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第112話 指輪のネックレス

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「何言ってるんですか、エリス先輩……」

 するとエリスは、私の耳元から離れる。

「どうして男装しているかとかは、一旦置いといて1つだけ聞きたいんだけど」
「あのエリス先輩、俺の話聞いてました? 男装ってどう言う事ですか?」
「やけにそこにこだわるね? 確かに上手く男子を演じているし、ボロをださなければバレないね。でも、君が少し感情的になった時やちょっとした歩き方から、対応の所を見て私は君が女の子だと分かったよ」
「っ……」

 その言葉と、でたらめを言っている訳ではないと言う眼差しで私はこの人に、男装を完全に見破られていると実感した。
 嘘でしょ……何で分かったの? そんなに分かる様なもの? でもそれより今は、どうやって黙っていてもらうかだ。

「この事を黙っていて欲しいなら、さっきの私の質問に答えて欲しんだけど」
「……」
「どうする、クリス? 断るなら、この場で大声でバラす。でも、答えてくれるなら黙ってるよ」

 何なのよ、この人は……一気に私の弱みを握ったと思ったら、次は脅し? 何が目的なの……
 仮に答えたとしても、バラされないと言う保証はない。
 でも、この雰囲気からして私が質問に答えなければ本当にバラすだろう。

「さぁ? どっち、クリス?」
「……っ、分かりました」

 私はエリスに迫られた2択以外に解決方法が思い付かず、下唇を少し噛みながらエリスの問いかけに答える事を選んだ。

「決断出来る事は良い事よ。それじゃ聞くけど、君が男装してこの学院に転入した理由は、ルークに近付く為? それとも、オービンに近付く為?」

 その問いかけに私はどう言う意図があるのか、読み取れなかった。
 ひとまずここは、嘘はつかずに聞かれた事だけ答える様にするか。
 私は「ルークに近付く為」とだけ答えると、エリスは続けて問いかけて来た。

「それはどうして?」

 1つじゃないのかよ……はぁ~、ここで黙るとさっきの繰り返しになるよね。
 どうするべき? 素直に答えるか、答えないべきか……いや、待てよ。
 そもそも、私が来た理由は今じゃなくなっているわけだし、仮に話しても問題ないのでは? いやでも、何でエリス先輩はそんな事を聞くんだ? そこが分からない事には、簡単に言う訳にはいかない。

「それは黙るのか?」
「……エリス先輩がどうしてそれを知りたいか教えてくれたら、言いますよ」
「そうか」

 すると急にエリスは、私に背を向けると大きく息を吸い出した。
 その行動で私は、この人が今から何をしようとしているのかを察して、後ろから飛びつく様に口を抑えに行った。

「クリス・フォークロスは、だんっんんん!?」

 そこまで言いかけた所で、私の手がエリス先輩に覆いかぶさったことで最悪の事態は防げた。
 こ、この人はー! 今大声で私の秘密を叫ぼうとしたよ! あり得ないでしょ! 何してくれてんだよー!
 突然の事に周囲の人が私たちの方に視線を向けて来て、注目されおりまだ完全に危機は去っていなかった。
 するとエリスが小声で私に問いかけて来た。

「で、話す気はあるかな?」
「うぅっ……分かりましたよ。話しますから、この状況をどうにかしてくだいよ」
「よし」

 そう言うとエリスは、周囲の人たちに適当な理由を言って軽く頭を下げる事で、事態を収拾させた。
 まさか発声練習を突然したくなったとか言う、とてつもない理由であの状況をなかった事にするなんて、物凄いメンタルの持ち主だ。
 私はエリスの行動に少し関心してしまっていた。

「それで、聞かせてもらえるのよね?」
「……ルークに近付いたのは、鼻を折る為ですよ」
「ん?」
「だから、エリス先輩は知らないかもしれないですけど、王の子として意識が低くて、ただ鼻だけが伸びているあいつの伸びた鼻を折りに来たんですよ」

 エリスは私の言葉を聞くと、一瞬ポカンとした表情をしていたが、直ぐに「ぷっ」と笑う声が漏れる。
 そして直後、お腹を抱えながら口元を手で隠しつつ笑い出した。
 さっきまでの少しピリついた雰囲気が一気に消え去り、私は本当にエリスが何がしたいのか分からなくなり、首を傾げた。

「ご、ごめん。まさか、そんな理由だとは思ってなくて、ぷっはははは。聞くだけで面白いわね、それ」
「あの、エリス先輩。いい加減、何が目的か話してくださいよ。これじゃ、俺だけ秘密をバラしただけじゃないですか」

 エリスは暫く笑った後、何とか息を整えて私の方を向いた。

「目的ね~……う~ん、言えるのは身辺調査ってことくらいかな。これ以上は言えないな。ごめんね」
「身辺調査? どうして俺の?」
「それは答えられない」

 それから私はしつこく、別の方向からなど訊ねても笑顔で「それは答えられない」とだけ言われ続けた。
 私はこの人は絶対に何があっても、答えないつもりだと分かり、これ以上聞きだすことを諦めた。

「はぁ~……もう、何なんだよ今日は。色々あり過ぎで、おかしくなりそうだ……」
「ん~? もしかして、ルークから告白とかされた?」
「な、なな何をいっでるうぅえんで?!?」

 エリスは完全に呂律が回らない私を見て、笑うと小声で「図星か」とだけ答えると肩を軽く叩いて来た。

「大丈夫。私口は堅いから」

 私はその時点で完全に意気消沈状態で、俯いているとそれを見ていたエリスがポケットから何かを出して、私に差し出して来る。

「……ん? 指輪のネックレス?」
「これは、互いの秘密を絶対に言わないと言う魔道具よ」

 エリスは私に「手を出して」と言って来たので、手を出すとそこに持っていた指輪のネックレスを置いた。

「これが魔道具?」

 するとエリスは、首元から同じ物をぶら下げていたのか取りだして見せて来た。

「これはね、昔の先輩が独自開発した物でこの2つしかないの。使用用途は、互いの秘密を必ず守ると言うものよ」
「秘密を守る」

 エリスの説明を聞くと、この2つの指輪のネックレスを合わせ、誓いの言葉を言った後に互いに守る秘密を口にするらしい。
 その秘密が互いに平等の物と認められたら契約が成立し、その秘密を言おうとしても発する事も出来ず、脅されても魔法などを使われても、絶対に話す事はない様になるらしい。
 私はそんな魔道具の存在もしらないし、何よりこんなものを開発した何て言うのが、胡散臭くて疑いの目でそれを見つめていた。

「その目は信じてないな。なら、実際にやって体験したら嫌でも分かるよ」

 するとエリスは強引に自分の指輪のネックレスを、私が渡された指輪のネックレスに合わせる。
 直後、合わさった指輪のネックレスを中心に私たちを囲う様な円形の薄いシールドが展開される。

「っ!?」
「大丈夫。これは魔道具が発動した合図で、周囲の人には見えないし、私たちの声も聞こえてない」

 そう言うとエリスは突然大声を出す。
 私はいきなり大声を出したので驚いたが、周囲の人たちはそんな声が聞こえていないのか、全く反応していなかった。

「ね? それじゃ、早速始めようか」
「ちょ、ちょっと待って下さい。そんな急に進められても……」

 どんどんとエリスのペースで話が進んで行くのに、私は付いて行けずに一旦整理する時間を欲しいと言うが、エリスは私にそんな時間をくれなかった。

「クリスは私に秘密をバラされてもいいの?」
「いや、良くないですけど」
「なら、私の言った事を繰り返して言う。いいね?」
「……っ、わ、分かりました」

 ダメだ、話を聞いてくれないし、逆に脅されるなんて……意外とエリス先輩って強引な人なの?
 その後エリスの言った事を繰り返し言うと、指輪自体が青く光りだす。

「後は、守る秘密を言うだけよ。私はもちろん、さっき聞いたクリスの秘密を全て守る事を誓うわ。それにルークの事もね。じゃ次は、クリスの番ね」
「いや俺の番と言われても、エリス先輩の秘密なんて知らないんですけど……」
「そうだったね。それじゃ……」

 と少し考えた後に、エリス自身が自分の秘密を普通に話し始めた。
 私はその内容に驚いてしまう。

「あれ、まだ秘密が平等じゃないか。なら」

 と呟いた後、更なる秘密を私明かして来て、私は愕然としてしまう。
 すると指輪が青から赤い光に変わり、周囲に展開していたシールドも消えた。

「これでおしまい。じゃ早速、体験と行こうか。クリス、さっき私が教えた秘密を言おうとしてみて」

 エリスは首元から取りだした指輪のネックレスをしまいながら、私にそう言って来た。
 私は言われるがまま、先程の教えてもらったエリスの秘密を口に出そうとしたが、途中で口が止まる。
 意識では声を出して言おうとしているのに、口から声が出ないような感覚になっており、どうあがいてもその秘密を話す事が出来なかった。
 ならばと思い、地面に文字として書こうとしても、直前に書こうと文字が書けないような感覚で、ただ手が震えているだけの状態になった。

「う、嘘……本当に、言えないし書けもしないなんて。あり得るのか、こんな事が」
「分かってもらったようだね。私もさっきの秘密を言おうとしたり、書こうとしても同じ状態になるよ。これで、君の秘密は守られたわけだ、めでたしめだたし」

 私がエリスの言っていた事が本当であると、驚いているとエリスは笑顔で私に語り掛けて来ていた。

「あっ、この指輪のネックレスの事は秘密だよ。一応肌身離さず持っておいて」
「貴方は本当に」

 と言いかけた所で、私の口元にエリスは封をする様に人差し指を当てて来た。

「女性はミステリアスの方が、魅力的だからよ」

 そう言ってエリスは私の元から離れて行った。
 その後私は、その場で暫く今日の出来事を色々と整理する為、近くの椅子に座り込んで景色を眺めた。
 そしてあっという間に日も陰り始めた時に、トウマが私に声を掛けて来て「そろそろ帰るぞ」と言ってくれた。
 そこに、ルークやジュリル・ウィル・マートルの姿はなかった。
 トウマに聞くと、ルークは先に帰ったらしくジュリルたちも他に行く所があると言って、別れたらしい。
 私はトウマ・モラン・シルマ・ミュルテの4人と学院へと戻った。
 その頃、エリスはと言うと噴水前で誰かを待っていた。

「エリス」
「はぁ~やっと来た。遅刻なんですけど、ミカ」

 そこへやって来たのは、私服姿のミカロスであった。

「悪い。少し明日の事で長引いてな。それで、頼んでいた件はどうだった?」
「私のケアより、そっちですか……言われた通り、終わってますよ~」

 エリスは少し拗ねた感じでミカロスに答えと、そこでミカロスも気付く。

「悪かった、エリス。その話は後にして、行くか」
「……それより言う事があるんじゃないの」

 勝手に歩き出すミカロスの後ろ姿を見て、エリスは小さくぼやくが、諦めてミカロスの後を追って脇腹をつついた。

「な、何するんだよ、エリス」
「このヘタレ眼鏡が」
「おい、どう言う意味だそれは」
「うっさい。いつまでも言わないからだよ。それで、オービンにはいつ言うのよ」
「いや今はその時期じゃ」
「はい、またそれ~ずっとそれだからヘタレ眼鏡なの」

 2人はそんな会話をしながら、夕暮れの街へと消えて行った。
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