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第136話 部屋替え

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 収穫祭が終了してから2日後。
 私たちが巻き込まれた誘拐事件は世間には公表される事はなく、犯罪組織『モラトリアム』のリーダーであるロバート・ベンズの拘束とその居場所を突き止めた事だけが大々的に公表された。
 街の人々は、突然の公表内容にざわついていた。
 王国軍は、犯罪組織『モラトリアム』が潜伏していた洞窟の調査を後日行い、数名の残党を捕らえた事も公表した事で街の人々は、これで更に安全に暮らしていけると安堵の表情をしていたのだった。
 その話題は学院内でも中心となっており、その話題で盛り上がっている中で私たちはそれを皆と同様に初めて知った様に振る舞っていた。
 また一方で、学院ではもう1つの話題で持ちきりであった。
 それは、オービン寮の副寮長の追加であり、それに選ばれた人選がヒビキであった。
 突然の人員増加に皆驚いていたが、ミカロスからオービンへの仕事量や負担が大きくなっていた事から一時的に仕事量を減らす事が決まり、そこで副寮長としてそこを補う人員を追加したのだと寮内全員への説明がされた。

 今回の決定はオービン寮だけの独断ではなく、全寮の寮長と副寮長、そして学院長との話し合いで決まったのだと付け加えてミカロスは説明した。
 だが実際の所は、オービンが寮長としての降格であった。
 病の事で、今後も今まで通り寮長として行動していけるかは確実ではないとされた為、現副寮長であるミカロスと交代を言い渡されたのだった。
 オービン自身もその判断に反論はなかったが、学院内での発表は変更して欲しいと頼み込んだのだった。
 その理由は、この時期の寮長変更で病の事が知られるのを避けたいのと今の学院生たちに動揺を広げたくないと言う考え、そして学院対抗戦も近い事を考慮しての頼みであった。
 オービンの意見は学院長も一理あるとして、各寮長たちの納得も得られた事で公表はせずにいたのだった。
 結果的にはオービンは副寮長としての役割を続ける事になるが、さすがに1人では何かあった際にまた面倒事が起こると発言からもう1人副寮長を任命する事に至ったのだった。
 異例ではあるが、それが時間を掛けずに出来る解決策だと同意を得られた為、実施された。
 任命に関してはオービン本人の意思により、ヒビキとなったが寮長たちの中には浮かない顔をしている者もいたが、ミカロスの後押しもあり承認されたのだった。
 と、学院内では収穫祭後に大きな変化があったが、一番は私の問題である。
 何を隠そうとも、同室であるトウマに私が女性だとバレてしまった事だ。

 収穫祭終了後から3日後に、少し落ち着いて来た頃に私は部屋でトウマと2人きりでうやむやにしていた事を話そうとしていたが、そこにルークが訊ねて来て3人で何故か話す事になったのだった。

「え~と……何でルークも居るの? てか、何で来たの?」
「何だよ、俺が居ちゃ悪いのか?」
「別にそう言う訳じゃないけど……」
「いや、普通乗り込んでこないでしょ」

 とトウマがルークに言うと、ルークは少しムッとした顔でトウマの方を見る。
 トウマは「何でそんな顔するんだよ」と呟いた後、小さくため息をつく。

「まぁ、来ちゃったもんはしょうがないだろ。クリス、続きをどうぞ」
「お、おう」

 そして私はトウマに、私の事を出来る限り打ち明けた。
 アリスと言う名前である事や、この学院に来た目的などを話し、ルークにはそれをもろもろと知られていたり、レオンやタツミ先生にも性別の事だけはバレている事を伝えた。
 するとトウマは、全てを真剣に聞き入れてくれ最後には「よ~く分かった」と深く頷きながら答えた。

「要は、今まで通り接していれば問題ないって事だろ。安心しろよ、誰にも言う訳ないだろ」
「トウマ」

 良かった~トウマが良い人で。
 いや、バレたこと自体は全然良くない事なんだけど、ひとまず秘密は守ってもらえるし一安心かな。
 でも私がこのままこの学院に居られればの話だけど……
 私は、お母様から直ぐにでも帰って来る様にと言われるのではないかと、ふと以前考えていた事が頭をよぎった。

「と言うか、俺だけ少し仲間外れにされてた感じだよな~」
「そ、それは」
「冗談だよ、クリス。さ~てと」

 そう言ってトウマは立ち上がると、ルークに話は終わったから部屋に戻ったらと伝えると、ルークは何故か断固として動こうとしなかった。
 トウマと私は首を傾げていると、ルークが口を開く。

「まだ解決すべき問題があるだろう。なぁ、トウマ」
「? 問題? 何かあったか?」
「トウマ、お前はクリスが男ではないと知った。そしたら、こんな男女2人きりの部屋状態を続ける訳には行かないよな」
「っ!?」

 ルークの言葉に、トウマは驚愕の表情を向ける。

「ま、待てルーク! 俺はクリスが男じゃないと知ってからも、少し一緒に過ごしていたが間違いはなかったぞ! な、クリス」
「と、当然だろ!」
「ほら~。な、つうことで問題かいけ」
「ダメに決まってんだろうが」
「うっ……」

 するとルークは胸の内ポケットに手を突っ込んで、何か紙を取り出しながら話し続けた。

「何もなかったとしても、このまま一緒にいられる訳ないだろうが。つう訳で、部屋交代だ」
「お前それ! いつの間に!?」

 ルークが取りだした紙は、部屋交代承認書であった。
 基本的に寮内の同室メンバー交代は自由には出来ないが、理由がある際に寮長に申請する事で認められるのであった。
 そこにはルークとクリスの部屋替えが書かれて、承認されている文面が記載されていたのだった。

「嘘だ~俺がお前と同室とか~」

 とトウマは嘆きつつ、ベッドへと倒れ込んだ。

「クリス、お前は今日からシンと同室だ。部屋はそのままこっちにしろ、シンには伝えて了承も取ってある」
「別にそこまでしなくても」
「ダメだ。ほらトウマ、さっさと荷物まとめろ。今日中に部屋移動するんだから」

 トウマは駄々を捏ねつつも、それをルークが急かしてという状況が続き、遂にはシンが先に部屋に到着してしまう。
 それからは渋々とトウマが部屋の荷物を片付けて、ルークと一緒に部屋を出て行った。
 そんなこんなで、私は今日からシンと同室になったのだった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 とある一室の浴室でシャワーを浴びている人物がいた。
 そしてシャワーを浴び終わると、その人物は浴室から出て頭にタオルを被り、王国が公表した記事に目を通した。

「ふ~ん。拘束したね~これで犯罪にも終息に向かうか、と言う内容か」

 その人物は記事を読み終わると、その場に投げ捨て体を拭き服を着始めた。

「まぁ、想定外の事はあったが上々の結果かな。さてと、次はどうするかね」

 とそこに、突然扉を叩く音が響き渡る。
 その人物は、扉に近付き開くとそこに居たのは、血だらけのフェルトであった。

「はぁ……はぁ……助けて……ください……」
「……」

 するとその人物は、扉を開けたまま奥へと歩いて行く。
 フェルトは足を引きずりつつ、奥へと進んで行くとその人物の足共に倒れ込んだ。

「どうか……どうか……傷を……」
「何故俺が、お前の傷を治せると思った? 俺はお前の治療する力などない」
「っ!?」
「そもそも、ここまで付けられて来る相手など不要だ」

 とその人物が指を鳴らすと、フェルトはその場で泥の様に溶けて行き泥の塊になってしまう。
 直後、その部屋に5名の人物が突入して来た。

「動くな! 貴様には、『モラトリアム』メンバーの容疑が掛かっている。おとなしく、我々の指示に……」

 と話した後、5名の足共が泥に覆われしまい身動きが取れなくなってしまう。
 そしてそのまま泥が足元から徐々に体を飲み込み始めた。

「どうやら、君たちとは相性が良かったらしい。心配するな、君たちは有意義に使わせてもらうからさ」
「な、何だこれ……は……」

 そのまま5名は完全に泥に飲み込まれてしまい、地面に泥人形が5体転がる。

「さてと、少し目立ち過ぎたから暫くはおとなしくしているかな。とりあえず、新しい人形の素性を知っておくか」

 と言って、その人物が指を鳴らすと5名を覆っていた泥が全て剥げて、その泥が先程の5名の姿へと変わる。

「今回は、ロバートの様に自我が芽生えない事を願うが、あれは擬態する相手が悪かったからだろうな。俺の分身体にシーベルトの擬態をして、更にその上に俺の擬態をさせた実験はうまくいったが、ロバートに殺されてしまって残念だ」

 不敵に笑い顔を上げたその人物は、バベッチ・ロウであった。
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