上 下
224 / 564

第223話 レオンの本心

しおりを挟む
 レオンに一瞬で見破られた事に私は動揺してしまい、その場で固まってしまう。
 そして私は、とりあえず何か言い返さなければと思ったのか片言で話し出していた。

「クリス? ダレ? ワタシ、チガウヨ」
「何で片言?」

 私の態度にレオンは首を傾げつつ、少し笑っていた。
 私はレオンの方を向かずに、目線を反対方向へと向けていた。
 やばい、どうしよう。
 まさか一発で見破られるとは思わなかった……てか、何ですぐ分かるのよ!
 私は心の中でレオンに対して不満の声を上げた。

「え~と、どうすればいいのかな。クリス……では、ないのか?」

 レオンが困った様な声で訊ねて来たので、私はそれに対して素早く頷いた。
 その反応で、既に自分はクリスだと言っている様なものだったが、私はそんな事は考えずにとりあえずこの場をやり過ごせればいいと思い、そんな態度をとっていた。
 するとレオンは、その私の返答を見て小さく噴き出す様に笑った。

「な、何よ……」

 私は横目でレオンの方を向いた。

「いや、ごめん。クリスではないんだな。それじゃ、君は何て言うんだい?」
「へぇ?」
「名前だよ。何て言うんだい?」

 まさかの問いかけに私はテンパってしまい、右上や左上を交互に見ながら必死に考え始めた。
 名前!? 名前……名前か……アリスじゃ、そのままだし、クリスをもじって……あ~! こう言うの考えるの苦手なんだよね……
 その後目を瞑って少し唸りつつ考えて絞り出し考え付いた名前を、私は口に出した。

「アリ――」
「アリ?」
「アリ、ア……アリアよ」
「……アリア、ね。ふふふ、アリア」
「な、何で笑うのよ!」
「ごめんよ。用意できていない事については、苦手なんだなと思って」
「うっさい……」

 私とレオンがそんな会話をしていると、そこに後ろからトウマが現れて声を掛けて来た。

「おっ、レオン!」

 するとレオンはトウマの声に反応して振り返るが、私はそのまま背を向けたまま顔は向けなかった。

「トウマ。どうしたんだい?」
「あ~すまん。取り込み中だったか?」

 レオンは一瞬私の方を見てから、トウマの問いかけに答えた。

「まぁね。ちょっと口説いていた所」
「そりゃ悪いことした」
「いいや、大丈夫さ。それで、何か僕に用があって声を掛けたんだろ?」

 レオンの返答にトウマは一瞬首を傾げたが、直ぐに終わる用件だったのでそのまま口に出し始めた。

「クリス見なかったか? さっきまで一緒に居たんだが、どこかに行っちまってよ」
「クリスがかい?」
「あぁ。レオンを偶然今見たからよ、こっちの方に居たなら見てないかと思って声を掛けたんだよ」
「なるほどね。でもすまない、クリスは見てないんだ。この子と話をしていたからね」

 そう言ってレオンは、私の方に手を向けてトウマに話した。
 私は顔は向けずに、軽く頭を下げた。

「そうか。いや~変な時に声を掛けてすまないな。それじゃ、邪魔者はもう行くんで。あぁ、もしクリスを見たら俺やルークたちが探してるって言ってくれるか?」
「分かったよ。見かけたら、そう伝えておくよ」
「サンキュー、レオン」

 そのままトウマは、その場から離れて行った。
 そして再びレオンと私だけになると、レオンは私の方を向いて来た。

「だそうだよ、アリア」
「な、何の事だか分からないわ……クリスとかトウマとかルークとか全く知らないわ」
「キャラがブレブレだよ。まぁ、何か色々あってそんな事をしているのは分かったよ、アリア」

 レオンはもう何となく理解したかの様に私に言って来たので、私もこれ以上しらを切るのは難しいと悟った。

「……レオン、見逃してくれたのはどうして?」
「それは、君がクリスじゃないからだよ」
「いや、もう完全に私が誰か分かってるよね」
「まぁね。でも、バラして欲しかった訳じゃないんでしょ?」

 私はその問いかけに少し間を空けてから、ゆっくりと頷いて答えた。

「それに何か想定外の事態になっている様だし、話でも聞かせてくれないか?」

 その優しい問いかけに、私はこのまま1人でこの状況を解決するよりもここまでバレてしまったらレオンを協力者とする方が、いいのではと思い始めたので、この状況に至った経緯を話した。

「そ、そんな事あり得るのかい?」
「あり得るのよ。現に、私がこうなんだから」
「そうか……そうだね……」

 さすがのレオンも、魔道具の実験で体型が変わった事などに驚きを隠せずにいた。
 そりゃそうだよね。
 私も動揺したもん。
 その後レオンは、暫く何を考えた後私にとある提案をして来た。

「とりあえず夕刻まではその姿をするんだよね?」
「えぇ。そのくらいには元に戻るって言ってたし」
「なら、それまで僕とデートをしよう」
「……はぁ?」

 私は突然レオンの口からデートと言う言葉が出て来たので、驚いてしまった。
 デート……デート!? あの男女でどこか一緒に出掛けるあれだよね? 何で!?
 私は頭の中でその理由を懸命に考えたが、分からずハテナマークが頭から出始めていた。

「急だったよね。でも、そのまま1人で校内を歩くよりも、誰かと一緒の方が変に見られないだろ。それに、さっきもトウマにバレてなかったし、一緒に居れば何かあった時に僕も対応できるしいい案だと思うんだけど」
「そう言う事か……急にデートとか言うから焦っちゃったよ」
「デートって言ったのは冗談じゃないよ」
「えっ……どう言う事?」
「ほら、以前に僕にデート相手を頼んで来た時があったろ。結局は出来なかったけど、結構楽しみにしていたんだよデート」

 まさかの発言に、私は急に恥ずかしくなってしまい耳を赤くしてしまう。

「あの時は、僕が原因で迷惑をかけたからね。申し訳なかった。だから、今日あの時のリベンジとしてデートをしたいんだよ、君と」

 私はレオンからの言葉にどう答えていいか分からず、黙ってしまう。
 この時私は以前、レオンに告白の様な事をされた事を同時に思い出していた為、余計にどうしていいか分からずにいた。
 今は眼鏡をかけていたお陰で、少し俯けば目線がキョロキョロしている事がバレないのでその態度をレオンには見せていた。
 何で急にそんな事を言い出すのよ、レオン! まさか、あの時の続きを今されているの!?
 私は勝手に以前の告白まがいの事から逃げた時の続きを今されているのではないかと錯覚し始めていた。
 その為、胸の鼓動が徐々に早くなりつつあった。
 そんな私の様子を見たレオンが、何かを察したのか声を掛けて来た。

「アリア、そんなに重く考えないでいいぞ。告白とかじゃなくて、僕は友達として君の事を知りたいから、以前の事を例えとして言っているだけなんだ。何か勘違いさせてしまったら、悪い……」
「そ、そっか……そうだよね。あははは、ごめん。何か変に考えちゃって、あははは……」
「いいや、僕の方こそ悪かった。それでどうかな? 一緒にアリアとして回るって言う案は?」

 私はその提案に対して、顔の赤さがバレるのが嫌だったのでレオンから視線を外して「それなら、いいよ」と答えた。
 その時耳はまだ赤いままで、髪から少し見えておりレオンにはそれが視界に入っていた。

「(そう言う反応をしてくれるって事は、僕にも脈はゼロじゃないって事かな……また少し攻めすぎた、かな。まぁ、嘘は言っていないし、伝える事は伝えたから良しとするか)」

 その後、私は顔の暑さが治ってからレオンと共に学院祭をクリスでもアリスでもなく、アリアと言う人物として回り始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

暁にもう一度

伊簑木サイ
ファンタジー
成り上がり貧乏辺境領主の後継者ソランは、金策のため、「第二王子を王太子になるよう説得できた者に望みの褒美をとらす」という王の頼みごとを引き受けた。 ところが、王子は女嫌いということで、女とばれないよう、性別を隠して仕えることになる。 ソランと、国のために死に場所を探している王子の、「死なせない」と「巻き込みたくない」から始まった主従愛は、いつしか絶対に失いたくない相手へと変わっていく。 けれど、絆を深めるほどに、古に世界に掛けられた呪いに、前世の二人が関わっていたと判明していき……。 『暁に、もう一度、あなたと』。数千年を越えて果たされる、愛と祈りの物語。

小金井は八王子に恋してる

まさみ
BL
秋葉の路上でザクを壊され悲嘆に暮れるニート青年・八王子 東。彼をオタク狩りから救ったのは見るからに軽薄でナンパな青年・小金井リュウ。 「へー八王子っていうんだ。ヘンな名前。これもらっとくね」 免許証をとりあげた上助けた恩に着せアパートに転がりこんできた小金井と、人の目をまともに見れない卑屈で対人恐怖症気味の八王子のぬるーい東京近郊同居ライフ。 同居/モラトリアム/日常/ライト/コメディ 表紙:いぬいぬのふわ様

私がヒロイン? いいえ、攻略されない攻略対象です

きゃる
恋愛
「今日からお前は紫記だ」 幼なじみの紅輝からその言葉を聞かされた時、私は突然気づいてしまった。 ここが『虹色奇想曲~にじいろカプリチオ~』という乙女ゲームの世界であることを――。それは、虹のどれか一色の名前を持つ七人のイケメン攻略者との恋を楽しむゲームで、ハッピーエンドとノーマルエンドしかない平和なストーリーが特徴だ。 けれど私が転生したのはヒロインではなく、悪役でもない。女の子なのに、なぜか攻略対象の一人である紫記(しき)。その名前で男装して、三兄弟のお目付け役として学園に通う羽目になってしまった。手のかかる幼なじみ達から解放されるためには、ヒロインの恋を応援するしかない! そう思って頑張っているけれど、なかなか思い通りにいかなくて…… *タイトル変更しました。 *実在の人物や団体には一切関わりありません……あったらすごい。

ウォルヴァンシアの王兄姫~淡き蕾は愛しき人の想いと共に花ひらく~

古都助(幸織)
恋愛
父親の故郷、異世界エリュセードに移住した幸希(ゆき)。 狼王族の国、ウォルヴァンシアで始まる新しい日常……。 心優しい真面目な騎士様や、捻くれているけれど不器用な優しさをもつ竜の皇子様、 ドSで意地悪な王宮医師様や王宮の個性的な面々に囲まれながら、幸希は様々な人々と巡り会っていく。 幸希の中に封じられた、異世界での記憶と魔力……、そして。 ――異世界・エリュセードを呑み込んでいく不穏を前に、 幸希は試練と戦いの世界へと巻き込まれていく事になる。 ※2018・11・25 第一章・プロローグ改稿。 ※『Side』の主人公表記があるものは、別キャラ視点から主人公視点に戻る時のみに記載します。 (また、基本的に話の最初に『Side』表記がない場合は、全て主人公視点となっております。  稀に『不穏なる者達の嘲笑』とつくタイトルの場合、三人称視点の場合もございますので、ご了承ください) ※個別ルートあり(アレクディース・カイン・ルイヴェル) ※小説家になろう&カクヨムでも、同じものを連載しています。 ※表紙サムネは、お友達の蒼鷲さんから頂いたイラストを使用させて頂いています。(感謝!)

獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック
恋愛
BL世界にやって来た神の愛し子は、世界初の女性だった。 獣人騎士団長アレクは、異界からやって来た愛し子のレンが自分の番だと分かり、レンを溺愛する。神の愛し子を利用しようと暗躍する神官達や、レンに群がる有象無象を蹴散らして、2人は無事に結ばれる事が出来るのか。 R18 性的・暴力的な描写のある回には*

【完結】私は薬売り(男)として生きていくことにしました

雫まりも
恋愛
第三王子ウィリアムの婚約者候補の1人、エリザベートは“クソデブ”という彼の心無い言葉で振られ、自決を決意する。しかし、屋敷を飛び出し入った森で魔獣に襲われたところを助けられて生き延びてしまう。……それから10年後、彼女は訳あって薬売り(男)として旅をしていた。そんな旅のさなか、仲間に言い寄ってくる男とその付き添い、そして怪しげな魔術師の男も現れて……。 ーーーそれぞれが抱える悲劇の原因が元を辿れば同じだということにまだ気づく者はいない。 ※完結まで執筆済み。97+2話で完結予定です。

【完結】ツインクロス

龍野ゆうき
青春
冬樹と夏樹はそっくりな双子の兄妹。入れ替わって遊ぶのも日常茶飯事。だが、ある日…入れ替わったまま両親と兄が事故に遭い行方不明に。夏樹は兄に代わり男として生きていくことになってしまう。家族を失い傷付き、己を責める日々の中、心を閉ざしていた『少年』の周囲が高校入学を機に動き出す。幼馴染みとの再会に友情と恋愛の狭間で揺れ動く心。そして陰ではある陰謀が渦を巻いていて?友情、恋愛、サスペンスありのお話。

転生皇女は冷酷皇帝陛下に溺愛されるが夢は冒険者です!

akechi
ファンタジー
アウラード大帝国の第四皇女として生まれたアレクシア。だが、母親である側妃からは愛されず、父親である皇帝ルシアードには会った事もなかった…が、アレクシアは蔑ろにされているのを良いことに自由を満喫していた。 そう、アレクシアは前世の記憶を持って生まれたのだ。前世は大賢者として伝説になっているアリアナという女性だ。アレクシアは昔の知恵を使い、様々な事件を解決していく内に昔の仲間と再会したりと皆に愛されていくお話。 ※コメディ寄りです。

処理中です...