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第39話 悪魔との契約

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 レオンの思わぬ追求から逃げ出した、次の日。
 私はベッドにうずくまっていた。
 トウマからは、昨日帰って来てからほとんど言葉を交わさずに、私は就寝しており朝もほとんど会話をしていないので、心配していた。

 そのトウマはと言うと、地獄の夏合宿があと3日に迫っていたので、準備などを含め今日も外出していた。
 私もその準備をしなければいけないのだが、どうしても昨日のレオンの事を思い出してしまい、何もする気になれなかった。

 どうして私は逃げてしまったんだ。
 どうして何か言い返せなかったんだ。

 と、ただただ後悔するだけで、時間が過ぎて行った。
 そして時刻は、正午を迎え学院の鐘の音が響いた。
 さすがに私もこのままでは何も変わらないし、後悔しても時間だけ過ぎるだけと割り切り、起き上がった。
 両手で力いっぱい頬を叩いて、気持ちを切り替えるのと、この後どうするかを考えるために一旦シャワーを浴びる事にした。
 よく考えれば、昨日はシャワーも浴びずに寝てしまったので、汗で髪も少しべたついていたり、体も汗臭いのではと気持ち悪い感じがしていた。

 私はシャワー室で、シャワーに打たれながら両手を壁について、昨日の出来事を思い出していた。
 レオンは、どうして私が男装していると気付いたのか、いや、そもそも初めて会った時から気付いていたと言っていた。
 それなのにレオンは、誰にも何も言わずにいてくれたのは、何故なんだ? 私にそうする事情があると、勝手に思い込んでいたから?
 いやいや、だとしてもそれは異様な光景じゃないか? 男子生徒として女子が男装しているんだぞ。
 普通ならその場で気付いたら、驚いたり聞いたりしたり、教員に言ったりするんじゃないのか?
 そこまでに色々と考えたが、レオンの考えや行動の意味が全く分からず、私は両手で髪をぐちゃぐちゃにした。

「ダメだ。何であんなことをして来たんだ、レオンは……だけど、これまでの事を考えると、レオンはたぶん私が男装している事を誰にも話していないはず」

 確信ではないが、私は何故かそうではないかと思えた。
 このまま一人で考えていても、分からない事だらけで、仮に直接レオンに会いに行って全部話すのは違うし、ルークみたいに黙っててもらうのをお願いするか?
 いや、レオンの上にはジュリルがいる。
 ジュリルにレオンが報告しないとも言い切れない。
 レオンとジュリルの関係性は、以前2人からそれぞれ聞いた事がある。

 元々レオンは、平民生まれで別の街で一人で暮らしていたそうなのだが、そこにたまたま学院長とジュリルの両親が、仕事の関係で訪れた時に出会ったそうだ。
 その出会い方も強烈で、学院長とジュリルの両親に恨みを持つ者が不意を突いて襲い掛かり、命が危ないところにレオンが店の手伝いでたまたま居合わせたそうだ。
 そこでレオンは、魔法を使い学院長とジュリルの両親を守り、更には犯人を捕縛までしたそうだ。
 それを目の前で見た学院長が、レオンをスカウトしたらしい、だが親がいないと聞き、ジュリルの両親が身元保証人として名乗り出てくれ、ジュリルの家の使用人という立場で学院に入学して来たらしい。
 なので、レオンとジュリルは学院では同い年の生徒であると同時に、上下関係がある立場なのでジュリルの命にレオンは逆らえないのである。

 初めて聞いた時は驚いてしまったが、ジュリルはレオンの面倒を見る教育係的な立場をしているらしく、こき使っているわけではないと言っており、レオンも普通に生徒として生活していると言っていた。
 と、まぁそんな事があるので、変にレオンに私の事を話して、ジュリルに伝わらないとも限らないというわけだ。
 だけど、男装の事はジュリルには伝えてない感じだし、そこもどうしてなのか分からないのよね。
 もしかしたら、確証があるまで報告しない的な性格かもしれないから、これ以上の墓穴は掘りたくないしな。

「さて、どうしたもんか……」

 私はシャワーを浴び終え、着替えてとりあえず昼食を取ろうと決め、食堂に向かった。
 食堂に向かい昼食を食べていると、テンション高めなリーガとライラックが絡んで来た。

「おい、クリス。お前、姉ちゃんいるんだってな!」
「しかも、かなり美人の金髪眼鏡お姉ちゃんが!」
「ぶっ!」

 まさかの問いかけに、私は噴き出してしまう。
 直ぐにふきんで机を吹き、どうしてその事を知っているのか問いただすと、トウマから聞いたと言う。
 あの野郎、口が軽いなと思ったが、自分で演じると決めたものなので突き通すかとため息をついた。

「そうだけど。もう、姉ちゃんはこの街にはいないぞ。たまたま近くにいたから呼び出しただけで、世界中を旅してるから、次はいつ会えるか分からないんだ」
「おい、まじかよー! トウマから、超美人で聞いてから紹介して欲しかったんだけどなぁ~」
「それは残念だ。ちなみに、お姉ちゃんの名前はなんていうんだ? 旅しているって事は、旅人してるのか?」
「お前らにそれを言う必要があるのか?」
「「ある!」」

 2人が物凄く目をキラキラさせた状態で、前のめりに聞いて来るので圧倒されつつ、このまま質問攻めされても面倒だなと思いざっくりと答えた。

「そうか~マリアさんって言うのか~俺も、将来は旅人なれば、マリアさんに会えるかもな~」
「クリス、もしまたマリアさんが近くに来たときは、俺たちに一声掛けてくれよ。絶対だぞ!」
「あ、あぁ。考えとくよ」

 すると2人はガッツポーズして、食堂から去って行った。
 何をしに来たんだあの2人は? まぁ、満足してくれたならいいか、多分二度と会えないだろうけども。
 私は昼食を食べ終え、また自室に戻りどうするか考えようとしてた時、ふと相談できる相手でもいればいいなと思った時に、マリアの顔が出て来た。
 だけど、ここにマリアはいない。

 私の正体を知っていて、素の状態で話せて、少しでも頼りになりそうな人がいればなーと考えた時、当てはまる人物が1人だけ思い浮かんだが、さすがにそれはないと頭を横に振った。
 だが、それ以外に思い当たる人もおらず、また1人で答えの出ない事を考えてもと仕方ないと思い、その場で熟考した結果、苦渋の選択ではあるがその人物の元に行くことに決めた。
 もう一度言うが、決して前向きな選択ではなく、苦渋の選択であることだと声を大にして伝えたい。

「はぁ~~行くか……気が重い」

 そして、私が足取り重く向かった先は、同じ寮の209号室前であった。
 209号室の扉をノックすると、出て来たのはシンであった。
 シンは私が訪ねて来たことに、首を傾げていたので、私はもう1人のルームメイトに用があると伝えると、理解したのか頷いて呼んできてくれた。
 暫くしてやって来たのは、ルークである。

「珍しいな、昨日の今日でお前が、俺の部屋に訪ねてくるなんて。もしかして、またデートして欲しいとかか?」
「違う。そんな冗談を言わせるために来たんじゃない。ここじゃ、話ずらい。場所を変えて話したい」

 ルークは私をからかう顔をしていたが、私の真剣な顔で少し切羽詰まっている表情を見て、分かったと言ってくれた。
 そのまま私は、ルークの後に付いて行き、第3学年の部屋ばかりある廊下の隅の窓側で立ち止まった。

「ここならいいだろ。3年はいないし、寮の誰もここに来はしない。それで、そんな顔して何の用だ?」
「その……えっと……」

 私が何から話せばいいか戸惑っていると、ルークは私を急かしてきた。
 その急かしにムカつき、少しは整理させろと怒鳴ると、ルークは驚いた表情をした。
 直ぐに頭の中で、話していいものを整理してから、ルークに話し始めた。

「単刀直入だが、レオンに男装しているとバレた……」
「……はぁ? 何してんだ、お前」
「いや、私がへましたわけじゃない。レオンは私と初めて会った時には、見抜いてたんだよ!」
「それは何でもいいが、それをどうして俺に言う必要がある? 俺は別にお前が、誰に正体がバレようと構わないし、俺と同じように黙っていればとお願いでもすればいいだろ」
「そうなんだけど、そうじゃないって言うか、もう!」

 私はレオンの事を説明し、ジュリルとの関係も伝えて、今どういう状況にあって、何で悩んでいるかを順を追って説明した。
 だがルークは、お前が蒔いた種だろとストレートに正論を言われ、一瞬崩れそうになるが、私はルークに対してもうお前しか相談できる奴がいないんだと熱心に頼み込んだ。
 最初は断られたが、断っても頼み込む私に観念したのか、渋々分かったよと窓の外を見ながら言ってくれた。

「やった! ありがとう、ルーク!」
「ただし、これは貸しだ。いつか、何かで返してもらうからな。それが相談に乗る条件だ」
「……っう、ケチ」
「別にいいんだぞ、俺は相談に乗らなくても。お前がどうしてもと言うから、仕方なく乗ってやるんだ。その代りの条件が飲めないなら、ここで話は終わりだ」
「えっ! ちょっと! それは、卑怯でしょ!」
「で、どうするんだ、クリス」
「ぐぅぅぅ……この性格歪んだ第二王子はっ! ……分かったよ! それでいいよ! でも、貸しは1つだけだからな! それ以上は何もないからな!」
「交渉成立」
「くっそ~、お前マジで性格悪いな。困ってる女子にそんな事するのは、お前くらいだ!」
「今のお前は、男だろが。昨日の癖が出てるぞ、マリア」
「黙れ! その名前をここで口にだすなー!」
「はいはい」

 そして、私はルークと言う名の悪魔と契約をしたのだった。
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