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第304話 そもそも

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 少し時間は遡り、私がマリアと2人きりで別室にいる時。

「落ち着きましたか?」
「うん……ありがとうマリア」

 私はマリアから渡されていたタオルを顔から離し、近くの机の上へ置いた。
 マリアは私の顔を見ると、そっと私の目元に手を伸ばして来た。

「やっぱり、少し腫れてしまってますね」
「うぅ、しょうがないじゃん。自由に操れる物じゃないんだから」

 少し口を尖らせて言うと、マリアは私から手を離し鏡の前の椅子に座らせられた。
 するとマリアは自身の近くにメイク道具を近付けた。

「ドレスを着る前に、先にその腫れてしまった目元からメイクしていきましょうか」
「……うん。お願いマリア」
「お任せください、アリスお嬢様」

 マリアはそう言って、メイク道具を手に取って私のメイクを始め出した。
 初めは互いに無言のまま進んでいたが、私は静寂を破るように口を開いた。

「私、未だにあれが何だか理解出来てないんだけど、ずっと無言もつまらないから知っていたら教えてくれない、マリア?」
「分かりました。私がリーリア様から聞いた限りの話ですか、お伝えします」

 そしてマリアが私が体験したあの時の話をし始めてくれた。
 そもそも、私が見ていたあの地獄の様な世界は現実ではなく、お母様が私の視界をそう言う風に見せていたのだ。
 だが、あの場には皆がいて、私が聞こえていた声や受けた衝撃は本物だったらしい。
 つまり、マリアの声や縛られて蹴られた事や抑えつけられた事などは全て本物だと言う事だ。
 そしてそれら全てを見せていた物が、お母様が昔作られた眼鏡型の魔道具と言う物らしい。

「それ。それって、何なの? 私いつそんなの付けられたの? そんな感覚もなかったし」
「リーリア様曰く、かけた感覚はない様に設計されているらしく、脳を錯覚させる作用があるそうです。アリスお嬢様には昼食後自室で魔法構築している時に眠ってしまった際に、リーリア様が装着させたのですよ」
「お母様がかけたのね。でも、何となく分かったわ。まさかお母様がそんな物を作っていたのには驚きね」
「学生時代にある教員をあっと言わせるために、ご友人方と作ったとおっしゃっていたました」

 友人……そう言えば前にリリエルさんに、変な事をされた時にお母様とマイナ学院長が同じ学院服だったよね。
 もしかして、その教員って言うのはリリエルさんだったりするのかな?
 私がそんな事を思っていると、メイクが終わったとマリアに言われ改めて目の前の鏡で自分を見つめた。

「どうですか? 久しぶりにメイクした感想は」
「っ……何か大人っぽい感じ」
「それはメイクだけでなく、アリスお嬢様の魅力でもありますよ。さぁ、次はドレスを着ましょう」

 少しの間、私は自分自身に見惚れてしまっていたが、マリアに呼ばれ私は立ち上がりマリアの方へと向かった。
 そこには青く鮮やかな色のドレスが一着かかっていた。
 そしてマリアが私を着替えさせる為に、纏っていた物を脱ぐように言って来た。
 私は言われた通りに上着から脱ぎ始めマリアに渡していき、全てを脱ぎ終わるとドレスの下に着る物を私に着せ始めた。

「アリスお嬢様、嫌な事を思い出させてしまうかもしれませんが、あの時にアリスお嬢様に言った中で本当の事があります……」
「え」

 私は驚きマリアの方に視線を向けてしまうが、マリアは私に着替えを行い続けながら話し続けた。

「私がリーリア様と出会う前まで傭兵を子供の頃からやっていたという事です。あの時に言った事は本当です……そしてその頃には人も殺めたりしました」
「……」
「今まで私はアリスお嬢様には隠し続けてました。ですが、この機会に全てお伝えしようと思います」
「どうして、どうして急にそんな事を思ったの? 言わずに隠していても良かったんじゃないの?」
「リーリア様があえて、あのような状況を作り出したのはアリスお嬢様に隠し続けるのではなく、今の話をするキッカケを託してくれたので伝える事にしたのです。これは命令でもありませんし、私で決めた、いえ私たち皆で決めたことなのです」
「私たち?」

 そして私は、マリアからお母様に出会う前の傭兵時代の話やジェーンたちに出会った事やどう生きて来たかを聞いた。
 聞き終わった頃には、後はドレスを着て終わると言う状況であった。

「話してくれてありがとう」
「いえ。隠していた事ですし、それを聞き幻滅されたと思います。傍にいる事自体が嫌になったとしてもおかしくありません。ですので、もしそう言った事があればリーリア様に伝えてください。私たちは直ぐにでもこの屋敷から立ち去る事を誓います」
「……それじゃ」

 私はそう言って一歩下がった所に居たマリアの両手を握った。

「絶対にここから出て行かないで、ずっと私やお母様たちを守り続けて! 昔と今のマリアは違う。昔がどうだったかは見てないし何も言えないけど、今のマリアは私が小さい頃から一緒に居てくれて、優しくて厳しいお姉さんって感じなんだよ」
「アリスお嬢様」
「今更いなくなったら、私もお母様もお父様も皆困るわ。それにマリアも他の皆も、昔を忘れずにずっと背負ったまま前へと進み続けてる。消える事はないかもしれないけど、そんなマリアたちを私は幻滅なんてしないわ。ちょっと怖かったけど……こうやって諦めず投げ出さずに生き続けて来たからこそ、今があるんだしここにいてよ、マリア」

 と、私が言うとマリアは何か思い出したかの様に小さく笑う。
 私は笑われてしまった事に、恥ずかしくなってしまいマリアに「笑わなくてもいいじゃない」と耳を赤くして詰め寄った。

「ごめんなさい。決しておかしくて笑った訳ではないんです」
「そ、それじゃ何で笑ったのよ……ほんのちょっと恥ずかしい事言ったかもしれないけどさ」
「それはですね――いえ、やっぱり言うのは止めておきます」
「何でよ~気になるじゃん! これじゃ、恥ずかし事言って笑われたって事じゃん」
「そうですね」
「そうですね、じゃないよ~」

 マリアはただをこねる私を笑顔であしらい、ドレスを着させ始めた。
 そのまま私はマリアにドレスを着せてもらい、最後に髪のセットまで行ってもらった。
 私はその間も問い詰めたが、それだけはマリアは全然答えてくれなかった。

「も~ういいよ。マリアのいじわる」

 少し頬を膨らませて私はそっぽを向いたが、髪のセットして貰っていたので強引に顔の向きを戻された。

「はい、これでおしまいですよ」
「……ありがとう」

 私は立ち上がり鏡で全身を見ていると、マリアが「とてもお似合いですよ」と言ってくれてた。

「そ、そうかな?」
「自信をお持ちください、アリスお嬢様。早く皆様にもお見せしましょう」
「うん。分かったわ」

 そしてマリアが別室の扉を開ける。
 私はそのまま皆が待つリビングへと歩いて行く。
 マリアは、そんな私を後ろから優しく見つめていたのだった。

「(アリスお嬢様、先程笑ってしまったのは最後に言って下さった言葉が、出会った時にリーリア様から言われた事に似ていたからですよ。さすが、親子ですねリーリア様。改めてあの日、リーリア様の言葉を信じ手を握って良かったと思います)」

 そしてマリアも少し距離を空けて歩き始めるのだった。
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