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第64話 落ちぬなら落ちるまで攻め続けろモラン

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「いやいやいやいや! それはおかしいでしょうが! どう考えても、あれはデートでしょ!」
「そうそう。あれがデートじゃないなら、何で貴方は今日モランちゃんと2人きりで外出してるの?」
「え、え? だから、買い物に付き合ってって言われて、いいよって返したから」

 その私の答えに、シルマとミュルテは大きなため息をついた。

「あんた、もしかして自覚なしか? それはダメだ、と言うよりないな」
「うん。これはシルマちゃんと同意見。貴方、さすがにあり得ないよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。急に何で、そんな事言われないといけなんだよ」
「あんたな、少しは女の子の気持ちを考えろや! モランはあんたを母親のプレゼント選びに誘ったの、それはつまりデートでしょうが!」
「そうそう。と言うか、普通男女が2人きりで出かける自体が、デートだよ。もしかして、その事すら分かってないで、2人きりで出かけてたりしないよね?」
「え、え~と……それは……その……」

 やばい、そうか今まで2人きりであう機会の方が多かったから気にしてなかったけど、傍から見たら普通はそう見えるのか!
 と言うか、てっきり普通に買い物に誘ってもらったらか、軽い気持ちで来てしまっていたが、これはデートになるのか。
 ちょっと分かってなかったな……頭に入れておこう。
 と言うか、デートって言われなきゃ分からなくない? あれ、もしかして、これって私だけなか? あー恋愛方面とかの経験がないし分からないよ! 助けてマリア!

「おい、聞いてるのかあんた」
「あ、はい。聞いてます」
「えっ、何でここに2人共いるの?」

 そう私の後ろからモランの声が聞こえ、私たちが視線を向けるとシルマとミュルテは、慌てた顔をしてモランの名前を口にした。

「シルマ、ミュルテ、それにクリス君も、ちょっとお話しようか」
「あははは……はい」

 モランの言葉は少し怒っている口調だったので、私たちはこの後怒られるんだなと薄々感じつつ、モランの後を付いて行った。
 案の定、場所を変えた後シルマとミュルテはモランに問い詰められ、その場に私も居たので何故か共犯とされてしまい私も怒られました。
 その後シルマが、私は無関係である事を説明してくれ何とか誤解は解け、モランも勘違いして怒ってしまった事を謝られた。

「もー何なのよ、2人のせいで今日がごちゃごちゃだよー!」

 モランは丸テーブルの上で両腕に顔をうずめて足を軽くバタバタさせていた。

「ご、ごめんてモラン。こんなんなると思わなくて……おら、お前からも何か言えよミュルテ」
「ごめんねモランちゃん。元はと言えば、シルマちゃんが言い出したのが原因だけど、彼もそんな気にしてなさそうだし大丈夫じゃないかな」
「お前、またいらない事を言ったな。まぁ、あいつの認識もあれだったしな~」

 その時私は、一息入れる為に全員分の飲み物を買いに行っていたので、その場にはいなかった。
 するとモランはシルマの言葉の意味を聞き、2人から今日はデートのつもりだったけど、私はそのつもりじゃない事を聞き呆然としてしまう。

「嘘~何で~。かなり勇気を出して誘ったんだけどな……」
「そう落ち込むな。それについては私たちも同感だ。だから、その事については、私たちの方からしっかり言っておいたから問題ない」
「そもそも、モランちゃんはさ、彼のどこが良かったの? 今日見た感じ、物凄くカッコいい訳じゃないし、何か鈍感そうだし、私的にはあまりピンと来なかったんだよね~」
「えっ、その~彼が私に凄く優しくしてくれたり、応援してくれる感じがいいなって思って」
「ふ~ん。モランちゃんって、意外とちょろいんだね」
「へぇっ!?」
「おい、ミュルテ! 何てこと言うんだ!」
「あ~ごめんごめん。馬鹿にしてるわけじゃなくて、私が率直に思っちゃった感想と言うか、あんまり気にしないで。でも、あんなに分かりやすいモランちゃんからのアタックにも気付かない彼も彼だし、何て言うか、彼が男っぽくみえないんだよね~」
「ど、どういう事ミュルテ?」

 シルマからの問いかけにミュルテは、自分でもよく分からないんだけど直感? と肩をすくめて答える。
 その後少し沈黙があったが、シルマがともかくと机を叩きモランを見て落ち込んでる暇はない! と落ち込んだ表情のモランを励ます。

「いいか、好きになった方が負けなんだよ恋ってのは。だから、アタックしてアタックして、落とせるまでやるんだ! 分かったかモラン!」
「うん、分かったよシルマ。私クリス君を落とせるまで頑張るよ! こんなことで落ち込んでいられないね!」

 とシルマとモランで勝手に盛り上がっている所を、ミュルテがシルマは恋した事ないじゃんと口をはさみ、どうせ本の受け売りでしょと追い打ちをかける。
 シルマは動揺しながら、そんな事はないと言うが本当かな~と追求し、軽い言い合いになった所で、私は買ってきた飲み物を持って帰って来た。
 全くどういう状況か分からずにいたが、ミュルテに気にしないでいつもの事だからと言われたので、特に追求する事なく椅子に座り飲み物を配った。
 その後は、改めて自己紹介などをした後、軽く雑談をしたが意外と盛り上がってしまい既に日が沈み始め、夕方の鐘の音が鳴り響いていた。

「えっ! もうそんな時間、意外と話が盛り上がっちゃったな」
「そうだな、男子側の話を色々聞いてたら面白くて、つい聞いちまった」
「でも、良かったのモランちゃん。何となくでずっと一緒に居ちゃったけど」
「うん、いいの。2人の事も紹介出来たし、クリス君の事とか色々改めて知れたから」

 ミュルテは、モランがクリスを見つめる顔を見てそう、と小さく呟いた。
 そして私はそろそろ帰ろうかと言い出し、みんなで立ち上がり学院への帰路についた。
 その途中でモランが私に近付いて来て、小声で話し掛けて来た。

「また私と出かけてくれる? 次は、ただの買い物の付き添いじゃなくて」
「え、えっと……予定が合えば……ね」
「うふっ、約束だからね!」

 弾けるような笑顔を私に向けて、モランは離れて前を歩くシルマとミュルテに後ろから、抱きつきに行った。
 今のって間違いなくデートのお誘いだよな……何となく返答してしまったが、良かったのだろうか……。
 まさか女の子から好意を向けられるとは、初めてすぎてどう対応したらいいか分からないぞ。
 かと言って、このままモランの好意を無視するわけにもいかないし、今度アルジュとかに聞いてみるか、何かしらアイディアも浮かびそうだし。
 想定外の悩みが出来てしまったが、男からしたら嬉しい悩みなんだろうな。
 私は新しい悩みに頭を抱えつつ、モランたちの後を付いて行った。
 そんな私の後ろ姿を見つめる男の影があった。

「やっと見つけたぞ、アリス……」

 その男はそう呟くと、私とは反対方向に立ち去って行ったのだった。
 私は一瞬、虫酸が走る様な視線を感じ振り返るも、そんな視線を向けている人物は見つからず勘違いだと思い、再び歩き出した。
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