上 下
42 / 564

第42話 合同合宿カリキュラム初日

しおりを挟む
「諸君、おはよう。既に話は聞いているかと思うが、ここで改めて簡単に今回の合同合宿の目的を伝えておく」

 そう言って私たちの前で、この島を管理している主任が話し始めた。
 王都メルト魔法学院とクレイス魔法学院で行う今回の合同合宿の目的は、互いに基礎能力及び、学力を高め合うためであった。
 合同合宿期間は10日間あり、全てのカリキュラムは男女別々ではあるが、学院混合チームとして取り組む事になった。
 また、基本的には男女別々で行うが、男女関係なく会話などを通じで、互いの仲は積極的に深めて欲しいと言われた。

 その後、ランダムで組み合わされたチームが発表された。
 ちなみにチームメンバー数は、どのチームも6名であった。
 私のチームメンバーは、シン・ガードル・ガイルとクレイス魔法学院の男子生徒2名であった。
 2人の名前は、ベンとマイクと言い、各自自己紹介を始めた。
 すると、ガイルが思い出したかの様に口を開いた。

「そう言えばクリスって、クレイス魔法学院からの転校生だったよな? その2人共知り合いなのか?」
「えっ」

 まさかガイルが、その質問をしてくるとは思っておらず、一番驚いてしまった。
 チームメンバー的に、その質問は出てこないだろうと思っていた所だったので、不意打ちをくらった感じであった。
 するとベントとマイクが、私の顔をじっと見て来た。

「そうなのか? それは、初知りだな。うちは男子生徒が少ないから、だいたいは知り合いみたいなんだが、見た事ないなあんたは」
「確かにそうだな。見た事なし、聞いた事ない名前だな」
「はぁ~ん、だってよクリス。まさかお前、嘘ついてたりするんじゃねぇよな」

 ガイルはそれを聞くと、グイグイと迫って来るように言い始めるが、それは事前に打ち合わせ済みの回答を返した。
 すると、ベンもマイクもあ~なるほど、と納得した表情をしていた。
 何故かその答えに、ガイルが舌打ちをして私から離れて行った。
 どうしてお前がそこで舌打ちするんだよ。
 意味が分からんぞ、ヴァンではないんだしさ……。
 私はそんな事を考えていると、ガードルが話し掛けて来た。

「あんまりあいつを嫌わないでくれ、クリス。あいつ人付き合いが下手でさ、変な態度とか悪態つく様な接し方しかできないんだよ」
「そうなんだ。でも、よくそれでナンパとかしてるよね」
「あ~よく言われるんだが、男子と女子とで態度が変わるんだよ、あいつ。まぁ、それも先輩の影響なんだけどさ……でも、悪い奴じゃないから。そこは、覚えといて欲しんだ」
「まぁ、俺もそんなにガイルと付き合いがあるわけじゃないが、ナンパばかりしたり教員に怒られたりと、悪目立ちするだろあいつ。いかにガードルが同室だからと言って、別にそこまであいつを庇う必要はないんじゃないか?」

 私はガードルにそう言った後、少し嫌な言い方をしたなと後悔した。
 だが、ガードルは初等部の頃からの付き合いらしく、友人だからと笑顔で答えた。

 ガードルは、クラスでは用意周到な男と言われている。
 その由縁はいつも持ち歩いている、斜めかけのバックであり、そこにはどんな時にも役立つ道具が入っていたり、予備としての道具を常に持ち歩いているためだ。
 魔力より、学力の方が成績はよくて、記憶力もいいと評判である生徒だ。
 また、彼は将来は医者を目指しているらしく、医学の知識が豊富であり医者の卵とも呼ばれている。

 私はガードルに直ぐに、少し言い方が良くなかったと謝罪をした。
 ガードルは全く気にはしておらず、そういう風に彼が見られているのは知ってるよと言いながら、苦笑いをした。
 それから数分後、暫くチーム内で話して少し打ち解けて来た所で、男女別々に違う場所に移動すると初日のカリキュラムが発表になった。

「それではこれより、初日のカリキュラムを発表する。男子の初日は、チーム探索だ」

 そう発表されると、各チームに地図が配られた。
 そこには、それぞれの場所に5つの宝石の様なマークが印されていた。
 混合男子チームは全5チームあり、それぞれのチームカラーが設定され、今回は同色の印がある場所に行き、指定の物を回収してくる内容であった。
 事前に教員によって対象物は配置されているが、簡単に見つからない様にされているので、協力していち早く持ち帰って来る様にと言い渡されれる。
 いち早く帰って来たチームには、ご褒美も用意してあると言われ、各チームが盛り上がる。

「それでは、これより初日のカリキュラムを開始する。スタート!」

 教員の合図と共に、各チームは四方に散らばって行った。
 私たちのチームカラーは赤であり、貰った地図に印された場所は、島の中心近くにある洞窟付近であった。
 貰った地図には、行き方などは載っていない為、ひとまず道なりで進み始めると、途中でガイルが立ち止まった。
 それに気付いたガードルが、声を掛けるも全く反応しなかったので、ガードルも足を止めもう一度呼びかけると返答が帰って来た。

「おいお前ら! どこまで行くんだ! 島の中心に行くなら、ここを突っ切って方が速い!」

 チーム全員がどういう事だ、と首を傾げているとガイルはうまく説明出来ないのか、髪をかきむしりいいから付いて来い! と大声を上げて道を外れて、森の方へと歩いて行ってしまう。
 勝手に行ってしまうガイルを見捨てておけず、止めることも出来なかったので、チーム全員でとりあえず追いかけた。
 そして何とか追いつき、ひとまず説明をして欲しいと、ガードルが肩を掴んで頼むと、ガイルは立ち止まった。

「ガイル、急に勝手な行動されると困るよ。今回は、他の学院の人もいるし、迷惑かけちゃだめだろ。とりあえず、説明してくれないか?」
「うぅっ……」

 ガイルの顔は、いかにも嫌そうな顔をしており、私はそれを横目にベンとマイクをチラッと見ると、明らかに不機嫌な顔をしていた。
 それはそうだよな、仲良くやろうとしているのに、相手は全く心を開かないし、勝手な行動すると来たらそうなるのは必然的だ。
 これ以上関係が悪くなるのは、この後の合同合宿にも支障がでると思い、私からもガードル同様に説明を求めた。
 するとガイルは、小さく分かったと呟いた。
 それを聞き、私とガードルは安堵の息をついた。

「それで、どうしてこんな行動を取ったんだ?」
「それはだな……その、事前に調べたんだよ、この島についてのあらゆることを。ここにある物から植物、食べ物、生物、地形まで全てな」
「えっ、マジ?」
「嘘じゃねぇぞ! 俺は本気で調べて、ここに叩き込んで来てるんだ! だから、何がどこにあって、どう行けば辿り着けるか知ってるんだよ」

 ガイルは、自分の頭に指を当てながら答えた。
 でも、どこでそんな知識をと言うより、どうしててそんな知識を叩き込んだのか不思議でしょうがなかったが、それはガードルも同じだったらしく、直ぐに質問するとガイルは、物凄く恥ずかしそうに答えた。

「な、ナンパの為だよ! 悪いか! 師匠には、どこか行く時には、その場所の事はありとあらゆる事を事前に調べ、完璧にして臨めって教えてもらってるんだよ! だから俺も、今回ここに行くって聞いてから、ありとあらゆる本を漁って覚えたんだ」
「ぷっ」

 すると、後ろの方でベンやマイクが小さく笑いを噴き出していた。

「それが本当なら凄いけど……もしかして、昨日の散策時に確認してたりした?」
「当たり前だろ! でなきゃ、こんな堂々と言えるか馬鹿!」
「ば、馬鹿とはなんだよ! 別にそこまで言う事ないだろ」
「うっさい! 俺を疑うお前が悪いんだよ、クリス!」

 私とガイルが口喧嘩を始めると、すかさずガードルが止めに入って来た。
 ひとまず喧嘩も治まり、ガードルがベンやマイクにも説明し納得してもらい、ガイルを先頭に再び歩き出した。
 それ以降はガイルは、男と話す事なんてないねと突っぱねた態度で、ほとんど話す事無く進んでいた。
 私もその態度にムカつき、謝らない限り口は聞いてやんないと言う態度で歩いていると、後ろで何故か俯いて歩くシンが目に入った。

 それが気になって声を掛けようとしたが、その後ろからベンとマイクから話し掛けられていたので、間に入ってシンが頷きしか出来ない事を伝えようとすると、何故か会話が成立している感じに見えたのでやめた。
 そう言えば以前ルークが、シンはクレイス魔法学院からの生徒交換で来ていることを思い出し、もしかしたら、その時に会っていた友人なのかもと勝手に思い込んで、先頭を向きガイルとガードルに付いて行った。
 それから山道を登ること30分、遂に目的の洞窟付近だとガイルが言ったので、全員で洞窟を探しているとガードルが見つけたのでそっちに集合した。

「ここが、洞窟か……かなり大きいし、奥は暗くて全く見えないな」
「とりあえず、この周辺に対象の物があると思うし、皆で手分けして探してみないか?」

 ガードルの提案に全員が賛同し、2人ずつに分かれて探索した。
 数十分後、再び洞窟前に集まって情報交換するも、誰もそれを見つけることが出来ずにいた。

「そもそも、指定の物ってなんだ?」
「確かに、正確にこれと言われなかったな。勝手に地図に書かれている、宝石が隠されていると思ってたけど」
「それは俺も思った。でも、魔力を使って探したり、魔法も使ったがこの辺りに全く反応はなかったな」

 ベンやマイクは、既に能力を使って探していたらしく、私たちはつまずいていた。
 するとガイルが、ここにないなら洞窟の中だろと言い出した。
 それは確かに私も一理あると思ったが、さすがに、こんな危険そうな洞窟中まで入って探させるかと、少し疑問に思っていた。
 だが、ベンやマイクはそうかもしれないなと、ガイルの意見に賛同していた。

 シンは難しい顔をしていたので、洞窟に入るのは反対そうに見えたが、ガードルは暫く考えた後、一応調べてみる価値はあると口にした。
 その時点で、洞窟調査に賛同者が半数を超えていたが、私はもう少しこの周囲を探索すべきだと発言した。
 洞窟の危険性やヒントを見逃している可能性を提示したが、ガイルは無視して洞窟へと入って行ってしまう。

「おい、ガイル! また勝手な行動をして。と、とりあえず俺はガイルを追うよ。他の皆はここで待ってて」

 そう言い残し、ガードルはガイルを追って、洞窟に入っていた。
 するとベンやマイクは、私たちの方を向いて、ここでチームがバラバラになるのは良くない気がすると、行くなら全員で同行すべきと提案して来た。
 私も確かにチームがバラバラになり、何か事故が起こると面倒だと考えた為、渋々その提案に乗った。
 シンも少し怯えるように頷いていた。

「それじゃ、急いで後を追いかけよう」
「あぁ、そうだな」

 ベンとマイクを先頭に私とシンは、走ってガイルとガードルの後を追って行った。
 この時私は、自分が周囲に注意して、何かあれば臨機応変に対応すれば大丈夫だろうと、軽く思っていた。
 だが、その判断が自分の命を脅かす事になるとは、この時は思いもしなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

暁にもう一度

伊簑木サイ
ファンタジー
成り上がり貧乏辺境領主の後継者ソランは、金策のため、「第二王子を王太子になるよう説得できた者に望みの褒美をとらす」という王の頼みごとを引き受けた。 ところが、王子は女嫌いということで、女とばれないよう、性別を隠して仕えることになる。 ソランと、国のために死に場所を探している王子の、「死なせない」と「巻き込みたくない」から始まった主従愛は、いつしか絶対に失いたくない相手へと変わっていく。 けれど、絆を深めるほどに、古に世界に掛けられた呪いに、前世の二人が関わっていたと判明していき……。 『暁に、もう一度、あなたと』。数千年を越えて果たされる、愛と祈りの物語。

小金井は八王子に恋してる

まさみ
BL
秋葉の路上でザクを壊され悲嘆に暮れるニート青年・八王子 東。彼をオタク狩りから救ったのは見るからに軽薄でナンパな青年・小金井リュウ。 「へー八王子っていうんだ。ヘンな名前。これもらっとくね」 免許証をとりあげた上助けた恩に着せアパートに転がりこんできた小金井と、人の目をまともに見れない卑屈で対人恐怖症気味の八王子のぬるーい東京近郊同居ライフ。 同居/モラトリアム/日常/ライト/コメディ 表紙:いぬいぬのふわ様

私がヒロイン? いいえ、攻略されない攻略対象です

きゃる
恋愛
「今日からお前は紫記だ」 幼なじみの紅輝からその言葉を聞かされた時、私は突然気づいてしまった。 ここが『虹色奇想曲~にじいろカプリチオ~』という乙女ゲームの世界であることを――。それは、虹のどれか一色の名前を持つ七人のイケメン攻略者との恋を楽しむゲームで、ハッピーエンドとノーマルエンドしかない平和なストーリーが特徴だ。 けれど私が転生したのはヒロインではなく、悪役でもない。女の子なのに、なぜか攻略対象の一人である紫記(しき)。その名前で男装して、三兄弟のお目付け役として学園に通う羽目になってしまった。手のかかる幼なじみ達から解放されるためには、ヒロインの恋を応援するしかない! そう思って頑張っているけれど、なかなか思い通りにいかなくて…… *タイトル変更しました。 *実在の人物や団体には一切関わりありません……あったらすごい。

ウォルヴァンシアの王兄姫~淡き蕾は愛しき人の想いと共に花ひらく~

古都助(幸織)
恋愛
父親の故郷、異世界エリュセードに移住した幸希(ゆき)。 狼王族の国、ウォルヴァンシアで始まる新しい日常……。 心優しい真面目な騎士様や、捻くれているけれど不器用な優しさをもつ竜の皇子様、 ドSで意地悪な王宮医師様や王宮の個性的な面々に囲まれながら、幸希は様々な人々と巡り会っていく。 幸希の中に封じられた、異世界での記憶と魔力……、そして。 ――異世界・エリュセードを呑み込んでいく不穏を前に、 幸希は試練と戦いの世界へと巻き込まれていく事になる。 ※2018・11・25 第一章・プロローグ改稿。 ※『Side』の主人公表記があるものは、別キャラ視点から主人公視点に戻る時のみに記載します。 (また、基本的に話の最初に『Side』表記がない場合は、全て主人公視点となっております。  稀に『不穏なる者達の嘲笑』とつくタイトルの場合、三人称視点の場合もございますので、ご了承ください) ※個別ルートあり(アレクディース・カイン・ルイヴェル) ※小説家になろう&カクヨムでも、同じものを連載しています。 ※表紙サムネは、お友達の蒼鷲さんから頂いたイラストを使用させて頂いています。(感謝!)

獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック
恋愛
BL世界にやって来た神の愛し子は、世界初の女性だった。 獣人騎士団長アレクは、異界からやって来た愛し子のレンが自分の番だと分かり、レンを溺愛する。神の愛し子を利用しようと暗躍する神官達や、レンに群がる有象無象を蹴散らして、2人は無事に結ばれる事が出来るのか。 R18 性的・暴力的な描写のある回には*

【完結】私は薬売り(男)として生きていくことにしました

雫まりも
恋愛
第三王子ウィリアムの婚約者候補の1人、エリザベートは“クソデブ”という彼の心無い言葉で振られ、自決を決意する。しかし、屋敷を飛び出し入った森で魔獣に襲われたところを助けられて生き延びてしまう。……それから10年後、彼女は訳あって薬売り(男)として旅をしていた。そんな旅のさなか、仲間に言い寄ってくる男とその付き添い、そして怪しげな魔術師の男も現れて……。 ーーーそれぞれが抱える悲劇の原因が元を辿れば同じだということにまだ気づく者はいない。 ※完結まで執筆済み。97+2話で完結予定です。

【完結】ツインクロス

龍野ゆうき
青春
冬樹と夏樹はそっくりな双子の兄妹。入れ替わって遊ぶのも日常茶飯事。だが、ある日…入れ替わったまま両親と兄が事故に遭い行方不明に。夏樹は兄に代わり男として生きていくことになってしまう。家族を失い傷付き、己を責める日々の中、心を閉ざしていた『少年』の周囲が高校入学を機に動き出す。幼馴染みとの再会に友情と恋愛の狭間で揺れ動く心。そして陰ではある陰謀が渦を巻いていて?友情、恋愛、サスペンスありのお話。

転生皇女は冷酷皇帝陛下に溺愛されるが夢は冒険者です!

akechi
ファンタジー
アウラード大帝国の第四皇女として生まれたアレクシア。だが、母親である側妃からは愛されず、父親である皇帝ルシアードには会った事もなかった…が、アレクシアは蔑ろにされているのを良いことに自由を満喫していた。 そう、アレクシアは前世の記憶を持って生まれたのだ。前世は大賢者として伝説になっているアリアナという女性だ。アレクシアは昔の知恵を使い、様々な事件を解決していく内に昔の仲間と再会したりと皆に愛されていくお話。 ※コメディ寄りです。

処理中です...