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第15話 メルトボーイ・クイーンコンテスト前哨戦①

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 トウマとライラックに言葉を聞き、寮の皆は声を上げつつも、頭を抱えていた。

「次は、何のイベントだよ。本当に、イベント事が多いんだなここは」
「おいおい、イベントに乗り気じゃねぇとかつまんねぇ奴だな、お前」

 そう私に突っかかって来たのは、ガイルだった。
 ガイルは同じクラスのお調子者であり、早とちりで口が軽く、ナンパをよくして注意されている奴だ。
 私はガイルの事は、あまり仲良くなれそうにないので、あまり話していない。

「別に、そう言う訳じゃないよ」
「あっそ。さ~て俺は、イベントも近いしナンパでも行こうかな~」

 そのままガイルは、スキップしながらどこかへ行ってしまう。
 それを横目で見ていると、眼鏡が特徴でもあるケビンがやって来た。

「全く、ガイルは注意をされているのに、全く懲りていませんね。あれでは、うちの寮のイメージが下がる一方なので、ルールは守って頂きたいですね」

 ケビンは片手で眼鏡を上げて、独り言を呟いていた。
 そこへマックスがやって来て、ケビンの肩に手を回した。

「そうケチケチ言ってやるなよ、ケビン。あいつも昔色々あったみたいだし。それより、その眼鏡いつまで続けるんだ?」
「続けるも何も、これは元から」
「いやいや、知的に見せる為だの、学力が上がるからだの、色々言ってかけてるんだろ? 結局第1学年の成績もクラス中間位だったんだがら、そろそろ外せよ」
「な、な、な、な、な、何何何を言ってるんだ、マックス!」

 ケビンは眼鏡を上げる動作を、手が震えながら行っており、あからさまに動揺していた。
 それを見て笑うマックス。
 ケビンとマックスは、転入組で他の皆とは違って高等部からこの学院に入って来ている。

 この学院では、13から15歳の生徒たちが通う学院を初等部と呼び、16から18歳の生徒たちが通う学院を高等部と呼んでいる。
 完全に初等部と高等部は分かれており、寮も別であるので、初等部からの生徒たちは高等部では進学組と呼ばれ、高等部から入って来た生徒たちは転入組と呼ばれたりしている。
 その事で、少しいざこざがある寮もあるらしいが、うちの寮ではそんな事は起こっていない。

 そんな転入組のケビンとマックスは、元から別の学院でも友人であったらしくここでも仲がいい。
 ケビンは、一瞬雰囲気で知的に見え、学力も高そうに見えるが実力は中間位だ。
 そして何故か、女性に恐怖を持っており、前回の交流授業もそれを理由に休んでいる。
 理由は上に姉が3人いるらしく、昔からおもちゃみたいに遊ばれたことが原因らしい。

 次にマックスは、クラス内で一番脚力に自信を持っている。
 学力では、クラスでも上位に入る事もあるらしく、魔力も質量に長けている。
 そしてマックスは、魔力の制御も学び、ガウェンに魔道具の製造についても教えてもらっているらしい。
 目的は、将来足に負担がかからない靴の魔道具を造るのを夢にしているからだと、本人から聞いた。
 私はその夢を聞き、密かにマックスを応援していたりもする。

「おっ、クリス。今の話聞いてたか? なぁ、お前はどう思うよこの眼鏡」
「なっ! ク、クリスだと!? い、い、いつからそこにいたんだ! いや、その前にどこから話を聞いてた?」

 笑顔で話し掛けて来たマックスとは真逆に、私の存在に気付き動揺しながらケビンが問いかけて来た。

「どこからって言われても、始めからとしか…」
「なっ、なんだと…」

 そこで、ケビンが膝から崩れ落ち両手を地面につけた。

「終わったよ…終わっちまったんだよ、僕の完全無敵の知的計画が…今、完全に崩れ去った」
「おいケビン、そんなに落ち込むなよ。誰も、そんな計画に気付いてないって」

 だがケビンは、四つん這いのままぶつぶつと独り言を言うだけだった。

「あちゃ~少し言い過ぎたかな。ほら立てよ、全く世話が焼ける奴だな」

 そう言いながら、マックスはケビンに手を貸して立ち上がらせ、奥の椅子へと運び始めた。
 その時私に、迷惑かけたすまんと軽く手を出して謝って来ていた。
 無言でそんな事ないと手で合図すると、マックスにも伝わったのか、そのまま歩いて行った。
 すると土台の上にいたトウマが、再び声を張った。

「お前たち、心の準備はいいか! これより、メルトボーイ・クイーンコンテスト前哨戦を開催する!」
「メルトボーイ・クイーンコンテスト前哨戦?」

 トウマが遠くから、首を傾げる私を見つける。

「おいおい、クリス。なんてこった、委員長! 説明頼んだ!」
「また僕の仕事か…まぁ、今回はいいか。おーい、クリスこっちに来い。簡単に説明してやる」

 トウマに言われたアルジュが、トウマたちの横の机付近に座りながら手を上げた。
 私はひとまず言われるまま、アルジュの元へと行った。

「それじゃ、説明始めるぞ。さっきトウマが言った、メルトボーイ・クイーンコンテストって言うのは、簡単に言えば、この学院の男女ナンバーワンを決めるコンテストさ」
「まぁ、何となくそうなんじゃないかと予想してたけど、その通りだったんだ」

 名前を聞いた感じから、私は既に予想はしていたが、そのままだったので少しあっけなく思っていた。

「でもそれだけなら、天国的なイベントなんだけど、これは地獄のイベントでもあるって言っただろ。これは普通の男女ナンバーワンを決める他にもう一つ、男がペアになり男女を演じる地獄の時間があるんだ」
「へぇ?」

 真剣な表情でいうアルジュに、私は一瞬理解出来ずに気が抜けた表情で答えてしまう。
 すると突然、寮内に大きな叫び声が響き渡った。

「オースッ! お邪魔するぞ!」

 やって来たのは、ライオン寮のダンデとその寮生たちだった。
 更にその後ろには、カモメ寮のスバンが現れる。

「いや~久しぶりにこの寮に来たけど、少し埃っぽくない?」

 カモメ寮もスバンの後ろに、寮生たちがいた。
 その後ろに更に、スネーク寮生が現れる。

「もうそんな時期なのか…今年もうちの寮でなければいいな~」

 スネーク寮の先頭に立っている人物は、瞳が紫色なのが特徴で、左手の人差し指に同じ色のリングと両耳に小さなピアスをしていたが見たことがなく、魔力腕試しの時にも見たことがない人だった。
 すると、各寮の代表者がトウマの立つ土台の上に乗りあがった。

「何だ、お前らもう来たのか。てか、来なくても良かったんだぞ」
「何言ってんだ! このイベントだけは、欠席するわけには行かない! なんせ寮のイメージが掛かってるからな!」
「そうそう。ちなみに、今年もオオカミ寮が担当する案はどう? 結構去年も盛り上がったみたいだし」
「何言ってんだ、そのカモメ頭野郎は! 自分たちがやりたくないからって、勝手に押し付けるな! どの寮が担当するは、この前哨戦で決めるのが代々の掟だろうが!」
「てか、今更掟とか今の時代古くないかな? まぁ、うちの寮じゃなければ、何でもいいんだけど」
「お前はいつもそうやって、うちじゃなければいいよって言うよな、ロムロスは」
「トウマだって、そうだろ?」
「そうだけども」

 そんな感じの言い合いが、繰り広げられつつ周りでは寮生同士が騒いでいた。
 それを見ながら、アルジュが私に説明を続けた。

「まぁ、見た通りさっき言った地獄の時間を担当するのは、どこかの寮の更に1ペアなんだよ。ちなみに、去年はうちの寮が担当したんだ」
「そうそう、あれは地獄だったね」

 そこに何故か、逃げるようにシンリがやって来た。
 聞くと、シンリはライオン寮の熱量や強い言い方が苦手と言うか、怖いらしく逃げて来たのだった。
 何か始めてシンリが怖がりだと、私はそこで実感していた。

「それで、どうやってその地獄の担当寮とか決めるんだ? もしかして、ここに全部の寮生が集まったのと関係があるのか」
「鋭いねクリスは。毎年この時期には、各寮が一ヵ所に集まって地獄イベントの前哨戦を行って、優勝した所が受け持つんだ」
「うぁ…って事は、ここの誰かの片方が女装した状態を披露するのか」

 私は引き気味に問い返すと、シンリとアルジュが苦い顔をしながら頷いて答えた。
 その答えに私は、自分の事は棚に上げて、寒気を感じていた。
 ゼッッタイに、誰も女装が似合う奴なんていないし、想像しただけで地獄だと分かったからだ。

「あっそう言えば、去年の写真があったんだ。これだよ、クリス」

 私はシンリが取り出した写真を恐る恐る見ると、そこにはガウェンと隣には意外と女装が似合っている男子が映っていた。

「あれ? 意外と、そんなに気持ち悪い感じじゃないんだ」
「そりゃねぇ。その為に前哨戦で、ランダム選出で似合ってるペアを出して合って、決めてるんだもん。気持ち悪いものじゃ、誰も見たくないでしょ」

 シンリが言うには、コンテスト結果発表をする間合いを繋ぐ為にできた企画だそうだ。
 以外にも盛り上がるらしく、面白さに振り切ったものが多いなか、偶に似合ってる奴が出てくることもあるのが盛り上がる秘密らしい。

「にしても、この感じどこかで…」

 そう私は、写真をまじまじ見ていると、その後ろにアルジュが映り気付く。

「あっ! もしかして、これアルジュか?」
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