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第183話 勝負の行方

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「(全身から魔力を感じるが、あの装備は何ですの? 魔力付与状態の鎧ですか……強化ゴーレムを容易く破壊出来る力に、魔力干渉、更には普通に魔法の使用。普通に考えれば魔力消費が激しく、あの状態を維持するのは難しいはず)」

 ジュリルは実際に自身が創り出したゴーレムと感覚接続した状態で戦い、改めて実感したなどを元に分析をしていた。

「(私の感覚接続は、繋げるだけですので魔力消費は激しくはないわ。今まで近接戦は不得意でしたが、これのお陰でパワーも必然的に上がり自分の体の様に動かせますしカバーが出来ますわね。今のアリス相手ならば効果はあると思い実践では初めて使いましたが、十分に使えてますわね)」

 そんな事を思いつつジュリルは、軽く手を何度か握ったり開いたりを繰り返し私の方を見つめていた。
 ジュリルはその場から私へと近づいて来る事はなく、その場で私を待ち構えるように戦闘態勢を維持していた。

「(息づかいからあの状態は長くなさそうですわね。このままアリスからの攻撃を防ぎ続けると言う作戦もありますが、ここは広範囲の魔法をゴーレムから放ちアリスの魔力消費を加速させ、魔力切れを狙うのがよさそうですわね……にしても、先程からアリスの体術はどこかで見覚えがあるので、それが少し気になりますわね。どこかで最近見た覚えがあるのですが……)」

 私はジュリルが攻撃を仕掛けてこないと分かり、一か八かの手段の準備を始め出したがジュリルが突然動き出す。
 ジュリルの動きとほぼ同時にゴーレムが両腕を私の方へと突き出して来て、ジュリルが魔法を唱える。
 直後、ゴーレムの両手から『ブリザード』の魔法が広範囲に放たれ、私は無駄な魔力消費を抑える為ゴーレム武装のまま魔力創造や魔法で壁を創る事はせず、両腕で顔を守る様に防御態勢をとる。
 それと同時に私は唯一出ていた顔も完全にゴーレム武装で覆った。
 そのままジュリルからの『ブリザード』の魔法を耐え続けたが、完全に全身が凍り漬けにされてしまう。

 だが私は両手から『フレイム』の魔法を使い凍り漬けにされた部分を溶かし、一気に体全体から『フレイム』の魔法を使い全身の凍りを溶かした。
 するとジュリルはすかさず、もう一度『ブリザード』を放ってきた。
 このままここで足止め、いや魔力切れを狙うつもりか? そんな分かりやすい作戦にまんまと乗ってやる訳には行かない!
 私は咄嗟に『フレイム』の魔法を一点集中で放ち、ジュリルの魔法と相殺させると周囲が煙に覆われる。
 しかしその煙は、周囲が少し透明に見える為私もジュリルも互いの位置は見失わない程度に確認出来る視界であった。
 暫くすると、周囲の煙は風によって流されてしまい元の視界状態に戻る。

「(……攻めてこない? あの多少なりとも視界不良ならば、特攻に来るかと思っていたが当てが外れましたわね……っ!)」

 その時ジュリルは、私がジュリルに対して構えていた戦闘態勢で先程感じた違和感について思い出したのである。

「(そうですわ、思い出しましたわ。あれはクリスが体術を使った時の構えですわ! でも、どうしてクリスの姉であるアリスが同じ様な構えが出来ますの? 確かクリスはダンデに一度体術を習っていたので、構えがダンデに似ていますが似ていると言うより、クリス本人と全く一緒ですわ)」

 その直後ジュリルは背後に何かを感じたが、その時には既に遅く私が片手をジュリルの腰へと突き付け『バースト』の魔法を放った。
 ジュリルは宙へとそのまま吹き飛ぶと、感覚接続していたゴーレムも同様に同じ方向へと吹き飛ぶ。

「(どうして後ろに!? いつの間に……)」

 そうこれが私の一か八かの手段である。
 これは、先程私がゴーレム武装時に顔を覆った時から始まっており、その時に背後からゴーレム武装のみを残すように抜け出て、残った魔力でゴーレムを操る様に動かしていたのだ。
 そして煙で周囲が覆われた一瞬で、私は周囲にあった近くの壁へと移動してそのままジュリルに気付かれない様に壁伝いに背後へと移動したのだ。
 その時もカラのゴーレム武装の状態を維持する為、ギリギリの魔力で操っていた。
 何に気を取られていたか分からないけど、そのお陰で成功した! たぶんそれがなければ、寸前で気付かれて対策されてしまっていただろうな……
 私はジュリルとゴーレムが飛んで行った先を目で追って、ゴーレムが私が残していたゴーレム武装の目の前に落ち掛けて来ていたので、私は最後の魔力を絞ってゴーレム武装を動かした。
 そして落下して来たゴーレムに対し、私はゴーレム武装の右拳を全力でゴーレムの頬目掛けて振り抜いた。
 直後、ゴーレムと感覚接続していたジュリルは会場の壁へと吹き飛ばされ、壁に強打し地面へと倒れるのだった。
 ジュリルは倒れてから直ぐに立ち上がろうと、両手に力を入れて体を起こすも途中で再び倒れてしまい、完全に戦闘不能となり、その状況が確認され試合終了の合図が鳴り響くのだった。


 学院対抗戦2日目 ミドルランク
  女子第1試合 勝者 クレイス魔法学院 アリス・フォークロス


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「……んっ、ん~……あれ、ここは……」

 私が次に目を覚ますと何故かベッドの上であった。

「お早いお目覚めだな」
「っ! タ、タツミ先生!?」

 まさかのタツミ先生に私は飛び起きた。
 そこには白衣を着たタツミ先生が私を見下ろすように立っていた。

「あまり大声を出すな。それとも自分の正体を他の奴にもバラしたいのなら別だがな、クリス」

 私は咄嗟に両手で口を塞いだ。
 タツミ先生はそのまま私の簡易的な診察を始めつつ、どうしてここに私が居るのかを経緯を教えてくれた。
 ジュリルとの試合終了直後、私は魔力切れでジュリル同様に倒れてしまったらしくそのまま会場内の医務室へと運ばれていたのだと聞かされる。
 ちなみにジュリルも同じ医務室へと運ばれているが、今はまだ寝ているらしい。
 傷はまだあるものの、大きな怪我などはなく数時間もすれば目を覚ますとタツミ先生は語り終えると、私の診察も終えた。

「魔力もある程度戻り始めているし、怪我も軽症で治療済みだ。と言う訳でお前は、もうここに居る必要はなくなった。ほら、さっさと出て行って試合の続きでも見て来い」
「ちょ、ちょっと! そんな適当な感じでいいのですか?」
「おいおい変なこと言うな。俺は適当に診察はしないぞ。ここは重傷者が来るところだから、お前の様に完治した者を早く返してるだけだ」

 私はタツミ先生に急かされ、背中を押されてそのまま医務室から出されてしまう。
 別にそんな邪魔者の様にさっさと追い出す事ないじゃんか。
 一応倒れたんだし、もう少しくらい休ませて欲しかったんだけど……
 私は心の中で文句を言いながら、医務室を離れて歩き出すと道の途中でメイナとジェイミと出会った。
 メイナは私を見つけると一目散で抱き着いて来た。

「アリスー! 心配したよ! もう大丈夫なの? 異常はないの?」
「えっ、あ、うん。だ、大丈夫だって言われたよ」
「良かった~で、凄かったよアリス! あんな凄い試合見せられて、こっちも手に汗握ったよ!」

 メイナは私から離れて先程の試合の感想を一気に告げてくれ、祝福してくれた。
 ジェイミもメイナ同様に少し興奮気味に、試合の事について話してくれた。

「あ、ありがとう2人共。それで、今って私の試合からどれくらい経ったの?」
「今はねミドルランクの女子第3試合が始まる所だよ。第2試合は、特別枠選手が勝ったよ」
「そうなんだ」
「そんな事よりもさ、アリスあの凄い装備について何だけど――」

 その後私は、メイナとジェイミから物凄く質問攻めにされつつ代表選手の観客席へと強制的に連行されて行った。
 一方私が強引に出された医務室では、私と入れ替わる様にジュリルの親友であるウィルとマートルが医務室を訪れていた。

「タツミ先生。ジュリルは?」

 そうウィルが訊くと、タツミ先生は黙ったままジュリルが寝ている部屋へと2人を案内した。
 2人はジュリルの姿を見て安堵の息をつくと、タツミ先生が簡単に状態を話し出し、終えるとその場から立ち去り他の業務の続きを始めた。

「ひとまず無事でなによりだ」
「そうね……にしても、まさかの結果だったわね」

 マートルがそう呟くとウィルは黙ったままジュリルの方を見つめた。
 ウィルはそのまま力強く手を握り締めていた。

「ウィル?」
「……ジュリルが、ああいう勝負事で負ける所なんて始めて見た……最初にジュリルを倒すのは私だと思っていたのに……二代目月の魔女と呼ばれ、プレッシャーにも打ち勝ち人並みならぬ努力をしているジュリルが負けるなんて、信じられない……」
「……」

 その言葉にマートルも黙ってしまう。
 2人はそのまま俯いていると、突然ジュリルの声が聞こえ顔を上げた。

「そんな辛気臭い雰囲気を、こんな所で出さないでよ」
「ジュリル!」
「大丈夫なの?」

 ジュリルは体を起こし、2人と話し出し問題はないと伝える。

「その試合の方は……」
「えぇ、結果は結果です。負けてしまった事は残念ですわ。私の緩みが相手が付け入る隙になってしまいましたわ」
「ジュリル……そうだ、何か喉が渇いてないか? 私とウィルで買ってくるよ」
「な、何で私まで――」

 マートルは少し強引にウィルを連れて、飲み物を買いに医務室から一度出て行った。
 そして1人きりになったジュリルは医務室からでも聞こえてくる会場の歓声に耳を向けていた。

「……あ~私は負けてしまいましたのね……」

 ジュリルはそうポツリと呟くとそのまま動かずに、ギュッと自分の布団を握り締めた。

「……誰かにただ負けるよりも、知っている相手に全力を出して負けると、こんなにも悔しいものなのですのね……」

 食いしばりながらそう呟いたジュリルの瞳からは、一粒の涙がこぼれ落ちた。
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