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第94話 大運動会⑭~綺麗好きなんだよ!~

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「あれ、体が自由に動く様になった!」

 私は、エメルに操られていた状態から解放されたと気付き、咄嗟にエメルとの距離をとるため後退した。
 全く何をされたか分からないけど、思い当たるのは最初の頃にエメルが、何かを指で弾いていた行動だ。
 たぶんあれが、さっきの操られる条件に含まれているはず。
 それに、確証はないが動いてない時と、魔法を放つまでの瞬間までは自由に動いていたが、魔法を放とうとした瞬間に体が動かなくなったという事は、それも条件かもしれない。

 私は独自に先程の状況を振り返って、エメルの力について分析をしていたが、全く見当がつかずにいた。
 もー、何でこんな力を持ってるって言ってくれなかったのさ、スバン! って、嘆いていても仕方ないよね。
 今は、どうエメル寮長に攻撃を仕掛けるかだ。
 私がそうやってエメルから目を離さずに考えていると、エメルがこちらに向かって歩き始めて来た。
 エメルは両手を私にかざしながら歩き始めたので、私はまた何か仕掛けていると思いエメルの直線上から外れるように移動し続けた。

 次は何をしているの? 正体がはっきりしてないまま接近して攻める訳にも行かないし、魔法を使う訳にも行かない……あれ? 今私、何も出来ないじゃん!
 そのまま私は、ひとまずエメルの標的にならない様に移動しつつ考え続けるが、さすがに息も切れて来るので足も止まりだす。

「走り回って気は晴れたかい?」
「あーもう! 分からない事考えてても仕方ない! 分からないなら、自分から行くまでだ!」

 私は踏ん切れて、一直線にエメルへ突っ走った。
 エメルは私の行動に目を見開いていたが、直ぐに私へと手をかざして来る。
 が、私はそこからずれる様にかわししてエメルとの距離を詰めた。
 そして私は遂に、手が届く距離までたどり着くと、エメルの視線から突然消える様に私は姿勢を低くして、足元を払う様に蹴りを振り抜いた。
 だがエメルは、その攻撃を分かっていたのか涼しい顔でジャンプをしてかわした。

「そっちから来てくれるとは、手間が省けたよ」
「『バースト』!」

 私は宙なら逃げられないと思い、咄嗟に魔法を唱えてしまう。
 やっば……反射的に魔法使っちゃった……
 しかし、直後に体の自由が奪われることがなく、普通に体を動かし続けられたので驚いた。
 魔法を使うのは、体を操る条件じゃないのか? それ以前に、何か必要な条件があるのか。

「だったら、攻めあるのみ!」

 私は連続で『アイス』『スパーク』の魔法を唱えエメルへと連続攻撃を仕掛けると、爆発の煙の中からエメルが飛び出して来た。

「うっわぁ……最悪だ。汚れた……」

 飛び出て来たエメルの姿は、私から見たら全く怪我も傷もない無傷な姿であったので、何を言っているのか分からなかった。
 てか、どうしてあの至近距離の攻撃を無傷で凌げるんだ……私にはそれが不思議なんだが。
 するとエメルが私の方を睨む様に向くと、その顔は物凄く不機嫌な顔をしていた。

「僕は綺麗好きなんだよ! この白い手袋が、少しでも汚れるのも嫌なんだよ! もー白の中に出来た汚れを、早く綺麗にしたい!」
「えーっと……え?」
「あーもういい! 早く試合を終わらせる!」

 するとエメルが一瞬で私の懐に飛び込んで来ると、右手の五本指全てを私の額にピタリと付けて来た。
 あまりにも一瞬の事過ぎで、私は何が起こったのか分からずにいると、エメルが小さく呟いた言葉が聞こえた。

「高濃縮魔力注入」

 直後、私は体から力が抜ける様な感覚に陥ると、そのまま真後ろへと倒れてしまう。
 そこからは指の一本すら動かす事が出来ず、更には声すら出せない事に気付き焦るも、何も出来ない無力な今の自分に不甲斐なさを感じた。
 するとエメルがしゃがみ、私の額に人差し指を突き当てて来た。

「痛さなどない。ただ、許容範囲を超えた際に起こる、正常な体の反応だ」

 その言葉を最後に、私の記憶はぷつりと途切れてしまう。
 エメルは、私が許容範囲外の魔力量で完全に意識を失った事を確認すると、近くの教員に私が意識を失い戦闘不能だと伝えた。
 その後はタツミ先生がエメルの言った通りであるかを確認し、私が戦闘不能であると認められると、第4戦目が終了し空中にエメルの名前が表示された。


 大運動会第10競技『代表戦』
 第4戦目 勝者 第3学年 エメル


 エメルはそのまま立ち去ろうとすると、タツミ先生に呼び止められる。

「相手に使う量は、もう少し減らせ。処置もそう楽じゃないんだ」
「それはお手数おかけします、タツミ先生。でも僕は、相手の魔力の器を分かった上でやっているのでご心配なく。まぁ、今回は少し入れ過ぎたかもしれないので、今後の反省点として受け取っておきます」

 そう言ってエメルは、中央の競技スペースから降りて行った。
 それから数分後、私は突然目が覚めて起き上がると、ちょうど診察してくれていたタツミ先生の頭に頭突きをしてしまう。

「いったぁぁ……」
「それは、こっちのセリフだ。いって……急に起き上がるな」

 私は中央の競技スペースから降ろされており、その下で診察されていたと知り、同時に第4戦目の結果もタツミ先生から教えてもらった。

「そうですか……それで、最終戦はもう始まってるんですか?」
「いや、これからだ。それと、お前はもう問題なさそうだから、戻って観て来い。その言い草だと、観たいんだろ。俺も忙しんだ、もう手間を取らせるな」
「すいません。診て頂いて、ありがとうございます!」

 そうしっかりとお礼を言ってから、私は起き上がりロムロスたちがいる方へと急いで向かった。
 そして『代表戦』第5戦目の対戦相手が空中に表示されるのだった。


 大運動会第10競技『代表戦』
  第5戦目  第2学年 ルーク VS 第3学年 オービン


 私が、ロムロスたちの元へと戻った時には、既にルークは中央の競技スペースを登り始めていた。

「クリス。もう大丈夫なのか?」
「あぁ。タツミ先生も問題ないってさ」

 その答えに、ロムロスは安心した表情を見せていると、一旦治療と受けに行ったスバンがダンデと一緒に戻って来た。
 ダンデはまだ全快ではないが、最終戦だけは観ると言って強引に抜けて来たらしい。
 そこにちょうどスバンがやって来たので、強制的に付き添いとして戻って来たのだった。

「それで、今の対戦状況はどうなってるんだ?」
「今は、1勝2敗1引き分けだ。だから、この試合で『代表戦』の勝負が決まる」
「それで、私がいない間ルークはどんな感じだったの、ロムロス」

 スバンの問いかけに私もどうだったか気になり、ロムロスの方を見ると何か言いずらそうな表情をしていたが、黙ることなく話してくれた。
 ロムロスが言うには、こちらの声など聞こえていない位、対戦相手に集中していて何か今までの恨みを晴らすような感じがしていたと語った。

「おい、それって大丈夫なのか? 確かに、相手が兄貴で仲が悪いって言われてるけど、そんなにルークの奴はオービン先輩が憎いのか?」
「……それは分からない。と言うか、一番俺たちが分からない事だ。今まで、こうやってまともに話して来てないんだからな」

 そのロムロスの答えに、皆は黙ってしまう。
 私は、オービン先輩の胸の内を知っていたがこの場でそれを話す事ではないし、誰かに言うべきものでもないと思っていたので私も黙っていた。
 そんな中、中央の競技スペース上にルークとオービンが揃ったのか、大きな歓声が響き渡った。


 その時の私は、まさかあんな事が起こるとは夢にも思っていなかった。
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