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第116話 お願い事

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 ルークがぶつかってしまった相手は、オービン寮第3学年のヒビキ・スノークであった。

「ん? 確かお前は、オービンの弟……ルークだったか?」

 不機嫌な表情で睨むヒビキに対し、ルークは立ち上がりもう一度謝罪をする。

「はぁ~もういい。デートの邪魔だ、さっさと行け」

 ヒビキの隣には、妖艶の美女と言えるようなロングヘアーの女性がおり、ヒビキと腕を組んでいた。
「何、ヒビキの知り合い?」
「えぇ、学院の後輩です」
「へぇ~結構カッコいいのね。顔だちも良いし、体格も良いわね」

 と言って、その女性は髪を耳にかける動作をしながらルークとトウマを覗き込む様に顔を近寄せた。
 トウマは恥ずかしく思ったのか目線を外すが、ルークはうろたえる事無く「では、急いでいるんで」と言って、その場から離れ直ぐに黒いローブを来た奴らを追う。
 それを追いかける様に、トウマも一礼してから急いでルークを追った。

「え~もう行っちゃうの。残念」
「何で後輩に靡いちゃうのよ、メイナさん。俺があんなに口説いても靡かなかったのに」
「ごめんって、つい仕事の癖で」

 メイナと呼ばれる女性は、あざとい表情でヒビキに答えると軽くため息を漏らすヒビキ。

「急に仕事モードになるの止めて下さいよ。今日は、素のメイナさんとデートしてるんですから」
「そうだったね。ごめん、ごめん。でもヒビキも先輩なら、さっきみたいにあからさまに不機嫌な顔したらダメじゃない」
「いいですよ、俺は別に男に好かれたい訳じゃないんで。それより、早く次の所に行きますよ」

 ヒビキはメイナを優しくリードする様に歩き出すと、メイナはヒビキの腕にピタとくっ付いて歩いて行った。
 その頃、ルークたちは完全に黒いローブを来た奴らを見失っていた。

「ダメだ、全然見当たらない……どうするルーク」
「くそっ……」

 その場で考えだすルークに、トウマは一度学院に戻ってタツミ先生と合流すべきと提案をする。
 だが、すぐにはルークは頷かずに、どうにか黒いローブを来た奴らを追う事を考えていた。
 その真剣な表情を見たトウマは、ある事を思っていた。

「(ルークの奴、クリスの事が余程心配なんだな……確かに心配なのは分かるが、いつものルークならもう少し冷静に考えるはず。ここまで焦って行動はしないんだが……)」

 トウマは今まで付き合いから、友達と言う存在を無下にするような奴ではなかったが、ここまで深入りする様な事もなかった為、少し驚いたのと同時にクリスの存在がルークにとって大きいものなのだと改めて感じていた。
 するとトウマは、ひとまず話を聞かないルークに話を聞いてもらう為に両肩に手を置いて、意識を向けさせた。

「聞けルーク。確かにクリスは心配だが、このまま2人で追うよりタツミ先生や他の人に手伝って貰う方が、確実に見つかるはずだ。まだ奴らも、この街からは出てないだろうし。だからこそ、街から出る前に……あっ」
「?」

 突然トウマが何かを思い出したかの様に、話が止まる。
 そしてトウマはルークから手を離し、暫く考えた後口を開いた。

「ルーク! あるぞ、見失ったあいつらを追いかける手段が! ……あっ、でもちょっと大変と言うか、難しいかも……」
「え?」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「どう、なかなかいい所だったでしょ、メイナさん」
「そうね。来た事ない所だったし、凄く良かったわ。よく知ってるわねヒビキ」

 ヒビキとメイナは、カフェ・スイーツ店から出て楽し気に会話をしていた。

「いた! ヒビキ先輩!」

 そこに2人のデートを邪魔する様に、無粋な声が聞こえて来てヒビキは足を止め不機嫌な顔になる。
 そして振り返るとそこには、手を振って近づいて来るトウマとルークの姿があった。

「あら? さっきの後輩たちじゃない?」
「……うん、そうだね……」

 ヒビキはメイナにバレない様に、近づいて来るトウマたちを睨み目線で「デートの邪魔をするな!」と訴える。
 トウマは一瞬それに気付き足が止まるも、ルークはうろたえずヒビキの元へとずかずかと近付て行く。

「ヒビキ先輩、お願いが」
「嫌だ」

 ルークが話し終える前に、ヒビキは内容も聞かずに断る。
 その後も同じ様なやり取りが続き、2人は互いに睨む様に見つめ合う。

「ちょ、ちょっと待ってルーク。先に事情を話してからだろが」

 トウマが止めに入るも、2人は聞く耳を持たず互いに睨み合っていた。
 するとそれを隣で見ていたメイナが、話しに割り込んで来た。

「ほらヒビキ、後輩が頼って来てるのに先輩としてその態度はどうなの?」
「メイナさん。さすがにこればかりは、言う事は聞けないな。今はデート中なので、後輩たち話すよりもデートの方が優先度が高いんですよ」
「っ……そう言えばヒビキ先輩は、寮内では目立ちたがりで、女癖が悪いで有名でしたよね?」
「あ? 俺はこう見えても純愛だ。二股みてぇな事はしねぇ」
「そんなこと言って、いつも見かけると違う女性といるじゃないですか」

 その言葉にヒビキは耐え切れず、ルークの胸ぐらを掴む。

「てめぇにああだ、こうだ言われる筋合いはねぇんだよ。オービンの劣化野郎」
「っ!」

 ルークはヒビキの言葉にカチンと来て、ヒビキの胸ぐらを掴みかかるがすぐに手放した。
 するとルークは暫く黙った後、先程言った事を急に謝罪した。
 向かいかかって来ると思っていたヒビキは、あっけにとられルークの胸ぐらから手を離した。
 そのままルークは頭を下げたままお願い事を口にし始めた。

「ヒビキ先輩。デートをしている所本当に申し訳ありませんが、俺たちに貴方の力を貸してください」
「は? 俺の力だと?」

 ルークは一度顔を上げると次は、ヒビキのデート相手であるメイナに軽く頭を下げる。

「せっかく楽しんでいる所申し訳ありませんが、ヒビキ先輩を俺たちに貸してください」
「お、お前! メイナさんに何言ってやがる」

 ヒビキが頭を下げているルークに手を伸ばそうとすると、それをメイナが止めた。
 ルークの姿を見てメイナは何かを感じたのかヒビキの介入を止めたのだった。

「ヒビキの先約は私よ。今日の為にオシャレも予定を調整したりと色々したのに、はいどうぞと言うと思ってるの?」
「いいえ。ですから、お願いをしているのです。貴方が今独占しているヒビキ先輩を、俺たちに貸してください」
「嫌よ」
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