前のことだ、それくらいは予想ついてるだろ?」
「まぁ例年通りいけば、次期寮長選挙期間は1月19日までの11日間なので基本的には来週の頭には終わるはずですね。でもうちはもしかしたら、今週中には決まるかもしれないですね」
「そうか。それなら後2日間耐えればいいだけだな」
「あくまで予想ですからね。真に受けないでくださいよ」
「いや間違ってたら、きついリハビリ日程に変える」
「タツミ先生、それなんていうか知ってます? 脅迫ですよ?」
「……いや~このままお前の体は鈍ってしまうな。リハビリを増やさないとダメだな~これはダメだ。あ~俺の診断では今週中にお前の寮の次期寮長選挙が終われば、良くなる気がするな~」
「(いやいや、何も変わってないですけど?)」

 そう思いつつオービンは、タツミへと視線で訴えたがタツミはにっこりを笑い返すのみだった。

「(はぁ~これはもう、願うしかないな。どうか今週中に決着がつきますように……リハビリ増加はちょっときついから、嫌だな)」

 オービンはベッドにうつ伏せになりながら、ただそう願うのだった。
 一方医務室を追い出された私は、大図書館へと向かっていた。
 学院の廊下には、他の寮の次期寮長選挙ポスターなどが貼られており、学院は次期寮長選挙一色であった。
 次年度の寮長を決めるのだから、これほど盛り上がるのは分かるし、自分が今いる寮の次の長が誰になるかで雰囲気も変わるし、方針とかも変わるのだから皆が興味を持つのは突然のことだと私は思っていた。
 ただ私としては、第3学年になる前に辞める予定なのでそんな奴が、次の寮長を左右する決定権を持つのはおかしいと思い私は中立の立場にいるのである。
 今更だが、現状クラスの勢力としてはトウマ派が7人おり、ルーク派が6人で、中立が私を含め5人という状況だ。

 トウマ派閥には、フェルト、ガイル、リーガ、ライラック、ガードル、ノルマ、シンリがいる。
 一方でルーク派閥には、ニック、マックス、ケビン、シン、ヴァン、アルジュという感じである。
 残った私、ガウェン、ベックス、モーガン、ピースが中立となっている。
 各々が各々の意見や考えを持って支持をしており、中立にはまだ決めきれない人や私の様に完全に傍観と決め込んでいる人がいる。
 ちなみにそれはガウェンであり、関係性的にルークを支持すると思っていたが、ガウェン曰くどちらにも決めきれないので傍観することを決めたらしい。
 優柔不断な奴だと思われても仕方ないと自分では話しており、それが時間を掛けて考えた結果なので、どちらが寮長になったとしても文句はないし支持すると宣言したのだった。
 さすがに私はそんな宣言は出来なかったので、ひっそりと逃げ続けている状況である。
 現状、どの様に次期寮長を決めるかの方法は決まっていないので、明日両派閥で話し合い決める予定になっている。
 何か新年そうそう、気が滅入る展開だな……
 私はそんなことを考えていると、大図書館前に到着した。
 よし、とりあえずリフレッシュするために本でも読むかな。
 そう言き込んで大図書館へと入ろうとした時だった、名前を呼ばれ私は足を止めて声が聞こえた方へと視線を向けた。

「やっぱり、ここに来たわねクリス」
「エリス先輩!?」
「あけましておめでとう、クリス」
「あ、あけましておめでとうございますエリス先輩」

 私は直ぐに頭を下げて新年の挨拶をし顔を上げた。

「どうしたんですか、こんな所で?」
「どうしたって、貴方がそれを私にいうの? もう忘れたの去年そこでした約束」

 エリスはそういいながら、大図書館の中を指さした。
 そこで私は思い出した。

「すす、すいません! そうでした、強化を手伝って頂ける約束をしてました」

 私の態度に少し呆れるエリスだったが「まだ思い出せるだけ、ミカよりましよ」と小さくぼやいた。
 直後私の手首を掴んで来た。

「それじゃ早速、行きましょうか」
「へぇ? 何処にですか?」
「競技場よ。大運動会とかやった場所」
「何をするんですか?」
「何って、競技場でやることなんて一つでしょ」

 するとエリスは、一番の笑顔を私に向けて来た。

「そこで私と全力で勝負してもらうわ」
「……えぇー!?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

悪役令嬢に転生したと思ったら悪役令嬢の母親でした~娘は私が責任もって育てて見せます~

平山和人
恋愛
平凡なOLの私は乙女ゲーム『聖と魔と乙女のレガリア』の世界に転生してしまう。 しかも、私が悪役令嬢の母となってしまい、ゲームをめちゃくちゃにする悪役令嬢「エレローラ」が生まれてしまった。 このままでは我が家は破滅だ。私はエレローラをまともに教育することを決心する。 教育方針を巡って夫と対立したり、他の貴族から嫌われたりと辛い日々が続くが、それでも私は母として、頑張ることを諦めない。必ず娘を真っ当な令嬢にしてみせる。これは娘が悪役令嬢になってしまうと知り、奮闘する母親を描いたお話である。

モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~

咲桜りおな
恋愛
 前世で大好きだった乙女ゲームの世界にモブキャラとして転生した伯爵令嬢のアスチルゼフィラ・ピスケリー。 ヒロインでも悪役令嬢でもないモブキャラだからこそ、推しキャラ達の恋物語を遠くから鑑賞出来る! と楽しみにしていたら、関わりたくないのに何故か悪役令嬢の兄である騎士見習いがやたらと絡んでくる……。 いやいや、物語の当事者になんてなりたくないんです! お願いだから近付かないでぇ!  そんな思いも虚しく愛しの推しは全力でわたしを口説いてくる。おまけにキラキラ王子まで絡んで来て……逃げ場を塞がれてしまったようです。 結構、ところどころでイチャラブしております。 ◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆  前作「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」のスピンオフ作品。 この作品だけでもちゃんと楽しんで頂けます。  番外編集もUPしましたので、宜しければご覧下さい。 「小説家になろう」でも公開しています。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

記憶喪失になったら、義兄に溺愛されました。

せいめ
恋愛
 婚約者の不貞現場を見た私は、ショックを受けて前世の記憶を思い出す。  そうだ!私は日本のアラサー社畜だった。  前世の記憶が戻って思うのは、こんな婚約者要らないよね!浮気症は治らないだろうし、家族ともそこまで仲良くないから、こんな家にいる必要もないよね。  そうだ!家を出よう。  しかし、二階から逃げようとした私は失敗し、バルコニーから落ちてしまう。  目覚めた私は、今世の記憶がない!あれ?何を悩んでいたんだっけ?何かしようとしていた?  豪華な部屋に沢山のメイド達。そして、カッコいいお兄様。    金持ちの家に生まれて、美少女だなんてラッキー!ふふっ!今世では楽しい人生を送るぞー!  しかし。…婚約者がいたの?しかも、全く愛されてなくて、相手にもされてなかったの?  えっ?私が記憶喪失になった理由?お兄様教えてー!  ご都合主義です。内容も緩いです。  誤字脱字お許しください。  義兄の話が多いです。  閑話も多いです。

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?

処理中です...