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第312話 対立

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「それが本当だとして、どうして貴方はここにいるのですか? 主人の危機に、逃げて来たのですか?」

 マリアは冷静に少し冷たくレオンに問いかけた。
 それに対してレオンは首を横に振る。

「直ぐに追跡したのですが、用意周到な相手でそのまま馬車で逃げたのです。その後も追跡をしたのですが、フードを被った人物に邪魔をされてしまい見失ってしまったのです」
「フードを被った人物……」

 それってもしかして、昼間に私を襲った奴らじゃ?

「それで、私たちに助けを求めに来たと?」
「既に警備団にも伝え、近くに控えていた他の使用人にも伝えてはいるのですが、僕は待機を言い渡されてしまって……このままじっとしている間にジュリル様に何かあったらと思ったら、いてもたってもいられなくてアリス様に声を掛けに来てました」
「なるほど。うん、分かったわ。助けに行こう」
「アリスお嬢様!?」

 昼間はジュリルに助けてもらったし、学院でも月の魔女友たちでもある。
 そんな相手をこのまま放って置く訳いかない! 次は私が助ける番!
 と、私は直ぐにレオンにどの方向へ行ったかを確認し出すと、そこへマリアが割り込んで来る。

「お待ちください、アリスお嬢様」
「何、マリア! ジュリルが攫わたんだよ? 助けに行かなきゃ!」
「それは警備団や、ハイナンス家の使用人たちが対応する事です! 部外者である私たちが命を掛けてまで関与する事ではありません」
「っ! ……マリアそれはあんまりにも冷たいんじゃないの?」
「いえ、これはアリスお嬢様の身を案じているからこそです。この街の警備団は優秀ですし、ハイナンス家も私よりも優秀な使用人たちが揃っているのです。そこへ、アリスお嬢様がわざわざ飛び込んで行く必要はないと言ってるのです」
「それでも――」
「ダメです。レオンには申し訳ないですが、私たちが協力する事は出来ません。貴方も分かるでしょ? 主人が危険な目に遭うと分かってて、使用人がその背中を押す訳ないと」

 マリアの言葉にレオンは小さな声で「はい」と呟いた。
 その姿を見て、私は何とか強引にでも行ってしまおうとかと思ったが、マリアに手を掴まれてしまう。

「マリア!」
「行かせられません。分かってください、アリスお嬢様」

 私はマリアの表情を見て、何よりも私の事を心配してくれていると分かり手を振りほどく事は出来なかった。

「すいませんでした。確かに、マリアさんの言う通りです。僕はこのまま言われた通り待機し、ジュリル様の無事を願います」

 そう言ってレオンは一礼すると振り返り、少し肩を落とした様子で帰って行った。
 その姿を見て私は声を掛けようとしたが、何もする事が出来ない私が声を掛けた所で意味はないと思い、開けかけた口を閉じた。
 私がそのまま俯いているとマリアが声を掛けて来る。

「アリスお嬢様のジュリル様を案じる気持ちは分かります。ですが、アリスお嬢様の身に何かあってからでは遅いのです。どんなに強い力があったとしても、必ず相手を守れはしませんし、死と言うものは遠ざかりません」
「……」
「その経験はアリスお嬢様も既に経験されていますよね? 私は命に替えてもアリスお嬢様をお守りする覚悟はありますが、必ずしも私が近くに居る訳でもありませんし、今日の様な失態や想定外の状況下になるかもしれません。ですので、私が回避させられる危険は回避させたいのですアリスお嬢様」
「分かっているわ、マリアの気持ちも」
「でしたら」
「それでも! それでも……聞いてしまった以上、放って置く事は出来ないの」

 確かにジュリルの強さなら、もしかしたら途中で逃げ出しているかもしれない。
 仮に昼間の連中だとしたら力の差は見えているし、同じ様に撃退しているかもしれないけど、もしあの時の私と同じ様に魔法が使えていなかったら? それが頭をよぎってしまう。
 レオンの強さも分かっているからこそ、それを撃退したフードを被った人物の実力も相当なものなはず。
 それらの事を踏まえても、警備団やジュリルの使用人たちがいれば何とかなるかもしれない。
 でも、今すぐには警備団も動かないはず。
 ある程度の情報や潜伏先、それに実行隊編成など手続きなど犯罪者を確実に捉える為の準備が色々とあると聞いた事がある。
 それに使用人たちと言っても出来る事は限られているはず、マリアたちの様に元傭兵と言う事はないはず。
 だとしたら、今すぐジュリルを助けに行けるのは私やレオンなんじゃないの?
 そう私は気持ちが前に出過ぎてしまう。
 自分がわがままなを言っている事も、自分勝手な考え方をしているのも分かっている。
 分かっていても、抑える事が出来なかったのだ。

「マリア、何か……何か出来る事はないの?」
「アリスお嬢様」
「マリアの気持ちを無視してるって分かってるし、凄く嫌な事を聞いてる事も知ってる。でも、マリアしか頼れないの! お願いマリア」
「っ……」

 そこでマリアは私から目線を逸らした。
 そしてマリアが私の手を握ったまま、沈黙が続いた。
 私はそのままマリアが黙ったまま私の手を引っ張り、強制的に連れて行くかと思っていたが、マリアはそうする事はなく立ち止まっていた。
 すると突然、マリアが握っていた私の手を離した。

「マリア?」
「……はぁ~アリスお嬢様の気持ちは分かりました」
「それじゃ!」
「ですが! アリスお嬢様を行かせる訳には行きません」
「っ……それって、マリアが行くって事?」
「それも考えましたが、そうした場合でもアリスお嬢様は付いて来るのではないのですか?」

 私の考えがマリアに言い立てられてしまい、私は黙ってしまうとマリアは「図星ですか」と呟く。
 その呟きに私は何の反論も出来なかった。

「なので、1つだけ方法を考えました。本当は考えたくもありませんでしたし、伝えたくもありません。ですが、このままアリスお嬢様を強引に連れて帰ったらどこかで逃げ出すかもと想定したら、事態がややこしくなりますしそれが起きない様にすべきだと思っただけですので、勘違いなさらない様に」
「うん、ありがとうマリア」

 マリアは私が素直にお礼を言うと、渋々話し始めた。

「いいですか、アリスお嬢様がこのまま追えば別の犯罪者がそれを見て襲ってくるかもしれません。そう言う罠と言う可能性もあるので、アリスお嬢様では行かせられません。ですが、クリス坊ちゃまならば別です」
「そうか。クリスなら見た目は男性だし、この街の人は知らない。それに男子を誘拐する奴はいないって事ね」
「確実にとは言えませんが、そう言う意味ではあります。それと、偶然クリス坊ちゃまも街に来ていてジュリル様の誘拐現場を目撃し、勝手に追跡してしまったと言う状況にするのです」
「なるほど」
「ですが、タイムリミットはあります。ジェシカが来るまでまだ時間はありますが、基本的にはそこがタイムリミットです。それまでにジュリル様の居場所を突き止め、救出しなければいけません」
「後1時間半か……いや、それだけ時間があれば出来るはず。マリアも手伝ってくれるんでしょ?」
「はい、自ら提案してしまった以上最後まで付き合います」
「……本当にありがとうマリア」

 私の言葉にマリアは小さく頷いた。

「では、早速行動を開始しましょうアリスお嬢様」
「えぇ! 時間もないものね」

 そうしてマリアの協力を得て、私はジュリル救出作戦を開始させた。
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