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第130話 アバンの決断

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「……っん」

 ルークが意識を取り戻した時、目の前にはトウマやペイルたちが同じ様に倒れていた。
 体に力をいれ何とか起き上がるも、体が上手く動かせずにいた。
 だが少しずつ動かせるようなって来たので、ルークは歯を食いしばりながら力を入れて立ち上がり、一番近くにいるトウマの元へと近付きトウマの体をゆする。
 するとトウマの意識が戻り目を開ける。

「……ルーク」
「トウマ。起きれるか?」

 ルークは倒れているトウマに手を差し伸べ、トウマはその手を掴み起き上がる。

「何が起きたんだ?」
「あいつの攻撃だ。あの攻撃はただの打撃じゃなかったんだよ」
「どう言う事だよ、ルーク?」

 ルーク曰く、バベッチの攻撃は傍から見れば魔力創造から魔力技量、魔力質量を使いゴーレムを動かす様に岩で薔薇のつるに見立てた物で打撃攻撃を仕掛けて来ていた。
 だが、実際にそれを受けると別の攻撃もされていたとルークは語る。
 簡単に言えば、打撃時に魔力付与をさせられていたのだ。
 バベッチは、打撃で直接的な攻撃を与えつつも、同時にあのつるから魔力を攻撃を受ける、または防御する自分たちに魔力を無関係に与え続けていたのだ。

 魔力付与と言うのは基本的に相手にメリットがない事で、戦闘で魔力を消費する相手にとっては回復してもらっているのと同じである。
 だがそれは、相手が魔力消費をし続けていればの話である。
 要は、許容量を超える魔力は毒でしかないという事だ。
 バベッチはルークたちに魔力を極力使わせない様に、あの様な乱雑な攻撃を仕掛けることで身動きを取らせない様にして魔力を付与し続けることで、ルークたちの魔力許容量を超えさせたのだ。
 魔力許容量が超えれば、体は自動的に減らそうと働き動きが鈍くなり、動きずらくになりそのまま魔力量が許容量になるまで動けなくなると言う状態になるのだ。

「でも、ほとんど直接的な打撃をあのつるで受けてなかったぞ。それよりか、あのペイルって人が途中で俺たちを守る様に魔法を使ってもいたぞ」
「たぶんあいつは最初から魔力許容量超過を狙っていたんじゃないか? 地形も俺たちを中心にくぼみを作る様になっているし、魔力を周囲に付与し続ければ自然とこのくぼみの中心にいる俺たちに魔力が集まってくるしな」
「信じられねえ……そんな事まで考えて攻撃してたって言うのかよ」
「あくまで予想だ。現に、体もさっきよりも動かしやすいしあまり痛みもない」

 ルークの言葉にトウマも両手をグーパーさせながら実感し「確かに」と呟く。
 するとルークは周囲を見て、ペイルたちがまだ起き上がっていない事を確認する。

「トウマ。もう動けるな」
「え? ま、まぁ。一応は」
「よし、ならあいつを追うぞ」
「はぁ? 追う!?」

 まさかの発言にトウマは驚くが、ルークは至って真面目な顔をしてトウマに話し掛けていた。

「当然だろ、俺たちは元々クリスを追って来たんだ。それにトウマも見たろ、あいつの後ろにクリスが抱えられていた所を」
「っ、そうだが、ならこの人たちを起こして一緒に追うべきだろ? あんな強い奴がいるんだ、俺たちだけじゃどうしようもないだろ」
「ならトウマはその人たちを起こしてから来てくれ、俺は先にあいつらを、クリスを追う。まだそう遠くに行ってないはずだ、これを逃す訳にはいかない」

 ルークはそう言ってトウマから離れバベッチたちを追うとしたが、トウマがルークの腕を掴む。

「待てルーク! お前やっぱり少し変だぞ。いつもなら、もう少し冷静に行動するのに今回のクリスに関しては突っ走りすぎだ。あいつを助けたいのは分かるし、俺も助けたい気持ちは一緒だ。だから、少し落ち着け」
「落ち着け? 俺は冷静だ。ここでクリスを見失えば、もう助けられないかもしれないからこそ急いでるんだろうが!」
「だからって1人で行くな! 相手は街で見る盗みを働く奴らと同じじゃないんだ! 下手したら、死ぬ危険があるんだぞ!」
「……分かってるよ。でも、それはクリスも一緒だ。今一番危険なのはクリスだ。だから、一刻も早く助け出してやるんだろうが」

 そのままルークとトウマは意見を言い合って、相手の顔を見続けているとトウマが視線をずらし大きなため息をつく。

「お前は言い出したら聞かないよな。全くよ、1人で行かせるかよ。俺も一緒に行く」
「っ!」
「何驚いた顔してるんだよ!」

 トウマはルークの肩を軽く殴り、横に並んだ。

「前に言ったろ、1人で何でも抱えんなって。俺はお前を親友だと思ってんだ、当然クリスもな」
「トウマ」
「ほら、さっさと行くんだろ」

 トウマはルークの背中を軽く叩くとルークは押される様に一歩を踏み出す。
 そのままトウマの方を見て一度頷き、バベッチの後を追って行きトウマも一緒に走り出した。
 その直後、倒れていたアバンの意識が戻る。

「……くそっ……あんな攻撃のされ方は初めてだ……」

 アバンは既にルークと同じようにバベッチの攻撃について検討がついていた。
 体を起こし周囲を見た時にルークとトウマがいない事に気付き、周囲を探すもどこに居ないと分かる。

「(まさかあいつら、追ってたんじゃないだろうな……と言うか、何故アリスが攫われているんだ)」

 アバンはルークたちの事を考えた直後に、妹であるアリスが攫われた1人である事実に衝撃を受けていた。
 その時アバンは、相手へと自分の無力さに憤っていた。

「(俺の妹に手を出すとは許さん……何よりも、妹の危機に何も出来なかった俺自身が許せない! あの時動揺してしまって、相手のされるがままにされて何してるんだ俺は! 何の為に王国兵になったんだ! 妹も守れないで何が王国兵だ!)」

 自身の手を力いっぱい握り締め、歯を食いしばっていた。
 そして握り締めた手を開き、視線を倒れているペイルと王国兵の方へと向けペイルの方へと近付いて行く。
 息がある事を確認しアバンは魔力でゴーレムを造り出し、ペイルを壁際に運ばせる。
 そのままもう1人の王国兵にも同じ様な事をし、ゴーレムでペイルの横へと運ばせアバンはペイルの体を揺さぶった。

「ペイル小隊長、ペイル小隊長」
「んっ……アバンか? 大丈夫か?」
「はい。ペイル小隊長が庇ってくれたおかげで軽傷で済みました」
「それなら良かった」

 ペイルは横にもう1人の王国兵がいる事を確認し、アバンへと視線を戻した。

「状況は?」

 その問いかけにアバンは、自分たちを襲った者たちがいない事とルークとトウマがいない事を伝える。
 ペイルは「分かりました」と答え、この後の行動を伝えようとする前にアバンがそれを遮る様にペイルの名を呼ぶ。
 何事かとペイルは話すのをやめ、アバンの方を向く。

「俺はこれからあいつを追います。第二王子とその友人もあいつを……いや、攫われた俺のを追っていたんで、俺も追います」
「っ!」
「ペイル小隊長が言いたい事は分かっています。これは完全に違反行動です。ですが、それを承知の上で申し上げています」
「……この状況で違反行動をすれば、君の訓練兵としての資格はく奪は免れないですよ。それよりか、僕がそんな事はさせません」

 ペイルは立ち上がろうとするも、体に完全に力が入らないのか壁に寄りかかったまま立っている状態であった。
 だが顔はアバンを睨む様に見つめていた。
 アバンはそんな視線に臆することなく、発言は撤回はしなかった。

「家族が攫われた状況でじっとしている事が出来ないのです。何より、家族の危機に何も出来ない自分が許せないんです」
「どんな理由であろうとも、例外はありません。君は現状サスト隊長配下にいる、1人の王国兵なのです。指示には従って下さい」
「すいません、それは出来ません」
「そうですか……なら力ずくで止めます!」

 ペイルは片手をアバンに突き出し、魔法を放とうとするもアバンはそれを予期していたのかペイルの背後からゴーレムを造り出し身動きを封じた。

「どんな処罰も受ける覚悟です。それに、俺が先程放った小型ゴーレムがサスト隊長の班とカビル中隊長とエス中隊長の班と遭遇したので、こちらに誘導してます。時期にここに辿り着くはずです。隊長たちにはありのままを伝えてもらって結構です。本当に申し訳ありません」

 アバンはそう言って、深く頭を下げた後ペイルに背を向けて走り去った。

「待つんだアバン!」

 ペイルが身動き取れないまま大声で叫ぶも、アバンは止まらず走って行ってしまうのだった。
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