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第120話 一心同体

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「……」
「何故黙る? サジタリウス。これも君の名前だろ、フェルト・クランス」

 私はオービンがフェルトの事を何故サジタリウスと呼んでいるのか分からず、それをただ見守っていた。
 だが、フェルトはオービンの言葉には反応する事はなかった。

「あ、あの~オービン先輩……」

 私はつい黙ってられずに、オービンに話し掛けると素直に私の方を向いてくれた。

「どうしたんだい、クリス君?」
「いや、その、サジタリウスって何ですか? いや、名前は分かるんですけど何でフェルトの事をそう呼ぶのか分からなくて……」
「それはね、彼が王国軍の暗部組織に所属している人間だからだよ」
「暗部組織?」

 オービンの口から聞いた事もない名前が飛び出て来て、私は驚いてしまう。
 暗部組織? そんな物がこの王国にあるの? 知らないのは当然だけども、何でそんな組織が存在してて、オービン先輩は何故それを知ってるの? てか、それ私に話していいやつなの!?
 私は途中でその話を聞いてしまってよいものなのかと言う方に考えが切り替わっていた。
 そんな私を横目にオービンはフェルトの方に再び視線を向けていた。

「あ~これは言わない方が良かったよね。同級生に、自分の正体がバレるのはマズいよね」
「いいえ。少し動揺はしましたが、こんな所で素顔を晒したのですから、もう関係ないですよ第一王子」
「ほ~関係ないね……」
「あ、あのオービン先輩。これ、俺が聞いていい話なんですか?」

 私は小声でオービンに問いかけると、笑顔で振り向いて答えて来た。

「あぁ、問題ないよ。だって、全部嘘なんだから」
「へぇ?」

 嘘? え? 何が? どれがどう言う嘘なの? え、どう言う事なの?
 私はオービンの言葉で、頭の上にハテナマークが出始めていた。

「なぁ、フェルト君?」
「っ……」
「ん? 何でそんな歪めた顔をするんだい? 君だって、嘘だと分かって乗って来たんでしょ」

 その時フェルトは、オービンを睨む様に見ていた。
 そしてフェルトがオービンに対して何かを言い出そうとした瞬間だった。

「君、本当にフェルト君かい?」
「!?」
「え? 次は何?」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「……本当にこっちで合ってるんですか、ヒビキ先輩?」
「疑ってるのかルーク? ならもうやらないぞ」
「さっきから、似たようなやり取りしないで下さいよ! ルークも!」

 ルークとトウマは、ヒビキと共に街の外へと出ていた。
 そしてヒビキの残留思念魔法を使用し、黒いローブを来た奴らの足取りを追っていたのだった。
 だが、その道中ルークとヒビキの言い合いはなくならず険悪な感じが続いていた。
 トウマは2人の仲を取り持つと言う面倒な役回りをしていた。

「(はぁ~……何でここまで仲が悪いと言うか、気が合わないと言うか……はぁ~つら)」

 1人ため息を漏らしつつ2人の後を付いて行っていた。
 元々、この案を提案したのはトウマであった。
 ヒビキの残留思念魔法を使えば、その場の一定時間の人や物などの経過を見る事や話しさえも分かると言う魔法だと以前聞いた事があり覚えていた為だった。
 しかし、ヒビキが自分たちに力を貸してくれるかは可能性が低かったので、期待はしていなかったのだが結果的には同行してくれることになった。

 ヒビキの心中で何を考えているか分からないながらも、いつもチャラけているキャラの感じとは違い真剣な感じがしていたが、今はクリスの事が心配であったのでトウマは考えない様にしていた。
 現在は、街を出て近くの森へと入っていた。
 ヒビキの残留思念魔法は使用範囲が短く、対象の残留思念を追ったりする事は出来るもののそれも数キロと短い為、何度か立ち止まり再度読み取らなければいけなかった。
 そんな事を繰り返しつつ、3人は森の奥へと入って行きある所でヒビキが足を止めた。

「おい、あれを見ろ」

 その言葉に2人は覗く様にヒビキの視線の先を見た。
 そこには、山肌が一面に広がっており一部箇所に大きな洞窟の入口らしき所が見えた。

「今まで追っていた奴はあそこに入って行った」
「なるほど。それじゃ、あそこにクリスを攫った奴らが居るってことか」

 と言って、ルークは早速森を抜けて一直線に向かおうとするが、トウマがそれを止めた。

「おいおい、何突っ込もうとしてるんだ。少し落ち着けよ」
「そうだな。トウマの言う通りだ。こんな所、あからさまに入って来て下さいって言ってる様な場所だ」

 まさかのヒビキまでもルークを止める様な発言をした事に、トウマは少し驚いていた。
 トウマはヒビキはそんな事は言わずに、「さっさと行け」的な感じを出すと勝手に思っていた為だった。
 そんな視線に気付いたのか、ヒビキはトウマの方を少し睨んだ。

「お前、俺に少し失礼な考えをしてないか? いいか、俺はお前らより1つ上の学院生だぞ。ただの馬鹿でアホな奴が、あの学院で第3学年までいれる訳ないだろうが」
「確かに」
「(いや、確かにって答えるのはどうなんだよルーク)」

 トウマは口には出さずにルークの方を見て心の中でツッコんだ。
 その答えに案の定ヒビキは、機嫌を損ねておりルークの方を少し睨んでいたが、直ぐに小さくため息をついた。

「まぁいい。それより、ルーク。ここまで巻き込んで、勝手な行動をされる方の身になれ。お前はその辺の意識が低い」
「っ」

 その言葉にルークは素直に受け取り、一度後ろに下がった。

「(へぇ~ヒビキ先輩ってしっかりした一面もあるんだ)」
「おいトウマ。次そんな視線を送ったら、ビンタすんぞ」
「は、はい……」
「いいか、ここは街中でもなければ、誰かが助けてくれる状況でもない。これは勝手に自分らが行動している事を意識しろ。何が起ころうが、自己責任って事をだ」

 いつになく真剣な表情でヒビキはルークとトウマに話し掛けた。
 その真剣さに2人は、適当に聞き流す事はせずに真正面からその話を身に分からせる様に聞き入った。

「こっからは一心同体だ。もしそれが出来ないなら、俺はお前らを引きずってでも連れ帰る」

 ヒビキの少し威圧ある言葉に、トウマは一瞬動じたがルークは軽いち持ちではなく覚悟を決めた様に答えた。

「問題ありません。切り替えくらい、俺にも出来ます」
「お、俺はヒビキ先輩の指示に従います……」

 2人がそれぞれ答え終わるのを聞き、ヒビキは面倒臭そうに頭をかき「分かった」と小さく呟いた。

「それじゃ、もう一度状況と敵の戦力を再確認してから、作戦を立てる」

 そうして3人は一旦森の奥へと下がるのだった。
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