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第103話 変わりだす日々

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 学院長室にて、学院長のマイナと副学院長のデイビッドが今月開催の学院対抗戦について話し合っていると扉をノックする音が聞こえる。

「来たわね。デイビッド迎え入れて」
「分かりました」

 デイビッドは、学院長室の扉を開けるとそこには各寮の寮長と副寮長たちが揃っていた。
 その場には、オービンはおらず先頭にはミカロスがいた。

「オービン以外の各寮長と副寮長を連れてきました」
「奥に」

 デイビッドは全員を部屋へと入れ、寮長たちは椅子へと腰を掛けその後ろに副寮長が立つという構図に自然となる。
 この王都メルト魔法学院では、月に1度学院長と各寮長たちとでの報告会が行われている。
 その場では、その月の学院イベントや各寮への報告や問題などの確認と言った事を話し合っている。
 だが本日は副寮長たちも参加させられており、いつもの報告会とは違うとその場の全員が感じていた。

「それで、今日は何をやるんだ? 報告会にしては人数も多いが」
「そんなの1つしかないだろうが。少し考えれば分かるだろう、脳筋」
「僕はまだ寝起きだから、いきなり難しい話は止めて欲しいかな」

 寮長たちが学院長に向かい話し掛けると、学院長のマイナは両肘を机につき両手を組んで話し始める。

「今回、副寮長も含め集まってもらったのは学院対抗戦についてと、オービンの事についてだ」

 オービンと名前が出たとたん、その場が張り詰めた空気に支配される。

「君たちは既に知っていると思うが、現状オービンは体調の問題で医務室に籠りっきりだ。その為、寮長としての仕事は副寮長であるミカロスがこなしている。一部生徒の間では、オービンの姿が見えない事が噂になり始めている。そこで、君たちにオービンの寮長継続をどう思うか聞きたい」
「なるほど。でもまず学院長はどう考えているんですか?」

 エメルが、マイナに問いかけると暫く沈黙した後口を開いた。

「私としては、このまま継続してもらいたいと考えている」
「それじゃ、僕とは真反対の意見ですね。僕としては、オービンはこのまま寮長を辞退すべきだと考えている」
「どうしてですか、エメル寮長」

 その意見に、ミカロスが誰よりも早く理由を聞いた。
 エメルの理由としては、寮長としての仕事が出来ない人が寮長の役割を担うべきではないと主張する。
 さらに、現在寮長の仕事が副寮長へと流れ、現在は問題が起きていないが、いずれしわ寄せが出て来ると話す。
 その主張は何も間違っている所がない、正論であった。

「他の寮長はどうかは知らないが、僕の意見は以上だ」
「なるほど。では、ダイモンとイルダの意見も聞かせて欲しい」

 マイナはエメル以外の寮長に問いかけると、先に話し出したのはダイモンだった。

「俺様は、このままオービンが寮長をやる事には賛成だ。確かに寮長としての仕事は出来ていないが、体調も戻れば元通りになるんだろ。だったら、少しの間我慢すればいい事じゃないのか?」
「ダイモン、お前も見たろ。あの状態のオービンが、回復する様に見えるか?」
「そんなのオービン次第だろ。そもそも、寮長の交代も学院にとっては大きな影響が出るだろ。それこそ、オービンの病が学院中に広まるんじゃないのか?」
「それは仕方ない事だろ。これ以上隠す事に、何のメリットがある? 第一王子としての立場なら、直ぐにでも公表すべき事だろ」
「それこそ、オービンが決める事だろ。俺様たちがどうこう言う事じゃねぇ」

 ダイモンとエメルの口論がヒートアップし出すと、副学院長が副寮長に止める様に指示をすると、ワイズとスニークが寮長を鎮めた。
 そしてマイナが、まだ意見を言っていないイルダの方を向くと、イルダは眠りかけていた。
 その事に気付いた副寮長のマルロスが、イルダをつつき起こす。

「うっ……僕の番? オービンの寮長については、僕は反対かな。あの状態で続けていく方が大変だろ。それに、寮の長として寮生たちを見れないのなら辞めるべきだと思うな。寮生を導くのも寮長の大切な仕事だし」
「君たちの意見は分かった。寮長内では、賛成が1で反対が2。そこに私の意見を入れると、同票か」
「どうせなら、副寮長たちの意見もいれたらどうですか? この場に呼んだからには、意見くらい聞いてもいいじゃないですか?」

 エメルの意見に、マイナも賛同し4名の副寮長たちの意見も聞いた。
 結果は、賛成1に反対3となった。
 賛成したのは、ミカロスのみであり反対はワイズ・スニーク・マルロスと言う形になり、ワイズは寮長のダイモンと意見が割れてしまう。
 ワイズの意見としては、このままミカロスのみで寮長の仕事まで行うのは、身体的に不可も多くいずれ倒れてしまったら、副寮長までいなくなると言う最悪の事態になると想定した為であった。
 その意見にさすがのダイモンも、反論する事無く納得していた。
 その為、この場としてはオービンには寮長を辞めてもらうと言う雰囲気が出来上がりつつあった。

「と言うか、学院長が何故オービンの寮長を存続させようとしているのが、分からないんですけど。貴方なら、すぐにオービンを寮長から降ろすと判断すると思っていましたけど」
「もちろん学院長も初めはそう判断されたが……」
「デイビッド」

 エメルの問いかけに、先走ってデイビッドが答えてしまうとすぐにマイナが止める。

「……それは私が」

 とマイナが話し始めた直後だった。
 学院長の背後に、学院長室に置いてある映像投影魔道具が起動し映像が映し出される。

「マイナ学院長。そこから先は俺が話しますよ」
「っ! オービン!?」

 映し出されたのは、医務室にいるオービンであった。
 相変わらず口元には、機器をつけた状態ではあったが、ベッドからは起き上がっており顔色もいい状態であった。

「そう言う事か。オービン、お前が直接学院長を説得していたのか」
「さすがエメル、鋭いね。まぁ、マイナ学院長も渋々納得してくれたんだけどね」
「で、わざわざ顔を見せて来たという事は、俺たちも説得しようと言う訳か?」
「説得と言うより、俺の意見を聞いて欲しいと思ってね。それから、どうするかをその場にいる全員で決めて欲しいんだ」
「オービン……」
「ミカ。お前にも、もう一度考えて決めて欲しい」

 オービンの言葉にミカロスは、暫く反応がなかったが小さく「分かった」と返答した。
 そして、オービンが学院長室にいる全員に向けて話始めるのだった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ルークとオービンの対話から1週間が経過した。
 あれからと言うもの、ルークは毎日の様にオービンの元へと行っていた。
 寮内の雰囲気も元に戻り、少し騒がしい日常を取り戻していた。
 そしてルークの態度や性格にも少し変化が出始めていた。

「う~~んっ……おはよう、リーガ」
「おう、クリスおはよう。今日は遅いな、もうトウマは先に行ったぞ」
「うん。ちょっと昨日、夜更かししてさ」

 私は、まだ少し眠い目をこすりつつ着替えて食堂兼リビングに朝食を食べに来ていた。
 そこにはクラスの大半の皆が朝食を食べつつ、談笑をしていた。
 私も朝食を受け取り、近くの席で食べ始めるとそこにルークが食堂兼リビングにやって来た。

「おはよう、リーガ」
「おう、おはようルーク……んっ!? ルーク!?」

 リーガは大きな声を上げて、通り過ぎるルークの方を振り返る。
 ルークはそのまま通り過ぎて行き、近くにいる生徒に挨拶をして朝食の受取場へと向かう。
 周囲はルークに挨拶された事で動揺をしており、ざわつきだす。

「おい、今のは幻聴か? ルークが俺に挨拶してきたぞ?」
「それは俺も言われた。まさか、夢では?」

 リーガの近くにいたライラックが、引っ張る様に言い頬を引っ張ると痛さを感じるリーガ。
 そして、ライラックの頬も引っ張るリーガ。

「いや、夢じゃねぇぞ! 現実だ! あのルークが俺たちに挨拶して来たぞー!」
「マジかよ! おいおい、どう言う風の吹き回しだよ」

 リーガやライラックだけでなく、周囲にいた生徒たちは一気に騒ぎ始める。
 その事に私の目も完全に覚めると、ルークが目の前に座って来た。

「何だ、急に目が覚めたか?」
「ルークが挨拶しただけで騒いでる皆のおかげさまで、バッチリですよ。それより、何で俺の前に座ったんだよ」
「いいだろ別に」

 その後、朝食を食べ終え教室へと向かう。
 そして教室でもルークがアルジュやシンリたちに挨拶すると、リーガやライラックたちと同じ様な反応をした。
 その中でも一番騒いでいたのは、トウマであった。

「何で皆、ルークが挨拶しただけでそんな騒ぐんだ?」
「あいつが皆に挨拶をするのが、初等部の第1学年以来だからだよ」
「ガイル」

 ガイルは、教室の後ろの扉から入って来て、私の近くを通りざまに話し掛けて来ていた。
 ルークは今まで、皆と少し距離を置いていた感じの為、挨拶などしないと言うのが皆の認識であった。
 そんな所にルークが挨拶をし出し、しかも軽く会話にも参加してくれるなどと変わり始めていたので皆が驚いているとガイルは教えてくれた。
 確かに、ルークの今まで態度とか考えるとそうなるのは当然か。
 私も話を聞いて、そう言う反応になるのは普通だなと改めて感じ、ルークなりに今まで距離を取ってしまっていた皆との距離を詰めようとしているのだと思った。
 そのまま授業も始まり、今日の午後の魔法授業は外で実施すると伝えられていたのでグラウンドに移動すると、そこで他の寮の第2学年生徒たちと出会う。

「な、何でお前らまでいるんだ!?」
「それは私たちのセリフですわ」
「俺たちも今日は外での魔法授業と聞いてるんだ。邪魔しないでもらいたいな!」
「俺としては、うちの寮が安全に平和的に出来ればいいよ」

 トウマが、ダンデ・スバン・ロムロスといつもの様に突っかかり始めると、そこに各クラスの教員たちが現れる。

「全クラス揃ってるな。今日は、これからリレー競争を行う!」
「「リレー競争!?」」
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