上 下
125 / 564

第124話 出まかせ

しおりを挟む
 ヒビキが開けた扉にぶつかって来たのは、オービンであったのだった。
 オービンは手を拘束されている状態で、かなりの全力疾走をしていたのか息が乱れていた。
 そしてオービンがそこでやっとルークたちの存在に気付き、目を見開いた。

「えっ、ヒビキ!? それにルークにトウマ君も。何でここに?」

 ルークたちもまさかオービンにこんな所でこんな形で再開するとは思っておらず、その場で少し固まっていた。
 するとオービンは両手が拘束されたまま、何とか立ち上がろうとしておりそれを見たトウマが直ぐに駆け寄り手を貸した。

「ありがとう、トウマ君」
「い、いえ。それより、何があったんですか?」
「一言で言えば、逃げて来たんだが……」

 と言いつつオービンはその場で背を向け、走って来た方へと視線を向ける。
 すると奥からオービンを追って来たと思われる黒いローブを来た奴らが5人現れる。

「今追い付かれた所だ。で、そっちは何でこんな所に?」
「俺たちはクリスを追って来たんです。途中で、ヒビキ先輩に協力してもらって」

 トウマの答えにオービンは、チラッとヒビキの方を見て「なるほどね」とだけ呟く。
 それを見てヒビキは、目線を下へとずらし小さく舌打ちをした。
 ルークはそんなオービンに近付き、小声で問いかけた。

「兄貴、クリスはどうしたんだ?」
「……俺が視界を取り戻した時には、既に一緒ではなかった」

 ルークは少し苦しそうに「そうか」と呟きオービンの拘束具を外そうと魔法を使おうとするがオービンに止められる。

「これはただの拘束具じゃない。魔法や魔力と言ったものを完全に受け付けない特殊な物なんだ」
「何でそんな事が分かるんだ、兄貴?」
「直接聞いたんだよ、あいつに」

 とオービンが顔で黒いローブを来た奴らの方へと振り、ルークたちがその方向へ視線を向けると奥から唯一黒いローブを被っていない人物が現れる。

「逃げるなんて酷いじゃないですか、オービン先輩」

 奥から現れたのは、フェルトであった。
 まさかの人物にルークとトウマは動揺するが、オービンが直ぐに目の前のフェルトは偽物であると告げる。
 だが2人はすぐには理解出来ずにいた。
 その光景を見たフェルトは、小さく口を動かすと黒いローブを来た奴ら5人が一斉にオービン目掛けて突っ込んで来る。
 一瞬で距離を詰めて来る速さに、ルークとトウマは反応が遅れてしまう。
 だが次の瞬間、オービンとそこへ迫る黒いローブを来た奴らの間を分かつ様に、大きな壁が下から垂直に出現する。

「っ!?」

 思いもよらない出来事に驚いているとヒビキが声を上げた。

「何ぼさっとしてんだ! 逃げるぞ!」

 と言って、ヒビキは来た道を勢いよく走り出し、オービンもその後を追う。
 遅れつつもルークとトウマも急いで後を追うように走り出す。

「ヒビキ、道が分かるのか?」
「分かるわけないだろうが! うる覚えで来た道を戻ってるだけだ! それより、さっきの衝撃はお前がやったのか?」

 その問いかけにオービンは走りつつ首を横に振ると「そうか」とだけヒビキは呟く。
 するとトウマが後方から前を走るヒビキとオービンに向かって話し掛ける。

「ヒビキ先輩! オービン先輩! これからどうするんです?」
「どうするも何も、もう逃げ切るしかない! 俺はもうさっきので魔力切れ寸前。オービンは拘束状態で、力も使えない。お前ら2人でさっきの人数相手できる訳じゃないだろうが」
「っ……確かに……」
「それに王国軍も来ているか不明の今、もう出来る事は敵と遭遇せずにここを脱出する事のみだ! しかも、その脱出も運頼みと言う最悪の展開だがな!」
「怒ってるのか、ヒビキ?」

 突拍子もないオービンかの問いかけに、ヒビキの中で何かが切れた音が聞こえた。

「怒ってるに決まってるだろうが! 何でおめぇは事件の渦中にして、そんなケロッとした顔でいるんだ! こっちとらデートを強制終了させられて付いて来たら、死にそうな目に遭ってるんだよー! だから、俺はお前に関わるのは嫌なんだ!」
「そんな事を言いつつ、お前は結局こんな所まで来て後輩の面倒も見てるなんて、やっぱいい奴だなヒビキ」

 まさかの笑顔での返答にヒビキは怒鳴り返した。

「ふ・ざ・け・ん・な! 俺はお前が今後干渉してこない様にする為に、借りを作ろうとしただけだ! 誰が男なんかの面倒を見るかよ! メイナさんの好感度を落とさない為に仕方がなく、やっただけだ!」
「なら、途中で放って帰れば良かっただろう」
「っ! オービン、俺はマジでお前が嫌いだー!」
「あははははっ! 嫌いで結構結構!」

 ヒビキは猫が威嚇する様な感じでオービンに言い放つも、オービンはどこか嬉しそうに笑っていた。
 そんな光景をルークとトウマは後方から見ていた。

「(兄貴とヒビキ先輩って、どう言う関係なんだ?)」
「(仲がいいのか、悪いのかどっちなんだ、あれは?)」

 そしてヒビキとオービンが先頭を走りつつ、何度か分岐路を曲がり一本道を走り抜けると大きく開けた場所へと出たのだった。

「っ! 止まるな! このまま駆け抜ける!」

 ヒビキは一瞬でこの場の進む方向から敵でも出てきたら、完全に挟まれて終わると直感し声を上げていた。
 しかし、次の通路までの距離は長く未だ半分にも到達していなかった。

「(何だ? 異様に、向こうまでの距離が遠いぞ)」

 先頭を走っていたヒビキは全力で走っているにも関わらず、距離が遠すぎる事に少し疑念を抱いていると後方でトウマの足が突然止まる。
 それに気付きルークとオービンも止まり、ヒビキを呼び止める。

「はぁ……はぁ……」
「どうしたんだトウマ。急げ」
「分かってる……分かってるんだが、異様に足が重くて進まないんだ……」
「?」

 声を掛けたルークがトウマへと近付いた時だった、突然体全体が地面へと引きつけられる様な感覚に陥り、その場で耐える様に固まる。
 異変を感じたオービンとヒビキも一歩踏み出した時だった、足が地面にくっついた様に足が重く上がらずになってしまう。
 そんな所に背後の通路から黒いローブを来た奴らが3名現れ、来た道の方からは2名の黒いローブを来た奴が現れる。

「急にあんな事をされて驚きましたよ、ヒビキ先輩」

 そして遅れてフェルトが走って来た道の方から現れ、ルークが小さく呟いた。

「フェルト……」
「話も聞かないで、急に逃げ出すなんて失礼じゃないですか?」
「失礼もあるか。先に襲って来たのはそっちだろ」

 オービンがフェルトに対して反論すると、何故か呆れた様に肩をすくめた。
 直後、オービンは信じられない言葉を耳にする。

「何言ってるんですか? そんなの当然じゃないですか。この王国の第一王子事オービン・クリバンスの偽物を見つけたんですから、捕獲して話を聞くのは当然の事です」
「「!?」」

 その言葉にルークたちは、一瞬何を言っているのか理解出来ずに固まる。
 フェルトはそんな事お構いなく話を続ける。

「ルークたちには黙っていたが、俺は王国の国王直属部隊の暗部組織に所属している。ここには、任務で潜入しているんだ。安心してくれ、この場にいるのは俺の仲間たちだ」

 突然のフェルトからの言葉に、混乱し出すルークとトウマ。
 しかし直ぐにオービンは反論する声を上げる。

「口から出まかせだ! そんな事をよくも言えたもんだな! お前はフェルト君に擬態している偽物で、周囲の奴らだって王国軍のはずがないだろ!」
「……」
「?」

 そこまで言ってオービンはある異変に気付いた。
 ここまで声を上げて発言したのに関わらず、ルークやトウマ、そしてヒビキも一切こちらを向かず、声がまるで聞こえていない様な反応をしていたのだった。

「ルーク! トウマ! ヒビキ! 聞こえてないのか?」

 オービンは大声を出し、体を動かしながら話し掛けるも、ルークとトウマはフェルトの方を向いたままで、ヒビキに関しては首を傾げていた。
 そしてオービンはフェルトの方を向き、黒いローブを来た奴らが音で会話している事を思い出した。

「(やられた……まさか、音で俺の発した声の音とを相殺させているのか)」

 オービンはフェルトの方を奥歯を噛みながら睨みつけると、不敵な笑顔で返して来た。
 そしてそこに追い打ちを掛ける様にある人物がフェルトの後ろから現れ、ルークたちは自分の目を疑った。

「あ、兄貴がもう1人?」
「嘘だろ……」
「っ!?」
「俺がもう1人!?」

 フェルトの横に立ったのは、拘束も何もされていないオービンと瓜二つの人物であった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

【完結】悪役令嬢のトゥルーロマンスは断罪から☆

白雨 音
恋愛
『生まれ変る順番を待つか、断罪直前の悪役令嬢の人生を代わって生きるか』 女神に選択を迫られた時、迷わずに悪役令嬢の人生を選んだ。 それは、その世界が、前世のお気に入り乙女ゲームの世界観にあり、 愛すべき推し…ヒロインの義兄、イレールが居たからだ! 彼に会いたい一心で、途中転生させて貰った人生、あなたへの愛に生きます! 異世界に途中転生した悪役令嬢ヴィオレットがハッピーエンドを目指します☆  《完結しました》

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

処理中です...